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反省の最高神様

「それで、悲しいことに死んでしまった翔くんは――」

「――ちょ、ちょっと待って下さい!? 今聞き捨てならない事を聞いた気がするのですが!?」


 翔が魔王とゼニアスのミスによって死んでしまったという衝撃的な爆弾発言に遠坂は堪らずそう突っ込む。

 しかし、ゼニアスはといえばケロッとした顔でひしゃげた格子にもたれかかっていた。


「シオンが翔くんを殺したのは別に悪気は無くて、寧ろ元の世界に返そうとしていたのだけど……まぁ、察しの通りだね」

「百歩譲って私はそれに対して口を出しませんが、彼の気持ちはどうなんですか? そんなので満足しているんですか?」

「そんな訳ないよ。極論、自分の死に方に満足できる人なんて居ないのかもしれないけど、少なくともこんな死に方で満足なんてできるはずない。

 それに私は彼に今もこれまでも酷いことしかしてきていない。皆んなの望む神様らしい事は何一つしてあげられなかった。……そしてそれはこれからもきっと、変わらない」


 遠坂の言葉にゼニアスは言葉を淀ませつつも何とか話を続けていく。

 ハッとしたとでも言うのだろうか。

 ゼニアスは遠坂にそう言われて気がついてしまったのだ。

 自分が本当の意味で日野翔という存在の心の内を考えようとしたことなど無かったのだと。

 そう考えた時、ゼニアスはどうしようもなく視線を下に落とした。

 目の前の遠坂に見せられる顔がなかったのだ。


「でも、翔くんは優しいから多分私の事は責めない。私はそれが苦しくもあり、でも心の底ではきっとそれにホッとしている自分がいる。反省しているだけじゃダメだって、何かしてあげなきゃとは思うんだけど……それもできないままで」

「それなら彼の、彼の気持ちは!」


 遠坂はゼニアスに詰め寄り、一際大きな声でそう言う。

 

「そうだね……全く尊重できてない。本当に、全部私の責任だよ」


 ゼニアスは力無く、消え入るような震えた声でそう言った。それでも、何かを決心したかのように顔を上げて、目を見て話す。


「今だって翔くんは私が作り上げた偽りの記憶を抱えて生きてる。それが彼のためを思った事だったとしても本当はこう言う事はダメなのかもしれない。

 だけど、私はその責任から逃げない。絶対に翔くんは幸せにしなくちゃならない。こんな私を許してくれる、私よりもずっと神様に相応しい彼のためにも…………私は今そう誓うよ」

「――っ」


 遠坂はゼニアスからそんな言葉が出るとは思っておらず、思わず驚いてしまう。

 そして、同時に困ってもいた。


「もう、そんなこと言ったら怒るに怒れないじゃないですか。……本当に彼もですが、貴女もずるい人ですよ。でも、そうですか。彼は怒らなかったんですか。性格が悪くなっていたらどうしようとは思いましたが、それなら少し安心ですね」


 遠坂は小さく頷きながら静かにそう言った。

 まだ溢れる気持ちを抑えられていない様子だったが、『口を出さない』と言った以上何かを言うつもりはないようだった。


「じゃあ話すことも話したし、私はそろそろお暇させてもらおうかな」


 ゼニアスはそう言ってひょいと後ろに向き直ると、どうやら先程の遠坂の一撃を間近で見て気絶してしまったらしい少女を抱き抱えた。

 そして、光り輝く輪――簡易転移門を出現させるとその中へと消えて――


「まだ、その少女について聞いていないんですけど?」


 しかし遠坂はそれよりも早く動き、どこからか取り出したナイフを抱えられた少女の首元に押し当てる。まぁ、次の瞬間そのナイフは一瞬にして光の粒となって消滅してしまったが。

 しかし、ゼニアスにその事を思い出させる事には成功した様だ。


「そういえば、そうだったね」


 と、ゼニアスはまた遠坂の方に向き直ると、その抱えられた少女の頭を優しく撫でながら話し始める。


「感のいい君なら既に気づいているのだろうけど、この子は翔くんの生まれ変わりだよ」

「……話を聞いて薄々そう思っていましたが、やっぱり」

「あれ、ためにためた割には反応が小さい……」


 どうやら遠坂がもっと驚くだろうと思っていたらしいゼニアスは遠坂の反応に納得がいっていないらしく、あれ?と少し落ち込んでしまった。

 遠坂はそんな事全く気にしていないようだったが。


「そうですか、それで……彼の前世の記憶はどうなっているんですか?」

「それが、かなり複雑なことになっていてね」


 ゼニアスは困ったような顔で話し始めた。


「私の作ったシステムが悪いように働いてしまってね。……といっても、私の説明不足が原因なんだけど」

「どういうことですか?」

「彼を転生させたのは君と同じように世界をどうにかしてもらう為なんだけど……昔のようなことになってもらっては困るから、勇者が勇者に攻撃を行おうとした時に肉体から魂を奪うようにシステムを組んでおいたんだよ。要は強制シャットダウンってわけね。

 つまり、今の君の行動も彼の魂がもしこの子の身体に入ってたらかなり危なかったかもよ? それにこんな状態でも力は持ってるから、下手したら暴走したまま手がつけられなかった可能性もある。

 ――さて、話を戻すけど今回に関しては君が翔くんとどういう関係なのか恥ずかしいことにさっきまで知らなくて……どちらにもお互いの情報を伝えていなかったのが原因ってこと」


 ゼニアスは少し長いが簡単にこうなってしまった理由を伝えていく。


「それって、彼はどうなるんですか?」

「一応魂は戻せる。……とは言っても、十歳の少女に強引に記憶をくっつけた様な状態だったから、元に戻そうとすると少し危険が伴うかな」


 ゼニアスはそう話し終えると、本当はもう少し複雑な状態だったんだけど、と補足を付け足した。


「彼は……大丈夫なんですよね?」


 遠坂は、魂を戻すことができると聞いたものの、まだ心配な様だ。

 それは、自分のせいで危険な状態にさせてしまったという罪悪感からなのか……

 一応は読心術(本物)を封印しているゼニアスには分からなかったが、それでも一つ言い切れることがあった。


「君は少し心配しすぎだよ? 別に心配するなとは言わないけど……いくら君が彼の旧友だからと言ってもそこまで心配する必要なんて無いと思うけど」

「そうは言っても……」

「君は忘れてない? 最高神である私に失敗なんてあり得ないんだから!」


 ゼニアスは清々しい程の勢いでそう言い放った。


「そういえばゼニアスさんって最高神でしたね。日頃から最高神とは思えない事をするので忘れてました」


 遠坂はそれに少し引いていたが。

 まぁ、結果的にゼニアスの一言が遠坂をいつも通りの状態に戻したことには変わりないだろう。――ただし、ゼニアスの心に傷を与えるという犠牲を払って。


「え、酷くない……?」

「……さっきのは、ゼニアスさんが最高神と分かれば安心ですね。という意味です」

「そう!? なら良かった!」

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