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その名はゼノ

「……へえ、やっぱりそうなんだ」


 突然のことに動揺を隠せなかった。そのせいでこの男は私たちが人族だと、どうやら完全に確信してしまったみたいだ。こうなってしまったらもう何を言っても無駄だろう。

 幸い他の魔族は聞かれていないらしい。でもこの男が派手な登場をしたせいで少しずつ魔族が集まり始めてる。……このままだと周りに広まってしまうのも時間の問題かもしれない。なら魔法で会話が外に漏れないようにするのがいいか……?


「――《広域化(イクスパンディド)静寂(サイレンス)》」


 口元に手を当て、吐息に言葉を混ぜて魔法を発動する。これなら私が魔法を発動したと気付かれないはずだ。……違和感を持たれない限りは、だけど。


「驚いたよ、その若さでここまでの技量。特に魔法の拡張なんて一朝一夕で習得できるものじゃない。どうせ臆病で弱っちいやつかと思ってたけど結構強いじゃん」


 ――驚いてるのはこっちの方だ。ダメだ、何をしてもバレる。まるでこちらの動きが全て見通されているような……。


『やはり、こいつはゼノか……。シュナ、結界内(ここ)では分が悪い。上手くやれ』


 この男が、ゼノ? だから結界内での行動は全て筒抜けってわけ? でも、どうすれば……。


「……見逃してくれないかな?」

「まあそう警戒しないでよ。別に君たちを傷付けようって訳じゃないんだから」


 一縷の望みをかけたつもりだったけど、返ってきた答えは思っていた言葉とは全く違かった。そんな事を言われても簡単に信じる事はできない。


「なら一体、何が目的なの?」

「勧誘だよ。君の後ろの子、強そうだし是非とも(うち)に欲しい」

「っ……!?」


 いきなり現れて何を言い出すかと思えば……意味が分からない。


「ははっ……冗談にしては随分と笑えないことを言うんですね?」

「っ、俺としては本気のつもりだったんだけど。上手くいかないもんだね」

「は……? 人族(ヒューマン)と知っていて何故そんなこと」

「簡単でしょ、使えるなら使うべきだ。特にそっちの子はね」

「……?」


 なんだろう、さっきからまるで……。いや、これは利用するべきだ。


「妹は渡せない、絶対に」

「それは君の立場のためかな? 仕方ない、君のことも(うち)で世話してやってもいい。それでどう?」

「それでもだよ」

「へぇ、強情だね。そういうのは嫌いじゃない。……でも状況分かってる?」


 ゼノは目を細めて低い声色で言う。それにぬめりとした嫌な気配が私の首筋を撫でる。

 ……体がゾワゾワして嫌なタイプの殺気だなぁ。あぁもう、今すぐにでも逃げ出したい。


「分かってるつもりだけど。そっちも迂闊に手は出さないでしょ、違う?」


 憶測でしかない、確証はない、だからこれは賭けだ。というか言動だけじゃない、この場の一挙手一投足全てが賭け。全ては相手の手の内、けれど、少しでもそうでないように見せるための悪足搔き。


「どうなの?」

「……まあね。魔族と人族(ヒューマン)お互いに勝率が五分の今戦端を開くわけにはいかない。それに、俺一人の判断では決めかねるのも確かだ。いいよ、ここは見逃そう。でも自分の家にお帰り願おうか」

「悪いけどそれはできない。こっちにも事情があるんだよね」

「……面倒だね、君。まあいいや、面白いし。暫くは様子見しておいてあげるよ」

「ありがと」

「例を言われる筋合いなんてないんだけど。……はぁ、これで二件目か? 俺より弱いくせにお偉いさん(おじいちゃん)たちうるさいんだよなぁ」


 なんとか助かった、のかな? かなり無理がある交渉――いや、酷すぎて交渉ですらなかった。ゼノが自分の力に絶対の自信を持っていそうなのと、甘さを持っていたお陰だね。


「全く、ここまで跳んできて無駄骨とか。……あーそうだ、魔族側(こっち)につく気になったらいつでも来てよ。(うち)の奴らに言えば上手いようにするから」

「わかった、考えとく」

「うんうん、是非よろしく。じゃあね」


 ゼノはまた気怠そうに頭を掻くと、背を向けて帰っていく。

 その背中は無防備そうで、私たちの事なんて気にしていないように見えて少し悔しいけど、実際ゼノ相手に今の私たちじゃ上手く立ち回れない。殺そうと思えばやれるだろう。でもそれじゃダメなんだ。神様の力(これ)なしでゼノと渡り合えるくらい強くなって、それで認めてもらうくらいじゃないと――


『流石シュナ、何とかなったみたいだな』

「あっシオン! そりゃ私だってやる時はやるのだよ」

『今回ばかりは終わったと思ったが……あいつの性格が昔と変わってなくてよかったよ。元々あいつの上にいた者としては何とも言えない気持ちだがな』

「あはは……」


 シオンにも色々思うところはあるらしい。


「ひとまず、みんな無事でよかったよ」

「……えっと、お姉ちゃん、今のは?」

「あれがゼノ、この街の結界を張ってる魔族。どうやら私たちの正体バレちゃったみたい」

「ああやっぱり……そんな気はしてた。でも何とかなったの?」


 ユイは心配そうにそう聞いてくる。無理もない、ここは魔国のど真ん中な訳で、こんな所で争いごとになろうものなら恐ろしい結末が待っていること間違いなしだ。

 早いところ安心させてあげたいけどまだ安全じゃないし、むしろ危険がいっぱいだし……策を練らないと。


「ひとまずはね。でも……《変身(レオン)》で姿を変えるのはやめておこっか、角とかつけておくくらいに――いいよね、シオン?」

『――そうか、確かにそれは得策かもしれんな……。誠意を見せるという意味では』


 シオンも分かっちゃったか。今ゼノの私たちに対しての好感度はすごーく低いはずだ。このままだと何されるか分かったものじゃない。なら姿をある程度明かしてでも信頼を得た方がメリットが大きい気がするのだ。浅はかかもしれないけど。


『反対はしない。お前がそう決めたならそうすればいいさ』

「ありがと、シオン。……というわけで咲の家に着いたら《変身(レオン)》を少し解こうか」

「お姉ちゃん、それって大丈夫なの? えっと、もちろんお姉ちゃんが決めたことには従う。でも、やっぱりちょっと不安、かも」

「……不安にさせちゃうのは本当にごめん、無理にとは言わないよ。だって、私も怖い。その気持ちは分かるから」


 ユイに強制はさせたくない。勝手に縛ってしまうのは違う気がするから。


「お姉ちゃんが頑張るなら私も頑張る。そのくらい強い気持ちじゃないと、お姉ちゃんの妹は務まらないよね」

「ユイ……」


 頑張ってくれていつもありがとう。私には勿体無いくらい素敵な妹だ。


「じゃあ行こっか。たしか住所は……『セト-エーデ-セトゥス-タスティス』だっけ。名前だけわかっても正直どこなのかさっぱり」

『街全体をピザを切るみたいに12等分した時に一番北側から時計回りに数えて4番目の区画、その中でも真ん中の区画の……って言ってもわからんか。仕方ない、俺が案内しよう』


 助かるー! 珍しく気がきくねぇ。


「シオンが案内してくれるって」

「そっか、私はお姉ちゃんとならぶらぶら迷子旅しても良かったけど……」

「え、すっごいかわいいこと言ってくれる……好き」

「あっ、い、今のなし! つい心の声が出ちゃって……何事もなく行けるに越したことはないし、案内お願いします」


 取り繕うユイもまたよきかな……。でもシオンが頼られてるのがちょっと気に入らない。私も頑張ってこの街のこととか勉強して色々詳しくなろ!


『じゃあ行こうか』

「れっつごー!」

「おー!」


 シオンの合図と共に、私達は手を振り上げて勢いよく歩き出した。

普通に話の展開ミスったなーと思いつつもこれはこれでアリかと脳内会議で一段落ついた今日この頃です。次話更新日は未定です。この調子だと今年中は厳しいかな……。

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