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クラス転移に巻き込まれた僕、魔王に殺された後、なぜか幼女に転生させられてしまいました…  作者: sironeko*
3章 蠢動

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閑話:逃避行と嗜虐のお姫様 2/3

三分割になってしまいました…

「ふふふ、やっぱりここへ来ると思っていましたわ。

 だからわたくし、毎日眠らないでずうっと待っていましたのよ?

 可愛らしい勇者様方」


 なんだか少し(あで)やかなような、澄んだ声で彼女はそう言う。

 ハッと置かれた状況を理解すると、私たちは後ろへ飛び退いた。


 急に現れた。

 まさか、転移魔法……?

 でもどうして、こんな丁度のタイミングで……。


「あら、怯えないで……? ああ、わたくしったら失礼でしたよね。すぐに降りますから、待っていて」


 その言葉通り、彼女は祭壇の上からふわりと飛び降りた。

 怖がらせないようにしているところを見ると、もしかして味方なのではと考えたくなるけど……手にレイピアを持っているところを見るに、そんな期待はしない方が良さそうだ。


「こんばんは。ご存知の通り、私はこの国の第一王女、フランゾーネ・フォン・リュピュトーネと申します。

 本当はもう少し長いのですけど、長いのはあんまり好きじゃありませんの。だから省かせてもらいますね。

 それで、私のことはお好きに呼んで頂いて構いませんわ。フランゾーネでも、フランでも、あなたなら構いませんわ」

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめながら、両手で顔を隠して彼女はそう言う。

 なんだか奇妙な感じだ。

 たまに見かけることもあるけど、いつもの彼女はこんなんじゃない。

 まるでお人形さんのように、儚い感じがするのに……今は違う。

 不気味なくらいだ。


「じゃ、じゃあフランゾーネ様。貴女はなぜ、どうやってここに……」


 震える声で、何とかそう言葉を紡ぐ。

 私には見える。この人の強さが。

 視界の、彼女の頭上に表示されたレベルは……80だ。

 初めて見た時からその表記に変わりはないけれど、一体どうやってここまでの経験を積んだのか、分からない。

 城の兵士たちでも、殆どが30から50だ。

 それなのに彼女は、私たちと同じような年齢に見える彼女が、この歳で、その倍近いレベルを持っている。

 経験値の総量で言ったら倍どころではないだろう。


「ふふふ、あなたも分かってるでしょうに。驚いて頭も回らないのかしら? でもね、わたくしは優しいから答えてあげるわ。

 飼い犬が外へ逃げようとしていたら、逃げないように捕まえるでしょう? それと同じことよ。だから、わたくしは転移魔法で飛んできたの」


 彼女は目を細めて、優しい眼差しでそう言った。

 何だろう、やっぱり気味が悪い。

 優しいと言うと、やっぱりどこか違う気がする。

 私たちが抵抗したところで、どうとでもなると思っているのかしら。

 だから穏やかでいられる、みたいな。

 そして実際それは間違ってない。

 多分、私じゃ彼女には敵わない。


 露骨に格の差を意識したせいか、緊張のせいか、気味悪さのせいか、嫌な汗が頬を伝う。

 影山くんも似たようなものだ。

 彼も目の前の相手が格上であることは、少なくとも理解してる。

 (まと)ってる気配が違うから、スキルなんかなくても分かるものね。


「それで、そっちの男の方は何か質問でもありますか?」

「……俺たちのことを見逃す気はあるか、どうなんだ」

「あらあら、なんという愚かしさかしら! ずうっと、こんなにも待ち焦がれていたというのに、何もせずに見逃すなんて、そんなこと万に一つもありませんのよ? お分かりになるでしょう?」


 私の時とは態度をくるりと変えて、煽るように、嫌そうに彼女は言う。

 機嫌を損ねてしまったのかしら……?

 分からないけれど、下手に話しても余計に悪くなるだけかもしれないわね。


「ふふっ、ああでも、一つ条件をつけてそうするというのはどうかしら? そうね、そちらの方が楽しそうですし」

「条件……?」


 王女様は一転して、純粋な子供のような無垢な笑顔を浮かべてそう言った。

 そして影山くんはそれを(いぶか)しむように見つめている。

 どうせ碌なものじゃないって分かっているけれど、この状況を切り抜けられるのではと期待してしまう。

 私たちにとって最悪なのは、ここで死ぬことだ。

 それさえ免れれば、まだ、なんとかなるかもしれない。

 

「そちらの女の子をわたくしに渡してもらえませんか? そうしたら、今お前のことは見逃しましょう。

 若しくは……無様に、わたくしが笑えるように死んでくだされば、女の子の方はひとまず見逃してあげますわ。

 どうでしょう? とっても素晴らしい取引だと思いませんか?」

「っ……」


 これは、生贄を選べってこと……?

 どっちかは死ぬ?

 いや、私はまだ死ぬとは限らない。

 けれど、影山くんを選べば彼は死ぬ。

 そして、その上で私も殺されるかもしれない。


 彼女の瞳が、私をジロリと見つめる。

 私の全身を舐め回すように、吟味(ぎんみ)するように。

 思わず足が(すく)んでしまう。

 分かってる。私が選ばれなければって。

 でも……怖い。

 彼女は本当に、私たちを玩具(おもちゃ)のようにしか見ていない気がする。

 そんな人に何されるか分からない。


 こんな状況になっても、日野くんだったら迷わず行けたのかな。

 私は無理だ。そんなに強くないよ。

 学級長だって、誰もやらなくて、それで先生に頼まれたからやっただけだし。みんなのカウンセリングだって、見てみぬふりをするのは気分が悪かったから、私が落ち着けるように話を聞いてただけ。訓練の時だって、私が率先して前へ出たのは皆んなからの圧に押されたからだし、授業の時だって、私が発言するのは評価のためでもあるし……私だって一人の人間で、誰かのためになんて心の底から思ったことなんて多分一度もなくて、弱くて、卑怯で、そんな人間なのに、無理だよ。

 怖くて動けない。足が震える。


「なぜ、和田に(こだわ)る? 彼女にはあんたの望む何かがあるのか? 或いは、怖がる何かがあるのか……?」

「ぷっ、くふふふっ。あらあら、私そんなに彼女に拘っているように見えますか? それは少し恥ずかしいですわね。やっぱり好意というのは透けて見えてしまうのかしら。それともわたくしが隠すのが苦手なだけなのかしら。

 ああでも、わたくし、自分の好きを隠すのは嫌ですわ。だからしょうがないのかしら……?」


 影山くんはこんな状況でも冷静だ。

 すごいなぁ。私にはそんなことできない。

 でも、ちょっと勇気がもらえた。


「私を、私の身をフランゾーネ様に差し出せば、影山くんは助かるんですか? それに、なんで……私なんですか?」

「おい、和田――」

「いいの。聞かないといけないでしょう?

 それで、どうなんですか、フランゾーネ様」


 影山くんを静止して、私は彼女に向き直る。


「ふふふっ、そっちの男が助かるかで言えば、もちろんそうですわ。わたくし嘘はつきませんもの。あなたがわたくしのモノになるというなら、この男のことなんてどうでもいいの。ここから出てどこへ逃げようが、どこで野垂れ死のうが関係ないのよ。

 それでね、和田優奈ちゃん、でしたよね? わたくし、あなたのことを毎晩毎晩想っていましたの。

 可愛らしくて、健気で、頑張り屋さんで、格好良くて、それでいて弱くって。

 訓練の時に辛そうな顔をしていて、でも他の勇者様方を励ますために、そう思わせないように気丈に振る舞って……わたくし陰から見ておりましたわ。ふふふっ、あなたのコトをぜーんぶよ!」


 ぞわりと背筋が凍る。

 全部見てたって、どういうことなの?

 私たちの計画も初めから筒抜けだったの?


 思わず口が開かなくなる。

 声が出ない。

 今までのは全部無駄で、それで、今日この時に彼女が私たちで楽しむためだけに泳がされていたの?

 

「わたくし、堪らなくあなたが欲しいの。

 あの男も面白そうではあったんですけどね、やっぱりペットにするなら可愛げのある子の方が愛着が持てるでしょう?

 それに、他の子たちはすこーしイジワルを言っただけで、すぐに怯えてしまって、あんまり面白くなかったので興味があまり湧かなくて……。

 でもでも、あなたからは違う香りがするのよ!

 わたくしの愛をいっぱい受け入れてくれそうな予感がするんですの。

 それにね、わたくしたちすっごく相性がいいと思うわ!

 今までの生活でそれがね、分かったの。わたくし、すごく胸が高鳴ってしまったわ。

 あなたがご飯を食べる時、わたくしも食べたし、お風呂に入る時、わたくしも入ったわ。お勉強をするときも一緒でしたし、あのね、わたくしならあなたが(つまず)いているところも教えてあげられるのよ? それに、寝るときも一緒に寝たし、時にはあなたがぐっすりと眠っている横で添い寝だってしたし、お部屋の片付けもしたわ。あなたの好きな温かいココアも、わたくし真似して作ってみたし、あなたがベッドで一人で身を(よじ)らせているとき、わたくしも一人で致しましたわ。ベッドの下に潜って、あなたの息遣いを聴いていると、頭が幸せでいっぱいになって、あなたのコトだけしか考えられなくて、身体が熱くなってしまうの。

 あぁ……っ。それにそれに、わたくし、あなたのことをいじめてみたいですわ。甚振(いたぶ)ったらあなたは一体どんな素敵な声で泣き叫んでくださるの? それとも、それでも気丈に振る舞うのかしら。目の前で大切なものを壊してみたりするのもいいわね。それに、犯したらどんな可愛らしい声で鳴いてくださるのかしら。激しくしてあなたのこと壊してみたいわ。そして声も出なくなるまで痛めつけて、あなたの体が震えて動かなくなるまで深く愛してみたい。死のうにも死なない状況に追い込んで、絶望の淵に立たせて、その時どんな可愛らしい顔を見せてくださるのか期待しちゃうの。ああでも安心して、殺したりはしないわ。わたくし、愛しているペットが居なくなっちゃうのはすごく寂しいの。だから、特別優しくしてあげる。あなたが望むならいつだってそばに置いてあげるわ。沢山構うし、ご飯も作ってあげる。愛するペットだもの、飼い主として躾けたり、トイレのお世話だって喜んでするわ。寝る時だって、寂しくないようにわたくしの隣で寝かしつけてあげる。くふふふっ、それに、わたくしの寝室のベッドの上でわたくしは座って、膝をポンポンと叩いてあなたを呼び寄せるの。そうしてあなたを膝枕して頭を撫でてやってもいいわね。ああっ、そんなのときめいちゃうわ、素敵すぎるもの! あとはあとは、あなたに首輪を繋いで、夜の庭園を散歩してみるのもいいわね! 自尊心を傷つけられて、顔を(しか)めているあなたが見たい。それに、突然暴力的に身ぐるみをひん剥いて、あなたの顔を驚きと羞恥でいっぱいにさせてみたい。あなたは恥ずかしさのあまり身体を腕で隠すの。でもわたくしは叱りつけて、あなたを後ろ手に縛って、そのまま歩かせるわ。あなたがわたくしの物だということを嫌ってくらいに分からせるの。きっと毎日がすっごく楽しいわ! ええ、絶対素敵なの。間違いないわ!

 だからね、わたくしあなたのぜんぶが欲しい! あなたの力も、頭脳も、人徳も、人間としての尊厳も、優しさも、感情も、体も、心もすべて、ぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜーんぶが欲しいの……っ!!」


 目の前の、王女様は、(まく)し立てるようにそう言った。

 思わず口元を手で押さえてしまう。

 怖い。気持ち悪い。

 気味悪さの正体は、きっとこれだ。

 彼女は歪んでる。

 (おぞ)ましいほどに。

 

「あら、あらあらあら……? 引かせてしまったかしら、嫌われてしまったかしら?

 ごめんね、ごめんなさいね。すこし怖かったですよね?

 でも大丈夫よ。あなたをわたくしの一番の大切にしてあげるわ。幸せにしてみせる。

 だから、わたくしのそばへ来て? わたくしのモノになって? わたくしと一緒に、一生死ぬまでここで暮らしましょう?」


 怖い、怖い怖い怖い怖い怖いっ!

 死ぬより酷い目に遭う。それを確信した。

 私は彼女の元へ行ってはいけない。

 そうしたら一生後悔する。


「いやっ……。私はあなたのものになんて、なりたくないっ……」

「だそうだ。交渉決裂だな、王女様」

「くふふふっ、あは、アハハハハッ。いいの、いいのよ優奈ちゃん。わたくしの愛の全部を受け入れるには、まだ早いわよね? ふふっ、もうすこうし慣らしてからにしましょうね。

 わたくし、待っていますから。健気にあなたのコト」


 彼女はにっこりと優しく微笑んだと思ったら、レイピアを構える。

 と、思ったらすぐ目の前に彼女がいた。

 これくらいの距離なんて何もないに等しいとばかりの速さで。


「和田っ!!」


 遅れてそれに気がついた影山くんが後ろを振り返って叫ぶ。

 私の体は震えて動かなかった。

 つぷ、と私の腹の辺りに変な感覚が走る。

 なんとか首を動かして見ると、彼女の持っていたレイピアが刺さっていた。

 制服が血で赤く汚れる。シミが広がる。

 幸い奥までは刺されていない。

 せいぜい先端の数センチってところだ。

 けれど、痛みが全身に広がる。

 当たり前だけど、こんなのでも十分痛い。


「くふふっ! なんて素敵な感触なのかしら。柔らかくて素敵ね? ああっ、このまま奥へ差し込んだら、どれだけ素敵なんでしょうか」


 私は、その言葉を聞いて、咄嗟に後ろへ飛び退く。

 彼女は残念そうに固まって、しょぼんとする。

 影山くんがその隙を突くように、どこからか取り出した黒い短剣で彼女に斬りかかる。

 次の瞬間、彼は彼は途轍(とてつ)もない勢いで後ろへ弾き飛ばされた。

 礼拝堂の右前方の椅子の方へ、彼の体が突き刺さる。

 そう、突き刺さるなんて言っていいくらいの速さだった。


「お前はお呼びじゃないの。今私たちが愛を確かめ合っているところでしょう? 邪魔しないでくださる?」

「ひっ……」


 思わず裏返った、引き攣った声を出してしまう。

 だめだ、勝てない。

 それに、何もできない。

 でもなにか、何かしなきゃ、このまま為す術なく殺される。


「《操糸(ソウシ)》ッ!!」


 懐に忍ばせていた、魔力を練った糸を何本か操って、フランゾーネの方へ飛ばす。

 簡単に剣で弾き返されるけど、私の糸はそんなの関係なしに飛んでいく。

 物理法則なんて無視して、私の意思で操れる。

 私のユニークスキルから派生したスキルの一つだ。


 けれど、彼女はすぐにそれに適応したみたいだ。

 目で全てを追っているように見える。

 けれど、このスキルの一番対応が厄介なところは、先端の軌道ばかり追っていても意味がないということ。


「きゃっ……!」


 私の操った糸は、彼女の手と足に絡みつき、縛り上げる。

 天井の方の柱にも絡ませてあるから、彼女の体は腕を一つに、足を一つにまとめられて宙に浮く。

 レイピアがカタンと床に転がった。

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