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忠告と警告

「そんなに急いでどうしたんだ?」


 僕が部屋から飛び出したところで、横からそんな声が聞こえた。

 この聞き覚えのある声の主は――


「別に先生の気にするような事じゃありませんよ」


 僕は、突然声をかけられた驚きを噛み殺しつつ、声のする方へ振り向く。

 すると、声の主――先生はこちらに軽く手を振った。


 今更先生が僕に何の用だろうか。

 物置部屋に押し込まれた僕を哀れみに来たのか、ただ丁度見かけたから声をかけたのか。

 まあ後者の方だと考えるのが自然だろう。――いや、そちらの方が()()()()()()と言うべきか。


 ……妙な詮索はやめよう。あまり意味のない事を無駄にしたくない。


「そう警戒するなよ。別に、ただ気になっただけだ」

「そうですか」


 まぁ、今更何をしても遅いのであまり警戒する意味はないのだ。

 けれど、警戒しておくことに損はない。


「僕が急いで部屋から飛び出した理由なんて、本当にくだらない事ですよ?」

「それでもいいんだ。……いや、それでいい。俺はただ疑問に思ったことは何でも知っておきたい性分なんだ」

「はぁ、あまり好かれなさそうな性分ですね。全てに首を突っ込むのは良くないと思いますが」


 人間誰しも他人には知られたくないものを持っているものだ。

 自分のことを探られることを好むものは殆どいないだろう。

 それも細かい事までとなれば尚更だ。


「節度はともかく立場は弁えているつもりだ」

「それは、確かにそうですが。…………僕が急いで部屋から出た理由は、そこの部屋を見れば分かると思いますけど」


 そう言って僕は自分の部屋を指差す。

 これだけでは僕が壊してそのまま逃げたように思われるかもしれないけど、まあそう思うならそう思われたままでいい。こんなことを一々話していたらきりがない。


 そう思って指を差すだけに留めたのだが――


「別にお前が壊したわけではないだろ? 扉が部屋の中に向けて倒れている。そしてお前は部屋の中から出てきた。そうだろ?」

「その通りです」


 やはり先生は頭がいいようだ。いや、この場合は頭がきれると言うのか。


「そうか。それと、さっき言った『疑問に思ったことは何でも知りたい性分』みたいなやつは嘘だ。俺はそんなに面倒なやつではない」

「…………じゃあ何でそんなことを言ったんですか?」

「別に意図はないさ。ただ、くだらない事もたまにはするべきかもなと思っただけだ」


 意味が分からない。――でもこれが人生を楽しむ為の考え方ってやつなのかな?


「あまり楽しくなかったと思いますけど。……僕がこんな態度ですし」

「ああ、そうだな。変なことに付き合わせて悪かった」


 そこは認めるのね……。


「まぁ、なんだ。お礼にお前に忠告をしてやろう」


 どうやらさっきのくだらない話で終わりではないらしい。

 むしろ、こっちの話の方が本命なのか?


「さっきお前よりも先に部屋から出て行ったメイド。……あいつと深く関わりすぎない方がいい」


 な……。


 全く思ってもいなかった事を忠告され、思わず驚いてしまう。が、すぐに元の状態を取り戻した。


「それは、どうしてですか?」

「あいつは訳ありなんだよ。別に関わるなとは言わない。いや、寧ろあいつはお前らのすぐ近くを担当しているが…………深く関わりすぎると面倒なことに巻き込まれかねない」


 なるほど、彼女は先生にそう言わせるほどの事情を持っているらしい。だけど


「忠告ありがとうございます。ですが彼女には恩義があるので、関わらないと言うことは出来ません。……あくまでも忠告として心の中に留めておきます」


 恩を仇で返すわけにはいかないだろう。それは僕の良心に反する。


「そうか、まあ忠告は忠告だ。お前の好きな様にすればいい。だが、流石にあいつのことをかのじ――――いや、何でもない」

「途中で止められるとすごく気になるんですけど……」

「気にするな、別にくだらない事だからな。それにお前があいつに関わるつもりならいずれ分かることだ」


 一体何を言いかけていたのだろうか。

 いくらくだらないものだと言われても気になるものは気になってしまう。


 なんか今の自分の状況が『心なき少年が心を知っていく』みたいな感じがして気に入らない。

 まぁ、いいか。


「じゃあ僕はこの辺で失礼します」


 先生と話していて少し時間が経ってしまった。

 もう少ししたら部屋を片付けにメイドさんがやってくるだろう。

 別に悪いことをしたわけではない(と思う)が鉢合わせたくはない。


 そう思って、ここら辺で話を終わらせようとした、のだが。


「まぁ待て。もう一つ話がある」

「……まだ何かあるんですか?」


 しつこい男の人は嫌われますよ――なんて、どこかで聞いた言葉を心の中で漏らしつつ、一応は話を聞く事にする。


「あまりこう言う事は言いたくはないんだがな。話ってのはまぁ……警告ってやつだ」

「警告……?」


 忠告ではなく、警告。

 真面目に聞いておくべき……かな。


「まぁ、なんだ。お前は賢い」


 ん?


「だからこそ、否が応でも色々なことを見て、知ることになるだろう。だが気をつけた方が多い」

「……気をつけるって、一体何にですか?」


 この世界にいる危険な奴らってことかな?


「何に、か。…………何だろうな? 俺の口からはあまり話せない事だが、お前が気を許せると思った奴以外には警戒を怠らない方がいい」

「……警告と言う割には曖昧ですね。何となく大切なことを話しているのは伝わりましたけど」


 先生の口ぶりからして、どうやら僕の予想よりもっと身近に危険が潜んでいるらしい。……それもかなり凶悪な。

 

「まぁ、伝わったならいい」


 しかし、分からない。


「先生はどうして僕にここまで気遣うんですか?」


 無償の善意ほど怖いものはない。僕はそう思うのだ。

 善意の裏にあるもの。それが見えないと相手を信用し切るのは難しい。

 そう思って僕は先生に疑問をぶつけた。


 すると先生は少し言葉を詰まらせた様な感じだったが、しばらくして口を開いた。


「お前に償わなければならないからだ」

「…………まさか、先生がそんなことを言い出すとは思ってもいませんでした」


 罪悪感か、良心の呵責か……。どちらにせよ僕たちの人生を勝手に狂わせた償いはきちんとするという、先生なりの意思という事か。


「お前はしっかりと現実を見ている。他の奴らと違って賢いからこそ、夢に溺れず、現実的に見て物事を判断している。

 お前は凄い奴だと思う。だからこそ、ここにお前を連れてきてしまったことが……」


 そこまで言って、先生は言葉を切った。

 そして、一呼吸置いてもう一度口を開く。


「いや、これ以上はやめよう。勝手に懺悔して罪から逃れようなんて、それこそ許されないことだろうからな」


 ――僕の口から言葉は出なかった。


 話す言葉が見つからないというよりも、出せなかったという方が正しいかもしれない。

 許すにしても、許さないにしても、被害者である僕がここで何かを話したら、先生にとっては悪い方向にしか進まないのだろうと直感的に察したのだ。


「今話した事は忘れてくれ。俺はただ、お前に忠告と警告をしに来ただけだ。こんな姿、教師として失格だからな」

「はい。わかりました」

「じゃあな。急いでいるところを邪魔して悪かった」


 先生はそういうと、廊下を歩いて何処かへ消えていった。

 その後暫く、僕はあんなにも急いで立ち去ろうとしていた筈なのにこの場から動くことができなかった。



 ◇ ◇ ◇



「これは……桜の花弁?」


 掌に舞い落ちた薄桃色の花弁を見て、僕は思わず慣れ親しんだ花の名前を呟く。

 花弁の舞ってきた方を見れば、薄桃色の花を咲かせた大きな木があった。

 ただ、これは桜の様で桜ではないのだろう。

 何故なら、ここは日本――いや、地球ですら無いのだから。


「王宮の庭にこんなものがあるなんて、思ってもいなかったな」


 まさか地球とは全く違う世界に桜の様なものがあるなんて……凄いこともあるものだ。


 あの木に目がいってしまいがちだが、その周りで咲いている花たちもとても綺麗だ。

 ここに咲いているものは見たことのある様なものから全く知らないものまで種類は様々だ。


 別に花を見ることが好きだとか、その様な乙女チックな心は持ち合わせていないが、ここは見飽きなさそうだ。

 ここへやってきて正解だった。


 ただ、やっぱりあんな事があった後に来たせいであまり景色を見ようという気になれないな……。


 そう感じてしまうのは仕方ないだろう。


 この話は忘れなければならないけれど、それでもすぐに忘れるなんて無理だ。

 どこかにベンチはないだろうか。少し、座って休みたい。


 そう思って辺りを見渡してみると、あの桜の(様な)木の下にベンチがいくつか置かれているのを見つけた。


「丁度いい。あそこへ行ってみよう」


 そう決めると僕は例の木の方へ向かった。

活動報告とかで進捗を書けたらなぁとは思うのですが、どうせ誰も見ないだろうしなぁ……と悩んでいる今日この頃です。


ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ

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