地獄の訓練?
着いてこいと言われたので、その後をついていったら、訓練場?っぽい所に出た。
城と城壁との間にあるスペースを改良して作ったようなものだ。
簡易的、とはいえないけど、ちゃんとしてるともいえない微妙なラインだ。
そんな、訓練場の中心で私はゼノと相対していた。
「さて、シュナ。突然だけど君には謝っておこうと思ってね」
「……? なに、急にどうしたの。怖いんだけど」
「いくら交渉のためとはいえ、君のことを酷く言ってしまったからね。悪かった。
どうやら君は、その魔力量と筋力の割にかなりの実力者なんだろ?」
急に変なことを言わないでほしい。
ゼノに謝られると、なんだか気持ち悪い。
それにしても、すごい心の変わりようだ。
私が強いか強くないかでいえば、たぶん強いのだろう。
でも、それは神様の力があるからってだけで、それがなくなっちゃえば、たぶん年相応の子供になってしまう。
「さぁ、私なんてあなたの言っていた通り弱いんじゃない? 自分じゃ、私の実力なんて分からないし」
「ハッ、まあやりあえば分かるか」
ゼノは笑ってそんなことを言う。
というか、やりあうってまさかここで戦う気なの?
えっと、まさかそんなことしないだろうと思って、心の準備とかなにもしてきてないんだけど!?
「武器はこの剣でいい? と言っても、パクってきたコレしかないんだけど」
「ちょ、ちょっと! まさか本気で私と、ここで戦う気なんですか!?」
「そうだけど、不満でも? 折角ここを借りてるんだから、戦わなきゃ損だろ?
ほら、これ君の分」
「――ちよっ、バカ!」
ゼノはそう言って、手に持っていた二つの剣のうち片方を私の方へ投げた。
ブワンブワンと、重い風切り音を立てながら、剣が回転して私の方へ迫ってくる。
さすがに飛んでいる剣を受け止めるのは怖すぎたので、なんとか一旦躱す。
そして剣は、地面にぶつかると重い金属音をあげ、ガタンと跳ねた。
最後まで危ないことこの上ない。
あのさぁ、ふつう渡し方ってものがあるよね!?
危うく今ので体が真っ二つとかになるところだったんだけど!
「人に向かってバカとは、案外礼儀がなってないんだね」
「今のはゼノが悪いでしょ! 私は悪くないもん!」
「ハハハ、悪い悪い」
ええ……なんで笑ってるのこの人。
もしかして、ゼノって人の心を無くした戦闘狂か何かなの?
ねぇシオン、コレどうなってるのさ!
『まあ、大丈夫。なるようになるだろ。頑張れ』
シオン!!?
絶対適当言ってるよね!? ここふざけるとこじゃないよ!?
はぁ、シオンも使い物にならなくなっちゃった。
私の頼れるお兄ちゃん像がどんどんと崩れていく……。
さて、でももうこうなったからには剣を手に取るしかないよね。
そんなヤケクソにも近い思いで、私は腰を落とし地面に落ちた剣を拾った。
見た目通りの重さで、重心が引っ張られて体が持っていかれそうだ。
まあ、神様の力を使えばここら辺はどうとでもなるけど。
にしても、剣がおっきいかも。
私がこの姿をとっている以上、そこら辺はどうにもならない。
でも、私の身長の半分よりも大きいのは、さすがに不釣り合いすぎかもしれない。
「さて、じゃあやろうか」
「ちょっと、私の武器これなの!? 大きすぎる気が……」
「しょうがないだろ、それでも小さい方なんだ。……まぁ、ロングソードの中では、だけど」
「ええ……」
じゃあもっと違う種類の武器にしてよ!
……とは言えなかった。
ゼノのことだ、これ以上文句を言ったら素手で戦わされる気がする。
コイツは普通にそういうことしかねない。クズだし。
そんなわけで仕方なく剣を構える。
「ここに、種も仕掛けもない大銀貨がある。これを上へ飛ばして、地面に落ちたら始めよう」
「分かった」
ゼノに私の手の内の全部を見せるつもりはない。
でも、実力を抑えてゼノの相手ができるかと言えば、正直無理そうだ。
戦闘中にそんな余裕が持てる気がしない。
とにかく、余計なことは考えず、できることだけをしよう。
勝ちは初めから狙ってない。でも、負ける気もない。
「いい返事だ。じゃあ、やろう」
ゼノはそう言うと、銀貨を指で弾いて上へ飛ばした。
日の光を反射して、銀貨がキラキラと輝いている。
私は一層剣を握る力を強める。
腕が力んじゃうのは緊張のせいでもあるし、自分を鼓舞するためでもある。
銀貨が落ちるより前にゼノが攻撃しにくる――とか考えたけど、こと戦闘においては真面目そうだし、そんなことはしてこなそうだ。
ゼノの姿を注意深く眺める。
まだ刀は下ろしたまま、構えてはいない。
油断を誘っているのか、余裕そうな態度を見せつけたいのか。
そんなこと考えるだけ無駄か。
魔力の起こりもない。魔法は使ってこないつもりなのかな。
銀貨が空中でふわりと止まり、そして優しく落ち始める。
一瞬一瞬が引き延ばされて感じる。
どうやら私の体は、もう目の前に集中して、戦闘態勢に入れているらしい。
急にこんな戦いが始まってどうなることかと思ったけど、我ながら適応が早いね。
そんなことを頭の片隅で考えながら、ゼノの姿に注視する。
ゼノは剣を持っている左手を、ふと動かした。
構えるのかと思えば、どうやら違う。彼は剣を地面にサッと突き刺した。
どういうつもりなの?と疑問に思って、左手から視線を外してゼノの顔を伺う。
と、ゼノはそれに気がついたのか私の方をジッと見て、ニヤリと笑った。
惑わされちゃダメだ。ゼノは私が動揺するのを狙ってるのかもしれない。
さあ、もう時間がない。
剣術の腕で言えば確実にゼノの方が上。無理に攻め込んだらすぐにやられちゃいそうだ。
まずはゼノの攻撃をなんとかする! それに集中しよう。
私はもう一度剣をぎゅっと握りしめた。
対してゼノは相変わらずの立ち振る舞いだ。
――そして、銀貨は地面へ落ちる。
「さて、スタートだ」
目を見開いて、ニッと笑ったかと思えば、ゼノは勢いよくこちらへ飛び出してきた。
私とゼノとの距離は、一つ息を吐く間もなく縮まる。
恐ろしい速度だ。
でもそれよりも――
「っっ……!」
間一髪で、何とか飛んできた拳を躱す。
思わず声にならない声が漏れてしまった。
なんなの!? なんで剣じゃなくて生身で突進してくるの!?
剣は地面に突き立てたまま、ゼノは格闘家よろしくその身一つで突っ込んできた。
でもそれは決して気を衒う為ってわけでもなくて、尋常じゃないくらい鋭い。
それもあって、彼の間合いまで詰められてしまった。
一発目の右ストレートから繋げるように、左から弧を描くように飛んでくるフック、右から、左から、上から、下から……止めどなく拳が迫ってくる。
一発でも当てられたら体勢を立て直すのは無理かもしれない。
気を抜いたら直ぐにでもやられそうだ。
それに、厄介なのは時折飛んでくる蹴りだ。
拳ばかりに気を取られて、そっちを見ていれば、視界の外から足が迫ってくる。
とにかく、距離を取らないと!
そう思ってもそんな隙がない。反撃するなんてもってのほかだ。
「さぁ、君はどうやってこの状況を返してくれるんだ?」
ゼノの勢いは止まることなく、私はどんどん後ろへ後ろへと追いやられていく。
それどころかむしろ、勢いがどんどん増している気が――
その時だった。攻撃を避けるために後ろへ身を引いた、その私の背中に、なにか硬い感触が。
まさか、壁? ……結界!?
ゼノは不敵な笑みを浮かべ、拳を後ろへ構える。
何か手を打たないと、このままじゃやられる。
でも、ゼノは待ってくれない。
すぐに拳が飛んでくる。
「《掘削》っ!」
「――っと」
咄嗟に魔法でゼノの足もとの地面を陥没させる。
突き出された拳の軌道がガクンと落ちる。
それに合わせて体を左へ捻る。
そして、ゼノの拳は私の右肩の横スレスレを抜けていった。
助かった……なんて言ってられない。
すぐに左へ大きく飛んで距離を取る。
そして元いた方――結界の中心の方へ駆け出した。
「身体が小さいとやりにくいなぁ。ずるくない?」
「試合前に結界を張ってる奴が何を言ってるのかな?」
私はゼノともう一度向き合う。
と言っても今度は十分な距離が離れてるし、私は中心で、アイツは結界の端だ。
いつの間に張ったんだと思ったけど、多分あの時だ。
試合前に、ゼノが剣を地面に突き立てた時。
私の視線が剣を持っていた左手に向いていた時に、結界を張っていた。
「ハハハ、建物に被害でも出したら怒られるのは俺なんだから、いいだろ、それくらいしてもさ?
それに、戦いの領域は決まっていたほうがいい。だろ?」
「はいはい」
呆れてもう、何も言えないや。
それにしても、どうしてゼノが結界を張っていたことに気がつけなかったんだろう。
どうやら私とゼノが最初に立っていた場所の、ちょうど真ん中を中心として球形の透明な結界が張られているみたいだ。
意識すれば、そこに結界があるのがちゃんと分かる。
端に追い詰められないように、気をつけて戦わないと。
「さて、じゃあ……仕切り直しといこうか」
ゼノは静かに私の方へ歩みを進め始めた。
明日も投稿する予定です(6時くらいにできたらいいなぁ……)




