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君と彼女と―― 1/4

多分三話くらいに分かれる予定です


→だったけど四話くらいになりそうです(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

 窓から差す陽の光で僕は目覚めた。

 でもまだ起き上がる気力は無かったので、朝というものから身を隠すように布団に潜り込む。

 しばらくそうしていたけれど、ふと隣のベッドが気になってちらりと覗いてみた。

 でもそこには誰も居なかった。

 ベッドが使われた形跡も無い。

 寝ぼけ眼を擦ってもう一度隣を見てみる。

 当然、そこには誰も居ない。


 寝起きのせいなのか涙が出てきたので手で拭い、布団から抜け出してカーテンを開ける。

 このホテルは海沿いに位置しているので僕の部屋からはよく外の海を見る事ができた。

 窓も開けようかと悩んだけど、風で部屋の中が散らかっても嫌なのでやめておいた。

 旅行に来なければ見ることのできなかった景色、それを十分に堪能しておいて僕は今日の準備を始める事にする。


 二日目は朝から夕方まで通して自由行動だ。

 小学生なのに珍しいなと思ったけど、子供の自主性や自分で考えて行動する力をより高めるためらしい。

 ――まあそういうのは建前で、どうやら理事長の子供が無理を言ってこうなったようだけど。

 とにかくそういう訳で僕はこの一日に必要なものを鞄に詰めなくてはならないのだ。

 とはいえ持って行く荷物はほとんど無い。

 今日もここに泊まる予定なので大荷物は部屋においたままで、せいぜい小さなバッグに財布やお茶などを入れるだけだ。

 だから、パパッと今日の支度を済ませる。


 さて、これが終わった後はどう時間を潰そうか。

 テレビで天気予報は見ておくとして、同室の子が帰ってくる前にここを一旦離れておく方がお互いの為にもいいだろうから――そうだ、浴場に行こう。

 それで、誰かと鉢合わせる前にそこを出て、後はホテルの中を探検でもしていればいい。


 そうと決まると、僕はすぐに支度をして部屋の外に出た。

 因みに鍵は持って行かない事にした。

 後が大変そうだけど持っていってトラブルになるよりはましだからね。



 ◇ ◇ ◇



 お風呂に入り、軽くホテルの中を見て、時間になったので広間に集まり朝食を済ませ、僕――いや僕たちは今、ホテルの前に集合していた。

 そう、遂に班別行動の時間が始まってしまったのだ。


 他の班達はもう集まって思い思いの方向へ歩き出していた。

 が、僕たちは集まったはいいものの一向に歩き出す気配がない。


 と、いうのもだ。


「さて、これからどうする?行きたいところでもある?」


 何を隠そう、僕たちの班はどこに行くのかどうかを全く決めていなかったのだ!

 どうやら僕が怪我の経過観察とかいうので病院に行って学校を休んだ日に、丁度自由行動の場所決めがあったらしいのだが――なんか色々あって決まらなかったらしい。

 そんなことある?って思うけど、なっとるやろがいとしか言えない。

 現実は厳しいのだ。


「僕はどこでも良いよ、みんなの行きたいところで」

「うーん、私も同じかな〜」


 僕と同じ班の女子――佐藤さんは何処でもいいと、取り敢えず当たり障りのない事を言っておく。

 まあこれなら変に何か言われるということもな――


「ダメよ、ちゃんと考えて。そのせいで今ここで考える羽目になってるんだから」


 だめだったか……。


「そうは言っても本当にどこでもいいし、どこに行きたいかと言われても特段思い浮かばないし……」

「そう、翔くんは使えないわね」

「うっ、反論したいけど本当の事だから何も言えない」

「でもね、実際問題このままどこにも行かず夕方までホテルの前で突っ立ってる訳にもいかないでしょう? それとも翔くんはそれで良いのかしら」

「す、すみません……」


 追い打ちまでかけてくる辺りやっぱり咲は手厳しい。

 仕方がないので何処に行くのか少し考える事にした。


「ならさ、俺秋葉原に行ってみたい!」

「いいねそれ、僕も僕も!」


 と、ここで男の子二人――関くんと田口くんがそのように言う。

 アニメとかそういうのに興味があるみたいだから行きたくなるのも頷ける。

 何も案が出てこないなか、そういう風に提案してくるのはありがたい。


 でも、一つ不安要素があるとすれば――咲が二人のことを何とも言えない目で見ていることだ。


「な、なんだよ?」


 流石にその視線に耐えられなくなったのか、関くんが恐る恐ると言った感じて咲に聞く。


「なんだか、そういうのではしゃいでいるのも貴方達らしいなって思っただけよ」


 返ってきたのはそんな批判とも取れるような曖昧な言葉だけだった。


 うん、どうやら咲様のお眼鏡にはかなわなかったらしい。

 でもせっかく議論が進んだんだ、ここでまた振り出しに戻るのは勿体無い。


「良いんじゃない、面白そうだし」

「え……?」


 僕の言葉がそんなに意外だったのか咲が僕の方を見たまま固まってしまう。

 それに、その目はどことなく冷たく感じる――ような気がする。


「意外ね、貴方ってそういうのに興味あったの?」

「そういう訳でもないけど、行ってみたら楽しいかもだし、このまま何の案も出ずどこにもいかないよりは良いんじゃないかなと」

「私も行ってみたいな〜!」

「…………分かったわ、行きましょう」


 なんとまさかの賛成多数。

 これには流石の咲様も折れるしかなかったようだ。

 にしても、どうして咲はそこまで乗り気じゃないのだろうか。少し気になるし小声で聞いておこうかな。


「咲はあまり乗り気じゃないみたいだけど、何か行きたくない理由でもあるの?」

「……なんだか、わざわざ修学旅行に来てまでゲームセンターに行っている人たちにどこか通ずるものがあると思わない?」

「な、なるほど」


 まあ言わんとすることは分かる。

 数年後に思い出した時に『本当にこれで良かったのか、他に何かあったんじゃないか』って思ってしまいたくなるような残念さがそこにはある気もする。

 でも今の僕たちにはそんな事気にしてられない。

 何故ならこのままだとそんな失敗談すら何も無い空白の二日目という特級呪物が誕生してしまうのだから……。


「さて、じゃあ他の案は?」

「他の案か……」


 そう言われてもなかなか思いつくものじゃない。

 さっきから考えてはみているけど、何か思いつくにも僕の知識が少なすぎる。


「なら私東京駅に行きたいな〜」

「え、昨日行ったじゃない」

「でも、昨日はあの有名なレンガのとこは見ずに違う方向から出て、その後バスですぐに出ちゃったし……」

「確かに僕も少し消化不良な感じがしてたんだよね」

「そう?ならそうしましょうか」


 ここは佐藤さんのナイスな提案にありがたく乗っからせてもらうことにする。


 でもそうか、佐藤さんのおかげで分かった。

 別に変に難しく考えすぎる必要はないんだ。

 少しでも興味のあるところに行けばいい。


「よし、じゃあ僕は浅草に行きたい」

「……悩んだにしてはかなり普通ね」

「悪かったね、普通で」

 

 それなりに悩んで出した案だったのになぁ。

 別に構わないけど。


「さて、じゃあ早速出発しましょうか」

「あれ、咲はどこに行きたいか案はないの?」

「私はいいわ。元々東京に住んでたしね」


 そういえばそんな話を聞いた事があったような、なかったような……。


「でもそうね……強いて言うなら東京タワーかしら」

「いいね〜私も行ってみたい!」

「そう?なら時間があればみんなで行ってみるのも悪くないかもしれないわね」

「やった〜!」


 そんなこんなでなんとか僕たちの自由行動は始まったのだった。



 ◇ ◇ ◇



 まず初めに向かったのは東京駅。

 移動の都合で考えてもここを初めに回っておくのが一番だからだ。

 という事でホテルの近くの駅からしばらくの間電車に揺られてやって来ました東京駅。


 まあ来たからと言って「わぁー!」ってなるような所でもないだろう。ましてや二回目だし余計にそんな――


「わぁ〜……見てよ咲ちゃん! 全部が広いし大きいよ〜!」


 ――前言撤回、なるような所でした。


 佐藤さんが落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見回している所からも彼女のはしゃぎ具合が窺える。

 栗色の毛をゆらゆらと揺らしているその姿はどこか喜んで尻尾を振る犬を想起させた。


「もう……人通りも多いんだし危ないからもう少し前を見て歩きなさい」

「は〜い」


 咲の忠告に空返事する佐藤さん。

 やっぱりわくわくした心は抑えられないらしい。

 でもまあ少しくらいはしゃいだって良いじゃないか、小学生だもの。


 僕はあまりはしゃいでいないけど、つまらないだなんて思ってはいない。

 ただ、それほど心が踊らないのだ。

 だって昨日も見たから二回目だし。


 それだというのにここまで楽しめる佐藤さんが僕は羨ましい。

 僕もどこかでまともな人の心を落としていなければああなれていたのだろうか。


 でも……それにしてもやっぱりここは広いな。

 それは本当に同感だ。


 僕たちの住んでいる所はどう足掻いても都会とは言えない――かと言って田舎というわけでもない――所なので、こういうものを見ると少し憧れてしまう。

 そして、僕たちの街にもこういうのがあったらなぁと夢想するのだ。

 そんなことは絶対にないと分かっていながら。


「何()けてるの翔くん、もしかしてあなたもここに見惚れてる口なのかしら? 早く歩かないのなら置いていくわよ?」

「…………」


 咲にそう言われてハッとする。

 辺りを見てみればもう咲たち四人は先へ進んでいた。

 ただそれ以上に『あなたもここに見惚れてる口なのかしら?』という言葉が僕に重くのし掛かる。


「何よ?」

「いや、何でもない」


 色々と言いたいことはあるけどここはグッと堪える。

 言い訳をしたら余計に取り繕っている感じがするし、負けな気がしたのだ。

 そうして僕は少し早歩きで彼女達の後ろをついて行った。



 しばらく歩いて改札を出て、そしてまた歩いて――咲に先導される形で進んでいくとパッとひらけた広場に出た。

 そして振り返ってみるとあのよく見た赤レンガの駅舎の姿があった。


「わぁ〜すごいね本物だよ! すごすぎてすごいっ!」

「風香、あなた大丈夫……?」

「あはは、すごく楽しそうだね」


 佐藤さんは目をキラキラと輝かせながら手をバタバタと降って喜びを全身で表現している。

 そんな姿に思わずこっちまで笑顔になってしまう。


「おおっ、よくテレビで見る通りだな!」

「そうだね、こうして見るとすごいや」


 それに、さっきまではあまりはしゃいでなかったのに二人も楽しそうだ。

 修学旅行とかでもないと中々東京まで来ることなんてないし、僕も目に焼き付けておこう。


「さて、丁度いいしここで今日の予定を簡単に立てましょうか」

「うん、分かった!」


 そういえば適当に行きたい場所だけ決めただけで具体的にどう廻るかとか決めてなかった。

 確かに決めておかないとまずいだろう。


「今が九時半だから、ここから歩いて秋葉原まで行って、そこから浅草まで行きましょうか。その後どこか……東京タワーとかでも行けば丁度いい時間にでもなってるんじゃないかしら」

「えぇー、歩くの?」

「……嫌なら行かなくても私は構わないのだけど?」

「う、わかったよ」


 確かに僕も長い距離を歩くのは嫌だけど、とはいえここから秋葉原までは二キロ弱位だろう。

 それくらいなら別に歩くのも苦じゃない。


「ところで咲、お昼はどうする?」

「そうね……時間的にも浅草辺りでとりましょうか。どこにするかは……まあ成り行きで何とかなるでしょう」

「実際、ここまでも何とか成り行きでなってるしね。……本当は良くないことなんだろうけど」

「まあ良いじゃない。私たちにしては良くやれてる方だとは思うわよ」


 あはは……それもそうか。


「さて、予定決めはこんなものかしら。不安な所もあるけどなんとかして頑張りましょう」

「ああ」

「そうだね」

「よ〜し、それじゃあ秋葉原にれっつご〜っ!!」

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