第4話 甘いもの
「ヒドい目にあった……」
ありとあらゆるサイズを測り終えるとサルディさんはテンションが上がったようでめちゃくちゃに筆を走らせデザインをつみ上げていっていた。
出来上がり次第屋敷に届けてくれるそうだ。
そうして採寸を終えてから屍と化した私は休憩の為にノルヴィス様に運ばれて街のカフェまで来ていた。
店一番のおすすめを注文し机に突っ伏す。
「本当に歩けるって言ったのに……」
「体力がついてきたとはいえまだか弱いままなんだから無理をすることはないだろう? そんなに疲れているのだから」
「どちらかというと公の場でお姫様だっこで運ばれた羞恥でこうなっているんですが?」
起き上がり恨みがましい目で見るがこの男はにやにやとしているだけだった。
いい加減デコピンでもしてやりたい。
「まあそう怒るなって。せっかくお前の為を思って抱いてやったっていうのに」
「言い方ぁ!」
明らかにわざと紛らわしい言い方をしている。
慌てる私をみて楽しんでいるのだ。
ノルヴィス様は本当にタチが悪いと思う。
「私で遊ばないでくださいよっ!」
「人聞きが悪いことを言うなよ。俺は単純にお前に触れたかっただけだ」
「なお悪いです! ここは街中なんですよ? 人の目というものがありますっ!」
「それなら人目がなければ触れていい、ということだな?」
「っ!? そういう話ではありません!」
ぼっと顔を赤くして威嚇して見せればノルヴィス様はご機嫌な様子で笑った。
言葉の戦いでは彼に勝てたためしがない。
悔しくて何か言おうと考えていると、ちょうど注文したメニューが運ばれてきた。
ふわりと香ってくる甘い匂い。
そう、スイーツだ。
公爵家に来て初めてスイーツを食べて以降、甘いものに目がない私はフルーツのタルトと紅茶を頼んだ。
目の前に並べられてごくりとツバを呑みこむ。
甘いものの前では怒りなど消えてしまうのだ。
「わ~! おいしそう! いただきます」
一目散にタルトを口に含ぶ。
甘酸っぱいフルーツにサクサクなタルト生地。
ほのかな塩っ気も相まって無限に食べられる。
「ん~! 美味しい」
スイーツを食べる時間は至福だなと思う。
ノルヴィス様に目をやれば穏やかに微笑みながら紅茶をたしなんでいた。
ノルヴィス様が頼んだものは紅茶だけ。
目の前で自分だけ甘いものを食べるのも気が引けたので、タルトを一切れフォークに刺してさしだす。
「はい」
「ん?」
「私だけ食べるのも……なのであげます」
早くフォークを受け取ってくれという目で見ればノルヴィス様は瞬きを繰り返した。
「いらないならいいですけど……あっ!」
なかなか受け取ろうとしない彼に手を引っ込めようとしたら、グイっと腕を掴まれてそのまま彼の口へと誘われた。
まさかフォークを受け取るわけではなく、差し出したものを直接口に運ばれるなんて考えもしていなかった私ははくはくと口を開いてしまう。
(え……え!? な、なんで!?)
衝撃で腕を引っ込めるのも忘れたままただ彼の顔を凝視しているとノルヴィス様はにやりと笑った。
「うん、甘いな」
「~っ!」
ぺろりと口の端についたクリームをなめとるその様が色っぽくて心臓が騒いで仕方がない。
赤くなった顔を見られたくなくて慌てて引っ込めた手で顔を覆う。
「……こういう風に食べられるのなら甘いものも悪くないな」
彼が笑ったのを感じた。
指の間から覗いてみると、やはり笑っている。
……でもその顔はどこか安心したような顔をだった。
スイーツの甘みを堪能する顔でも、空腹を満たした顔でもなく、まるで危機が去った時のような安心した顔だ。
「……もしかして甘いものは苦手なんですか?」
気が付けば口を開いていた。
だって彼の表情に違和感しか感じなかったのだから。
「……まあな」
「なぜ?」
いつもならそこまで踏み入った質問はしないはずなのに、今は気になってしかたがなかった。
何故か聞かなければいけないように感じたのだ。
私は真っ直ぐに彼を見つめる。
「……そうだな。ここでする様な話ではないが……知りたいというのなら答えてやらん事もない」
ノルヴィス様はそう言って笑っているけれどもやはりどこかぎこちない気がする。
できれば触れてほしくないというような曖昧な笑みだ。
それでも。
「知りたいです。ノルヴィス様のこと」
真っ直ぐに見つめると、ノルヴィス様は驚いたように目を広げてこちらを見た。
私には知る必要がある。
彼と共に生きると決めたのだから。
こうして言葉にするのは初めてだけど、私の意志は既に固まっているのだ。
「でも話したくないのなら、あなたから話してくれるのを待ちます」
無理に問えば答えてはくれるだろう。
でもきっとノルヴィス様は傷ついてしまう。
これだけ言いにくそうにしているのだから、きっと過去に大きな傷を負った可能性が高い。
それを無理やり聞き出すのは酷だろう。
だったら私が待てばいいだけの話だ。
イニスにだって言われた。いつか話してくれる時が来るはずだと。
「ノルヴィス様が話したくなったら、いつか話してくださいね」
私にできるのはただ信じて待つだけ。
そう言って微笑めばノルヴィス様は少しだけ泣きそうな顔で微笑んだ。
彼を苦しめるものが何かは分からないけれど、いつか彼が抱える不安や悩みを払ってあげられるといいな。
私たちはそれからしばらく他愛もない会話をしてからカフェを後にしたのだった。
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