表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/22

11 神殿地下ダンジョン





 ダンジョンの奥に進んでいくと、スケルトンがうろついているのが見えた。

 スケルトンは古い骨と錆びた鎧姿の魔物だ。その手にはボロボロの剣が握られている。


「骨を粉砕しやすそうでいいですね!」


 レティシアは明るく声を上げ、目の前の敵を指差した。


「い――行きますわよ!」


 ルディナが緊張した面持ちでメイスを握り、スケルトンに向かって飛び出した。

 近づきながら大きくメイスを振り下ろすと、スケルトンは砕け散る。


「お見事!」

「勝った……勝ったの……? こんなに簡単に……」


 初めての戦闘と、初めての勝利。

 ルディナは興奮しているようだった。身体が震え、肩で息をしている。


「ふふ……うふふ……」


 勝利の快感に目覚めたのか、低い笑い声が響く。


(やる気が上がってきているようで何よりです)


 その後も次々とスケルトンを討伐していく。

 レティシアはルディナの横で、彼女が次第にメイスの使い方を覚えていく様子を見守っていた。


(この分だと、すぐにレベルが上がっていきそうね)


 聖女候補の育成は順調なようだ。


「あ、あの……」

「何ですか、ルディナ様?」

「レティシア様は、エリウッド様のことをどう思われているのですか?」


 こんな地下ダンジョンで、スケルトンを粉砕しながら、まさかの恋話。

 だが、ルディナの瞳は真剣だった。


「そうですね。エリウッド様のことは、とても素晴らしい人だと思います」


 レティシアは微笑んで答える。


(いや、知らないけれど)


 完全に適当に言っている。まさか悪口は言えないので。


 ルディナは少し照れながら頷いた。


「わたくしも、そう思います」


 自分のことのように嬉しそうに言う。

 その姿は完全に恋する乙女だった。


(本当に好きなのね)


 エリウッドの良さはレティシアには見えないが、ルディナにとっては良いところがたくさんあるのだろう。


(ふたりにはぜひ幸せになってもらいたいわ)


 レティシアは心から願った。

 そのためになら、レティシアはいくらでもルディナを鍛え上げる。





 その後、レティシアとルディナは慎重に、力強く、ダンジョンを進んだ。

 ルディナは真剣にスケルトン粉砕に勤しんでいて、その表情は活き活きとしていた。レティシアが初めて見るくらいに。


 おそらく、修行を通じてレベルが上がっていくことで、自分の可能性を感じているからだろう。


「それにしても、レティシア様はどうしてこんな場所を知ってるのですか?」


 ルディナの質問に、レティシアは曖昧に微笑んだ。


(魔人化したときに神殿ブチ壊したら、地下ダンジョン発見しました――なんて言えないし)


 何と答えようか考えていると、ルディナは納得したように頷いた。


「なるほど……歴代聖女のみが、この場所を知っているのですね……ここを知ったからにはわたくしも聖女……うふふ……」


 微笑みながら、メイスを撫でる。

 レティシアはそういうことにしておいた。


(やる気があってよろしい)


 ルディナがやる気なのもあって、どんどん奥へ進んでいく。


「でも、どうして神殿地下にこのような場所があるのでしょうね」


 スケルトンを粉砕しながらルディナが言う。


「おそらく、もともとは普通の洞窟で、いつしか小さなゲートが現れて、そこから生み出された魔物がこうしてうろついているのでしょう」


 レティシアは自分の思い付きで答える。だがそう荒唐無稽な予想でもない気がした。


(王都の中にゲートがあるというのは、いただけないかも。そこから噴き出している闇の力が、王都に何かしら影響を与えていたとしたら――……)


 レティシアはだんだん不安になってくる。


(私が魔人化したときの闇の力も、ここから生まれたものかもしれない)


 そして探索の途中で、不思議な扉を見つけた。

 ダンジョンの扉は開けるもの。そう太古から決まっている。

 鍵もかかっていないようなので、レティシアは扉を開けてみる。


「隠し通路のようですね……」


 隠し通路の中にも、魔法灯がついていた。

 通路をどんどん進んでいく。ふたりの足音が通路の中に、静かに幾重にも響き渡る。


「――ここが、出口のようですね」


 レティシアは隠し通路の終わりにあるボロボロの扉に手を触れた。

 ここも鍵はかかっていないが、傾いているため建付けが悪い。


 レティシアはレベル99の身体能力を駆使して、無理やり扉を開ける。飛散する大量の土埃は、時間の流れを象徴するかのようだった。

 それを、無理やり開く。


 ――そこは、外だった。

 眩しい光が、レティシアたちの視界を照らした。


 目が慣れてくると、そこが森であることに気づく。木々や草花、小さな泉も見える。


(外に出るなんて――それにしても、ここはどこかしら)


 辺りを見渡すと、そこが何かの建物の影であることに気づく。


 どこかの貴族の屋敷の敷地内だろうかと思ったが――見上げた巨大な建物が王城であることに気づき、レティシアは言葉を失った。


「――まさか、王城に出るなんて」


 王城の裏のひっそりとした森に出てきてしまったようだ。


 まさかこんな場所が神殿と繋がっているだなんて。

 非常時のための逃走経路だろうか。神殿側にはしっかりと鍵がかけられていたから、神殿から王城へ逃げる際のものだろうか。


 しかしあのモンスターの量に、長らく使われていなさそうな雰囲気。


 きっと、大昔に作られたものの、そのまま忘れ去られてしまったのだろう。


「――ルディナ様、急いで隠れましょう」


 レティシアは人の気配を感じて、ルディナと共に物陰に隠れる。


「……どうしてわたくしたちが隠れなければならないのですか?」


 小声で問うルディナに、小声で返す。


「正規手段での入城ではないですし、隠し通路を他の人に知られるのはきっとよくないです」

「……それもそうですわね」


 そして、やってきた人物たちを見て、レティシアは目を見開いた。

 第二王子エリウッドと、ルディナの姉であるラフィーナだった。

 ルディナの血が沸騰しかけたのを、レティシアは隣で感じた。


「ラフィーナ……本当に……のか?」

「……エリウッド様なら……、に……なれます」


 話し合う声がぽつぽつと聞こえる。


(どうしてこんなところで密会してるんですかー!?)


 レティシアは心の中で叫ばずにいられなかった。

 偶然というものは、本当に恐ろしい。たまたま見つけた隠し通路の出口で、たまたま二人の密会現場に遭遇するなんて。


 緊張しているエリウッドを勇気づけるように、ラフィーナが後ろから抱きしめる。


「……あの女狐……エリウッド様とこんなところで密会を重ねているなんて……なんて恥知らずな」

「ルディナ様、ステイステイ。見つかると大変です」


 何とかルディナを落ち着かせようとするが、これではいつまでもつか。なにせルディナの手にはこの短時間で使い込まれたメイスがある。


(暴力沙汰はまずい……)


 ――そこに、また新たな人物が訪れる。

 その人を見て、レティシアは驚いた。


「――どうした、エリウッド。こんなところで何の話だ」


 王太子アルドリックは、警戒した面持ちでエリウッドに問いかけた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ