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卒業式が終わったら

 明後日(あさって)は卒業式。


 それが終わったらあの中学ともお別れだ。



 嘘みたいだ。俺ら、バラバラになってしまうなんて。


 いつもの道を歩き学校へ通い、教室に入れば、いつメンがいて‥‥の日々がずっと続くような気がしていた。3年で終わりが来るなんてわかりきっていたことなのに。


 このままでは、片想いしていた同じクラスの鈴木ノノカに想いを伝えられないまま卒業することになってしまう。


 こんなにギリになるまでコクる決心がつかなかった俺。



 だってさ、振られたら嫌じゃん。毎日教室で顔合わせなきゃなんないのに。


 だから卒業式の後は最初で最後のチャンスだ。



 今から既に眠れない。緊張して。




 この静かな夜更け。



 仕方がないから適当に動画を見てる。大した意味もないものばっかだけど。



 ───なんだコレ?


 動画見てたら、変なアプリの広告が出て来た。



 今の俺の写真を3枚、ここに貼って24時間後に見ると、それが未来の自分のショットに変わっているとか。


 たぶん、AIが合成してくれるアレだな。最近はいろんなのが次々出てるから。



 知りたい未来の日時設定は、何時でもいいらしい。ただし、指定できる未来は1回につき(ワン)シチュエーションだって。



 待てよ! そうしたらさ、俺がノノカさんにコクった後の状況が予測出来るってこと?


 なんだかチョイ期待しちゃうじゃんか。これでいい結果が出たら、告白もちょっとは気が楽になるよね。


 迷わずダウンロード。



 よーし、さっそく始めてみよう!!



 ♡まずは名前を教えてください。


 俺のかりそめの名前は『S-VENOM (ヴェナム)』。すこーしだけ毒持ちってことで。Sは少しのSと俺の名字の佐藤のS。


 俺、オオグモのタランチュラが好きなんだ。境遇に親近感あって。


 実際にはタランチュラは大した毒は持っていないんだけど、世間一般はなぜかとんでもなく恐ろしい毒グモだって誤解して忌避してる。


 何でそうなってる? 姿のせい?


 ある考えが大多数だからって正解って訳じゃないよね。知らぬ間に作られたイメージで洗脳されてる。でもって、それを疑う人はほとんどいない。


 俺も同じで、どういうわけか、(このヤンキー顔のせい?) 怖い人というイメージがいつの間にか周りに作られていて、俺の好きな清楚系の女子からは、どうにも避けられてる。


  誤解されたままってとこ、同類なんだ、俺たち。



 ♡カメラを起動させて、今のあなたの姿を3枚ここに貼ってくだいね。


 カシャッ、カシャッ、カシャッ‥‥‥



 どうせ誰にも見せないから、適当に3枚撮ってすぐにアップロード。


 確かに、ガラ悪そうな顔だよな‥‥‥実際たまに変なのに絡まれることあるし。



 えっと、次。項目に従って誕生日も入力。次は───



 ♡あなたが知りたい未来はいつ?



 ──もち、ノノカにコクった後の俺!



 だけど、いつってどう入れんの? 日時指定にはなっていない、ただの空白スペース。



『鈴木ノノカに告白した返事を貰った時』



 これでもイケんの? これで《登録》押して、イケる?



 とりあえず、登録ボタンを押してみる。

 


 どうだ、どうだ?‥‥‥あ、ウソ、出来たっぽい。



 《登録完了出来ました! 明日のこの時間をお楽しみに!!》



 明日の夜、どうなってるんだろ。ま、ただのお遊びだよな。それでもいい結果出てたら、ちょっと勇気出るよな。これでやっと寝られそう。



 では、おやすみなさい────




 ***



 翌日の同じ時間。


 もう、夜中の12時過ぎてる。夜が明ければ卒業式の日だよ。早く寝た方がいいんだけど、アレを見るまでは絶対に寝らんない。



 俺は昨日インストールしたアプリ開く。


 ちょっ緊張‥‥‥



「‥‥‥‥‥」


 ───えっと、これは‥‥‥ウソだろ? この写真。


 まるで本物じゃんか??? AIってヤバくない?



 校舎裏の木々が植わった緑化スペース。


 その一番奥まった桜の樹の下。



 それは俺が告白に想定していたその場所ピンポイント。なんでわかったの? 俺の思考。



 ノノカさんが俺に頭を下げている。そして俺は‥‥‥この顔はさ、涙こらえて作り笑顔かよ?


 ‥‥‥‥ヤバイ、めっちゃ恥ずい。



 ───じゃ、2枚目はどうなってる?



 俺は別れを惜しんでる生徒や、おしゃべりの保護者たちに紛れて、遠くにいるノノカさんを見てる。


 写真には小さいけど、彼女のシルエットは間違いなくわかる。



 彼女が手を振って駆け寄っているのは‥‥‥あ、コイツ、同じクラスの地味な男子。名前‥‥‥チョイすぐには思い出せない。‥‥ヒントない? 最初の一文字さえわかれば出て来んのに‥‥えっと? 出てこねー‥‥‥ほとんど話したことないし。



 ───おいおい、この調子じゃ3枚目は‥‥‥



 ノノカさんと、誰かさんが二人連れ添って校門へ向かってる後ろ姿をしょぼんと見てる俺‥‥‥



 めっちゃ俺、切なくない? ヤバい。



 ‥‥と、え? そんな俺を遠くから見てる(?)女子が向こうにいる。拡大しても顔ぼやけてて誰だかわからないけど。長い髪を二つ結びって、誰コレ? そういう人学校にいっぱいいるし。



 もしかしてこの子、俺の一部始終見てた?!‥‥‥って設定??? 



 ああ〜、もうやめてくれよ!! 恥ずかし過ぎる。



 こんなアプリすんじゃなかった。ますます俺の心が乱れちゃったじゃん!


 ただのお遊びだろ? こんな行動パターンシミュレーションアプリなんて!!


 妙に出来がいいAI写真だったから、本気にしてしまうところだった。



もう、寝よう‥‥‥おやすみなさい────




 ***



 ───あのクソアプリのせいで!



 俺は結局よく眠れなくて、寝不足のまま卒業式にのぞんで、こともあろうか式の最中にめまいを起こして倒れてしまった。



 厳かな式の最中にめっちゃ目立っちまったじゃねーか! ただでさえ背が高くているだけで目印にされんのに。


 自分の証書の授与の順番は終わっていたのが唯一の救いだ‥‥‥


 俺はサポートの先生に付き添われ式の途中で退出し、保健室で休むことになった。



 

 ここはカーテンで仕切られた保健室のベッドの上。


 卒業式には親は仕事で来てないし、リモートでチラ見してるって言ってたけれど、俺が倒れたのは知らないと思う。連絡行ったのかな? でも大したこと無いし、どうせ俺は家近いし一人で帰れるからいい。


 あーあ‥‥‥すっかり式も終わったようだ。遠くからざわざわして来たのが聞こえる。



  面倒くさくなってそのまま寝てた。一回教室戻って、担任のセンチメンタルな思い出話と、はなむけの話が始まるだけだろ?



 ***



 ‥‥‥んんッ‥‥‥あれ? ここは‥‥? この天井知らん‥‥



 廊下を走る誰かの足音に目を覚ました。



 いっけね! いつの間にかマジ寝してたッ!! ここんとこ寝不足だったから。



 バタバタ急ぐ足音は、どんどん大きくなって来て、ここで止まった。



「失礼しまーす!」



 ガラッと勢い良くドアが開き、女子が1人来た模様。


 この声、俺知ってる。



「あれ? 保健の先生今いないのね。じゃ、あの‥‥‥えっと‥‥‥佐藤くん、いますかー?」


 俺に先生からの伝言でも頼まれたのかな?



「俺、いるよ。このカーテンん中」


「きゃ! ビックリしたぁ‥‥‥あの、開けていいですか? 私、保健委員のおおく‥‥」


大久茂(おおくも)だろ? 声でわかるって」


 俺は言いながらさっと起き上がり、ベッドの横に座り、もぞもぞと上履きシューズを履く。


  いつまでも病人ぶってもいらんない。


  今日の俺には、ノノカさんにコクるっていう使命があるってのに。



 カーテンを遠慮がちに開けて現れた大久茂(おおくも)モモ。


  女子の間ではモモモって呼ばれてる。俺と進学する高校も同じだ。


 優しくて親切でしっかり者。まさに保健委員がぴったりの女子。最後の最期の日まで、係りの仕事させちゃったな。



「‥‥大丈夫? 気分はどう?」


「もう、何ともない。全然。周りのカーテン全部開けてくれ」


「オッケー。でね、卒業生は一旦教室へ戻ってから、もう解散したんだよ。これ、佐藤くんの荷物と配布物だよ。私のは先に帰ったお母さんに持って帰ってもらったんだ」


 彼女はベッドの脇に俺の荷物をどさっと置いてから、ベッドをぐるりと囲むカーテンを、シャーッと開いた。



「ありがとう。ごめんな。最後の荷物には備蓄非常用セットまであったんだ? 重たかっただろ? 大久茂(おおくも)もこの貴重な時間は、最後に友だちと写真撮ったりしたいだろうに。もう、行っていいぞ?」



 俺はベッドから降りて窓辺から外を見る。いつの間にか人が溢れてる。


 みんな、友だちやお世話になった先生方と記念撮影したり、輪になって喋って別れを惜しんでる。



 ──ノノカさん、どこだ?



「俺も早く行かなきゃ‥‥‥」


「‥‥‥うん。じゃあ一緒に外出ようか? 大部分が校庭に残っているはずだよ。教室はもう閉められちゃったから」



 ちょい本気でうたた寝しちゃって出遅れちまった。ノノカさんに俺の気持ちを今こそ伝えなければ‥‥‥


 あ‥‥‥! いたッ! 窓の向こう、校庭横っちょの木の下。俺が見間違うはずもないあの可憐なシルエット。


 彼女を追う俺の眼力は伊達じゃない。



「なあ、あれ鈴木ノノカさんじゃね? 話してる男子って、えっと‥‥‥?」


「あ‥‥‥あれは。‥‥‥やあね、同じクラスなのに。あれは高橋くんよ。‥‥‥内緒だけど、ノノカは高橋くんのことが好きだったから最後に頑張ってるんじゃないかな‥‥‥」


「そうだッ! あいつ高橋!! 思い出したっ!! ‥‥‥ってええッッッ!? ノノカさんは高橋!?」



 俺の脳裏にふうっと浮かぶのは、昨日のあのアプリ合成の写真!


 ノノカさんと並んで帰ってたのは‥‥そう、高橋!



 俺は昨日の写真を確かめようと、ケータイをポケットに探ってたその手が不意に止まった。だって‥‥‥



 急にどしたの? 大久茂(おおくも)さん???



「‥‥‥ごめんなさい‥‥‥私‥‥‥」



 なんで大久茂(おおくも)が泣き出すわけ???



「ど? どうしたんだよ? どっか痛いのか? 先生探してこようか?」


「ううん‥‥‥ゴメン‥‥自分の心の醜さに呆れてるの。知ってたの。佐藤くんがノノカのこと好きだって。聞きたくないこと言ったよね。ごめんなさい‥‥‥」


「ええっ‥‥‥Σ(Д゜;/)/‥‥‥マジかよ!」


 俺の片想いなんて、誰にも知られていないと思ってたのに。



「‥‥‥でも、でも私は‥‥‥グスン‥‥そんな佐藤くんのことがずっと好きでした‥‥‥」



 突然の告白!!! この俺に??? なんなん? この展開は───!?



「えッ‥‥‥そ、そうだったんだ‥‥‥」



 そう言えばあの3枚目の写真で、俺の方、見てた二つ結びの女子って‥‥‥



 あ! それって今、目の前にいる大久茂?



「悪い、チョイ待って!」


 スマホを慌ててチェックするも、あの未来予知の合成3枚写真は跡形もなく消えていて、もさもさ頭の俺が3枚に戻ってた。課金してないからかな?



「‥‥‥どうしたの? スマホ見て。用事だった?」


「ううん、何でもない‥‥‥」



 どうせ俺がノノカさんに振られる運命は変わらなかったってわけで‥‥‥



「ちょっと、不思議な運命を感じてさ‥‥‥」


「‥‥‥それって? 私、少しだけ期待してもいいのかな?」


 頬を染め、涙顔で俺を見つめる大久茂。



 うわっ! 女子にこんな近くてこんな顔で見つめられたらドキドキしちゃうだろーが。


 顔が熱い‥‥えっと‥‥今日はぽかぽかに日和もいいしね。あーん‥‥‥そうさ小春日和。だから余計に熱いだけ。


 失恋確定直後だってのに、節操もなく他の女子にときめくなんて、俺としたことが。



「ん、まあどうだろ? 俺もまだよくわかんないや‥‥‥」


 俺は照れ隠しで、むず痒く首を掻きながらよそを向く。



「‥‥‥ひっどーい! そのうやむやな断り方。‥‥‥ううん‥‥でも私、気持ちを伝えられただけでいい‥‥」


 ま、俺なんかコクる前に振られ確定したしな。(^ー^;A



「あの‥‥‥ここで最後に卒業記念写真、一緒に撮ってくれる?」


「おう! もちろんおけ」



 カシャッ‥‥‥



「ありがとう! 一生の宝物にするね‥‥‥」


 スマホを胸の前で大事そうに両手で包み込み、涙をにじませた瞳で俺に小さく微笑んだ。



「‥‥照れるな。ごめんな? 応えられなくて。でも、嬉しかった。まさか俺が大久茂に好かれてたなんて‥‥おまえ男子の間で結構な人気だぞ?」


「それ、慰め?‥‥‥好きな人に好かれなきゃ意味無いってば。‥‥えっと、やっぱり私、先に行くね! じゃ、元気でね。また高校でね! バイバイ」



 廊下をバタバタと遠ざかって行く足音。



 窓の外ではノノカさんと高橋の姿が並んで校門へ向かっていて、やがて人に紛れて見えなくなった。




 俺は窓の外から目線を移し、手にしたスマホの、アプリが並んでるホーム画面をじーっと見つめる。



 この『V♡アプリ』ってなんなんだ?



 そこはかとなく薄気味悪いような。なんとなく触れない方がいいような気がする‥‥‥



 ───俺の直感。


 

 俺は、黒い四角にVってピンクの文字のアプリを長押しして、そのままアンインストールした。



 限定配布らしかったからチョイ惜しいような気もするけど、消えたらホッとした。



 さーてと。未来はわからないからこそ期待出来るってことで───


 4月からの高校生活が楽しみだな。




 校庭からのざわめきに、俺の目線が再び窓の外に動く。



 伸ばせば手が届きそうな窓ガラスの向こうには、咲き始めの桜のつぼみの枝が、そよ風に揺れている。

 






       終わり




                          

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