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君と彼女と―― 2/4

だらだら書いてたら一万文字突破しちゃったので読む際は気を付けてください!

あと一ヶ月更新できなかったことも許してくれるとうれしいです……。


(2024/07/16 表現を一部変更 翔くんにスマホを持たせてあげました)(あまり気にしなくてOKです)

 東京駅を出て数十分歩いていくと、しばらくして秋葉原駅前の通りに出た。


「おぉ〜! なんだか秋葉原って感じで格好いいね〜!」

「え、ええ、そうね……」


 佐藤さんのリアクションに咲が思わず苦笑する。

 なんだろう、佐藤さんのこの中身があるようで無いふわふわした感じの感想。

 なかなかどうして気に入ってしまう。


「着いたぞっ!」

「ああ、遂にこの時が……!」


 隣でまるで秘境の遺跡の最奥で財宝を発見した探検隊みたいな事を言う男二人の事は放っておくことにしよう。


「それで、みんなはどこに行くとか決まってるの?」


 ここには色々あるらしいということは何となく知っているけど、逆に言えばそれ以外は全くと言っていいほど分からない。


「無粋なこと言うなよな! 気の向くままに行けばいいんだよ、こういうのは」

「そうそう!」

「は、はぁ……」


 どうやら関くんたちの助言は僕にとってはあまり(ため)になるようなものではないようだ。

 こういう時は咲が一番役に立つんだけど――


「……何よ翔くん、こっちに助けを求められても困るわ。今回ばかりは何の助けにもなれなさそうだもの」


 咲の方を見ているとそんな事を言われてしまった。


 言われてみれば確かに咲はこういう場所には疎そうだし、流石に無理なお願いだったか。


「なあ、早く行こうぜ!」

「……そんなに我慢できないの?」

「うずうずしてしょうがなくてさ」


 関くんがそう言うように、確かに彼の体は早くどこかへ行きたそうに震えていた。

 禁断症状みたいなものでも出てるのだろうか……。

 

「しょうがないわね……。ならここは手っ取り早く別行動にしましょうか。そうすれば各々好きな所に行けるでしょう?」

「いいね、それ!」

「そうしようぜ!」


 どうやら男子二人もこの提案には大賛成のようだ。


「なら取り敢えず集合ば――」

「よし、じゃあ早速行くぞ!」「うん!」

「へ…………? ちょ、ちょっと待ちなさい!!」


 咲は多分『集合場所を決めておこう』と言おうとしたんだと思うけど、それよりも先に男子ーズは飛び出してしまった。

 これには流石の咲も思考が追いついていなかったようだけれど、直ぐに立て直した辺り流石咲と言うべきか……。


「ちょっと翔くん、ボーッとしてないでアレ追いかけなさいよ!?」

「青春を謳歌しようとする者たちを止める事なんて誰にも出来ないんだよ……」

「何変なこと言って――――ああもう! 貴方たち、せめて二時間後までにはここに戻ってきなさいよ!」

「りょーかーい!」


 二人は話半分にしか聞いてなさそうな頼りない返事をしたかと思えば人混みの中に紛れ込んでしまった。


「行っちゃったわね」

「そうだね……。ごめんね、私が一番近かったから止めれたはずなのに……」

「風香、気負う必要はないわ。どうせああなってしまったら止めようがないもの。……でも、それにしても貴方って本当に使えないわね、翔くん?」

「使えない子でごめんなさい」

 

 僕の言葉に咲は光のない瞳で僕を見つめたかと思えば、呆れたようにため息を一つ()いた。

 

「まったくもう……」

「ねね、そんなことより私たちも早く行こうよ〜!」

「ちょっと待ってくれるかしら」

「むぅ〜」


 佐藤さんはまるで餌をお預けされた犬のようにしょぼんとしてしまった。

 ああなんてかわいそうなんだろう。


「分かってると思うけど二時間後までにはここに集合ね。だからそれまでに色々済ませてくること。それと、一人で離れて動くことは絶対にないようにね、いい?」

「もちろんだよ〜!」

「了解」

「じゃあ今度こそ行こっ!咲ちゃんはどこに行きたいとかある?」

「え……私は行かないわよ?」

「――ええっ!?」

「え、行かないの?」


 咲はサラッと当然とばかりに行かないと言った。

 佐藤さんは――勿論僕も――咲は着いてくるものだと思っていたので驚いてしまう。


「ええ、だって私が行ったところで貴方たちの邪魔になるだろうし。みんなが楽しんでくれればそれでいいわ」

「そんな悲しいこと言わないの! 咲ちゃんも一緒に行こうよ。……ね?」

「本当にいいの?私、何も分からないけれど……」

「もちろんだよ〜! そこは私と日野君で何とかするから!」


 佐藤さんは『ね?』と僕に目で訴えてくる。

 だけど残念、申し訳ないけど僕はまたもや役に立たないんだ……。


「……ごめんだけど僕もよく分からない」

「はえっ、そうなの!? 興味ないとか言ってたけど本当は結構知ってる人なのかな〜って思ってたよ」

「あはは……僕もそうだと良かったんだけどね」


 何しろ日々の生活で手一杯なもので、みんなが知っているくらい国民的なやつくらいしか分からない。

 まあだからこそ興味があってここに来ることに賛成したわけだけど。


「という事でお願いします、どうか役立たずな僕を介護して下さい……」

「しょうがないなぁ、じゃあ私が頑張って二人をキャリーするから任せてね!」

「お願いするわね、風香」

「まっかせてよ!」


 そんなこんなで僕たちは意外と満更でもなさそうに先導する佐藤さんに連れられて街を歩くことになった。



 ◇ ◇ ◇



 あれからしばらく歩いて色々な所に連れ回された。何だかカラフルな綿菓子を食べさせられたり、適当にイラストだけ見ていいなと思ったアニメのキャラが(ことごと)く悪役か序盤で居なくなるキャラだったり、佐藤さんが変なスカウトに引っかかってそれを咲が追い返したり……色々ハプニングが起こりつつも、結局は漫画とか小説とかグッズだとか、色々なものを売ってるお店に来た。

 とはいえ、僕が欲しいと思うようなものは無いだろうし適当にどんな物があるのか店の中を見て回ることにしたのだけど――


「日野くん日野くん、今ちょっといいかな……!」

「ん、どうしたの?」


 ――何故かこうして佐藤さんに呼び止められてしまった。


「ちょっと一緒に探して欲しい物があって、よければ手伝ってくれないかなぁ」

「それくらいなら勿論いいよ。……あれ、でも咲には頼まないの?」

「へっ!? え、えっとその……さ、サプライズってやつだからさ〜」

「な、なるほど」


 咲に頼んでないようだったから少し疑問に思って口に出しただけだったんだけど――あわあわと冷や汗を流して慌てている佐藤さんの姿を見るとなんだか申し訳なく思ってしまう。

 絶妙に誤魔化された気がするけど、つっこまないでおいてあげよう。僕は咲みたいに酷くないからね!


「それで、一体何を探せばいいの?」

「あっ、ええと……日野くんはモンクエっていうゲーム知ってる?」

「モンクエかぁ、聞いたことならあるよ。伝説のモンスターを巡って各地を冒険するみたいなストーリーの筈なのにいつの間にか公式すらそんな設定を忘れてる……みたいな感じのパズルゲームだっけ?」

「わお、もしかして結構知ってるの!?」

「知ってるというか、男子二人に教え込まれたというか……」

「……そっかぁ、日野くんも大変なんだね〜」


 そう、あれは本当に大変だった……。

 適当に相槌を打って何とかやり過ごしたけど、それでも小一時間耐久しなくちゃならなかったのは流石に(こた)えた。なんせ僕はスマホゲームなんてやった事ないし、分からないことだらけで何も頭に入ってこなかったし。


「それで、モンクエの何を探せばいいの?」

「探して欲しいのはアクリルキーホルダーなんだけど……とりあえずゲーム関連のコーナーだけ見つけてくれると助かるな〜」

「了解、それくらいならできそうだよ」

「ありがと〜! お店広くて一人じゃ大変そうだったから本当に助かるよ〜」


 佐藤さんは見つけたら教えるように言い残すと、彼女自身も目的の物を探すために飛び出して行った。

 何だか咲にはバレたくない雰囲気だったけど……まあその咲は店の前のガチャガチャコーナーに張り付いてるし、しばらくは大丈夫だろう。

 さて、なら僕もそろそろ探し始めようか。



 佐藤さんは店の右側から探し始めたので僕は反対側から攻める事にして、取り敢えずは注意深く見ながらアニメやライトノベルのグッズ売り場を通り過ぎて行く。

 どこに何があるか全く分からない以上見落としがないように気をつけないといけないのでかなり神経を擦り減らしたのだが、意外にも目的のスマホゲームのグッズコーナーは十数分で見つかった。

 まあどれがモンクエのやつなのか分からないから、ここから先は佐藤さんに探してもらうことになりそうだけど。


 という事で売り場の位置を記憶すると佐藤さんを探して声をかける。


「あれ、もしかして見つかった!?」

「うん、あそこが多分探してるコーナーだと思うけど……」

「本当!? ありがと〜!」


 佐藤さんはそう言うと僕が指差した方に飛び出して行った。よっぽど探し求めてた物なんだろう。


 さて、仕事も果たしたし僕はもう用済みなんだろうけど――そこまではしゃがれると流石に僕も興味が出てきたし、一度そのキーホルダーとやらを拝むべく後を追う事にした。



 ――――結果的に言えばこの行動が良くなかったんだけど……。



 少し歩くと、そこにはふるふると小さく体を震わせている佐藤さんの姿があった。

 一瞬見つからなかったのかなと思ったけど、よく見ると彼女は何やら小さな物を手に取っているようだ。


「佐藤さん、もしかしてそれがお目当てのもの?」

「そうだよ〜!」


 佐藤さんはそう言って手に持っている物を僕にも見せてくれる。

 おそらく小さくデフォルメされたのであろうキャラのアクリルキーホルダーがそこにあった。

 ただ、当たり前だけど他のキーホルダーと特別違うように見える所はない。

 強いていうならちょっと可愛らしい絵をしているかなと思うくらいだ。

 でも見つけてそこまで喜べるんだ、彼女にとってはそれくらい価値のある物なんだろう。


「そっか、見つかってよかったね。……佐藤さんはそのキャラが好きなの?」

「えーっと、半分そうで半分違うかな〜。実は私このキャラのこと何も知らないもん」

「えっ、そうなの?」

「うん。どちらかと言うとこの絵を書いた人が好きで探してたんだ〜。私達の街の近くにはこういうお店もないしさ、東京に来たら買いたいな〜って前から思ってたの!」

「へー、なるほどね」


 ゲームだとかそのキャラじゃなくて、まさか絵師の方が好きだったとは……。

 でもそれも納得できる。

 確かにこの絵柄には惹かれるものを感じる。


「ところで、それってなんていう名前の人が描いた絵なの?」

「…………あれ、日野くんは知らないの?」

「知らないって、そりゃ知らないけど……」

「あ、もしかしたら日野くんは教えてもらってないのかな〜」


 何だか訳のわからない方向に話が進み出した気がするんだけど。

 僕が教えてもらってない……ってどういう事?

 全く意味が分からない。

 そもそもどうして佐藤さんは僕が絵師さんの事を知っていると思ったんだろう。


 はっ、まさかクラスのみんなは知ってるけど僕だけ輪から外されてるとか!?


 ――――あれ、なんか冗談のつもりで思いついただけなんだけどその線が一番濃厚な気がしてきた。


「ごめん、教えてもらってもいい?」

「う〜ん……そうだね、探すのを手伝ってもらっちゃったしここだけの秘密ね? この絵を描いたのはね〜何とあの――」

「――あなたたち、二人して何を見てるの?」

「わわっ、咲ちゃん……っ!!?」

「さっきまでガチャガチャのとこに居たはずなのに、いつの間に?」


 もしかして佐藤さんの後をついて行くところを咲に見られたのかな。


「いつの間にって、二人してこっちに来るのを見かけたから何となく着いてきただけよ。それに私も一度見ておきたい物があったから丁度良いと思って」

「そ、そうなんだね〜」


 やっぱりか……!!

 まずいな、佐藤さんは咲に見つかりたくなかったようだし状況は最悪だと言えるだろう。

 どうにか打開したいところだけど……。


「で、何見てたの?」

「な、ナンデモナイヨー」

「……?」


 佐藤さんは何とか逃れようと手を後ろに回して持っているキーホルダーを隠した。

 でも、流石に今この状況で、しかも咲の前じゃそれは――


「何よ、隠さなくたっていいじゃない。そうまでされると余計気になってしまうのだけど」

「ひゃいっ!?」


 ――どう考えても悪手だった。


「少しでいいから見せてくれないかしら」

「え、え〜と、その、えと……」


 佐藤さんはまるで凶暴なライオンに詰め寄られた小動物のように体をガクガクと震わせて、心なしかその姿はいつもより縮んで見えた。

 どうやらもう彼女は限界らしい。


「咲さんや、佐藤さんも困ってるしその辺にしといてあげてはくれませぬか」

「え、えぇ……別に構わないけど。悪かったわね、少し調子に乗ってしまったわ」

「ううん、いいよ〜」

「そう?」


 はぁ、何とかなったようだ。


「でも私は知らないのにあなたは教えてもらってるだなんて何だかモヤモヤするわね」

「あらあら咲さん、嫉妬ですか?」

「ええそう嫉妬よ。妬けるわね」


 あれ、咲ってこんなにストレートに言ってくるような人だっけ?

 なんかもっと嫌味とか言ってきてもおかしくないのに。

 まあ人は変わり続けるものだし、咲も変わったって事なのかな。


「…………何よ翔くん、さっきのは冗談よ?」

「咲の冗談は分かりにくいんだよ……」


 誰か咲に上手い――せめて分かりやすい冗談の仕方を教えてあげてくれ……。


「まあ冗談はさておき、どうだった? 一通り見て回れたかしら?」

「いや、まだ半分くらいって感じかな。意外とこのお店広くて探し物を見つけるだけでも結構大変だったし」

「そうそう、日野くんに手伝ってもらったけど咲ちゃんの描いた絵のキーホルダー探すだけでも結構大変だったんだよ〜!」

「「へ……?」」

「あれ、どうしたの二人とも?」


 ――――――???


 ――――??


 ――!?


「あっ……」

「風香、ちょっと一緒にあっち行きましょうか?」


 情けない声を出したかと思えば佐藤さんの顔がみるみる青ざめていく。

 どうやら自分が何を仕出(しで)かしたのか徐々に理解してきたらしい。


「や、やだっ! 東京湾に、東京湾に沈めるのだけはやめて〜っ!」

「少し黙りましょうか?」

「やめっ――もがががもがもが」


 咲はそう言うと必死に抵抗しようとする佐藤さんの事などお構い無しに彼女の口を手で塞いだ。

 ああ……申し訳ないけどこれは自業自得だ。


 それにしてもまさか――いや本当にそうなのか?

 流石にこれは……どうしても俄かには信じ難い。


「ねぇ、これって本当に咲が――」

「言わないで。皆まで言わなくても分かるわ」

「う、うん」

「はぁ……全く、悪いのはこの口かしら?」

「いたい〜ひっはらはいへ〜!」


 咲は佐藤さんのほっぺたをつねって引き伸ばす。

 なんだか可哀想だけど僕にはどうすることもできない。

 まあでも、咲も本気で怒ってるわけでもなさそうなので程々にしてあげてほしい。


「まあまあ、ここは一つ僕は何も聞いてないって事で一件落着しません?」

「いえ、もういいわ。起こってしまったことはどうしようもないもの。バレてもよかったといえば嘘になるけれど、あなたになら大丈夫だろうし」

「あれ、もしかして信用してくれてる!?」

「え、違うわよ。あなたなら抑え込みやすいし誰かに話す勇気もないでしょう? だから問題ないかなと思って。……まあ、ある意味信用みたいなものだけど」

「あらひどい……」


 咲はいつも上げて落としてくるから容赦がない。

 もう素直に受け止めないようにしよう……。


「でも私の秘密を知った代償とでも思えば安いものじゃないかしら? 物は考えようよ」

「その台詞(せりふ)僕が言うなら分かるけど咲が言っちゃダメでしょ……。まあ構わないけどさぁ」

「ならオッケーってことで」


 全く、僕に反論できないと分かっていてそんな事を言うもんだから(たち)が悪い。


「ね〜ね〜咲ひゃん、そろそろはなひてよ〜」

「ああ、ごめんなさい」


 咲は申し訳なさそうにそう言って頬を引っ張っていた手を離す。

 僕には厳しいのに佐藤さんには優しいのはどうして……?

 そうゆーのよくないとおもいます!


「さて、じゃあそろそろ行きましょうか」

「あっ、ならちょっと待ってて〜! 急いでこれ買ってくるから!」

「……本当にそれ買うの? 別に私のじゃなくても良いでしょう?」

「えぇ〜、これだからいいのに〜! これが欲しくてここに来たと言っても過言じゃ無いからさ〜」

「そ、そうだったの? 何だかそこまで言われると恥ずかしいわね……」


 咲は髪の先をいじりながらそう言う。

 佐藤さんの言葉に困惑してるみたいけど無理ないか。

 僕も佐藤さんがそのキーホルダー目当てで来てるとは思ってもなかったし。

 にしても咲ってどんな場面でも冷静で感情をあまり面に出さない人だと思っていたから、動揺してる姿を見るのはなんだか新鮮だな。

 まあ、咲もいいファンを持ったようで何よりだ。


「じゃあ僕も何か買っておこうかな。こういう所なんて滅多に来ないし記念に一つくらいはね」

「……そうだ! 折角ならみんなでお揃いにすればいいんじゃないかな!」


 佐藤さんはいかにも『名案を閃いた!』とでも言うかのようにキラキラと目を輝かせて自信満々そうだ。

 僕はいいけど咲は……どうだろう。

 賛成してる姿なんて思い浮かべられないけど。

 

「そうね……確かにお揃いの物を買うっていうのも思い出作りっていう意味でまたいいかもしれないわね。まあ、買うものが買う物だから声を大にして賛成はできないけれど」


 意外にも(やぶさ)かではなさそうだ。

 まあ完全に乗り気ってわけでも無さそうだけど――恥ずかしがってはいるけど咲は思い出を作る事に関しては案外否定的にならないんだよねぇ。


「ほんと!?じゃあ三人一緒に行こ〜!」


 咲の言葉を賛成と受け取った佐藤さんは、パシッと僕と咲の手を掴むとレジの方へと引っ張る。

 

「ちょ、ちょっと! まだ買うって決めたわけじゃないんだけど!」

「さ、佐藤さん!? 僕は構わないけど少し強引過ぎ――ていうか力強っ!?」

「そ、そうかな〜? ほら思い立ったが吉日ってよく言うし……」

「風香、いい? 一旦落ち着きましょう? 別にこのキーホルダーじゃなくても形として残しておくなら他ので――」

「わ〜っ! もういいもん、こうなったら無理矢理にでも思い出作ってやんよ〜!!」

「うわっ、引っ張られる!?」


 確かに僕は世間一般でみて力は弱い方だとは思うけどさ、全然抗えないっておかしいでしょ!?

 隣を見れば咲も引っ張られているけど、こうなったら止められないと分かっているのかどうやら抵抗は諦めたようだ。

 ――ああもう、咲が抵抗を諦めてるんだったら僕ももういいか。格好悪いけどここは大人しく引きずられることにしよう。


 そんなわけで僕たちは佐藤さんにされるがままキーホルダーを買って店を出た。



「えへへ〜二人とお揃いだ〜!」


 佐藤さんはキーホルダーを手にその場でくるくると回っている。

 余程あれを買えたのが嬉しかったのだろう。


 因みに僕と咲は買ったキーホルダーをもう鞄の中に入れてある。付けようとは思ったけど恥ずかしかったのでやめておいた。

 また明日にでも付けておこうと思う。

 咲は――多分恥ずかしいと言うよりも自分の描いたキーホルダーを着けるのに少し抵抗があるのだろう。


「通行の邪魔になるからあまりはしゃがないようにね?」

「は〜いっ!」

「本当に分かってるのかしら……」


 やれやれと咲はため息を一つ()く。

 でも佐藤さんはそんなのお構い無しに今度はその場で飛び跳ねていた。

 本当に、佐藤さんは元気の塊のような人だ。

 本当なら僕とはあまり反りが合わないようなタイプの人間なんだろうけど……彼女の作り出す雰囲気は自然と受け入れられる。

 そう、どこか暖かい感じがする。


 ――って僕は何恥ずかしい事を考えているんだ!?


「それにしても咲がイラストを描いてて、しかもこんなキーホルダーまで出しちゃうなんて本当に驚いたよ」

「そうね……この歳の少女には大層お似合いの趣味でしょう?」

「あ、うん」


 頭の中で考えていた恥ずかしい事を振り払うためにも咲にそう言ったのだが、咲はどこか自虐的に微笑むので何と反応していいのか困ってしまう。

 キーホルダーの話にはあまり触れて欲しくなさそうだしこれは悪い事をしてしまったかもしれない。


「咲って美術の授業でも絵を描いたりするの凄く上手だったし、何か特別なことでもやってたの?」

「あっ、それ私も知りたいな〜。絵を描くの上手くなって美術の評価稼ぎたいんよ〜」

「そこまで下心を丸出しにされると逆に話しやすいわね……。でも残念、私は何も特別な事してないし自分の絵が上手だとも思ったことないわ。だから何も教える事はできないの、ごめんね」

「え〜っ!? 咲ちゃんすごく絵上手いのに、下手だなんてそんな事ないよ〜」

「……そう言ってもらえると嬉しいわ。でも本当に私は――――いえ、何でもないわ。ありがとう」

 

 咲は言葉を止めて言い直す。

 何かありそうだけど……聞くのはやめておこう。

 咲も自分と、そしてこちらのことを考えて言葉を変えたんだ。

 変に突っ込んでは咲の意に反する事になるかもしれないし。


「ところでこれからどうする? まだ集合時間まで時間あるよね?」

「え、ああそうね。その事なんだけど……私から一つ提案があるわ」

「なになに〜!?」

「神社に行ってみるなんてのはどうかしら。少し歩くけど行ってみる価値はあると思うの」


 神社かぁ。

 そういえば修学旅行って言うと大体神社仏閣を巡るなんてのを想像するけど、僕らの修学旅行にはそれが無かったし、折角なら行ってみるのもいいかもしれない。


「いいね、僕は賛成」

「私もいいよ〜。友達とそういう所行ってみたかったんだよね〜」

「そう、じゃあ行きましょうか」

「おっけ〜れっつご〜!」


 そんなわけで咲に先導されて近くの神社に行くことになった。



 ◇ ◇ ◇



「……ちょっと待って、これ登るの?」

「そうよ、当たり前じゃない」

「嘘でしょ……」


 目の前にはあまりにも急すぎる坂があった。

 坂の上がほとんど見えないし――まるで壁だ。

 

「あのー、今日それなりに歩いたから足が痛くなってきたんだけど……」

「それは私もだけど我慢しなさい。それともここで待ってる?私は風香と行ってくるけど、翔くんは一人寂しく待つことになるわね」

「いえ、ぜひご一緒させて下さい!」

「よろしい」


 あれで待ってるって言ったら本当に一人で待たされることになるから、ここは大人しく咲様に尻尾を振っておくのがベストだろう。長年の勘もそう言っているし……。


 そんな訳で僕は結局重い足に鞭を打って進むことになった。

 でも坂を越えるとすぐに目的の神社があるらしいのでこれ以上歩くことはないらしくて軽く致命傷で済んだ。


「さて、着いたわね」


 息を少し荒げながらも何とか階段を上り切ると、目の前にはもう神社の境内があった。


「おお、散々ごねちゃったけど本当にすぐそこにあったんだね」

「それちゃんと自覚あったのね……」


 そりゃあ自覚はあるし悪いとも思ってるけど、体力の無さはどうにもならないからなぁ……。

 改善させるならジョギングとかを習慣にしてみてもいいかもしれない。


「うお〜神社だ〜! 実物を見るとやっぱり感動するね〜!」

「まるで神社に来たことないような言い方するわね……」

「うん! だって本当に初めてだからね〜!」

「えっ?」

「そうなの……!?」


 神社なんて近くとは言わないけれど少し遠出すればすぐ行けると思うんだけど……そんなことあるの?


「あ、やっぱり驚いちゃうよね〜。私数年前まで病弱だったからどこか遠くまで行くことなんてそんなに無かったし……神社に無理に行こうとも思わなかったしね〜。

 でもパパとママはたまに行ってたみたい、私の体が良くなりますようにって」

「そうだったのね……。ごめんなさい、全然知らなかったわ。なら今日は無理させてしまったかもしれないわね」

「あ、それは全然大丈夫だよ! ほら、もう良くなったからさ〜。今はむしろ元気が有り余って爆発なんよ〜!」

「確かに全然疲れてなさそうだし元気で溢れてるよね。その元気分けて欲しいくらい」

「えへへ……」


 佐藤さんは照れたように少し笑う。

 そうか、彼女も彼女で頑張っていたんだ。

 それにそんな彼女だからこそ一緒に居て心地良いと感じるのかもしれない。

 ――咲はいい友達を持ったなぁ。


「それじゃあ行こ〜!」

「ええ、お詣りしたらみんなでおみくじでも引きましょうか」

「いいね、それ」

「わ〜どんどん夢が叶っちゃうよ〜!」



 いつにも増して元気そうな佐藤さんと、それを微笑ましそうに見つめる咲と、その後は三人で神社を見て回ることになった。

 まあ僕はしばらくして足の限界がきたせいでギブアップすることになったんだけどね……。



「翔くん足の調子はどうかしら、もう歩けそう?」

「うん、おかげさまで何とかって感じかな」

「そう、ならよかったわ」


 二人に『僕を置いて先に行くんだ!』と言ってから数十分後、足を休ませている僕の所に咲が戻ってきた。

 ただ佐藤さんの姿は見えなかった。

 多分まだどこか見て回っているのだろう。


「どう、よく見て回れた?」

「ええ、私もここに来るのは初めてだったから楽しかったわ」

「ならよかった」


 咲もちゃんと楽しんできたようだ。


「最初は心配だったけど、結局秋葉原に来て良かったね」

「そうね、百聞は一見に如かずとはよく言うけれど本当にその通りだったわ。最初あんなに否定していたのが今では馬鹿だったと思うもの」

「でしょー」

「なんであなたが得意になってるのよ、どちらかといえばあなたと私がここまで楽しめたのも風香のお陰でしょう?」

「うっ、それはそうです……」


 本当に咲が楽しめるのかどうか心配に思っていたけどそれは全くの杞憂で済んだらしい。

 来てみてびっくりで結構自分の価値観が変わったかもしれない。


「ところで風香の姿が見えないんだけど、あなたは見た?」

「いや、てっきり咲と一緒に居るものだと思ってたんだけど……まだどこか見てるんじゃないかな」


 と、咲が僕も気になっていた事を聞いてくるけどそれは逆に僕が知りたい。

 僕がダウンした後『じゃあ行ってくる!』と言い残してどこかに飛び出して行ったっきり見てないからなぁ……。


「そう……でも何かあったら怖いから一応探しましょうか」

「そうだね、何かに巻き込まれてたら困るし」


 そんなわけで佐藤さんを探しにしばらく歩き回ることになった。


「さっき結構色々な所を見て回ったけど一度も合わなかったのよね。そうなると私の行かなかった所に居るのかもしれないわね」

「確かにね……で、行ってない所ってどこ?」

「さっき行ってない所って言ったら……ほとんど無いわね」

「それは困ったね。もうさっきの階段の所にでもいるんじゃない?」

「なんでそう思うの?」

「いや、なんとなく」


 本当に何となくだけど、当てが無いなら行ってみるのも手だとは思うけどね。


「まあいいわ、行ってみましょうか。あなたの勘はよく当たるから」

「了解」


 という事で一応ダメ元で行ってみる事になったのだけど――


「おお、本当にいた」

「こんな所で何してるのよ……」


 そこには階段を走って登ってくる佐藤さんの姿があった。


「あ、咲ちゃん! それに日野くんも〜! 何してるのって、頑張って百周目指してるんよ〜」

「げ、元気ね……」


 突拍子のない事を平然と言う佐藤さんに流石の咲も引いているらしい。

 僕からしたら何故か階段を走ってることも衝撃だけど、汗ひとつ掻いていないのが恐ろしい。


「頑張るのはいいけれどそろそろ集合時間だから戻るわよ」

「え、もうそうなの!? そっか、じゃあ行こっか」


 佐藤さんはそう言うとさっきまで登っていた階段を駆け降りた。


「切り替えが早い……」


 騒がしい人だけど、あの元気さは真似しようと思ってできるものじゃないなぁと素直にすごいと思う。

 そんな彼女に感化されてかは自分でも分からないけど、僕も階段を駆け降りた。


 ――そんな僕の姿を咲に変な目で見られたのは言うまでもないだろう。

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