それは全面的にシオンが悪いと思うよ……?
『ちょっと話いいか?』
革命団の集会を終えて家に戻っている途中、シオンが突然呼びかけてきた。
「ん、どうしたの? 別に構わないけど。……でも、あのちっちゃい姿も出してよ」
私は特に断る理由もないのでそう言った。でも! 一緒にいるユイに変に思われるのも嫌なので分体を見せてほしいとも付け加えておいた。
『ああ、そうだな』
そう言うと、私の後ろからサッと見覚えのある小さな体が飛び出してきた。
シオンが私の言いたいことが分かったのかは知らないけど、どうせ心が読めるっぽいし気づいていたんでしょう。
とにかくまぁ出てきてくれたから、ヨシ!
「ユイ、なんかシオンから話があるんだってさー」
「えっと……私も聞いておいた方がいいのかな?」
そこに関しては、私にはいまいち分からないんだよね。……一人で話しているように見えるのも嫌だし姿を見せてもらったけど、安直すぎたかな?
「正直聞いてもよく分からないと思うけどな。まぁ、聞いておいた方がいいっていうものでもないから聞き流してもらっても構わん」
話しても分からないって事はまた前世絡みの事かな。僕が忘れてなければいいけど……。
「それで、話って何なの?」
「あのネズミ。……いや、今はネズミには全く見えないが、アイツはな……前の俺の召喚獣なんだよ」
「えっ!?」
忠太郎ってシオンの召喚獣だったんだ!? っていう事は、あの時僕は敵の召喚獣とあんな事になっていた訳? それは、それでちょっとマズイ気が……。
「あの団長さんって、シオンさんが昔に召喚したって事ですよね……? やっぱり凄いんですね!」
「うーん……昔はただのネズミに見えたけど、今ああなってるのはシオンが何か仕組んでたの?」
前見た時はあんなに小さかったのに、見ない間にとんでもないことになってましたけど……? 成長という言葉じゃ片付けられない恐ろしい変化が起こってましたけど……??
普通に考えて自然とそうなるわけ無いし、まあシオンが何かしていたんだろうけど……念のために聞いておこう。
「あれは……知らん」
「いや、知らないんかい!」
じゃあ、あれは全く予期せぬ何かがこの十年位で何かがあったって事なの!?
「えっと、私には分からないけど、子供の成長は早かったって事なんじゃないかな……?」
「まぁ、考えても無駄だろうしそう捉えておくか」
「いいんだ、それで……」
どうやらシオンですらああなるとは分からなかったみたいだ。でもまぁ、ネズミが人のようになるとは誰も思わないし。
「でも、俺はアイツが少し心配でな」
「心配?」
心配ってどういう事なんだろう? 革命団をまとめられるのかって事に関しては、大丈夫そうだったけど。何より、シオン――腐っても魔王の召喚獣な訳だし。
「まだ俺の存在は気づかれていない様で良かったが……召喚獣ってのは召喚した相手のことをまぁまぁ執着するんだよな」
「……って事は、忠太郎がシオンを見つけたら会いたい欲が爆発するって事?」
「ああ、それも十年分のな……」
な に そ れ 怖 い
いや、でもあの姿だと可愛い……って事になるのかな? 側から見れば、可愛い小さな幼女(忠太郎)が小さなぬいぐるみの様な何か(シオン)に抱きついてる様に見える訳だし。
「それはそれでちょっと見てみたいかも……」
「見たくねぇよ!」
えぇ……でもこうなったのは全部シオンがあの時魔法を暴発させて死んじゃったからだし、自業自得じゃ無いの?
「まぁまぁ…………でも、十年間も音沙汰無しだと寂しくて当然じゃないですか。会ってあげてもいいと思いますけど」
確かにユイの言う通り十年間も会って無いし、忠太郎は多分死んでそのままだと思っているはずだし。会ってあげるのはいい事だと思うけどなぁ。
「まぁ……そうだな。会えたら会うわ」
「それ絶対合わないやつ!」
全く……シオンは妙なところで弱気だからなぁ。
――あれ? もしかして照れ屋さんなのかな、恥ずかしいのかな!?
やっぱりシオンにも今の縫いぐるみみたいな見た目に合う可愛らしい一面があるんだね!
「ーーん? なんか今お前の心の中で侮辱された気がしたぞ?」
「き、気のせいじゃないかなぁ…………?」
そうだった、シオンには私の考えている事がバレるんだった!
「はぁ…………まあいい。俺だってずっとあのままにさせておく気はない。それに、アイツ大事な事を握ってそうだしな」
「大事な事?」
大事な事って、どんな事なんだろう?
「……お前らになら話してもいいか。あれだ、俺とお前の存在を歴史から消した奴の事。あと、あの戦いに乱入して来た奴の事もだ」
「あぁ……それは私もかなり気になるんですけど」
気になって夜しか眠れないくらいには頭に残っている。
「まぁ、俺も話がしたいっていうのは本当なんだよ」
「なるほど、分かったよ」
……うーん。行けたら行くって言うのは本当だったんだね。
「ところでお姉ちゃん、これから私たちどうする?」
「これからって……家に帰る?」
「そうじゃなくて、これから先のこと!」
あー……。先のことかぁ。なかなか決めようと思っても決められないよね。
「すぐに決めるのは難しいなぁ。帰ってからゆっくり考えたいところだけど……」
「それは無理だろ」
え、どうして?
「…………空き地に一晩で突然家が立ってたら流石に怪しまれるだろ」
「はっ、確かに!」
「革命団はまだ良かったが……こんな所で国の奴らに目を付けられたらそれこそ堪ったもんじゃないぞ」
じゃあまたここから離れないと行けないのかぁ。
「どうしよう。この街に留まり続ける訳にもいかないし」
「こうなると、やっぱり首都に向かうしかないかもな」
「確かに、知りたいこともここではよく分からなかったし」
「……私はどこでもお姉ちゃんについて行きます!」
あら、頼もしい。
「……うん、途中で計画の邪魔をされても困るし、やっぱりあの時シオンと戦っていた人は見つけておきたいよね? その為にも一度首都に行くっていうのは私はアリだと思う」
「ああ……そうだな」
「私も話を聞いていて黒幕の事は気になってきたし、それにお姉ちゃんの為にも微力ながら協力しますね!」
「うん、よろしくね!」
少しずつでも色々とこの世界について知っていけたら、ちょっとは自分も強くなれそうだし……気になるっていう探究心は大事だしね。
自分から黒幕さんに会いに行くっていうのは怖いけど……人生恐れるばかりじゃダメなのです。
それに、一度話をしておく事のメリットはかなり大きいし。
「という事で、次は首都目指してしゅっぱーつ!」
「「おー!」」
新しい旅へのスタートダッシュは完璧だね!
◇ ◇ ◇
ーーと、思っていた時期が私にもありました。
「う〜〜ん……」
私たちは、路地裏から隠れて家の様子を見ていた。
そう、あの後一応家の近くに帰ってはみたけれど……。
「家の中を隅々まで探せ! 何か見つかるかもしれん!」
「いいか! 何かの事件と関係しているかもしれん、徹底的にだ!」
兵士達に家宅捜査されとる!!?
いや、分かっていた事ではあったけどさーー流石に人の家に勝手に入るってどうなの!?
というか、お姉ちゃんあのバリア切ったな!? アレのおかげで家がまだ無事かもとか思ってここまでやってきたさっきまでの自分が馬鹿らしい。
あぁどうしよう、こんなんじゃ家の中に入れないよ!
「アレじゃあ、どうしようもなさそうだね」
「ああ……『徹底的に!』とか言ってたしな」
「ふふ……それじゃあお姉ちゃんの秘蔵写真集もあの兵士さん達の手に渡っちゃうね」
「ああぁぁぁ!」
マズイって!流石にこれはマズイって!!
何故私がさっきから焦っていたのかと言うと……まぁ、ユイの言った通り秘蔵写真集なるモノが原因なのだ。
なんでそんな物を持っていたのかは完全に謎だが、どうやらユイの使っていた部屋のベットの下に秘蔵写真の入った記憶の結晶板――魔水晶でできたカメラのような機能を持った道具が隠されているらしい。
何故そんな物を!? って思わず言いたくなるけど……何よりも先にバレずに家に入らないと!
「でも、大丈夫だよお姉ちゃん! 心配しなくてもあと二個ここにあるから!」
ユイはそう言ってどこからか取り出した特級呪物をひらひらと私に見せつける。
「はぁ、そうじゃなくて…………ていうかソレいくつ持ってるの?」
「布教用と観賞用と使用用とで三つ!」
「えぇ……」
そんなよく分からない物を布教しないで……。それに使用って何に使うの?
ああでも、なんか知ったら知ったで恐ろしそうだからやっぱり聞くのはやめておこう……。
「でもさ、あまり心配する必要はないんじゃない? お姉ちゃんの存在はお姉ちゃんが願ったおかげで忘れられてるんでしょ?」
「大丈夫じゃないの、見られるとダメなの!」
秘蔵写真集とかいういかにもヤバそうな物を見られるのは流石にまずい。
「なんで見られるとダメなの?」
「えっ!? それは、その…………恥ずかしい……から……」
――とにかく、ダメなものはダメなの!
とその時、突然家の中から声が聞こえてきた。
「ベッドの下に記憶の結晶板を発見しました!」
「何っ!? 早速調べてみろ、何か分かるかもしれん!」
――――っつ!!?
「マズイ、これは本当に時間がない! 早速隠密化して向かわないと!」
「行ってらっしゃーい」
私は久々に頭の中で警鐘がうるさく鳴るのを感じつつ、透明化して家の中へと潜入した。そして、玄関を越え廊下を走り、なるべく音を立てない様に気を使いつつ階段を駆け上った。
するとユイの部屋はもうすぐそこなのだけど……
『兵士達が邪魔で入れない!』
部屋の前に集まった兵士たちのせいで中に入ることができないし、今どうなっているのかもよく分からない。
……どうにかして入る事はできないだろうか。
そうこうしている間にも時間は刻々と過ぎていった。そして――――
「この記憶の結晶板写真が保存されてるぞ!」
「なに、本当か!? 手始めに何か見てみろ、重要な何かが保存されているかもしれん!」
『やっ、やめて!!』
そう思う私の気持ちとは裏腹に、兵士たちは記憶の結晶板を操作していく。
そして、ついに操作していた兵士は写真を見てしまう。
そしてその兵士は驚愕の表情を浮かべたままその写真の内容を伝えるべく口を開いた。
「この写真はまさか……」
「どうした!? 何が写っているんだ?」
ゴクリと、周りの兵士たちは固唾を飲み込んだ。
「この写真に写っているのは……」
「写っているのは!?」
「……ロリきょにy...」
兵士がそう言った時、彼は……いや、彼ら兵士全員は突然気絶してしまった。――シュナが天罰を下したとも言う。
まぁ、仕方ない。黒歴史を抉られたのだからこれくらいまだ軽い方だ。
とにかくこの騒動は何とか片付いたのだ。――シュナの涙と引き換えに、だが……。
「この人達……ぜったい……許さないっ!」




