街へ繰り出す
さて、私が大恥をかいてから一夜明けまして、今日はキョウくんも連れて街を散策することにした。
どこか行きたい場所があるわけでもないし、気楽に観光しようというわけでもないので、簡単な視察という、言葉にすると少しお堅い感じがするけど、ちょっとした気分転換にはなるだろう。
それに、ゼノからの監視も少しは薄くなったことだし、それを最大限活用しないのは損な気もするしね。
そんなこんなで私たちは外へ飛び出したのだった。
「こうして三人で歩いてみると、なんだか新鮮な感じがするね」
「ん、そうだね」
この反応の感じだと、ユイはまだキョウくんと居るのが慣れないみたい。
「僕もそうです。いつも一人でしたし……こんなに堂々と外を歩いたのは久しぶりです」
「ああ、いつも街を歩く時はフードを被ってるって言ってたよね」
私たちとは違って自分が人族であることを隠すような手段がないからフードで隠していたらしい。
正確には《幻纏》を使って偽装することもできなくはないらしいけど、やっぱりあの魔法は色々と不都合なところが多いからね。
ということで、今日は私がキョウくんに《変身》の魔法をかけてあげた。
他人にこれを使うのは結構怖かったけど、意外となんとかなってよかった。シオンの補助のおかげかもしれない。
「やっぱり外を歩く時はいつも怖かったので、シュナさんには感謝してます」
「いいよいいよ、全然感謝とかしなくて。でも喜んでもらえたならよかったよ」
大層なことはしてないけど、キョウくんがこれで笑顔になるならよかった。
「あ、そうだ。突然だけど、ちょっと考えてたことがあってさ」
「はい」
「昨日模擬戦したりサルヌーバしてて思ったんだけどさ、やっぱり敬語やめにしない? そっちの方が親しみやすいし、もっと仲良くなれる気がするな」
急にこんな話を切り出されて、キョウくんは驚いて固まってしまった。
でも、今後にとって結構大事なことだしいいよね。
昨日みたいに無邪気なキョウくんの方が私は好きかなぁ。仕事仲間みたいな関係は嫌だし。
「えっ。それ本当にいいんですか? シュナさんがそう言うなら構いま――いいけど……」
「ほんと? やった! ほら、別に私たち敬語を使われるような存在でもないし、なんか堅苦しい感じよりも、普通に友達としてみたいな方がいいかなって」
「たしかにそうかもしれない。ごめんなさい、そこまで気を遣えてなくて」
「いいのいいの、私はもっと仲良くなりたいんだー。……えっと、ユイもいいよね?」
別にユイとキョウくんは険悪ではないし、昨日の感じからすると結構気が合いそう。
お互いにもっと心を開いた方がいい気がするなぁ。ユイのあの態度には理由があるっぽいけど。
「え、なんで聞くの? もちろんいいよ」
まあそりゃそうだよね。
「ということで、これからもどうぞよろしくね」
「よろしく」
「よ、よろしくおねがいします」
うんうん、最初はちょっとぎこちないかもだけど、やっぱり和やかな方がいいなぁ。
「それで、これからどこ行こうか。何か見ておいたほうがいいところとかあるのかな?」
「観光名所的な.……ってこと? それとも視察的な?」
「どちらかというと視察かなぁ。でも別に堅苦しくいこうってわけじゃないし、観光名所でも全然いいんだけどね。
キョウくんはどう? 何か思いつくものない?」
話を振ってみると、キョウくんは困ったような顔をした。
まあ、そうだよね。外に出ることだって必要最低限のことだけだったみたいだし、
「僕がいつも行くのは、商工会が運営してる市場とか、商店街の方なんだけど、そこなら少しは案内できるよ」
「本当に!? 助かるよキョウくん」
「あはは、それくらいしか分からないってだけなんだけどね」
無計画だったけど行き先が決まったのでよかった。
こういう計画性がない旅みたいなのも悪くない、尤も、重要なことならちゃんと用意周到にしなきゃなんだけど……。
こういうふうに感じるようになったのも、あの修学旅行のせいかな?
まあなんにせよ、私たちは数分歩いて近くの市場にやってきた。
広い公園?に、仮設のテントを張った屋台が二列で並んでいる。
スペースの割に出ている店は少なそうで、所々テントの列も歯抜け状態だし、人も疎だ。
首都だしそれなりに規模が大きいのかなとか思ってたよ。
「朝早くはもっと店もあって賑やからしいよ。僕はその時間に行ったことないから分からないけど」
「へぇ、そういうことなんだ」
私の疑問に思ったことがバレてる……!?
でもそうか、もう9時過ぎだしね。ここは商店街も近いし、そこから出張販売みたいなことをしてる店も多そうだ。
そういうお店は早くに切り上げて、自分たちの開店時間にはそこで準備しないといけないからね。
まあなんにせよ、人があまり居ないのはありがたいかもしれない。
私たちの会話を聞かれる心配があまりないからね。こんな魔国ど真ん中で、人族の言葉を喋ってるのを聞かれようものなら、どうなるかなんて想像に難くない。
「私は好きだよ、こういうの。むしろ人が多い方が辛いかな。……昔は買い出しの度に大変な思いをしてたし」
ユイは静かな市場を見てそう言う。それにボソッとミサさん時代の悪口が聞こえた気がする。
王宮ともなれば直接卸してもらってそうだけど、臨時の買い出しみたいなものでもあったのかな?
まあ、あまり聞かないでおこう。あの頃のことはユイにとってあまりいい思い出ではないだろうし。
さて、私は意識を頭の中から戻した。
「キョウくんはいつもここで何を買ってるの?」
「食料品とか消耗品だよ。ここで買えなければ商店街の方に買いに行くけど」
「うんうん、まあ生活に困らないくらいの物はある程度ここで揃えられそうだしね」
人通りも、まあこれくらいが逆に目立たなくていいのかもしれない。
「折角だから、何か買わない?」
「もちろんいいよ! 何がいいかな、これから他のところも回ることも考えて決めないとね」
「ここら辺で何か食べ物でも買うのはどうかな。朝から何も食べてないし」
「賛成。お姉ちゃん、朝食を抜くのはとても不健康だよ」
あはは、怒られちゃった。
でも確かにそうだよ、ご飯食べてないじゃん!
そう言われるとお腹が空いてきたかも。
「私も賛成! そうだね、なにか食べよう。あそこの屋台とかどう? 何人か並んでるし人気なんじゃない?」
「あれは……フォッゴスだね。ひき肉、野菜、チーズなんかをもちっとした薄い生地で巻いて包んだやつだよ」
「フォッゴスなんて聞いたことない。名前的に魔国の料理?」
「そうだと思うよ。名前で分かるなんてユイさんはすごいね」
「……そんなことないよ。聞いたことなかったから、ここの郷土料理かなって思っただけ」
なんか、そんな感じの食べ物を僕は知ってるな。
まあどの世界でも同じようなものが発明されるのは必然なのかなぁ。
そんなことを考えながら、私たちは列の一番後ろに並んだ。
待ち時間はそんなに長くなくて、五人くらい前に並んでいたけど、二人と雑談してるうちに気づいたら出来上がっていた。
お金は、咲の家からキョウくんの許可をもらってくすねてきたお金で支払った。
短剣を届けたお駄賃ってことで許してもらいたい。あとでちゃんと返すから。
というわけで、私たちはフォッゴスを手に入れて、立ち食いも良くないので、ちょっとした飲食スペースへ向かった。
あと、道中に美味しそうな魚の唐揚げ?が売ってるお店があったので、六個入りを一つ買ってみた。
「あったかいうちに食べちゃおっか」
「うん」
椅子に座って、いただきますをして、フォッゴスを一口齧ってみる。
じゅわっっと肉の旨みと、シャキシャキとした野菜の甘さが口いっぱいに広がる。
前評判通り、かなり美味しかった。
ただ――
「美味しいけど、ちょっとしょっぱいねこれ」
「何個もは食べれないかも。胸焼けしそう」
どうやらユイも同感のようだ。
でもキョウくんは美味しそうにパクパク食べている。
塩気が強いのは魔族風の味付けってことだろうけど、まあ長く暮らしてたらキョウくんもこの味に慣れるか。
サイズ的には丁度いいし、値段も高いってことはなくて満足かな。まあ、まだこの国の物価には明るくないんだけど。
魚の唐揚げもシェアして食べてみたけど、外の衣と皮がサクッとしてて、白身魚の身はほろっとしてて、これはすっごく美味しかった。
お塩をちょっと振ってある感じが最高だね。
と、全体的に美味しゅうございました。
「さて、この後はどうする?」
包み紙や容器を、すぐそこにあったゴミ箱に捨てた私は、みんなに聞いてみた。
「すぐ近くに商工会の会長さんが出してる屋台があるんだけど、ちょっと行ってみない? たまに面白いものが売ってるんだよ」
「面白いもの……?」
「この辺じゃ見ない野菜とか、焼物とか装飾品とか、珍しいものだよ」
「いいね、興味出てきた!」
キョウくんの導きで、面白いものがあるというその屋台へ行くことになった。
すぐ近くにあると言った通り、一分もかからないでそこに着くことができた。
大体市場の真ん中のあたりに位置している。
市場にはもう人は少ないけど、何人かが足を止めて、店の商品を眺めていた。
少し眺めてみると、この辺りじゃ付けてる人を見ないような髪飾りやネックレス、面白そうな本や、変わった服、果物などがあった。
でも私には、何より目に飛び込んできたものがあった。
元気に接客をしている、お店のおばちゃんにとんでもない既視感があった。
「ワイルドなおばちゃんですよね!? オモンの実を売ってた」
私は思わず驚きのあまり、疑問を口に出してしまっていた。
おばちゃんもこちらを見つめると、驚いたように目を見開いた。
「ちょっと! こんな離れた所で会うなんて驚いたねぇ。長く生きてきたつもりだけど、こんなことが起こるなんて思ってもみなかったよ」
どうやらおばちゃんの方も私のことを覚えていたみたいだ。
二人は何が何だかわからない様子で私たちのことを見つめていた。
流石に説明責任は果たさないとね。
「前の街にいた時に、屋台に寄ったことがあったでしょ? そこでオモンの実を売ってたおばちゃんだよ。ちょっとしか話してないけど、気さくで面白い人だよ」
「ああ、そうだったんだ! すごい偶然だね」
「全くその通りだよ。旅でもしてるのかい? それとも帰ってきたのかい?」
「どっちかというと旅かなぁ。でもしばらくフィーデランテに滞在するつもりです」
あはは、滞在しなくてはならなくなったという言い方の方が正しいのかな。
「へぇ、若いのに凄いじゃないか。ところでシュンちゃん、そっちの可愛らしいお嬢さんと、少年は?」
「こっちが妹のユーリ、こっちがキョウくんです。恥ずかしながら、居候先の子供にあたるかなって感じです」
「ユーリちゃんにキョウくんね。――キョウくんは、何回かこのお店に来たことあるかい?」
「え、ああ……はい。いつもお世話になってます」
「そうかいそうかい、前見た時とは格好が違うから分からなかったよ。それと、店主から話は聞いてるよ。今後ともよろしくね」
おばちゃんはガハハと笑ってそう言った。
話し方的に、キョウくんの事情について粗方知っているのかな?
店主は少なくとも何かを知っているらしい。
キョウくんか咲あたりが何か話を通したのかもしれない。
「店主に会いたかったら商店街の方へ行っとくれ。サボってなければ今日は向こうに居るはずだよ」
「ああ、今日は大丈夫です。シュンさんとユーリさんと一緒に街を見て回っているだけなので」
「そうかいそうかい、そりゃあいいね! 楽しんでおいでよ」
相変わらず元気で優しい人だ。
「それじゃあ今日は、何か面白いものでも見に来たのかい?」
「うん、キョウくんがここには珍しいものがあるっていうから」
「そうかい、なら丁度よかった! つい昨日商品を持って戻ってきたところさ。うちは見るだけでも結構だから、色々探してみておくれ」
へぇ、昨日戻ってきたんだ。私たちと同じようなタイミングだ。
そんな偶然があるなんて面白いね。
「私たちが会ったのは、あの街が仕入れ先だからかな? それとも、通り道?」
「仕入れ先についてはうちの企業秘密だから、なんとも答えられなくて申し訳ないね」
「あはは、それもそうですよね。ちょっと疑問に思っちゃって」
「でもシュンちゃんには恩があるからね。少し話すと、アタシは仕入れ先を回って、その道中でちょっとした商売をしてるんだ。まあアンタたちと同じ、旅をしてるようなもんさ。
なんにせよ、こんなに早く再会するなんて、すごい偶然だねぇ。アタシも驚いたよ」
「あはは、本当にそうですね、びっくりしちゃいました」
恩を売ったつもりはなかったんだけど、そう取られちゃったかな。
でも、あれのおかげで私のことを覚えてもらってるかもしれないし、だとしたらよかったのかも?
「じゃあ、色々見てみますね」
「ああ、もちろん。何か気になることがあったらバンバン聞いとくれ」
そんなこんなで、私たちは屋台の商品を見て回った。
日用品から、骨董品?っぽいものまで様々で結構面白かった。
おばちゃんは、近くの面白そうな場所とかもたくさん教えてくれて、その後はそこを見て回った。
三人でいろんな所を見て回れてすっごく楽しかった。おばちゃんとキョウくんには感謝しないとなぁ。




