そうだ、東京へ行こう。
最近は銃口を頭に突きつけられているので更新速度が早いです。休みたい。
ガタガタと揺れるバスの中、僕はただ流れる外の景色をぼーっと眺めていた。
バスの中はクラスメイト達の話し声や笑い声でいっぱいで楽しそうだ。
それもその筈、僕たちは待ちに待った修学旅行の真っ只中。
バスで東京まで向かっている所だった。
まぁ僕はただ憂鬱な気分でしかないのだけど。
「はぁ……」
これから先、三日間のことを思うとどうしようもなくため息が出た。
というのも、バスの一番後ろに追いやられた時点で僕が敗北の修学旅行を過ごす事はほぼ確定していると言っても過言ではないからだ。
「……私の隣でため息をつかないでくれる?私まで暗い気分になるわ」
と、僕の右隣からそんな言葉が飛んでくる。
その言葉の主はここ最近では孤高なキャラが板につき始めた咲である。
「ごめん」
僕は咲に素直に謝る。
別に彼女を怒らせたい気はないし、なにより仲間だからだ。
と、そんな彼女はちらりと僕の方を一瞥すると、また持っていた本に向き直って言った。
「まぁ、ため息が出るのも分からなくはないわ。
私もこのバスに乗ってから――いや、修学旅行の班決めの時からこの修学旅行に楽しみを見出せる気がしなかったもの」
「あはは……」
咲の言葉に僕はただ苦笑いすることしかできなかった。
どうやら彼女も僕と同じくあまり楽しくなさそうだ。
「そういえば、例の班決めで半ば強制的に同じ班になってしまった訳だけど……それについて貴方はどう思っているの?」
「どうって?」
言っている意味がよく分からなくて思わず聞き返してしまう。
もし、クラス内の同調圧力の様なナニカで僕たちクラスの邪魔者が一纏めにされた事を言っているのであれば、それに関しては逆に有難いと思っている。
よく知らない人と組まされるよりかはよっぽどマシだからだ。
そう思っていたが、咲は次に僕の全く思ってもいなかった事を言った。
「単刀直入に聞くわ。貴方は私と同じ班は嫌?」
「嫌なわけないでしょ、僕は誰よりも咲の事を信頼してるし。
というか、咲が居なかったら僕はそもそもこの修学旅行に来てないよ」
僕は咲の方に向き直って真剣にそう伝えた。
「貴方、真剣な顔で偶にサラッと恥ずかしい事を言うわよね……。
それにしても変な事を聞いたわ、ごめん。でも少し気が楽になったわ。
こうなったら私達だけでもこの旅行を楽しめる様に頑張りましょう?」
「そうだね。班別行動も二日目にあるみたいだしその時にでも」
咲は僕とは反対を見ながらそう言った。
うん、流石にあれは言いすぎたかもしれない。
今更ながら自分が恥ずかしい事を言ったことに気づいて少し悶える。
咲にはその姿を見られていないのが救いだろう。
しかし、これは早急に話題を変える必要がある。
「ところで何で僕たちは同じ班にさせられたのかな?
僕がハブられるのは兎も角、咲が僕のところへ追いやられた事が謎なんだけど」
咲は成績優秀だし儚く可憐な感じがするし、女子こそ嫉妬という敵意を向けているが、このクラスの男子からは寧ろ好印象を持たれていたはずだ。
そんな彼女が僕と同じ逸れものの班に入れられた事には少し懐疑せざるを得ない。
そんな事が気になって僕は咲に質問をしてみたのだが、返ってきた言葉は意外なものだった。
「それは貴方のせいよ、翔くん」
「なっ……!?」
僕は咲の言葉に思わず声を上げてしまう。
咄嗟にハッとなって口を押さえたが出てしまった物はどうしようもない。
とはいえ、幸いな事にバスの中は騒がしかったので特に僕の声は目立っていなかった。
「もしかして僕、何かやらかした?」
僕は少し声を抑えて質問した。
「いや、全て貴方のせいというわけではないわ。寧ろ私のせいかもしれない」
「……?」
「じゃあ何が問題なのかというと、その…………」
咲が急に言葉を詰まらせたので僕は少し不思議に思って咲の方を見たが、顔を隠して蹲っていた。
どうやら、言うか言わないか迷っている様だ。
だけど、間を空けて咲は小さな声で話し始めた。
「ーーーー私達、どうやら付き合ってると思われているらしくて」
「は、はい……?」
それ以上言葉が出なかった。
僕の与り知らないところで、全く知らない……思いもよらない事が起こっていた事が信じられなかった。
「私も一体何が起こっているのか分からないわ。
でも、一つ言えることはクラスの女子達がありもしない噂を流した可能性があるっていう事」
「……なるほどね、その噂のせいでこんなどうしようもない状況になっている訳か」
確定ではないけれどほぼそれのせいだと思って良さそうだ。
なるほど、それで男子達は咲に特に関与しなくなったわけか。
これは、僕へのいじめがエスカレートすることも覚悟しないとな。
本当にクラスの男子がこの噂を信じているのだとすれば当然僕の方にヘイトが向くわけでーーでも、そんな事で咲に気を遣わせたくないのでそれは悟らせない様にした。
「まぁ修学旅行は三日間ある訳だし、そういう事は見ないふりして楽しもう?」
「そうね。……それが一番だわ」
色々な事に気を揉んでいたら折角の修学旅行も楽しくなくなる。
とはいえ、咲が転校してくる前まで僕はバスでどこかへ行くとなったら先生の隣で寂しく過ごしていた訳だし、それを考えたら今のこの状況は既に僕にとっては最高とも言える。
そんな状況の中で、僕は今までに無いくらい快適なバスの旅を過ごした。
◇ ◇ ◇
一日目、最初の目的地は国会議事堂だ。
関東の方に修学旅行に行くならここは外せないスポットらしい。
ネットに書いてあった。
実際に中に入ってみると、思っていた通り静かで厳かな雰囲気というものを何となく感じられた。
普段はしゃいでいるクラスメイトたちも何となくそれを察したのか珍しく静かだった。
まあ、入る前に先生が釘を刺したのが効いただけなんだろうけど。
あと、当たり前だけど教科書とかテレビだとかで見たままだった。
僕たちの入れるところなんていうのは限られているし、全部を見た訳では勿論無いんだけどね。
一時間と少しかけてガイドさんと一緒に回ってみた感想だけど、生で見た感動みたいなものは流石に無いとはいえ、学びも多かったし、修学旅行としてはそれはそれで悪くないなと思った。
我ながら生意気なコメントだと思う。
でもだって僕小学生だから、てへっ!
ーーごめんなさい。
ああ、それと最後に国会議事堂の前でクラス写真を撮ったけど……隣の人との間に謎の間が空いていた事が少し悲しかった。
さて、次の目的地はどこかというと横浜だ。
横浜と言うと『あれ、東京を回る修学旅行じゃなかったの?』と思われるかもしれないので断っておくが、これは関東への修学旅行なので何の問題もない。
まあ、横浜も実質東京みたいなもの(暴論)なのでどちらにせよ別に良かったのだけど。
それでどこへ行ったのかというと、まあお察しの通り中華街だ。
小籠包を作る体験とか簡単な体験もして、後は昼食もここでとった。
回鍋肉だとか、焼売だとか、春巻きだとか、旅行しなくても食べられるじゃんと言えばそこまでなんだけど、普段こういうのを食べる機会も少ないし、周りの空気みたいなのがあるから良いんだと思う。それに、そんな考えは野暮というものだ。
少なくとも僕は咲が運ばれてきた唐揚げに意外にも目を輝かせているのを見て結構満足した。
何というか、すごく微笑ましかった。
その次、一日目の最後の目的地は水族館だった。
残念ながら僕の住んでいる所は海からは大分離れているので近くに水族館が無い。
そういうのもあって僕は一度ーーそれもかなり昔にーーしか水族館には行ったことがなかった。
だから、これは僕自身すごく楽しみにしていた。
水族館の中では班別行動という事になった。
集合時間に水族館を出てすぐの広場に居ればいいそうだ。
僕たちの班は五人、僕と咲と、後は男子二人と女子一人。
男子の二人の方は、アニメとかそういうので話が合うらしく、よく二人で固まっているのを目にする。
あと女子の方は咲と仲が良いのか分からないけれど二人で話をしているのを度々見かける。
ーーーーお分かりの通り僕は一人孤独だ。
まあ、みんな仲がいいのは良い事だよ……。
話が逸れたけど、僕たちの班の中の男子二人はあまりここに興味がないのかさっさと回ろうとしていたので僕は班の中でも別れて回る事を提案した。
それはお互い好都合だったのか知らないけど許可されて、僕は一人でゆっくりと回る事になった。
ーーと思っていたのだけど、意外にも咲ともう一人の女子も僕の後を付いてくるらしかった。
咲曰く理由は『貴方の反応が一々面白いから』らしい。
それを聞かされた時は何とも複雑な気分になった。
けど、別に泳いでいる魚を見て目を輝かせる僕をどうこうしようって訳でもなさそうなので、二人の存在は気にしない事にした。
そんなこんなで修学旅行一日目は幕を下ろした。
え、まだ宿での話が残ってるって?
そうは言っても、僕と同室の筈の男子が朝まで他の人の部屋で過ごした事くらいしか話すこともないし、そんな事は誰も聞きたいとも思わない筈なので語らない事にする。
――決して傷を掘り返したくないからではない。
ないったらないのだ。