スキキライ
相変わらずの急展開につきご注意
「おねーちゃん?……おねーちゃん!」
……。
…………。
――――はっ!
「な、なに!?」
「しばらくぼーっとしていたようだけど、大丈夫?」
ユイに呼ばれて、はっと我にかえる。
どうやらかなりの時間ぼーっとしていたようで、記憶はないけど時間が過ぎた感覚だけは確かにある。
そして一つ、恐ろしい事に気がつく。
ここは――もしかして家?
さっきまでファミレスにいた筈じゃなかったっけ?
私はユイに呼ばれた時にハッとなって辺りを見回してみたのだけど――――寝起き頭のようにぼんやりとした頭でも分かる、気づけば私は家に帰って来ていたのだ。
どうしてだろう。ぼーっとしたままここまで戻って来るみたいなことって本当にあり得るの?
でも、流石にこんなことっておかしいよね……?
少し怖くなったので、私は頑張って思い出せるところまで思い出そうとしてみる。――でも、咲と並んで座っているところを見られたところまでは思い出せるのにその後の記憶がない。
「私、さっきまでの記憶がない……」
「え……! ど、どういう事!?」
ユイに正直に伝えたところ、まるでわざと驚く真似をしてるんじゃないかってくらい、ものすごく驚かれてしまった。
いや、それは当たり前なんだけど……。
――もしかしてショックのせいで気が飛んでいたのだろうか。もしくは無意識のうちに記憶を抹消しようとしていたのか……。
いずれにしろ不甲斐無いばかりだ。本当に、私はどうしてしまったんだろう……。
私がこんなのだからユイも怒るかもしれない。
お姉ちゃんに連れられて来た先で私と咲が隣同士で座っているのを見たし……そして、その後のことを忘れたなんて聞いたら怒って当然だ。
それに、呆れられて――私の事が嫌いになってしまうかもしれない。
嫌だけど、そうなったら私はどうなるのだろう?
私の前からユイが、ミサさんが消えたら……子供っぽいけれど、落ち込んで……何かを壊したくなってしまうかもしれない。
それくらい私と僕にとって大切な存在。
――絶対に失いたくない、大好きな人。
私や僕からしたら、親友であって、仲間であって、姉妹であって、家族であって……きっとそれ以上の、言葉ではいい表せないくらいの関係。
だからこそいいところだけを見せたいし、頼れる『お姉ちゃん』でもありたいと思う。
なのに実際は空回りで……ダメな所ばっかりがバレていっちゃう。
でも……それでもずっとそばにいたい。いなくなった時のことなんて考えたくも無い。
「……お店でユイと再開した直後からさっきまでの記憶が全く無いの。……ごめんね、こんなお姉ちゃん嫌だよね。
何かとすぐにやらかすし、ユイの気持ちに反した事ばっかりしちゃうし、私に良いところなんて無い……し……」
どう言い繕おうかと思っていた筈の私の口からは、気づけばそんな思いとは裏腹に言葉が出ていた。
――――だって、ユイには幸せでいてほしいから。
嫌な事があれば話を聞いてあげたいし元気にしてあげたい。ユイにはずっと笑顔でいてほしいと思う。
そして、ユイが笑顔でいるのに私が邪魔だと言うなら……私は喜んで消えるだろう。
自分でもおかしいと思う。多分私は……というか僕が、どこか深いところで壊れているからそんな事が思えるのだろう。
簡単に傷つくのも、痛みを誤魔化すのも、他人を恐れるのも、歪んだ自己犠牲の精神も、全部僕が壊れているから。
死んでもいいって簡単に思えるのは、それがミサさんの為にではなく本当は自分が満たされる為にやっている事……って分かっているから僕はあまり自分を好きになれないのかもしれない。
他人には色々言えるけど、自分ではできない。
そういうところが嫌いなんだと思う。それに、これから先ずっと好きになれる気がしない。……いや、好きになんてなりたくない。
――せめて僕だけでもユイ、ミサさんの前から消えた方がいいのだろうか?
だってこんなにも悩んでいるのは僕のせいだから。
「お姉ちゃんは私の事が嫌いですか?」
「え?」
突然、ユイは静かにそんな事を言った。
「そんなことない、絶対にない!」
つい、大きな声でそう言い返してしまった。
びっくりされてしまっただろうか、嫌いになってしまっただろうか?
「……安心した」
――でも、ユイから聞こえて来たのは何故かそんな言葉だった。
「ど、どうして?」
「急にそんな事を言い出すから、私の事が嫌いになってしまったのかと思ったよ」
「そんな!変な勘違いさせちゃってごめんね。もっと上手に伝え――――ひゃっ……!?」
ユイは私の言葉を途中で遮るように指で私の唇を押さえると、そのまま私に抱きついて来た。
「お姉ちゃん…………大好きだよ」
そして、そんな甘い言葉を耳元で囁く。
――次第に、私の顔が熱くなっていくのがわかる。
「何で、どうしてそんな事言うの? 私はお姉ちゃんの事大好きだよ。何があっても、何をしても。お姉ちゃんがみんな殺したって、私の事を殺したって……きっと、いや絶対に嫌いになれない。
でもね、お姉ちゃんがお姉ちゃん自身の事を嫌いになるのは嫌なの。私はこんなに好きなのに、お姉ちゃんには幸せでいてもらいたいのに……どうして気付いてくれないの?」
「――っ!?」
ユイの力強い言葉に私は思わず驚かされる。
あぁ、そんな事言われたら……私。
もっと、一緒にいたくなってしまう。もっと壊れてしまう。
「ごめんね。私鈍くて、全然そんな事気づいてあげられなくて……」
「ううん、謝らないで。私も全然お姉ちゃんの事を分かってあげられてなかったし……それを言うならお互い様でしょ?
それに私もお姉ちゃんが可愛すぎてすぐ妬いちゃうし……私にもいけない所があるんだから」
「あぅ……」
簡単に恥ずかしい事を言うから、私はもう頭が回らなくて何も考えられなくなりつつあった。
――うん、多分私はずっとこうなんだろう。
私は、そっとユイのことを抱き返した。
「ありがとう。私……色々とどうすればいいのか分かった気がする。
…………私もユイ、それにミサさんのことが大好きなの。だから一緒にいてくれて凄く嬉しい」
「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」
そんな言葉一つで堕とされてしまう。でも、これでいいのかなんてどうでも良い。ユイさえいれば今はどうでも――。
「じゃあ、昨日どうやら私牢屋に入れられていたらしいしお風呂に入ってこようかな」
「……え、牢屋ってどういう事!? よく分からないけどじゃあ私も一緒にお風呂に入ろうかな!」
「それはダメです!!」
私はいいかもだけど、僕はダメなんです!
◇ ◇ ◇
「やっぱり……自分の体とはいえ馴れないよ……」
私は目を瞑りながらそんな事を言う。
そんななのに何でお風呂に入ったのかと言われたら、勿論昨日牢屋に入れられていたらしいというのも関係しているんだけど――恥ずかしい話、涙が抑えられないから。
こんな恥ずかしい姿、ユイには見せられないし。お風呂に入ると、色々と整理できて落ち着くかと思って……。
一度、湯船に口のあたりまで沈めてみる。
…………あったかいお湯は、やっぱり正義だね。
……ふぅ。
ちょっとの間、抑えきれない涙もさっきまでの苦しい気持ちも見なかったことにするよ。
それにしても『お姉ちゃんがお姉ちゃん自身の事を嫌いになるのは嫌なの』……か。
その言葉で僕も私も思わずはっとさせられた。
気づけば自分自身の事を責めていた様な気がする。だから今さっきユイに物凄く救われたんだろう。
あのままだったらどうなっていたか分からない。
――――うん、これからはちゃんと前向きに変わらないとね!
だって、ユイに心配をかける僕のことが
それに、ミサさんに迷惑をかける私のことが
――僕は大嫌いなのだから。
お風呂の中で僕は私と少し険悪な雰囲気になったもののすぐにそれはおさまった。
お互いに睨みあっていても意味は無いし、結局のところ目的は同じだ。
ただ、僕らがお互に嫌いになればそれは自分自身を嫌いになっているわけではないよね、という話。
本当に子供っぽい発想だけれど、実際幼女なわけだし問題ない。――よね?
とまあ、僕がシュナを嫌っている宣言をしているけど、実際のところあまり嫌いじゃない。そしてそれは多分シュナも同じだろう。
本当に、つくづく難しい性格をしているなぁと自分でも思ってしまうが。
――――
とのことです。
もともと咲と翔くんとの出会いについての閑話を次に挟む予定だったのですがもう少し後に回したいと思います。
(元小説の方には既に載ってます)
そしてそれは何故かというと……元小説+αをこっちに書こうかなぁと思っていたらその+αの部分で手こずってしまったからなのです。
こんな不甲斐ないしろねこをゆるしてほしい……!
そして、ひとつ前々から思っていた事なのですが、こんなにもこの小説は不定期なのに読んでくださったりブクマだったりしてくれる方がいてとても感謝しております……。どうしよう、嬉しすぎてモチベが湧いてしまう。
それに、更新された後すぐにいいねをつけてくださる優しい方がいらっしゃるみたいでとても救われております。……本当にありがとうございます!
以上、感謝の気持ちでいっぱいのしろねこでした。これからもがんばります!




