お詫びの品が必要じゃない?
「その、悪かったよ。俺も子供相手にやりすぎた」
頭を押さえながら、ちょっと視線を外してゼノはそう言った。
いいよ、とは言えないよ。
流石にやりすぎだと思うから。
そっちの方が強いんだから、ちゃんと手加減してほしかったなぁ。
「あー……その、どうやって治したんだ? もしかして、治療系の魔法を無詠唱で使えるのか?」
ゼノは居た堪れなさそうな様子でそんなことを言う。
反省はしてるみたいだ。
それにしても、本当に殺す気でやってたわけじゃなさそうでよかった。
ユイの方も、何か危機的な状況に陥ってるとか、そんな事もなさそうだし、一応は本当にちゃんと面倒を見てくれるようだ。
ゼノもなんか本気で反省してそうだし、顔色を見た感じ。
申し訳なさのせいで、居心地を悪くしてそうなのがよく分かる。
露骨に、空気を変えようと話題を振ってきてるところとか。
「ええっと……謝るから機嫌を直してくれないか? その、何か甘いものでも奢るからさ」
「――――ぷっ、なにそれ? ゼノって人付き合い苦手そうだよね」
「……なんだよ、そんなにおかしいか?」
「お菓子とか渡しといたら子供は機嫌を直す、だとか思ってそうなとことかね」
私の指摘に、ゼノは露骨にバツが悪そうな顔をする。
なんて言うか、不器用だね。
必死に機嫌を直そうとしていたところも、なんだか可哀想で、ちょっと笑っちゃった。
まあ死にかけたし、許さないけどね?
でも、笑って水に流してあげるのも大切かもしれない。
私は世渡り上手だからね。……ゼノよりかは。
「分かった。じゃあこうしよう。
美味しいスイーツ3個で手を打ってあげるよ、ゼノ。優しい私に感謝してね?」
「ははは……。分かった、今度どこか連れて行こう」
「えぇ……あなたとは行きたくないかも。あなたが居たら、どんなに美味しいものも味がしなくなっちゃいそうだし」
「はいはい、分かりましたよお嬢様」
なんか思っていたよりもゼノって面白いかも。
なんていうか、そう。揶揄い甲斐がある。
そういう点では、第二のシオンみたいな感じだ。
よかったねシオン、仲間ができて。
『……俺は何も言わないぞ。名誉のために』
あはは、なにそれ。
「そうだ。スイーツとは別に、君に一つあげようと思っていたものがあるんだ。手を出してくれ」
「変なものじゃないよね?」
「もちろん。いらないと言うなら渡さないけどね」
怪しくは思いながらも、一応手のひらを差し出す。
すると、ゼノは拳に握っていた何かをその上に置いた。
小さいけど、意外と重いな。
手がどくと、それの正体がすぐ分かった。
「これって、さっき使ってたやつ……?」
「まあ、そういうことだよ」
どのタイミングで拾ったのか分からないが、私の手のひらの上には、一枚の銀貨が置かれていた。手のひらよりは一回り小さいくらいかな。
ちょっと土がついてるけど、まあそこは目を瞑ろう。
「ゼノって案外気前がいいの……?」
「ハハハ、たしかに子供の小遣いにしては、ちょっと多いかもしれないな。ただ、今日は気が向いただけだ。俺が優しいからって集らないでくれよ?」
「言われてもそんなことしないって」
「それもそうか」
そんなことを言ってゼノはまた笑った。
なんなんだこいつ……。
「まあ、今日は久しぶりに楽しかったよ。君のこれからの成長も面白そうだし、いやぁこれは我ながらいい拾い物をした」
「はいはい……」
「おいおい、勘違いするなよ? 今日のことはちゃんと反省したさ。
ただ、君が期待以上の動きを見せたのが嬉しいんだ。
剣の扱いもまだまだだし、動きもなってないが、それはこれからなんとかしていけばいい」
「……あ、ありがと? なんか、ゼノにそんなこと言われると調子狂っちゃう」
なんかゼノは本当に楽しそうにしている。
私のことを鍛えるのが楽しいのかな?
それとも、もしかして小動物を育ててる感覚なの……!?
ま、まあなんでもいいや。
私たちにとって悪い状況じゃないなら、それ以上のことはない。
「さて、今日は少し早いけどお開きにしよう。君の実力も見えてきたし、これからの事も考えたい」
「うん、分かった」
「ああそうだ、姿は今のままいこう。君は姿を簡単に変えれるようだが、魔法を剥がされたときに、元の姿でも戦えるようにした方がいいだろ」
「……ゼノって結構考えてるんだね。そうする。
魔族の変装はさせてもらうけどね」
「ああ、もちろんだ。君が街中でバレて殺されるなんてことがあったら俺も悲しいからね。
まあ、君なら死にはしないだろうけど」
それはそうだけどさ……なんか、もっと心配してくれてもいいと思うなぁ。
「それで、ユイの方はもう終わってるのかな?
終わってないならどこで待ってればいい?」
「今日は実力を測るだけで、そこまでやろうって訳じゃない。まあ、すぐそこにある訓練場――屋内の方のな、あそこの前に居ればすぐに会えるだろう。
居なければ門の前に行くといい」
「ありがと」
隣の建物のことかな。結構大きい。ちょっとしたスタジアムくらいある。
まあ、ここの建物はどれも大きいんだけどね。
「ああ、それとシルヴィアにはもう会ったよな?」
「うん。……それがどうしたの?」
「ああいや、あいつは俺とは違ってそこまで優しくないからな。気をつけた方がいい。
あいつだけじゃないが、魔族は基本人族のことを嫌ってるし憎んでる。
気を入れすぎても困るが、絶対に抜くなよ」
ええ、シルヴィアさんって正直ゼノよりも優しく見えたんだけど。
礼儀も何百倍もしっかりしてるし……。
「ええっと、ユイは危なくないんだよね?」
「ああ。公私はしっかり弁えてるやつだ。安心していいよ」
「そっか、良かった。じゃあ私はこれで」
「まあ、待てって」
一応の安心を得られたので、ゼノと別れて訓練場の方へ向かおうとする。
と、そうしようと思っていたのに、後ろから引き止められた。
「訓練場まで俺も行くよ。シルヴィアに用があるんだ。あいつに話したいこともできたし」
「え……? う、うん。いいけど」
行き先が一緒なら仕方ないし、隣を歩いて行くことにした。
本当は嫌だけど……。
そんな反抗の意を示すように、ゼノとはちょっと離れて歩くことにした。
そーしゃるでぃすたんすってやつだ。
その後、私は訓練場から出てきたユイと合流した。
私と一緒に来たゼノを見たシルヴィアさんは、なんだか嫌そうな顔をしていた。
彼女もいつも苦労しているみたいだ。
私は彼女に心の中で同情しながら励ましの言葉を送って、ユイと一緒に家路につくことにした。
◆ ◆ ◆
「聞いてくれよシルヴィア、あのシュナとかいう子供、かなり面白そうなんだ。
退屈な日々もようやく終わりそうで、俺は嬉しいよ」
「それは良かったな、ゼノ」
全く、なぜいつもコイツの飲みに付き合わねばならんのだ。
はぁ……いっそ禁酒でも勧めてみるか?
酒場のカウンターに肘をつきながら、シルヴィアはため息をつく。
「……おいおい、聞いてる?」
「聞いてるさ、ゼノ。まあ、君からの愚痴も減りそうで、私も嬉しいよ。
そういえば、君はよく彼女たちのことを調べたな。君の情報収集能力について疑ったことはないが、素直に驚いたよ。ユイの方も不思議がっていた」
「ハハッ、結界がある限り、この街はまさに壁に耳あり障子に目ありだからね。
――そういえば、あの二人からまともな自己紹介を受けた記憶がないような……」
そりゃあ、話した覚えもないのに名前から何まで相手に知られていたら気味悪がられるし、嫌われるだろうな、とシルヴィアは思った。
「まあ、今更か。別に気にするほどのことでもないし。
それで、そっちの子はどうなんだ? できるなら、彼女とも手合わせしてみたいものだ」
「やめてくれゼノ。それで君の首が飛んでも私は知らんからな」
「おっと、それはまずいな。なら、俺とやっても怪我しないくらいに鍛えてくれよ」
「はぁ……。君はいつもそう簡単に言ってくれるが……」
コイツの我儘もこれで最後ならいいんだが。
はぁ……私もここまで自由に生きられたら、どれだけ楽なことか。
手に持っているグラスをカラカラと鳴らしながら、彼女は頭を悩ませる。
長い夜はまだまだ続きそうだった。
珍しくの三日連続投稿です。ほめてもいいぜ!
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ところで、突然ですがXを始めてみました。更新通知と近況報告くらいしか動かさないとは思いますが、よければ覗いてみてください……!
こぼれ話なんかもあるかもしれません。
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