一人より二人で
大体8000文字弱なのでお時間とるます!がんばって書いたます!
「っ……」
うぅ、頭が痛い。何があったんだっけ?
ぼんやりとした頭で何とか前の状況を思い出そうとすると、意外にもすぐにそれは分かった。
そうだ、そういえばトラウマが蘇ってきちゃって……
段々と意識が戻ってくると、周りの状況が目に入ってきた。
どうやら僕は天文ドームの中で寝かされているようだ。遠坂さんが運んでくれたのだろうか?
ーーそうだ、そんな事よりもきちんと謝らないと!
まだ頭は痛いが、上半身を起き上がらせて辺りを見回す。
相変わらず辺りは暗くて探すのに苦労するが、しばらく見回すと、直ぐ隣の長椅子で座ったまま彼女が寝ているのを見つけた。
……寝ているのを起こすのは申し訳ないな。
彼女は僕の酷い傷を見ていないとはいえ、僕のことを心配してくれていたようだし。『ありがとう』の一言くらいは言いたいところだけれど。
ところで、今は何時なのだろうか?
天文ドームには他の教室にあるような時計はあるが、何せ放置されてから時間が経っているもので時計の針は10を指したまま動いていない。
まぁ、動いていたとしても時間はズレていただろう。
と、いうことで時間が分からないので、せめて夜か夕方かを知る為に外へ続く扉を少し開ける。
すると、外はもうすっかり暗くなっていた。
「これは、まずい……」
天文ドームがいつもよりかなり暗いことから気づいてはいたがーーこんな遅い時間に子供が家に帰っていないとなると、警察が動いていてもおかしくは無い。
……ははは。まずいわーー。僕は大丈夫だとしても遠坂さんは多分良くないだろう。さっきの言葉を撤回して、もう起こしたほうがいいかな?
そんな時だった。遠坂さんの方から「んん…………」という声が聞こえた。
どうやら起こす必要はなく、いいタイミングで起きてくれたみたいだ。
「よく寝れました?」
「ん……うん…………?」
流石に起きたばかりでまだ頭がはっきりしていないようだ。それにしても申し訳ないことをしてしまったというか、とんでもないことをしてしまっまというか……。謝っても謝りきれない。
「あれ、ここは?……どうしてこんな所で私、寝てる……の!?」
僕が先程の自分を叱っていると遠坂さんはそう言い、飛び起きた。
「ど、どうかしました?」
「へっ……!?な、何でもないよ?」
「そう?――まあ、それは別にいいか」
何でいきなりハッとなったのかちょっと気になるけど、それは置いておいて。
「僕のせいで申し訳ないけど、どうやらかなり良くないことになっているみたいなんだよ」
「え……っと、どういう事?」
「学校で何時間寝たのか分からないけれど辺りが暗くなっているし…………もしかしたらちょっとした事件になっているかもしれない」
あまり言いたくはないけど、意を決してそう言う。
それを聞いた遠坂さんは少し表情に影が出たような気がした。
やっぱり、怒ってるよね……。
「本当にごめん!!」
僕は殴られるのを覚悟して、僕は頭を下げた。――――しかし、彼女の口から出たのは思いもよらぬ言葉だった。
「何で謝るの……?」
「……え」
『何で謝るの……?』って、どういうこと?
「そこは、私のせいで事件になっているかもしれない!って言うところじゃないの?
実際、私の何も考えない発言のせいでこんなことになっているわけだし」
「そんなことないよ!あれはどう見ても僕が悪いし」
「でも……!」
あれは完全にトラウマに対して耐性が無さすぎる僕が悪いと思うけどなぁ……。
でも、このまま言いあっても何も解決しなさそうだし
「取り敢えず、お互いに恨んでいないならこのまま結論は出さないことにしますか?……僕としては申し訳ない気持ちでいっぱいなんですけど……」
「間をとって、そうする……?」
「そうしますか」
ーー何とかこの件はお互いに片付いたみたいだ。
でも、こんな風に面と向かって相手と言い合ったのはいつ以来だろうか?もしかしたら初めてかも?
あれ、こんな事で言い合うのが初めてってどうなんだ……?
――――深くは考えないことにしよう。
とにかくこれでようやく話さなきゃいけない事が話せる。
そう、現状がかなり終わっている件について……。
「さて、僕たちは今からどうすればいいのかな……」
「突然重い話を持ってくるわね……。もう少し現実逃避させてくれてもいいんじゃない?」
「…………よくない」
これ以上現実逃避しても何にもならない。……というか悪い方向へ事が転がっていくだけ!
「いっそのこと二人で……飛ぶ?」
「え……?」
突然遠坂さんの口から爆弾発言が飛び出る。
でも、僕らが言うと本気みたいに聞こえるからそう言う冗談は精神的にもよろしくない。
――冗談だよね?
「拒否はしないですけど、流石に最後の手段にしましょう?」
「あれ、冗談のつもりだったんだけど……」
「……何故か負けた気分がする」
やっぱり、普通に考えれば冗談だよね……。
しかし、本当に冗談に聞こえないのが僕らの辛い所。ジョークもまともに伝わらないなんて辛い世の中だなぁ……。
「どうするかとか考えていたけど、結局家にさっさと帰るのが一番な気がしてきた。もう、全部がどうでも良くなってきた」
「あ、諦めないで?」
そうは言っても、実際早く帰るくらいしか選択肢がないと思うんだけど。
そして、それが一番いい選択な気がする。
「んーー、でもここにずっと居てもしょうがないし」
「それはそうだけど、貴方はそれでいいの?親に怒られたりしない?」
遠坂さんがそう言って心配してくれたところで、一つうっかりしていたことが発覚。
ああ、そういえば遠坂さんは知らなかったっけ。
「僕、両親がいないんだよ。だからそこら辺は心配いらないよ」
「え……!!?」
遠坂さんの驚き様を見て、あっさりと伝えすぎたかなと少し反省。
でも、この件に関してはもう、どうにもならないことだし――自分の中でも既に割り切っている。
「あまり深くは聞かないけれど…………大丈夫なの?」
「大丈夫かどうかで言われると正直分からないけど、まあ何とかはなってる、かな」
「そう……。こんな言い方はおかしいかもしれないけど、ならあまりこの状況を気にする必要はないのかも」
気にする必要がないーーってどういう事?転校ってことは両親もちゃんといるはずなのに。
「私は両親から嫌われているから。……帰ってこなくて逆に喜んでると思うよ」
ああ――――なんとなく察してしまった。
安心して帰れる場所がないのは辛いし、無理して帰れとは言えない。
「お互いに色々とつらい事情があるみたいだね」
「そう、ね。……私のは貴方よりかは小さな悩みだったみたいだけど」
「そんなことはないと思うけど……。だって辛いのは同じなんだし」
「……そういうもの?」
「そういうもの」
こんな事の大小を争うより、もっと別のことをした方がいいと思う。辛いのを吐き出すことも少しは心が軽くなった気がするし。
「ーーあ、今思えばもう夜遅いし校舎は施錠されてそうだよね」
「じゃあさっきまでの議論がどうであれ、結局ここから出られなかったってこと?」
「否定はしない」
「……ふふ、なにそれ」
「ほんと、なにをやってんだか……」
どうやらさっきまで無駄なことをしていたらしいと分かって、驚きとか落ち込むとかよりも、なんだかそれが面白く感じてしまった。
これが俗に言う深夜テンションというやつなのか!ーーえ、違う?そうですか……。
「ところで寒くない?大丈夫?」
「……そうね、少し寒いけど別にこれくらい平気よ。慣れてるから」
――――はたしてそれは慣れていいものなのか?
そう心配に思ったけど、少し自慢げにそう言う彼女を見ると口に出す事はできなかった。
「でも、濡れたままは流石にまずいし…………そういえば使ってない運動着があるけど、よければ着る?」
いつも持ってきている大きなカバンの中身その二、濡れた時用の運動着。
でも、あまり着ていないとはいえ流石にデリカシーがなさ過ぎたかな。
「…………着る、かも」
「ならーーはい、どうぞ」
少し迷ったようだけど、遠坂さんは結局着ることにしたようだ。
そうとなれば僕は近くに置いてあったカバンを差し出す。
もうこの中には運動着一式しかないしこのまま渡してもいいかなと思ってカバンごとだけど……別にいいよね。
「じゃあ、外に出てるから着替え終わったら呼んでね――――呼んでくれるよね?」
我ながら何を気にしているんだ……。
「……ごめんね、外寒いのに」
「別にこれくらい構わないよ。風邪をひいたらダメだしさ」
「ありがとう…………優しいね」
優しい……か。あまりそうでもないと自分では思っているけど、お人好しというか何というか、助けたくなってしまう性なのでしょうがない。
それで痛い目を見て今でもトラウマの一つになっているわけだから何とも言えないけど。
……でも、優しいって言ってもらえるのは素直に嬉しい。
「そっちこそ僕は優しいと思うけどな。…………じゃあ、また呼んでね?」
「ん」
僕はそれだけ言うと、またこの扉を開いて屋上へ出た。
3月ということもあってまだ寒い風が吹く。
「ーーあ、屋上じゃなくて天文ドームを出て廊下とか階段で待てばよかった」
と、今更ながら思う。
これからはもう少し後先を考えて行動するようにしよう。
僕は少し晴れた星空の下、そんなこと決意する。
ーーさて、折角ならこの星空を少しでも堪能しておこうかな。
そう思い立つと、僕は少し歩いてあの頼りない鉄柵に肘を置いて寄りかかる。
人の自殺は止められないくせに肘置きとしては丁度良く役に立つんだな。と嫌味な事を思いながら。
天文ドームにある天体望遠鏡は生憎僕には使い方がわからないし、どうやってドームを開閉するのかとかも全く知らないから、どうやって暇を潰そうかと悩んでいたけどーーどうやら僕には自分の目で見るこの星空だけで十分みたいだ。
それに、そこまで煌びやかというわけでもないこの街の夜景ともいい具合に合っている。
ただ一つ残念な事と言えば、夜風があまりにも寒いということかな。
とその時、後ろから遠坂さんの声が聞こえてきた。
「着替え終わったよ」
「ん、りょーかい」
どうやら、もう運動着に着替えたようだ。
少し早い気もするけど運動着を着るだけだし、気を遣って僕をあまり待たせないようにしてくれたのだろうから態々そういう事を言うのはやめておいた方がいいかな?
そう結論を出すと、僕は天文ドームへ戻った。
「サイズとか、色々と大丈夫だった?……と言っても、それしか無いんだけどね」
さっきはその場のノリというか、安易に運動着に着替える事を提案したけれど、いざ着替えたとなると余計な事を心配してしまう。
「別に体格とかもあまり変わらないし、大きすぎたり、逆に小さすぎたりみたいな事はなかったよ。
というか、それ以前に私は文句を言える立場にないのだけれど」
「あはは…………まぁ、問題なく着れたようだし良かったよ」
やっぱり余計な事を聞いてしまったかな。
でも、そこは心配だったし問題がないなら良かったかな。
「さっきから、何から何までありがとう」
「どういたしまして」
遠坂さんから突然お礼を言われて少し驚いてしまう。
僕としてはあまりお礼のされるような事はしていないと思うけれど、そういう謙遜は今は要らなそうだしーー何より、人から感謝されるのは嬉しいし。
だから、素直に『どういたしまして』と伝える事にした。
そうすると、遠坂さんも微笑んでくれたので……これで良かったのだと思う。
さて、この件が落ち着いたところで大きな問題がある。
「この後どうする……?」
「それなのよね……」
因みに、僕はあまりいい案は思いつかない。
「何かいい案はある?」
「特に、というか全くダメね。思いつかない。……貴方はどうなの?」
「不甲斐ないばかりです……」
どうやら、お互いにあまりいい案は無さそうだ。
「仕方ないーーーー飛ぶ?」
僕はその場に蹲み込んで色々考えていると、遠坂さんが突然そう呟いた。
「え!?……冗談だよね?」
彼女がそれを言うと冗談に聞こえないから毎回びっくりしてしまう。
「うん、冗談だよ」
「……心臓に悪いからやめて」
「そう?……ならやめる」
どうやら冗談に聞こえない冗談はさっきので最後になったようだ。
無駄かもしれないと分かっていてもそれを言われると心配してしまうのでそれはよかった。
「暇つぶしってわけじゃないのだけど、貴方の火傷を見せてくれない?
「え……?」
そう、一度落ち着いたところで遠坂さんは突然そう僕に聞いてきた。
僕としては別に構わないけど。でも、見ても楽しいものではないよね?
「突然どうして?」
「最近は傷痕も薄くするくらいならできるって聞いたし。私が打ち明けたんだから、貴方の秘密も私に教えるべきじゃない?」
「まあ……そう、なんですけど」
遠坂さんの秘密というのはやはり家族との関係だろう。あまり深くは聞かなかったけど、大方察するくらいまではできたし。
僕の傷痕も嫌がらないなら隠す必要もないし、こっちが打ち明けたのだから秘密を見せるべきというのはごもっともだと思う。
ということで、見せることには抵抗はあるけれど僕は左の袖を脇の近くまでまくった。
「部屋が暗いけど、どうぞ」
「ん、それくらい気にしないよ。見せてもらってるのはこっちなんだから」
遠坂さんは、そういうと僕の左腕をじっと見つめる。
そんなにじっと見ても何も面白くないと思うけどなぁ。
「左手は今は痛まないの?」
「いや、強く押されたりしたら痛いかな。……あと、思い出しちゃったりしたときに痛むことがある」
左手は痛まないのか……って言われると、正直たまに痛むんだよね。
まだ約一年しかたっていないわけだし、しょうがないけど、ちょっと強い衝撃が加わっただけで痛むのはまあまあ不便。まあ、傷痕は別としてあと数か月とかで治るだろうけど。
「さっきは本当にごめん!」
「いや、あれは僕が!ーーってこの話はもう終わったことだったよね」
「じゃあ、あまり触れないでおく。その話にも、貴方の腕にもね」
「…………ん」
全く関係ない話でこの気まずさを振り払おうとしてみるけど、話と腕を触れないにかけるの上手くないですか?咄嗟に出せるなんてやっぱ遠坂さんってすごい人なぁ。(小学生相応の感想)
「そういえば、失礼な話だけど遠坂さんは女子から嫌がらせを受けてるの?」
「ええ、陰湿で嫌になるけどあの人のグループからね。でも今は心が休まっている感じがする。貴方のおかげよ、感謝してる」
ふと気になってそんなことを聞いてみると、そのような言葉が帰ってきた。
心が休まるのは、ここには虐める人がいなくて親もいないからだろうか?どのような事情かは分からないが、本人が言いたくないならそっとしておこう。
そういう部分の話は家族みたいな親しい相手にも中々言い出せないものだから。
しかし、やっぱり遠坂さんはさっき彼女を虐めていた人たちのグループから嫌がらせを受けているのか。
でも他の人たちは――特に男子は虐めようとはしない。
まあ、遠坂さんがやって来た初日のクラスの反応や、これまでの男子たちの感じからそういう事なんだろうなぁと、なんとなく予想はついていたけど。
そうなると、あの人たちは遠坂さんに注目が集まったことで邪魔な恋敵が現れたと感じて排除しようとしているわけか……。全く、自分勝手もいいところだな。
「ねえ、夜が明けるまで話でもしない?」
色々と考えを巡らせていると遠坂さんがそう言いだした。
特に断る理由もなければ暇つぶしに困っていたところなのでとても助かる提案だ。
なので考えるまでもなくそうすることにした。
「やることもないし、そうする?」
と、いうことで成り行きで夜が明けるまで二人で話をすることになった。
まあ、僕らに限って楽しい話題なんて持っているわけがないんだけど……。
◇ ◇ ◇
――結局の所、当初の僕の心配通り楽しい方面の話なんて広がらなかった。
それは、周りの環境が悪くてそんなものに目を向けてられないので仕方ないことだと思う。
でも、数時間話をしていただけだったけど有意義な時間ではあったと思う。
お互いのことを色々知れたというか、良心を削りあったというか……お互いに心を痛めあった。
何か、誤解を生むような言い方だったかも知れないけど、まあ簡単に言えばお互いに日々積もりに積もった不平不満を吐き出したということだ。
誰にも言うことができないというのはかなり辛いことだから、それを解消できたのは良かった。
やっぱり『お互いに苦労してるね』と笑い会える機会は僕達に必要なものだったのだろう。
遠坂さんも言っていたが、僕も心が少し軽くなったような気がした。
ーーところでだが、僕達は今屋上に出ていた。
本当なら寒いので風を防げる天文ドームの中に入っていたいところだけどーー
「日の出が綺麗……」
ーー遠坂さんがそう呟いている通り、そろそろ夜が明けるかなと思って外を覗いたら丁度タイミングよく太陽が出るところだったのでこうして外に出ているのだ。
僕は、初日の出だとかそういうものは見に行ったことがないので、こういった日の出を見るのは意外と初めてだったりする。
夕焼けとは違う綺麗な景色に、一瞬だけどこんなハプニングがあってよかったななんて思ってしまった。
流石に自分の内に留めておいたが。
「ねえ」
しばらく日の出を見入っていた遠坂さんが、気づけばこちらを見ていた。
「貴方は私のことはどう思うの?」
「……え?」
突然思ってもいなかったことを質問されて、露骨に驚いてしまう。
どう思っているかーーってどういうこと?そのままの意味で捉えていいんだよね?
「そうだね……変かもしれないけど、仲間、みたいな感じ?」
「仲間って、本当に?」
「ん」
今まで席が近いくせにまともに話す機会はなかったからそういうのは少し変かもしれないけど、僕の思う遠坂さんはクラスの仲間というよりは、同じような境遇に生きる仲間って感じなのかな?
と、そう思っていた事を正直に遠坂さんに伝えてみるが、どうやら少し疑っている?ようだ。
「じゃあ質問を変えるけど、私のことは嫌い?」
「そんなこと無いけど」
疑っていたのはこれが原因なのかな?
嫌いなら関わらないほうが相手のためにいいと思って、そう心配になってしまう気持ちはすごく分かる。
「逆に僕のことは嫌い?そんなこと言われると少し気になるんだけど」
「嫌いなわけない……!」
ーーさっきは仲間なんて言ったけど、何か引っかかっていたものが無くなったような感じがして……ようやく今、本当に仲間になれたような気がする。
「結局の所、お互いに何があっても嫌いになんてならない。……いや、なれない。僕達はそういう関係なんじゃない?」
「嫌いにはなれない、ね。確かに、それは的を得ているかも」
嫌いになる理由はないし、仲間としていい関係だと思うし……嫌いになったらまた心の重りが増えてしまう。
だから、嫌いにはなれない。
「じゃあ、お互いに何があっても嫌いにならないって約束しましょう?」
「……まあ、いいけど。約束なんかしなくても僕は大丈夫だと思うよ?」
「でも、こういうのは形が大事なんじゃないの?」
「確かに、そういうものなのかも……?」
なんか押し切られてしまった。
別に約束をすることに対して反対はしないけど、でも形が大事?らしいし……。
「じゃあ、約束ね」
遠坂さんはそう言って手を出した。握手をしようということなのだろう。
「うん、約束」
僕も手を出して、遠坂さんの手を取る。
……形が大事と言っていたのに、かなりさらっと約束してしまったけど。でも、これで良いんだと思う。
あまり堅苦しくないくらいが僕たちには丁度いい。