第5話 精霊王の力
「……すみません、お恥ずかしいところを」
「よい。気にするな」
子供の様に泣きじゃくった私は恥ずかしさで下を向いたが、水面に映る自分の顔があまりにもはれぼったくて余計に恥ずかしくなった。
でも不思議と心はすっきりとしていた。
長年抱き続けてきた不安も溶けてなくなり、代わりに温かいものがこみ上げてくる。
「それにしても、毒以外に薬の効果もあるなんて……」
「ああ、それは我の特性だからな。生も死も司るというのに片側だけの力では不足であろう。……まあそなたが毒だけの力だと思っていたのも無理はないが」
聞けばその効力はすさまじく、重病人であっても息を吹き返す妙薬と同等の力らしい。
だからこそ本当に信頼している人や助けたいと思った相手であり、かつ相手も私に敵意を微塵も持っていない場合にしか発動しないものらしい。
とはいってもそれは精霊王自ら力をふるった時の効力のおまけ程度のものだというから精霊王がどれほどすごい力を秘めているのかを垣間見る形となった。
「……あれ? それじゃあ堕ちた精霊達が色を吹き返したのって……」
「ああ、能力のおかげだろうな。精霊たちは基本的に我が目を持っているそなたらには敵意など抱かぬし、そなたも心根の優しい子であるから苦しんでいる精霊たちを放ってはおけなかったのだろう。だからこそ発動できたのだ」
どうやら無意識に使っていたようだ。
何なら毒物を食べても害がないのも薬の力の働きによるものらしい。
堕ちた精霊すら治すほどの力なのだから人間の使う毒など摂取したはなから解毒されるとしても何ら不思議ではない。
……でもこの力も隠した方が良さそうだ。
(人に知られたらまた厄介なことになりそうだもの)
変に頼られても私自身が信頼しきらないといけないわけだから絶対に助けられそうにない。
そもそも公爵邸の人たちだって信じられるようになってきたのは最近の話なのだから、それ以外の初対面同然の人など治すことなどできないだろう。
ノルヴィス様相手でもあの夜のように拒絶の心があれば毒のモヤになってしまうのだから、どれほど難しいことかはよくわかる。
だからこそ慎重に見極めようと思う。
「そうそう。フラリアが離れた伯爵領から精霊たちを撤収させておいたぞ。もはやあの地に祝福を与える必要はなくなったのだしな」
「え?」
「もともとシャウラとフラリアの為に精霊を多く配備していただけだしな。そなたらを軽んじた報いは受けてもらわねばな?」
さらっと恐ろしいことを言ってのける精霊王だったが、その顔はちゃめっ気いっぱいですぐに私を笑わせる為に行ったのだということが分かった。
彼は本当に私のことを考えてくれるいい人だ。
「ふふっ! ありがとうございます」
彼は私が笑ったことに安心したようにふっと力を抜いた。
「かの地にいた精霊たちも今はここにいる。そら、でてくるといい」
精霊王の声に反応して淡い光が泉の元に集まってくる。
よく見ればそれらは伯爵邸で助けてくれていた精霊たちだった。
「皆! よかった元気そうで!」
精霊たちも嬉しそうに飛び回っていた。
よかった。本当に。
挨拶すらできずに追い出されてしまったからずっと気がかりだったのだ。
だからこの場であの時の礼を言おうと思う。
「皆、私の傍にいてくれて本当にありがとう!」
これはまごうことなき本音。
毒のおかげで暴力で死ぬことはなくても彼らがいなければ飢えや寒さで生きていなかっただろう。
「皆がいてくれたから生きることができた。だから私今とても幸せよ!」
その声に応える様に小さな精霊たちは光を放ち飛び回る。
空から泉から木々から、幻想的な灯りが舞い上がる。
それはまるで私自身を祝福してくれているような気がした。
やはり精霊たちはとても温かい。
温まっていた心がさらに温かくなり自然と涙が浮かぶ。
それから私はしばらく昔馴染みの精霊たちと言葉を交わしたのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
「面白そう・面白かった」
「今後が気になる」
「キャラが好き」
などと思っていただけた方はぜひとも下の評価機能(☆☆☆☆☆が並んでいるところ)から評価をお願いいたします!
おもしろいと思っていただけたら星5つ、つまらないと思ったら星1つ、本当に感じたままに入れてくださるとうれしいです。
また、ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
皆様から頂いた時間や手間が作者にはとても励みになりますので是非とも!宜しくお願い致します!!