まさかこんな事になろうとは……
文字数が相変わらず少ないのはご愛嬌
(今回は大体2000文字)
よく晴れた昼下がり。
こんな日には外で日向ぼっこをしたり、或いは暖かい日差しの下で友達と談笑したり……そんな事をして楽しく過ごしたかったものだが、残念ながら僕は今――――土下座をしていた。
「す、すみませんでしたっ!」
「いえいえ、そんなに謝らなくても……! それに、あまり確認せずに乗り込んだ私が悪いだけですし……」
どうやら僕の部屋へ強引に入ってきた彼女は、その格好から察するにどうやらこの王宮のメイドさんのようだ。
そんな彼女はとても優しく、僕の事を気遣って責めないでくれる。ああ、なんて優しいんだろう。
でも、これで終わりでは僕の良心が許さない。
「そうだ、何か僕に手伝える事は無いですか? このままだと僕の気が済まないので……」
何か彼女の助けになれる事があればと、僕はそう伝えてみる。
すると、彼女はしばらく悩んでいる様子だったが、数秒してこう言った。
「その気持ちは嬉しいですけど、お客人に何かさせるわけにもいきませんし。気にしなくて大丈夫ですよ」
確かに、言われてみればそれもそうだ。一応は客人という扱いを受けているわけだし、向こうの立場を考えれば……あまり自分勝手なことは言ってはならないだろう。
「そうですね、色々と迷惑をかけてすみません。……でも、何かあればなんでも言ってください」
無理に意見を通すわけにはいかないと感じた僕は、少し妥協してそう伝えた。
――実はこれが良くなくて、後々この発言のせいで大変な事になる。
それはなぜかというと、次の瞬間、彼女が僕の思いもよらない事を言ったからだ。
「…………なんでも、ですか?」
――え?
彼女は、僕の先ほどの言葉を確かめるように――いや、僕の失言を突くようにそう言った。
まさかそこを突かれるとは思ってもいなかったので思わず驚いてしまったが、申し訳ない気持ちもあるしなんでもと言ったからには……なんでもなんだろうなぁ。
「……はい」
という事で、僕は半ば屈するようにそれを認めたのだった。
すると、彼女は本当に僕が認めるとは思っていなかったらしく、少し驚いたような……でもすぐに元の表情に戻ってこう言った。
「そうですね……では、ここの扉を直すというものでどうですか?」
……そんな無茶な。
一見簡単そうに聞こえるが、当然ドアは無理やり壊した為元通りになる様な状態ではない。
つまり、ドアを新しく作るか買うかをしなくてはならないのだ。
しかし、僕にはそうする手段がない。
いや、魔法が使えればできるのかもしれないけど、当然僕には扱えない。
一から直すとしても王宮の一室のドアなだけあってそれなりに高そうだし、何よりまずお金がない。
僕がそんなふうに思っていた時だった。
「あの、そんなに思い詰めた顔をしないで下さい。いまのは冗談ですよ。本当はそうしてもらいたいところですけど、流石に無理がありますしね。
他に何か思いついた時にでもお伝えします」
彼女は気を遣ってくれたのか、そんなことを言ってくれた。
「お気遣いありがとうございます。今のところ手伝えそうになくて申し訳ないです」
「いえいえ、気になさらないでください。……それに、扉が壊れてしまったのも私が原因ですし」
確かにそれはそうかもしれないけど、その原因の一端――というか殆どが僕のせいな訳で……。
そんな言葉も、喉に突っかかって、引っ込んだ。
言いたいことが言えない。これを言ったら余計に彼女を困らせてしまうだろうし。
あぁ、もやもやする……。
「あの、本当に気になさらないで下さいね?」
「本当にお優しいんですね。気遣ってくださってありがとうございます」
どうやら僕の考えていることも、彼女にはお見通しの様だ。
「いえいえ。でも、優しいと思ってもらえたなら嬉しいです。……さて、お部屋の方ですが、こちらで片付けておきましょうか?」
彼女は散らかった部屋を見てそう言った。
……確かに、壊れたドアとか本とかが床に散乱しているし、そうしてくれるなら本当にありがたい。
「それなら、ぜひお願いします」
僕は自分一人だけで片付けるには、少し難しいと思っていた所だったのでお願いする事にした。
一緒に片づけることを考えたけど、仕事を奪うような形になりそうだし、彼女も彼女で責任を感じているようなので、これを言ったらまた言い合いになってしまいそうだからやめた。
彼女は僕のお願いを、にこやかに笑って了承してくれた。
「そうですか、でしたら大体三十分ほど部屋から出ていていただけるとありがたいです」
部屋から出て待つとなると……そうだ、庭でも見て回ろう。
「分かりました。なら庭に出ています」
「はい。この時期は暖かくなってきて、花がよく咲いているので良いと思います。
ですが、もう夕方なのであまり長くは外に出ていない様にお願いします」
そうか、気づけばもう夜も近くなっていたのか。さっきまで寝ていたから気がつかなかった。
確かに言われてみれば部屋の中も少し暗くなってきて、窓の外の空は少し赤みがかっている。
ちょっと疑問に思ったけど、話を聞く限り気候的にも日本とあまり変わらないという事かな?
「では、私は用がありますので何か有りましたら私にお申し付け下さい。私は皆様の近くにいる事が多いと思いますので。それでは、失礼します」
「はい。色々とありがとうございました!」
彼女はそう言い、一度礼をすると、部屋の外へ出て行った。
凄く気を遣わせてしまった様だけど、大丈夫かな。
まぁ、今更考えても遅いんだけど。
それにしても、いくら物置とはいえ王国の扉なわけだし相当高いんだろうなぁ……。
――この事は考えないでおこう。扉は向こうで何とかしてくれるみたいだし、恐ろしい事からは目を背けておくのが一番だ。
んー、じゃあ早く庭へ向かうか。
掃除に来てくれる人に『お願いします』とでも言っておきたいけれど、こんな部屋を見られればどんな目で見られるか分からない。
多分あの人が特別優しかっただけだろうし……。
僕はそんな風に考え、逃げる様に部屋を飛び出した。
――まさかあの人に出会う事になろうとは知らずに。
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