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第4話 どうやら選択をミスったようです

 


「はあ、はあ。や、やっと全部抜けた……!」


 それから10分ほど私は精霊と格闘し、ようやくすべてを引っこ抜くことに成功した。


 かなり深くまでしっかりと刺さっている剣を引っこ抜くときのように重労働だった。

 終わるころには汗だくになり、床に両手をつくほどの疲労感に襲われている。


 ぜえぜえと息を荒げながら公爵さまを見れば、先ほどよりも明らかに顔色がよくなっている。

 それにあの蛇みたいなものの気配も消えていた。


 見た所もう大丈夫なようだ。


「よか……っ!」


 安心して視線を落としかけた時、私は石のようにぴしりと固まってしまう。


 精霊で見えなかった服装に気が付いたからだ。



 白く薄いシャツは前を大きく開けられ褐色(かっしょく)の胸板がしっかりと見えてしまっているし、汗で微妙に透けて張り付いている。

 髪も首筋に張り付いていて整った顔からはとんでもないほどの色気が(かも)し出されていた。



「っきゃー!! な、なんて恰好してるんですか!!」


 男の人に免疫(めんえき)などあるわけない私に耐えられるわけもなく、勢いよく壁まで後退りぶつかってしまった。


 慌てて後ろを向くと、掠れた声が耳に届いた。



「……本当に、こんなことが起こるなんてな」


 聞こえてくる衣擦(きぬず)れの音。


 ……音からしてこちらに近づいてきていないか?


 嫌な予感がした私は壁沿いに移動して扉の方へと逃げるように移動した。



 ――トンッ


 が、顔のすぐ横にたくましい手が現れてドアへはたどり着けなかった。



「なぜ逃げる?」


 耳元から聞こえてくる低い背筋を這うような声に両肩が跳ねる。


 ばっと耳を押さえて振り返れば私を囲うように上から見下ろしてくる公爵さまがいた。

 なんだかいい香りがする。


 パニックを起こした私はもごもごと口を開いていた。


「ち、ちち治療はお、おお終わりましたので。わた私は部屋へと下がらせていただこうかなっと」



 羞恥(しゅうち)緊張(きんちょう)で声が裏がえってしまう。

 やめてほしい。離れてほしい。


 逃げ出したい。いますぐに。

 できることなら何も見なかったことにして。



 そんな私の願いはすぐに崩れ去った。


「誰にも治せなかったこの発作(ほっさ)を治してくれた恩人に、礼もしないなんて公爵の名が泣くだろう? 怯えなくていい。少しお話をするだけだからな」


 見上げた公爵さまは至極(しごく)楽しそうに、そして妖艶(ようえん)に微笑んだ。


 余裕そうに見えるのに全く隙がなくて逃げられない。


 この時ほど自分の行動を後悔したことはない。

 そう思っても既に後の祭りだ。


 私は涙目になりながらすごすごと部屋の奥へと戻っていったのだった。


 ◇


 お茶のよい香りが部屋に満ちている。


 私は柔らかいソファに腰を降ろして出された湯気の立つ紅茶を凝視(ぎょうし)していた。

 対面の席には乱れた服装のままの公爵さま。


 なんだかイケナイシーンを見せられているような、見てはいけないものを見せられているような感覚になってしまうので顔を上げることはできない。


「どうした? 飲まないのか?」

「……」


 借りてきた猫のように固まったまま微動(びどう)だにしない私に公爵さまはくつくつと笑う。


「心配しなくても取って食ったりしないさ。すこーしだけお話があってな」

「……お話とは」


 目線を落としたままそうつぶやく。

 目を見て会話をしなさいと言われたことはあるけど、今日ばかりは許してほしい。直視できないのだ。


 そんな私の状態を知ってか知らずか、色気たっぷりに溜息(ためいき)をついた。


「……そうだな。その前に。嫁の顔をまだ見れていないんだが、ヴェールをとってみてくれないか?」


 膝の上で握りしめた拳が音を立てる。

 昨日はそんなこと言わなかったのに。


(この人絶対わざとやってる!!)


 そんでもって反応を楽しんでいるのだ。

 性格が悪いことこの上もない。


「私は人とは違う見目をしているみたいなので……」

「ほう、それは楽しみだ」

「……」


 やんわりと断っているのに全く意に介していない。

 はっきり断らないと通じないらしい。


「気味の悪いものらしいので、公爵さまにお見せするものではありません。ご気分を害されるかと」

「なぜ見てもいないのに気味悪がれるのか分からんな。それに俺の気分は俺が決めることだ」


 どうやらはっきりと断ってもダメなようだ。

 もうこの人の中では私の顔を見ることが決まっているらしい。



「…………はあ。見てからの苦情は受け付けませんからね」


 私はそう言うと震える手でヴェールに手を掛けたのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございました!


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