さきのこと。
お久しぶりですm(_ _)m
「さて、茶番もそこまでにしてそろそろ話を先に進めませんか?」
咲に茶番と言われてしまうと、私がこんなに恥ずかしい思いをして取り繕っているのもなんだかどうでも良いことのように思えてしまうので少しむっとしてしまう。
でも、このままの話題で行ったらそれこそもっと恥ずかしい思いをすること必至だから話題を変える事には素直に賛成。
だから、ありがたくその言葉に乗らせてもらうことにした。
「そうだね。ということでお姉ちゃん、どうでもいい話は置いておいてそろそろ話を進めましょう」
私は逃げるためにそう言ったのだけど……
「全然どうでもよくないわ! だって今翔くんがありがとうって……!」
どうやら私の言葉は逆効果で、お姉ちゃんは私が触れて欲しくないところを思いっきり抉っていった。
本当に、このままだと真っ赤になって潰れてしまいそうなのでやめてほしい……。
「その話はもういいの! そんなに面白い話でもないでしょ!?」
「…………このままだと話が進みそうもないし、私達で少し進めましょうか?」
私は少し涙目になりつつもお姉ちゃんにそう訴える。
すると、咲が気を利かせてくれた。
やっぱり咲はどこかのお姉ちゃんとは違って優しいなぁ……。
「んん……。分かったわよ、私も折れるわ。今のところは話を先に進めましょうか。……今のところはね?」
どうしてそこを強調するの……!?
それに全然折れてないし!
とはいえ、何にせよようやくこの話題から逃げることができる訳だ。……やったね!
「まあ、話と言っても特に無いんだけど」
「確かに私はこの前ゼニアスさんと話した時に大体の流れは分かりましたし、話もかなり短かったですしね」
あれ、じゃあよく分かっていないのは私だけ……?
そう思うとなぜか申し訳ないような気持ちになってしまう……。
「君に関しては何故あんなに短い話で分かるのかがわからないよ。少し怖い……」
「それは……地頭がいいから?」
あ、それ自分で言うんだ……。
「まあ、一度落ち着いて考えれば誰でもすぐに分かりますよ。……ところで、待たされ続けてる翔くんがそろそろ可愛そうなので話を進めませんか?」
ありがとう。
やっぱりそういうところがお姉ちゃんとは違って優しくて好き!
「そ、それもそうね。私もこれ以上翔くんを待たせるのも可愛そうだと思っていたのよ。――本当よ?」
お姉ちゃんは私が咲の言葉に嬉しいと感じているのを少し感じ取ったのか、急にそんな事を言い出す。
やっぱりそういうところなんだよなぁ……。
と、私はお姉ちゃんをじとーっと冷めた目で見てあげることにする。
――しかしお姉ちゃんは私の意図に反して喜んだ。
というか、本当にお姉ちゃんが待たせるのが可哀想と思っているなら最初から早く話を進めてくれればよかったのに……。
なんか、最近のお姉ちゃんはどこか私に対してイジワルだよ。
私もちょっとお姉ちゃんにイジワルしすぎたとは思ってるからお互い様なのかもだけどさ。
「じゃあ話を進めるとしましょうか」
「うん」
私の為に一から説明してもらうのは少し申し訳ないけど、だからその分しっかり聞くことにしよう。
私はそう決意してお姉ちゃんの話に耳を傾けた。
◇ ◇ ◇
いつものお姉ちゃんからは想像もできないくらい、これまでの事を真面目に話してくれた。
だから色々と分かりやすかったし頭にも入ってきやすかったので、この時間はとても有意義なものだったと言えるだろう。
一つ思ったけど、ここまで上手に話ができるんだったら普段ももっと頑張って下さい!
そういえば、話を聞いている時ちょっと前――といっても十二年ほど前だけど――僕が神界でお姉ちゃんと話をした事を思い出した。
あの頃は、まさか自分がこんな人生を歩むとは思っていなかった。
――――というか、幼女に生まれ変わるなど誰が予想するだろうか。
と、ちょっとした恥ずかしさを紛らわすために頭の中を考えでいっぱいにしようと試みたけれど……どうやらダメみたいだ。
自分の気持ちに反して、顔がどうしても赤くなってしまう。
みんなと目を合わせるのが恥ずかしすぎて私が顔を手で隠して伏せてしまうのも仕方のない事、だよね?
「顔を赤くしているところも可愛いわ……」
「っ……!!?」
な、何!?
「確かに、こうして見るとただの可愛い女の子にしか見えないですよね。本当にかわいらしい……」
「さ、咲までっ!?」
私は二人に連続攻撃をされどうしようもなく顔がカッとさらに赤くなってしまう。
頭がプシューっとなって……とてもじゃないけど今の顔を二人に見せられなかった。
「ふたりとも……や、やめて……ください」
私は声にもならないほど小さい声で何とか最低限そう伝える。
「やっぱり、分かっていたこととはいえ翔くんも女の子に大分染まってきたようですね」
「ええ、そうみたいね。でも本人はあまりそれを望んでいないみたいだけど」
はい、その通りです。
分かってるならあまりそこについて言及しないで下さい!
自分でも結構『どうなんだろう……』って悩んでるんですから……!
今だって本当は揶揄われて嫌だと思うべきなのに、そうできてないし……。
「でも、それが良いことなのかどうかは私には言えないですけど、それが悪いことなのかといえばそうじゃないですよね?」
咲がそんなどっちつかずな私を肯定するような優しい言葉をかけてくれる。
うん、確かに悪いことだとは私も僕もあまり思っていない。
むしろ、どちらかと言えば良いことかもしれないなとまで考えてすらいる。
というのも、この人生はまず間違いなくシュナの人生だからだ。
僕としての人生に未練が無いとは言わないけれど、いずれ僕がいなくなって私が生きていくのが一番なのだろう。
それは、少し悲しい事なのかもしれないけど……一度僕は死んでいると思えば、そしてシュナの人生を勝手に借りていると思えば、僕は素直な気持ちで消えることができる。
そして、それはきっともう一人の私……お姉ちゃんの本当の妹である私も同じように考えるだろう。
そう、何となく分かるのだ。
本当に小さな欠片として僕や私の中に居る彼女が、どこかそう感じている気が……。
――まあ、完全に僕の妄想かもしれないけれど。
「大丈夫? 落ち着いてきた?」
「私をこんな風にさせた張本人のお姉ちゃんがそれを言うのは少しおかしい気がするけど……大丈夫、落ち着いてきたよ」
「なら良かった……!」
さて、ようやく頭の熱が冷めた。私の心のせいでどうも感情の起伏みたいなものが激しくて、やっぱり少し困ってしまう。
でも、こんなに色んな感情は僕には感じたことのないことだから……それを感じられるのは本当に嬉しいのだけど。
「ごめんね。色々と困らせちゃったみたいで」
「翔くんがそれを言う必要はないと思いますよ。それに、困らせてしまったのは私たちですから。……特にゼニアスさんが」
「なっ!?」
急にそう言われたお姉ちゃんは、そんな驚きの声を上げる。
「確かに、お姉ちゃんがもっと調べていればこんなことにはならなかったですしね」
「それは本当にそうだから否定できないわね……。私がちゃんと話していれば翔くんが咲をストーキングすることもなかったわけだし」
「その話はもうやめてくださいっ……!」
もしかして、お姉ちゃんがその情報を伝えなかったのってそうなる事を見越していたから……!?
――っていうのは流石に考えすぎだと思うけど、ちょっと警戒しておいた方がいいかもしれない。
お姉ちゃんはそんな事をしてしまいそうなくらい私の中で要注意人物なのだ。
と、いうことで私は心の中の要注意人物リストにそっと『お姉ちゃん』と書き込んだのだった。
「ところでかなり話が変わるけど、なんで話をするのにここへ来たんですか? 何か理由があれば教えて欲しいな……って」
話をするだけなら別にどこだっていいはずなんだけど、わざわざここを選んだ意図があるなら教えてもらいたい。
別に無いならないで全然良いんだけど、最近妙にそんな所が気になってしまって質問しないと気が済まなくなりつつあるのだ。
あれ、まさかこれも幼子故の好奇心!?
というか、ここに来てから何分だったのだろうか。
お店に来ておいて何もなしという訳にはいかないはずだよね?
「それは……とくに明確な理由はないわね。強いて言えば、落ち着いた所といえばと考えてみたら一番にここが思い浮かんだからかしら」
「私たち何も頼んでないけど大丈夫なの?」
少し怖くなってきた。
お店の人に怒られないよね……?
「まぁ咲がいる以上これくらいの事では怒られないんじゃない? 分からないけど」
咲がファミレスを作ったという話は聞いたけど……本当に大丈夫?
「そうだとは思いますけど、流石に申し訳ないので何か注文しましょうか」
「そうだね。私もどこかの誰かさんのせいで一日中徹夜で働かされた訳だし少しお腹が空いていたところなんだよね」
どこかの誰かさんって、ひどくない!?
いや、でもまだ私だとは言ってないし……。
私じゃない、私じゃない…………。
「でも元を辿ればゼニアスさんのせいなんですけどね」
「うっ……」
まったく、その通りです!
――って言いたいけど、お姉ちゃんを働かせたのは本当だし申し訳ない気持ちはあるんだよね。
だから、やめておこう。
決してお姉ちゃんのイジワルが増長されるからやめようなんて思っていない。
と、そんな事は置いておいて。
「何かを注文しようというのにはもちろん賛成なんだけど、ずっと家にいるユイの事が少し心配で……」
「ユイって……さっきの話で言っていた翔くんの妹の?」
「はい」
元々出かけようとした理由を思い出してほしい。
私は朝ごはんを作るための食材を買いに外に出たんだよ。
という事は、家ではユイがお腹を空かせて待っている訳で……。
「あまり待たせる訳にはいかないのです」
それに、少し罪悪感があるし。『なんで先に食べてたの?』って言われてしまうかもしれない。
「そうだね。……じゃあ、連れてくる?」
私が色々考えているとお姉ちゃんが気を利かせてかそんな事を言った。
そうだね、私だけこんな所で食べるのも気が引けるし……やっぱり連れてきた方がいいよね。
「うん、私だけっていうのもユイが可哀想だし連れてくるよ」
私はユイの事を考えて自分が家に迎えに行くと言った。
だけど、どこかお姉ちゃんは私の言葉に対して微妙な顔をしていた。
「ごめんね、ちょっと伝え方が悪くて誤解させちゃったかもしれないけど、私が連れてこようか?って意味だよ。ほら、私なら転移で一瞬だから」
「あぁ、そういう」
確かに転移なら一瞬かも……。
そう考えるとやっぱり転移ってすごく便利なものなんだなぁって実感するよ。
――僕は色々あって転移に対して悪いイメージを持ってしまっているから、普通ならまず考えるそういう便利な利点にそこまで目がいってなかったし……だからそこまで頭が回らなかった。
これは反省点かな。
さて、ではお姉ちゃんにユイを迎えに行ってもらう件についてだけど
「それじゃあ、お願いしようかな」
「りょーかい!」
お姉ちゃんに行ってもらうことに悪い点なんて特にないし、素直にお願いすることにした。
そしてお姉ちゃんは元気よく返事をしたかと思ったらサッと消えて居なくなってしまった。
なんと、珍しく行動が早い。
そういえばお姉ちゃんって最高神なんだよね?
そんなに人に使われてていいのでしょうか……。
いや、まぁ正確には私は半神半人みたいなものになるのだろうから純粋な人では無いのだけど。
なんて、私も珍しくお姉ちゃんの事を心配していたところ
「さて、また二人きりになってしまいましたね」
と、咲がそんな事を言った。
その言い方は少し恥ずかしい。
お姉ちゃんが居なくなって二人きりになってしまったのは事実なんだけどさ。
「そうですね。……まぁすぐに戻ってくるとは思うけど」
「……だと良いんですけどね」
「?」
咲は何かを含ませて、意味深にそう言った。
といっても、どういう事を考えているかなんて分からないし……勝手に頭の中を覗いても嫌だと思うし、取り敢えずおいておくことにしよう。
でも、確かにさっきから何か違和感を感じるんだよね。
なにかが違う……みたいな。
――そうだ、そういえば転移する時に白い光が出て無かった!
「さっきお姉ちゃんが転移した時、光って出てなかったですよね?」
ちょっと気になるので咲に聞いてみる。
別に何かという訳ではないんだけど、転移する時に周りに気づかれないと言うのは隠密行動で役立つ気がするので少し気になってしまう。
やっぱり、何かそういう技があるだろうか。
私は魔法の知識が本当に無いので咲なら何か知っていないかと思って聞いてみた。
「確かに出てなかったですね。それがどうかしたんですか?」
どうやら咲もそこには気づいていたようだ。
だけど、あまりそれを不思議に思っていなさそう……。
――って事はまさか咲も知っているようなそういうテクニックが!?
「ほら、転移って使う時に白い光が出るんだけど、お姉ちゃんよはどうして出なかったのかなぁ……って思って」
「言われてみればそうですね。でも、アレはあの人……というか神だから為せる技だと思うわよ」
お姉ちゃんだからできる……?
「どういうこと?」
「アレは私達の知っている転移では無い可能性があるのよ。
転移の術式を読み取って、光を出すようにしている所を修正したなら光を出さない転移の術式を作る事ができると思うけど……今の術式から完璧により近づけようとすると最高神ほどの技量を持った者にしかできないんじゃないかしら。
それと、もう一つの可能性として転移の様に見えるけど実は全く違うモノっていう事があるわよね。あの神様は過去へ転移したり違う世界線へ飛んだりとか色々できてしまいそうだし、そう考えるとこれくらいの魔法を作るのは容易いんじゃないかしら」
な、なるほど…………。
結局のところ、どちらにしろお姉ちゃん位の実力が無いとできないのか。
「少し残念だなぁ」
「……でも、翔くんはゼニアスさんの話を聞くかぎり半神半人みたいな状態なんですよね? なら、頑張ればできない事はないかもしれませんよ」
確かに努力すればできない事はなさそうかも。
よし、頑張ってみよう!
「話を聞いてくれてありがとう!」
「いえ、そんなに気にしないで」
「でも色々助かったし、よければ何か私に頼んでくれてもいいんだよ?
今まで何でもと言って痛い目を見てきたから何でもとは言えないけど」
何でもすると言って痛い目にあったことに後悔はしていない。
決して何でもは流石に言いすぎたかなぁ……などとは思っていない。
――思ってない!
「……頼むことは無いですけど、聞いて欲しい事はあります」
「聞いて欲しい事?」
咲から一体どんな無理難題が飛ばされてくるのだろうかと少しヒヤヒヤしていたけれど、どうやら咲は私に頼みたい事はないらしい。でも代わりに聞いて欲しい事がある……かあ。
咲から何か話をされる事なんて今まであまり無かったし、少し珍しい。
「その…………私たちの関係というか、距離感というか。昔の様に、してもいいかなと、思って……」
咲は、僕の反応を恐れるように少し声を小さくしてそう言った。
昔のようにって、もしかして……
「もしかして、口調とか態度のこととか?」
「そう、ですね。私たちはこうしてこちらの世界でもう一度出会えたわけですけど、もしかしたらもうあの時とは違って赤の他人になってしまったんじゃないかってとても心配で……。
それに、翔くんを一度ならず二度までも傷つけてしまったから私の事が嫌いになってしまったんじゃないかって。
今までのままじゃ嫌な気持ちにさせてしまうかもしれないと思って」
咲は、申し訳なさそうにそう言った。
まさか咲がそんな事を考えていたなんて思いもしなかった。
咲は優しいから、罪悪感で胸が痛んでいたのかもしれない。
「……実は口調の事は実はさっきから気になっていたんだよ。
僕たちの昔のことを知らないお姉ちゃんにはその変化は分からなかったと思うけど……僕はずっと気にしてた」
「じゃあやっぱり私の事なんて……」
「違うよ! 実は僕の方が嫌われているんじゃないかって、ずっと心配していたんだよ。ほら、第一印象が最悪な訳だし……」
だって、今世の初対面が完全にストーカーだったもん。嫌われたってしょうがないかな、なんて思っていた。
だけど――
「そんな事、思ってない!」
――杞憂で本当に良かった。
「そう言ってくれて本当にありがとう。
そうだね、僕たちはそこまで慎重になる必要もなかったんだよ。だって『何があっても嫌いになんてならない』ってあの時に約束したんだから」
かなり昔の話だけど、咲は覚えているだろうか。
小五の頃に約束した、本当に他愛のない約束。
――というか、覚えて無かったらやばい奴じゃん、僕。
そんな事を思って少し心配になっていると、咲が徐に右手を出してきた。
恥ずかしながら僕はすぐにはその意味が分からなかったけど、ふと思い出した。
そういえばあの約束をした時握手をしたっけ。
「約束ね?」
ものすごく懐かしい。
咲も覚えてくれていたんだ。
そう思うと無性に嬉しかった。
「もちろんっ!」
僕は咲の手を取って……そう言った。
こうして約十二年越しにようやく本当の仲直りが成ったのだった。
二周目の人にはちょっと二人の会話がおかしく見えたかもしれませんね。てもそのぎこちなさがやっぱり二人らしいなと思います。(小並感)




