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樹海にて〈2〉

不快な場面があるかも知れません。苦手な方はご注意下さい m(_ _)m

 私は、次の日のその時間まで、ソロキャンプ気分でこの大自然の中を満喫することにした。


 (うろ)をベースにして、辺りを散策。


 樹海の中ではコンパスが狂って方向がわからなくなって出られなくなるなんて噂もあったけれど、普通に使えた。スマホにGPSコンパスも入ってるしね。


 

 お天気も上々。かわいらしいリスや野鳥にも出会ったし、良くわかんない動物の足跡も見つけた。


 ちょっと気分が変わるだけで、昨日の不気味な森は、神秘的で美しい森へと変化した。


 心の目って不思議だね‥‥‥ 


 春だし、お腹を空かせたクマとかいたら怖いと思ったけど、もう私は『無敵の人』になった訳なので、気にしないことにした。そん時はそん時って感じ。



 ああ~、周りを気にしないで過ごせるって、なんて心が快適なのかしら? 物質的にはあれこれ足んなくて、困難な樹海の奥深くだというのに。


 ヘアオイルが無くて髪がバサバサで、服も汚れてチョイ臭うし、既にちょっとした飢えに耐えなければなんなくなっている状況なのにね。


 自然には、目には見えない不思議なパワーがあるって、肌で感じる。



 昼過ぎ、倒木に腰かけて携帯のカロリービスケットをちびちび食べてた時だった。



 後ろの向こうの草むらに、何かの気配を感じてビクッて振り向いた。



「な、なんかいるの? 草むらに小動物?」



 石ころを拾ってそっちに投げてみた。



 バサバサバサッ‥‥‥



 数羽のカラスだった。いるの気づかなかった。


 私の投石に驚いて飛び立ち、そこの上方の木の枝にそれぞれ止まった。


 1羽がカーカー鳴いてて、他4羽は各枝から私の方を黙ったまま見てる。



 カラスさんたち、ここから離れたくないんだ?



 ───草むらに、何かあるの?



 何だか嫌な予感がしたけれど、好奇心が勝った。


 ドキドキしながら草むらに踏み込み、慎重に近づく。



「‥‥‥??? なにコレ?」



 私の知っている形のままじゃ無かったし、あちこちパーツが欠けていて、何なのかよく判らなかった。一目見ただけでは───



「‥‥‥ん?‥‥‥あっ! ウソ‥‥‥‥‥うッ‥‥グエッ‥‥」



 今食べたばかりのビスケットが、食道を逆流して来た。



 ───これが未来の私の姿なんだ‥‥‥‥


 想像以上かも。



 そして、私はこれから野生のキミたちに、こんな風に貢献するんだ? ねえ、カラスさん。


 じっと私を見下ろしてるキミたちは何を思って?


 もしかして、キミらは私がこうなるのを待っているの? 人の味を知ってるから。それで私を美味しそうに見ているの?



 ぞわっと一気に毛穴が引き締まった。



「チッ、私をイラつかせないでよ! あっち行けっ! 私はお前らのエサじゃないからっ!! 今んとこはねッ!! 予約はまだ受け付けないよ!!!」


 私は、辺りの投げられそうな小枝や石を、がむしゃらにカラスに向かって投げつけた。


 もちろんカスりもしなかったけれど。



 私を嘲笑うかのように、カッカッカって短く鳴きながら、カラスのグループは飛び去って行った。



 ───カラスにまでバカにされた。惨めだわ。私はカラスからもマウント取られる人生なんだ。


 ‥‥‥もう、あの(うろ)に帰ろう。今の私のおうち‥‥‥‥



「‥‥あ、待って! このままじゃ、アレだし」



 私は、上着左右ポケットから、作業用の背抜き手袋を取り出して手にはめた。そして、憐れな(むくろ)に落ち葉を振りかけて隠した。



 厚く積もった落ち葉の隙をついて、あちこちで咲いてるかわいらしい紫色のスミレとタンポポと、名前は知らないミニチュアの目玉焼きの束みたいな白い花を摘んで、男が女か若者か老人かも判らないその人に手向けてから手を合わせた。



「もしかして‥‥‥私が見つけた木の(うろ)にあった人の痕跡は、あなたのものだったの?‥‥‥あなたも、生きるの苦しかった? どう? 今は楽になれたの? 死んで後悔してない? 私はまだ決心が出来ないよ‥‥」



 返事があるわけないし、あったらチビるって。



 汚れた手袋の手のひらをパンパンと払って、さっきまで腰かけてた倒木に寄せておいたリュックを背負う。



 ここに着くまで枝や草に結びながら歩んで来た道しるべのオレンジ色の紐を回収しつつ、道無き道を戻る。


 足を前に進めつつもズボンのポケットを探り、スマホの所在を確認する。



 まだまだ大丈夫。充電はまだ半分残ってたし、モバイルバッテリーもフル充電したの2つ持ってるし。



 ───(うろ)に戻って少し休んだら、そろそろお楽しみの時間だね。



 あんな、小中学生が好みそうな占いアプリなんて、しょせんはお遊びよ。


 でもね、私を苦しめた人たち。未来予測して作られた写真の中でくらいは、私の溜飲が下がるような反応してくれてたらいいなって、期待しちゃう。



 ねぇ、神様はえこひいきばっかしてないで、最期くらい私のお願い叶えてくれてもよくない???



 あ、私の存在が神様の目に入ってるわけないか。




                           次回へ続く───





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