いざ、フィーデランテへ
とうこうひんどがおちるよ〜♫
(投稿頻度が落ちることをお知らせするよの歌)
野を越え山を越え、旅を続ける事なんと一ヶ月。ようやく、本当にようやく魔国の首都フィーデランテの大きな城壁の前へとやってきた。
《変身》を使って成長した姿になっていたので、歩幅とか体格とかの関係で元の体よりは少しばかり楽できたけれど、まさかここまで大変な道のりだとは思わなかった。ああ、一体幾つの山を越えてきたのだろうか、私たちは……。
まあ別に? ユイさえいればどんな悪路も平気なんだけど? むしろドンと来いって感じだけど?
「おい、また変なこと考えてるだろ? もう目的地は目の前なんだぞ、少しは緊張感というものを……」
「う、うるさい! 分かってるもん!」
「ならいいんだが」
シオンは諦めたようにため息を吐くとひょいと私の中に戻ってきた。シオンの姿がこの国の門兵とかにバレるのはちょっと不都合だしね。それはいいんだけど……。そのやれやれみたいな態度はちょっとムカつく。
「お姉ちゃん、なんか見た感じ入国審査?の列に並ばないといけないみたいだよ」
ユイがそう言うように目の前にはいくつかの列ができていた。
「本当だねー。でもそんな長くないしすぐ順番来るかな」
「そうだね!」
ああ、声を聞くだけで癒される……。シオンとは真逆だなぁ。
っと、取り敢えず並ばないとね。
そんなわけで列の後ろに並んで順番を待つ。私たちが並んでいるのは一般の列で、隣は商人用みたいだ。でっかい馬車とかが出入りしてるし多分そう。通行証みたいなものを持ってるのか知らないけどスムーズに列が動いているのが羨ましい。こっちは少し時間がかかりそうだ。
「お姉ちゃん、上見てみて」
「ん、分かったけど……」
「あの半透明な膜みたいなのってさ、もしかして結界?」
ユイに言われて上を見てみて気付く。私たちの身長の何倍もあるような巨大で分厚い壁のさらに上の方。そこにユイの言うように半透明の膜のようなものが……。
『ああ、あれは結界だな。遠くから見た時に気が付かなかったか? 街をぐるっと一周囲む壁と同じように、結界も都市の中心にある魔王城を中心に球状に広がっている。恐らく二……いや三層は張ってあるか』
上から目線で指摘するのちょっとやだけど、ありがたい情報だ。
「うん、シオン曰く結界らしいよ」
「やっぱり。こんな大きなものよく張れるよね。しかもよく見たらちゃんと門の入り口のところも張られてるし、やっぱり警備が厳重なんだね」
「そうだねー、首都ともなると防衛能力も高そう。結界魔法の達人とかでもいるのかなぁ」
もしくは魔道具みたいに何かしらの道具を使ってたり……?
『ほう、珍しく勘が冴えてるな。確かに魔国にはゼノという相当な腕前の結界魔法の使い手がいる。十年前と同じならそいつの張ったものだろう』
へー、予想があってたのは素直に嬉しい!
「あっ、お姉ちゃん次私たちの番みたい」
「本当? 結構早かったね」
ユイが言うように気が付けば私たちは列の先頭に。考え事とかしてて全然周りに意識がいってなかった。これはよくない。
「ユイ、一応この前渡した指輪付けておいてね。ちゃんと効果が出るかはわからないけど」
「うん、わかった」
心配だったので一応ユイに言っておく。指輪というのは私が作った魔道具?のこと。嵌めている人に対する外からの干渉を妨害する効果と、言語理解能力を高める効果がある……はずだ。こういうの作った事ないし原理も曖昧だし、イメージの力でゴリ押して何とか作ったものだから狙った通りの効果が発動するかは分からない。でも悪いようにはならないはずだ。
「次、こちらへ」
と、そうこうしているうちに通行審査官――っていうのかな――に呼ばれた。
「行こっか」
「うん」
私たちはサササッと歩いて審査官の元へ向かう。
門の入り口、結界を通ったところで何かが体に纏わりつくような、少し嫌な感覚が一瞬襲う。ユイもちょっと顔をムッとさせたけど、それもすぐ元通りになった。よかった……。
さて、気持ちを切り替えて集中しないと。ここを通るのが第一関門だ。
「身分を証明するものを出してもらえるかな?」
「えっと、ごめんなさい。事情が事情で証明になるようなものは何も……」
「事情……?」
ここでそこに食いついてきたのはありがたい。
「山火事で家が全部なくなってしまって……急いで逃げてきたので何も家から持ち出すことができなくて」
「……成程、そういう事だったか。確かにこの前北の方で山火事があったと聞いたな。だがあの周辺に村などあったか?」
「仰る通り村はないです。私たちは山の中に家を建てて住んでいたので、あの辺りにあった家は私たちのだけかと」
そうだ、私たちはここに入るためにちゃんと対策を考えてきている。
山火事から逃げてきたことにすればとりあえず変な所は突っ込まれないだろう。
因みに山火事は本当に偶然起こったものだ。旅の途中で出会した時は最悪な思いをしたけど、こうして上手く役に立ってくれたのだから万々歳ってやつだ。
「そうか、ところで……家族というのは君たちだけかな? 失礼だが君たちのような若い女性二人で森での生活は過酷だと思うが……」
「えっと、あの、それは……。両親が居たんですけど、火事で」
「ああそれは申し訳ないことを聞いてしまったな」
「いえ、大丈夫ですから、気にしないでください」
なるべく暗いトーンで、声を詰まらせて話す。なるべく同情を誘うように。
我ながら酷いやつだと思うけど許してほしい。嘘をつくのはちょっと心が痛むけど全ては目的のためなのだ。
「感謝する。……ということは、ここへ来た目的は避難という事でいいか?」
「はい」
「申請すれば国営の住宅を借りられるだろうが、どうする?」
「お心遣いありがとうございます。でも自分たちで何とかしてみようと思います。ちょっとした伝もあるので」
「そうか、逞しいな。では都市の中に入るにあたってこの書類にサインしてくれるか? こちらも身元の不明な者を何もせず通す訳にもいかないので……理解してくれ」
「はい、分かりました」
小窓から通されてきた紙とペンを受け取る。どうやら避難民であることを申請する書類のようだ。名前と生年月日なんかを書く欄がある。
「えっと……自筆じゃなくてもいいですか、これ」
「ん、何か問題でも?」
「ユイ――こっちの妹なんですが、火事のショックでちょっと……今は何かできる状態じゃなくて」
「ああ……なら仕方ないな、君が二人分書いてくれ。私が備考の欄にその旨を書いておく」
「ありがとうございます」
どうやら許されたらしい。ユイは魔族の言語は分からないから私が書くしかない。まあユイ頭いいし私の作った指輪もあるから、数週間したら普通に読み書きできてそうだけどね……。
とりあえずそれまではこういうのは私がやらないとね、なんていうか実にお姉ちゃんできてて嬉しい。いつもユイが頼もしすぎて何もさせてもらえなかったしね……。
「これでお願いします」
紙にはシュンとユーリと書いておいた。万が一のために一応偽名にしておく。
そしてペンと一緒に小窓を通し返す。
「うむ、問題ないな。何かあれば役所へ行くといい、助けてくれるだろう」
「はい、困ったらそうします」
審査官は紙に一度目を通すと頷きそう言った。旅の途中でシオンに見てもらって練習はしたけど、ちゃんと書けてたのは一安心。
「では行っていいぞ。生活が上手くいくことを願うよ」
「はい、ありがとうございます!」
優しい審査官さんにお礼を言って私達は門を抜ける。
と、ユイが腕に抱きついてきた。……かわいい。
さて、そんなわけで何とか門を越えると、目の前には目的地であるフィーデランテの街並みが!
中央にある魔王城の方へ行くほど段々と土地が高くなってる事もあってか魔王城が大きく見える。ていうか実際大きい。……僕は昔あんな所にある牢屋に閉じ込められていたのか。そう思うとちょっとここに来れたことが感慨深い。
それとよく見たら魔王城の周りに一枚、高そうな家とそうじゃない家とが丁度分かれる辺りにもう一枚結界と壁がある。シオンが言っていたように結構厳重な構造の都市になっているみたいだ。
「もう喋っても大丈夫かな……?」
「うーん、咲の家に着くまではちょっと我慢してくれる? ごめんね」
ユイは『分かった』とこくりと頷いた。申し訳ないけどまだ誰に聞かれてるかも分からないしね。
「いやーそれにしても流石首都、活気があるね」
『まあな。それに、特にこの辺りの地区はやってきた旅行客なんかにここぞとばかりに商品を勧めてくる店が多いしな」
「あはは……」
まあ何処もそんなものか。前いた街――シオンが言うにはエルトゥスランテという名前らしい――に行った時は深夜だったから呼び止められなかったけど、お昼とか日が出ているうちだったら大変なことになっていたかもしれないし。
でもそれはそれで想像する分には面白いかも。実際に捕まりたいとは思わな――――ん?
なんだろうか、この刺すような気配は。近くはない、むしろかなり遠い。……いや、近い?
『まずい、とんでもないスピードで何かが向かってきている……!?』
「うそっ!?」
確かにシオンの言う通り気配はほぼ一直線でどんどん近づいてきて――ダメだ、何かしようにも間に合わないっ……!
私は咄嗟にユイの前に出る。気配は都市の中心、魔王城方向からだ。それさえ分かればユイは守れる。
『来るぞっ!!』
シオンが叫ぶ。丁度そのタイミングで向かってくるその存在を目で捉えた。
おそらく男の魔族だ。それがとんでもない速度で放物線を描きながらこちらへ飛んできて――
「ぶつかるっ!?」
――衝突することを覚悟した時、まるでさっきまでの勢いが嘘のようにスタッと目の前に降り立った。
「――!?」
後ろからユイが声にならない声で驚いているのが聞こえる。そりゃそうだ、突拍子も無くこんな奴がやって来たら誰だって……。
「はぁ……なんですぐ通すかなぁ、こういうの」
第一声。気怠そうに目の前の男はそう言って頭を掻いた。
この世界では珍しく黒髪、細身だが体格はいい。軍服?みたいなの着てるし多分軍の魔族だ。身長が私より30センチくらい高いせいか、押し潰されそうで正直怖い。
「えっと、私たちに何か用ですか」
「あーうん、なんて言えばいいかな。……だって君たち、人族でしょ?」
――っ!!?