閑話:グラス・レイドの苦難
そろそろ元小説の展開に戻っていきます
( ̄^ ̄)ゞ
変なところを見せてしまったな。
俺は早足でどこかへ行く日野の姿を見てそう思った。
あいつに限って今の俺の失態を周りに広めるとは思えない。が、警告したことに関しては他の奴らに漏らすかもしれないな。
まぁ、話されて俺が困る訳ではないがあまり良くない方向に転ぶ可能性が高い以上、それはあまり望ましいことじゃない。いや、あいつはどうせそういう俺の心配すら見抜いているのかもしれない。
本当に、何故あんな学校にいたのかが不思議で仕方ない。
俺が連れてきたクラスの生徒は正直に言ってその半数以上が馬鹿だ。しかし、その中にかなりの才を持った奴も数人いた。
日野翔、あいつは他の奴らと比べると精神的な面で頭一つ……いや、突出しているので抜きにするとして、他には和田優奈、影山彰斗あたりか。
和田は人を気遣ったり、周りを纏める才を持っている。当然頭はよく、考える力もある。
影山は普段消極的で自分から動こうとはしないそうだが、運動神経が良く、一年の時に体育祭でテニスで出場して優勝したらしい。また、頭もよくテストで満点を取ることもよくあるそうだ。
正直まだまだあいつら全員のことを調べられたわけではないので曖昧な知識になるのは仕方ない……。
だがその中でも日野は言うまでもないだろう。
あの歳にも関わらず、精神面を見れば、まずあいつはそこら辺の大人よりもよくできている。
俺に少し共感していそうな素振りを見せる事があるのも、その不気味さをより引き立てている。
中二ならもっと遊んでいても良いはずだろう。もっと笑顔を見せたって良いはずだ。
しかし、あいつは何か全てを諦めたようなそんな目をしている。そしてクラスの癌の相手を殆どその一身に受けている。
クラスがあそこまで成り立っているのはあいつの存在が大きいだろう。あいつが居なくなったら癌によってクラスはすぐに蝕まれる筈だ。
お人好しと言うよりは自己犠牲の精神の塊というか。他人のためなら平気で死にそうな奴だな、あれは。
――しかしやはり、その考え方はあいつの過去が関係しているのだろうか。
担任になるにあたり、あいつらの情報はそれなりに調べさせてもらったが……はっきり言ってあいつの過去は異常。
両親を事故で亡くし、小学生の頃からいじめに遭い、そして小六の時にクラスメイトを亡くしている。
あの歳で人生を諦めたような顔をしているのは、大人として何とかしたいものだが。
――さて、少し考えすぎたな。さっさと用事を終わらせるか。
俺は少し前からこちらに顔を覗かせていたメイド達の方を見る。
「何か気を遣わせてしまったようで悪いな。ところで、ここへはどのような用で来たんだ?」
「掃除でございます」
メイド達はそう言って、手に持っていたバケツなどを見せてくれる。
「そうか。ところで掃除する部屋というのはあそこの部屋か?」
俺は一番奥の部屋――今は日野が使っているものを指差す。
「はい。その通りです」
メイド達は俺の質問に肯定した。
そうか、そうなると少し厄介だな。
「……俺も手伝っても良いか?」
あの部屋には急ぎという訳ではないが用事がある。日野がいない今、少しでも部屋の中を見ておきたい。
そういう訳があって俺はそう言ったのだが
「グラス様!? 雑務は私たちの仕事です、グラス様にそんな事をさせる訳には……!」
まぁ、そうなるだろうな。
俺はこの国にとって重要人物。あいつらをこの世界に連れてきた事で多少重要度は下がっただろうが、それでもまだこの国に必要不可欠な存在。
そんな俺に雑務をさせる訳にはいかないと考えるのは、当然だろう。
それに、他人の職分を侵したやつが殺されてしまう、みたいな話が確か地球にはあったしな。
こういう行動は良くないことだとは分かっているのだが……今回は少々無理をしてでも引き下がるわけにはいかない。
「だが、あの部屋のドアが破壊されているのは知っているだろう。それは少し危ないし、散らかった木片は俺がささっと集めよう」
「それは……」
あくまでも彼女達のことが心配だから動くと思わせれば、簡単には拒否できない筈だ。事実、彼女達は迷っているようだしな。
「分かりました。わざわざありがとうございます」
「いや、気にするな」
何とか上手く言いくるめられたようだな。しかし全く、こんな手伝いもできなくなるとは、上の立場になるというのも大変だ。
俺は心の中で愚痴を漏らしつつも、メイド達と共にあいつの部屋の前に立つ。
そこで初めて部屋の中を詳しく見ることができたわけだが……思っていたよりも綺麗だ。何十年も放置されていたとは思えない。
――いや、あいつが掃除したのか。
まあいい。
俺は一応この散らかっている木片を集めるために手伝うということになっているからな。さっさと片付けよう。
俺はそう決めると、簡単な魔法を発動するべく言葉を発する。
「《反重力化》」
すると、先ほどまでバラバラに散らかっていた木片が重力に逆らうように宙へ浮いた。この魔法は人などにかけるとかなりの魔力を消費するが、この程度の物ならば特に問題ない。――と、そんな事はどうでもいいな。
「それなりに大きい袋は持っているか?」
「は、はい! 勿論です!」
俺はメイド達に向かいそう尋ねると、彼女達の内の一人がすぐに肯定し、麻袋を彼女達の持って来ていた掃除用具入れの中から取り出した。
「なら、それの口を開いておいてくれ」
「はい」
袋を持ったメイドは、特に訝しむ様子もなく、俺の言った通りに袋の口を開ける。そして、俺はそれを確認すると先程から宙に浮かせていた木片達をその袋の中へと向かわせる。
木片は大きいものから小さいものまで次々に袋の中に収まっていき、最終的に全てが袋の中に入りきった。
「これで中の掃除もできるな。俺も邪魔にならない範囲で手伝おう」
「ありがとうございます!」
「ああ」
さて、これで何とか目的は達せそうだな。
今はあいつの部屋なのであまり漁るわけにはいかないが……ここに置かれている道具を見ることくらいは叶いそうだ。
「じゃあ、早速取り掛かろう」
◇ ◇ ◇
「しかし、綺麗になったな……。あれからこうなるとは流石に驚いた」
たかが数十分でここまで綺麗になるとは、本当に彼女達は凄いな。こういうものを見るといかにプロというものが凄いかが分かる。
まぁ、それはさておき、一応最低限の目標は達せられた。
俺が向こうの世界に行くまではここに置かれている道具の用途や使用方法などは全くの謎だったが……今、この目でもう一度見てみてようやく分かった。
ここにはいくつか道具が置かれていたが、そのどれもが向こうの世界にあったものをもとに作られている。しかし、作りなんかは殆ど別物だろうな。
向こうの世界では電気というもので動かしていたらしいが、これは魔力で動く仕組みになっている。
そしてこれの凄いところは使用者の魔力を必要としないところだろう。
これが作られた当時は魔道具と言っても魔石を適当に使ったものばかりだった。
そしてそれには使用者の魔力を流し込み魔石に込められた力を引き出すことが必要だったが、これはそれとは全くの別物。
何故ならこの道具は魔力を溜め込む魔法石を動力源とし、魔力を伝達する導線、魔力を制御する魔醒石、そして加工された魔石を利用した、向こうの世界で使われていたような回路に似たものによって作られているからだ。
最近ではこの技術も『魔法工学』として体系化されているが、これが作られたのはおそらく40年か50年は前だろう。
つまりこれは魔法工学によって作られた原初の魔道具。
――ハッ、全くあいつは本当に凄いな。
俺の頭に、これの製作者の顔が浮かぶ。
30年、考えられる努力は全てしてきたが……まだその背中は遠いままだ。
俺はいつかあいつを超える事ができるのだろうか。聡賢の勇者と呼ばれた男を。
「どうかされたのですか? グラス様」
少し思い出に耽っているとメイドからそんな事を言われてしまった。
いけないな。上に立つ者が下の者に心配させるような事はするべきではない。
「いや、何でもない。掃除も終わったし俺は出るが、お前らはどうする?」
「そうですね……最終確認だけして出ることにします」
「そうか、では俺は先に失礼する」
俺が向こうの世界に行ってから今まで色々あった。
明日からは忙しくなるだろうし、今日くらいは部屋でゆっくり休んでおこう。
俺はそんな事を思いながら部屋から出る。
「あ、ありがとうございました!」
後ろからそんな声が聞こえてきたが、振り向かず手を振るだけにとどめる。
本当は彼女らを労いたい気持ちもあるんだが、俺の立場からしてあまりそういう事はできないんだよな……。
やはり、上すぎる立場になんてなるもんじゃないな。
因みに先生の苗字はグラス、名前はレイドです。
日本人と同じだね!
王様から名前で呼ばれてるのは、その分国にとって大切な存在だからなんじゃないですかね……。
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……小説下の星を一にされるとsironeko*は血涙を流します(一敗)