表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/77

答え合わせ

お久しぶりです(T-T)

「まずは一から説明させてくれないかな?」

「……分かりました。とはいえ私がゼニアスさんを止められるはずがないので、貴女に従うしかないのですが」


 砂埃の舞う部屋で二人は話していた。


 一方は頭を押さえながら、もう一方は自虐的な態度で。

 でも、完全に一方的な話というわけでもなさそうではあった。


「君にそう言われるとは、本当に頭が痛くなるよ」

「なら私達に敵対する様な事をしなければよかったのでは?」

「あはは……いつにも増して辛辣な事を言うね。――で、話を聞かないんだったら私はこの子をササっと連れ帰るつもりだけど」


 ゼニアスは雑談もここまで、とでも言うように急に冷静になってそう伝えた。

 ゼニアスからすれば遠坂に対して事細かに説明する理由もないし、この面倒事を早く片付けてしまいたいのだろう。

 でも、それでもわざわざ遠坂に説明するかどうかを聞いたのは彼女のせめてもの優しさなのか……。


「それはダメです、ぜひ説明して下さい。それに、その子を奪われるんだとしたら、それだけに見合う情報をもらえなければ私も困ります」


 遠坂はゼニアスの後ろにちょこんと座っている少女を見ながらそう言う。

 その目線にはどこか怒りや憎悪が込められているようにも見えた。


「相変わらず硬いね、君は。君と私の仲なんだし、もう少しラフにいこうよ。……まぁ、でもだからこそ私は君を()()()()()()んだけど」

「そして、私を選んだ貴女に今裏切られようとしているわけですが」

「だから、それを今から説明するんだよ」


 険悪な雰囲気が二人の間に漂う。

 信じて欲しいゼニアスと、彼女を疑い信じようとはしない遠坂。

 二人の話し合いは平行線のまま続きそうだった。

 けれど……


「さて、何から聞きたい? 具体的には、この子のこととか、翔くんのこととか、私がこうしてここにいる理由とか。まぁ、結局は全て一つに纏まるから何から聞いてもいいよ」

「彼……翔くんの話でお願いします!」


 ゼニアスの質問に遠坂は若干食い気味にそう返す。


 さっきまでの険悪な雰囲気を無視するようなその発言には、流石のゼニアスも苦笑を漏らしていた。

 とはいえ、それを指摘してしまえば折角乗り気の遠坂が気を変えてしまう可能性もあるし、何よりこのまま何も進展しないよりはマシなのでこのまま話を続ける事にした。


「それじゃあ、先ずは君も気になっている翔くんの話についてだけど……彼がこの世界にやって来るキッカケになったのは王国の行った勇者召喚。その辺りの話は君にもこの世界へ来てもらう時に話したけど、勿論私はその召喚については一切関与してない」

「……彼は勇者召喚によってこの世界に飛ばされたわけですか。つまりはあの国の陰謀に巻き込まれた、と」

「まぁそういう事になるね」


 ゼニアスは遠坂に物事のあらましを簡単に説明をしていく。


「でも、勇者召喚が行われたのは十二年も前の話ですよね?」

「そうだね。――ところで、何故彼が君の前に当時の姿で現れたのか……君の中で見当はついてるのかな?」

「まぁ、少しくらいは」

「それなら、その予想を少し話してみてくれないかな?」

「それは……いいですけど」


 ゼニアスはそう言って遠坂に話すように促す。遠坂は少し怪訝に思いつつも言われた通り話し始めた。


「私は三年前、この世界にやって来てから色々とこの世界について――もちろん秘匿されてきた過去の歴史についても調べました。その中でこの組織と出会うに至ったわけですが、正直そのことは今はどうでもいいです。

 問題なのは十二年前に起こった王国の勇者召喚です。それによって呼び出された人間の名簿の中に私は彼と同姓同名の名前を見ました。しかも、その存在は明らかに何かの意思によって魔族領内、領外において殆どの記録から消されており、今も他の勇者達とは違い彼の存在は世に全く広まっていない。

 それに、同時進行で進めていた魔族領内の記録の調査では十二年ほど前に『周辺調査に出かけた魔族が戻ってこない』という記録と、その数日後には『魔王vs勇者』などという馬鹿げた決闘が行われたという記録を発見しました」


 遠坂は自分が三年間で調べてきた事をゼニアスに話していく。

 そして彼女はその内に何となくゼニアスの意図を理解した。

 もしかしたらこれは答え合わせのようなものなのかもしれない、と。

 そう考えてみると、この状況が物凄く恐ろしく、それでいてどんなに貴重なものなのかを感じる。

 何故なら、今ここで自分の三年間が否定されるかもしれないというのは怖いが、情報を知り答え合わせができるというのは普通ならできない貴重な事だからだ。


 さて、ではそんな彼女の話した情報は正しかったのかというと――――それは全て正確な情報だった。

 だからこそ、ゼニアスは驚いた。


「凄いね……。三年間でそこまで調べ上げるなんて、本当に驚いたよ」

「まぁ、私だってこの三年間何もしていなかったわけではないので」


 遠坂はゼニアスの言葉を聞いて心の中でホッとため息を吐いた。とはいえまだ話は本題ではないので、緊張しつつも話を続ける。


「さて、私はそこまで調べたところで彼はその馬鹿げた決闘で死んでしまったのかとも思ったのですが、この組織――革命軍と出会って考えが変わりました」

「変わったって、どういう事?」

「そこで伸びてる革命軍の団長は魔王との関わりというか、繋がりがあったようで、その決闘の場に実際にいたようなのですが……どうやら乱入者が居たようです」

「乱入者……?」


 自分の知っている情報にはその『乱入者』に関する情報は無かったのでゼニアスはその存在について疑問に思う。遠坂の言い方から、その『乱入者』が単に決闘の引き立て役というか、場を盛り上げる為という意味での『乱入者』で無いのは分かるが、そうなるとより一層訳が分からなくなる。

 シオンに確認しようにも今は十年ぶりに寝ているので無理に起こすのも可哀想だ。何せ十年もぶっ通しで起きてシュナを守ってきていたのだから今日くらいは休ませてあげたい。そういう思いでゼニアスはわざわざシオンに聞きに行くようなことはしなかった。


「私は、その乱入者が魔王と彼を殺した犯人なんじゃないか、と思っています」

「なるほど……」


 ゼニアスは実際にシオンと翔が相打ちするところを目撃したわけでは無いので、遠坂の言うように乱入者が居たとするならその可能性は一考の余地がある。――とはいえ、何でもないこの世界の住人が神の作った魔王を果たして殺せるかと言えば……その可能性はまず無いだろう。


「残念だけど、それは間違ってると思うよ」

「じゃあ、そこにいる少女が彼の姿を纏っていた事はどう説明するんですか? それは突き詰めれば十年前彼と魔王を殺した犯人に操られていたという矛盾の無い証拠に繋がる。それに、そんな少女を庇う貴女は――」

「――だから私の事を嫌う訳ね」


 ゼニアスはそうして、今やっと遠坂が自分に敵意を持っている理由を完全に理解した。

 確かに遠坂の言うように考えるならそれは矛盾のない証拠に繋がるけれど……。


「その侵入者はいつ、どんな理由で、どうやって、シオンと翔くんを殺したのか……不明瞭な点が多すぎる。それに、人の記憶は時が経てば色褪せていくもの。頭の中で勝手に改竄できるソレを根拠にするのは流石に無理があると思うよ? そんな情報を元に作られる物はどこまでいっても『予想』にしかならない。そして、『予想』なんて物は自分の頭の中で矛盾が無いように想像で補完して、いくらでも勝手に作り出せる。

 ――そして、それは君が一番分かっている事なんでしょ?」

「……!」


 そこまで反論されて仕舞えば、遠坂にはもう返す言葉は無かった。

 予想にしかならないというのは、何も間違っていなかった。


「さて、そろそろ答え合わせといきましょうか。

 君の言う乱入者について私はよく知らない。私もあの戦いに少し介入してしまったのだけど、その時にはまだその乱入者は姿を現していなかったと思う。だからその辺についての明言は避けさせてくれない?」

「分かりました。……答えが聞けると言うのならそれ以上は求めません」


 遠坂は少し残念そうではあったが、ゼニアスさんの言葉に一応納得した様だった。


「ではでは、本当に申し訳ない事から話すとしましょう。君がさっきから気になっている翔くんは、シオンの――魔王の手違いというかミスにより死んでしまいました」

「……………………はい?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ