第10話 変わらない日々
あれから1週間が経った。
あの事件の後、現場となったノーレイン領は一時的に封鎖された。
隣接する他領では被害が出ていないにも関わらずノーレイン領だけが災害に見舞われていたのが、建国記にも残る「天災の大蛇」と同等な化け物を生み出そうとしていたからと判断されたのだ。
驚くほど早く決まったその決断に驚いていたら、ノルヴィス様が裏で手を回していたというのだからさらに驚いたことは言うまでもない。
そして事件を引き起こしたキャラル達はというと、年老いた状態で発見された。
恐らく堕神を生み出した影響だろう。
辛うじて生きていたが、王国を危機に陥れる可能性もあったため3人とも身分をはく奪された上で投獄された。
もう会うこともないだろう。
私は彼らの末路に驚くほど興味を持てなかった。
血のつながりはあるはずなのに、全く悲しくないのだ。
それよりは私の身内が愚かなことをしたせいで衰退した土地の今後が気がかりだ。
おじいさまはもともといた精霊を引き払ったと言っていたから、恐らく精霊の加護がなくなったことで天変地異が起きていたのだろう。
幸いなことに領民はほとんどが逃げ出した後だったからよかったけれど、もしも精霊王が初めから本気でつぶしにいっていたらと思うとぞっとする。
こうしてみると、精霊たちの力がどれだけ大きいのか思い知らされる。
……今度おじいさまにあったら精霊たちをあるべきところに戻して欲しいと言っておこう。
おじいさまだって精霊だっていろんな力を持っているし人間を嫌ってはいるけれど、無差別にその力を使うことはしない。
彼らは鏡のようだ。
善意には恵みを、悪意には厄災を。
だから大切なのは大きな力を恐れることではなく、どう扱うか。
なら人を害すためではなく、癒すために使いたい。
私は今回のことを通してそう強く感じた。
さてそんなノーレインをよそに、シルヴェート家では随分と穏やかな時が流れていた。
「奥様、起きられそうですか?」
「ええ、今日は少し動こうと思うの」
「でしたら今日は天気もよいですし、ゆっくりと散歩でもいたしましょう!」
温かくてふわふわなベッドからイニスの手をかりて起き上がる。
屋敷の皆は相変わらず優しく接してくれていた。
物置き部屋で一人過ごしていた頃はこんなにたくさんの人に心配してもらえる日が来るなんて、思ってもいなかった。
誰かに思ってもらえること、話をしてくれること。
そんな当たり前のような奇跡が、私にも訪れた幸運に感謝がこみ上げてくる。
だから大切にしたい。
これからもここにいられるのだから。
「あ、そうだ。旦那様が今からこちらに来られるそうです」
「え? ノルヴィス様もまだ安静にしていなければいけないのではないの?」
「そうなんですけど……どうしても奥様の近くにいたいからって。奥様はまだ歩けるほど回復されていないから自分がくると言って聞かないってディグナーさん困っていました」
「あらあら」
そう教えてくれるイニスに苦笑いがこぼれる。
ノルヴィス様も相当ひどい怪我を負っていた。
私の力は確かに彼の傷を癒した。
けれど失ってしまった血だけは何ともならなくて貧血治療の最中なのだ。
屋敷に戻ってくるときなんて貧血で倒れたまま運ばれてきたのだから、相当重傷だろう。
騎士団のラウがいち早く彼の元に辿りつき処置してくれていなかったら危なかったかもしれない。
ちなみに騎士団の人たちはラウも含めてノーレイン領の後始末に追われている。
聞いたところによるとノルヴィス様に置いて行かれた後すぐにノーレイン領へと向かい彼を見つけ、残っていた住人達を保護して王都へ報告しに行ったのも彼らだ。
(さすが今までもノルヴィス様の無茶ぶりに応えてきただけあるわよね)
彼らを思うとなんとなく申し訳なってきて苦笑いを零す。
彼らが戻ってきたら存分にねぎらおうではないか。
「それにしても、相変わらず旦那様の回復力は凄まじいですね~。きっと安静にしていると暇なんでしょう」
「……それは、そうだけど」
ちなみに、ノルヴィス様はあの事件の翌日から普通に歩き回っていた。
しかも事件の次の日に普通の顔でお見舞いに来てくれたので、それはもう驚いてしまった覚えがある。
「いったいどんな体をしているのかしらね」
「あら? 奥様、旦那様のお体に興味が?」
「ばっ! そ、そう言うことじゃなくてね!?」
「ふふふ~! これは報告しておかないといけませんね!」
「ちょ、ちょっとイニス!?」
意地悪く笑うイニスに慌ててしまう。
(別にそういう意味で言ったわけではないのに!)
顔が熱い。
絶対に赤くなってしまっているだろう。
そんなことを考えているとドアが来訪を告げた。
「フラリア! 起きられるようになったのか?」
嬉しそうな顔で入ってきたのはもちろんノルヴィス様だった。
後ろには疲れた顔のディグナーが見える。
思わず少しだけ笑ってしまった。
「はい。ちょっと体を動かしに、散歩でもしようかなと」
「そうか! なら俺が抱えよう」
「え!? いやいや大丈夫です! 少しは動かないと」
流れる様に抱えようとしたノルヴィス様を慌てて止める。
彼とてつい先日まで死にかけていたということを忘れてはならない。
あまり負担をかけてはいけない。
それに抱えられたらリハビリにならないし、今し方変な想像をされてしまったばかりだからちょっと恥ずかしいし。
ノルヴィス様は少しだけ残念という表情で伸ばしかけた腕を引っ込めて、代わりにおずおずと手を差し出してきた。
「なら手を繋いでいこう。それならいいだろう?」
「……はい」
少し気恥ずかしさを感じながら手を絡ませる。
繋いだ手の温もりが直に伝わってきて幸せな心地になった。
思わず顔が緩んでしまう。
彼を見上げれば、彼もまた顔をほころばせてくれた。
笑い合えるひと時が何よりも愛おしい。
そう改めて感じた。
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