《幕間》秘密結社『PURE VENOM』〈2〉
家では、ただのパソコン好きオタク少年ってことで収まってた。
そんな俺も、もういつしか二十歳を越えた。
今は独り暮らしの大学生。
単位はそれなりにこなして、残りは俺が立ち上げたパソコンサークルに労力を費やしてる。
仲間は俺が集めた。
SNSで募集したり、キャンパス内でチョイ気になるやつらに声かけて、これだって人を口説き落として。
表向きは単なるプログラミングしたり、パソコンスキルを共有させるサークルだけど、実は俺を含めた幹部4人は秘密結社を組織し、一般部員とは別の活動をしている。
俺たち、運命を探ってる。分岐点について。
あの時ああしていれば‥‥って後悔はよくある話。過ぎてからではもう遅い。
世間は皆さん占い好きだ。今日はどんな1日になるかって毎朝気にしてる人は多いんじゃないかな。
俺たち日々生活してる中で、起こるいろんな出来事。
他人にとっては極々小さな出来事でも、個人的には超ラッキーだったり、はたまた重大ダメージだったりする出来事。
これから起きる事象を予知し、不利益なら事前に回避排除出来たらいいよね。
それが人生に及ぼすような重大な出来事だったらなおさらだよね───
***
これは俺らの研究の第一歩。
───被験者には人生の分岐点を提供する。未来の自分を見せることで。
実験のターゲットとするのは、とりあえず10才以上35才未満の人とした。範囲が広すぎては仕事の効率が悪い。
AIにプロファイリングを学ばせて、過去の行動から、今度その人はどんな動きをするのか予測させる。人の行動科学的分析とシチュエーションの関連を分析。さらに社会情勢、日々ネット上に流れる噂話、トレンドも取り入れて。
そのAIに被験者の個人情報を教え、その先に起こるであろう未来を予測させる。個人情報とは、個人の所有するスマホとシェアリングデバイス、それにつながってる外部デバイスの持つ情報に他ならない。
しかしながら、理論的に進む無機質な予測であればAIは人の及ばぬほど優れているが、人の心理が深く関わる未来予測には、今のところはやはり人間による介入が必要だとわかった。それは洞察力のある俺の役目。
我々が改良したAIと、ギフテッドの俺によるハイブリッド分析の結果、6ヶ月以内の予測であるならば、今のところ86%の確率で、ターゲットの未来予知を成功させている。
知りたい未来の出来事の性質や、現状における情報収集の質と量によって精度は上下するけれど。
予知する事柄が、環境よりも感情が占める割合が大きい場合、6カ月以上の先は見通すのは厳しい。人の気持ちは変わり易いからね。
86%では絶対的正確さとはならないが、これにで、被験者が本来たどるであろう運命と、我々が介入した場合にたどる運命とを比較することが、なんとか可能となる。
俺たちが提示した未来予測事象が、被験者の望ましい未来であったならそのまま放っておけばいい。(ただし、未来を垣間見た影響で、その先の運命が多少変わってしまう可能性は否めないが)
俺たちは、正体は秘したまま、他人の人生に干渉する。
俺たちは、ターゲットに人生の分岐点を与えるために、『V♡』アプリを作った。
これを利用すれば、より良い人生を選択出来るはずだ。
まず、被験者に抽出された100名の方々のスマホには、ここ1ヶ月の間をかけ、ある秘策を講じておいた。
───サブリミナル効果、及び我々の開発した催眠画像を用いて。
これが上級国民の仕業ならば、全くの違法性は問われることは無いはずだから問題は無い。
瞬間視させて潜在意識に刷り込む。アプリ『V♡』を、無意識に認識している状態を作り出す。
スマホのディスプレイを見つめている間に、知覚出来ない速さと音量で、繰り返しメッセージを送っている。
『悩んでいたらこのアプリ『V♡』が悩みが解決してくれる!』
『成功者はこれをこっそり使ってるからうまくいってるらしい‥‥』
『キミはこのアプリで運命を好転出来るんだ!』
‥‥ってな具合にね。
実際にこのアプリの広告が被験者の目にはっきりと表示された時には、無意識に親近感を持ってくれるはずで、インストールしてくれる率がグッと高まる。
今回は30才未満限定で、無作為に選んだ100人中、23人にこのアプリをインストールさせることに成功している。ほぼ4人に1人とは、脅威の数字だ。
このアプリは、指定された知りたい未来を3枚の写真にして提供者する、という設定。
AIが未来予測の写真をクリエイトする。それを俺が監修する。写真素材には困らない。
被験者の保持している全データは、こちらと共有状態なのだから───
被験者は、ある程度の対価提供もやむ終えない。個人情報を搾取されることくらいは。
申し訳ないけれど、周囲の方々がお持ちの情報と彼らとの相関関係も含めて、なるべく多くのデータを入れて構築しないと、正解に近い未来図にはならないからね。
───スマホは持ち主と同人格。
スマホに凝縮された個人情報を解析する。
我々の研究のためには、選ばれた研究対象の方々、及びその周囲の方々のプライバシーも丸裸にさせて頂く。
SNSも、閲覧記録も、アルバムの写真も、クラウドの写真等も全て。
いつも肌身離さずお持ちのスマホのそのカメラ、マイクは密かに乗っ取って情報は採取している。
個人のスマホのセキュリティなんて無いも同然だし、我々のチームのハッキング担当は優秀だ。
あちこちにあるセキュリティ監視カメラも時には使用する。
大丈夫。これも上級国民の仕業ならば、違法性は問われることは無いから問題無い。
アプリをインストールさせることに成功したこの23人中、実際にアプリを使用した18名には、情報収集範囲はごく狭くていささか不正確な予想図ではあるものの、要望された未来予測事象3枚の合成写真を送信した。
その中には男子中学生が1名が含まれていた。
彼の要望は好きな子にコクった結果を知りたいという微笑ましいものだったが、AI予測では残念な結果が出た。
解析では彼の想い人には既に意中の男子生徒がいると判明したから。
俺たちが制作し、送った未来写真はさぞかし彼には不吉に映ったことだろう。拒否または無視された模様だ。
彼は未来写真を見たにも関わらず、特に改善のために動いた形跡も無く、予測は的中し、あっけなく失恋した模様だ。そのショックからか自らアプリは消去した。
よって観察解除一件。
───未来予測写真を信じるが信じないかは本人次第。これは占いとして提供しているに過ぎない。ここは信憑性が増すような改善の必要性がある‥‥‥
次回最終話───