もしかして殺す気できてる?
遅れちゃいました……
もう一度、剣を構え直す。
この剣の間合いよりも内側に入られたら、またさっきみたいにやられちゃう。
なんとしてもそれは防がないと。
私から剣で攻めにいってもいいけど、ここは結界の中心だしわざわざ動く必要もないかな。それに、無理に攻めて反転されたら厄介だ。
だからやっぱりカウンターで。
でも、せっかく距離が空いてるんだし、何もしないのも勿体無いよね?
「強火で炙ってあげるよ、ゼノ」
私は《火球》の魔法をゼノに向けて飛ばす。
もちろん連射で、勢いよくね?
「へぇ、随分と面白いこと言うじゃん」
ゼノは飛んでくる《火球》から逃げるように、横へ横へと走る。
私もそれに合わせて魔法の照準を合わせる。
それにしても速すぎる。
結界内だと身体能力でも上がるのかな?
素であれだったらちょっと引く。
ゼノは左へ左へと旋回している。けれど、少しずつ内へ寄ってきているみたいだ。
近くにくれば私だって当てやすいけど、ゼノのスピードが速すぎて目で追うのも大変だ。
目が回っちゃいそう……。
そんな私の状態を見透かしたかのように、ゼノはよりスピードを上げた。
そして、そうしたかと思えば、急に方向を変えて私の方へと大きく飛びかかってくる。
急な上方向への動きの変化に、反応が少し遅れる。
でも、コイツとの戦いだと、そのちょっとの遅れが命取りになる。
《火球》の照準が間に合わないと判断した私は、魔法を撃ち止める。
重力の加速も乗った攻撃を受け止めれる自信はない。
だから、一度後ろへ飛び退いた。
直後、元いた場所にゼノの拳が炸裂する。
その威力は凄まじく、地面にクレーターを作って、土煙を巻き上げた。
視界が悪くて、ゼノの姿が見えない。
「――《突風》!」
いつ飛び出してくるか分からない。
そんな状況に怯えるくらいならと、魔法で風を作り出して土煙を吹き飛ばす。
丁度そのタイミングで、土煙の中からゼノが飛び出してきた。
やられっぱなしも嫌だし、ここで攻めよう。
そう思ってゼノの動きに注視する。
ゼノは身を屈めてこっちに向かって突進してきている。
「セイッッ!!」
その動きに合わせるように、構えていた剣を振り下ろす。
剣先の軌道がゼノを捉えたのを確認して、そのまま振り抜く。
でも、私の剣はゼノを切り裂くことはなかった。
え? と思わず頭が固まる。
振り抜いた剣を見ると、刃が半ばから折れていた。
そして、遅れて手に大きな衝撃が走る。思わず剣を落としそうになるけど、なんとか耐えた。
でも、安心なんて全然できなくて。
気がつけば、視界の左端にゼノの左脚が――
――次の瞬間、私の身体は宙に浮いていた。
ガツンという強烈な痛みと衝撃が全身を駆ける。
咄嗟に魔法で肋骨の辺りを守ったから、なんとか致命傷は避けれた。
けど、なんの準備もなく反射だけで使った魔法は脆くて、大ダメージを与えることを許してしまった。
蹴りと、地面への落下の衝撃を和らげるように、回転しながら勢いを殺して着地する。
もう一度持っている剣を見てみると、やっぱり半ばから折れていた。
錯覚かなって思ったけど……現実はそんなに甘くないね。
どうやら一撃目で剣を横から殴られて折られて、ゼノは勢いそのままに身体を捻って、腰の回転の勢いもプラスして回し蹴りを私に当ててきたみたいだ。
「まだやれるだろ? 続けようか」
「……もっと優しくしてもいいんじゃない? 虐待だよ?」
「ハハハッ、やっぱり君は面白いこと言うね。死なないように加減してるんだから、俺は感謝してほしいくらいだけど」
加減って、本当にそんなこと意識してるのかな?
戦闘中ずっと楽しそうだし、そんなこと頭の片隅にも無いように見えるんだけど……。
「《治癒》」
一応、自分に対して魔法で治療を試みる。
暖かな光と共に、魔力が傷を負った部分に巡っていく。
痛みは完全には取れないけど、さっきよりはマシだ。
一方でゼノは、地面に突き立てていた剣を引き抜いて手に取った。
どうやらここからは剣で戦うらしい。
私の剣は折れたとはいえ、元々私には長すぎたし、なんやかんやで今の長さが丁度いいかもしれない。
さて、私の立ち位置は蹴られて飛ばされたせいで端の方になってしまった。
また追いやられないように気をつけないと。
「今度は私から仕掛けさせてもらうよ」
走って加速しながらゼノに向かっていく。
上からは身長的にも斬りかかれないから、下から攻める。
ゼノもそれに合わせるように剣を構えた。
私は勢いを剣に乗せて、下から斬り上げる。
ゼノもそれに対応するように、上から斬り込んできた。
大きな衝撃が、剣、そして手を伝って私に届く。
二つの刃がギチギチと音を立ててせめぎ合う。
こっちはギリギリで持ち堪えてるっていうのに、ゼノの表情は余裕そうだ。
神様の力を出すのを抑えているとは言っても、こんなにコイツが強いなんて、正直考えてなかった。
少し刃を滑らせて、一歩前へ出る。
そのまま近づこうという魂胆だったけど、すぐにそれを察知したのか、ゼノは押し合いをやめて後ろへ少し下がった。
そこをすかさず、もう一度剣を叩き込む。
そしてそのまま連続でもう一度、もう一度。
休む暇を与えないように、右から左から下から、いろんな角度から攻め続ける。
ただ、手応えがあるかと言われれば、あまりない
全てを簡単に受け止められてしまう。
まるで大人と子供だ。
いくら打ち込んでも、決定打となるような攻撃には繋がらない。
それどころか少しずつ、ゼノに対応されてる。
「くっ……」
左から打ち込まれた急な一振りを、なんとか剣を合わせて受けとめる。
そして後ろに飛び退く。
何をやっても合わせられるし、全然効いてる感じがしない。
それに、カウンターまでもらうなんて――
「ここだろ?」
ぐんと加速して、ゼノが近づく。
飛び退いたタイミングで距離を詰めてきた。
むりっ! こんなの合わせらんないっ!
体勢も悪いし、攻撃を受ける準備なんてしてない。
そんなのお構いなしに、ゼノは剣を振る。
咄嗟に、自分の身体の右側に魔法で障壁を張る。
剣は間に合わない。
ゼノは相変わらず笑ってて、それに容赦ない。
コイツ、絶対私のこと殺す気だ。
怖い。怖いよ。
「――――あっ」
気がついたら剣が左に抜けていた。
視界がガタッとふらつく。
右に張った障壁がちらりと目に入る。
綺麗に砕けて、光の粒となって空間に溶けかけていた。
――あれ、わたし、死ぬ……?
「《急直降流》」
急に私とゼノの間に強烈な気流が発生し、その気流は私たちそれぞれを反対の方向へ吹き飛ばした。
なんでって思ったけど、どうやら私が使ったみたいだ。
頭が真っ白になって、咄嗟に出た魔法だから加減なんて全然できてない。
でもおかげで助かった。多分あのままだったら、追撃をくらって、今よりもっと悲惨な目に遭ってた。
どっちが地面か分からなくなるくらい強烈な風に揉まれながらも、なんとか着地する。
そして、手で自分の身体を確認する。
身体は繋がってる。どこも切れてないし、血も出てない。
でも、服は破けていた。
私の腰のあたりから、肩口にかけて痛々しいくらいに切れ目が入っている。
「うぷっ……」
急に襲ってきた強烈な吐き気を、なんとか口元を抑えて我慢する。
私、死んでないよね? 生きてるよね?
だめだ、気持ち悪い。
さっき、確実に私は剣で斬られた。
皮膚を切り、内臓をぐちゃぐちゃに壊して、骨をも折って……。
でも、何事もなかったかの様に立てるのは、きっと神様の力のおかげだ。
命拾いした。でも、わたしがこんな目に遭ってるのもこの力のせいだとしたら、ちょっと複雑な気分だ。
まだ感覚が残ってる。
自分の身体の中がぐちゃぐちゃ壊れる感覚が。
「……今日はこのくらいにしよう。君が壊れちゃ、元も子もないからね」
ゼノはそう言って、その場に剣を置いて私の方へ歩いてきた。
何か言おうと思ったけど、こくんと頷くことしかできなかった。




