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不法入国……!?

 結局念には念をという事で深夜まで待って、私たちは街の前――正確には街にはぐるりと一周巨大な壁が囲っているので、中へと入る門の前へとやって来た。


 ユイはミサさんの姿に、私は十六歳くらいの少女に変身して、ちゃんと角を付けておいたのでこれで怪しまれる事はないだろう。

 それと、シオンをそのまま出しておくと変身した意味がないので姿を消してもらっている。


 そうそう、そういえば私たちが成長した姿になったことでさっきよりも早く着くことができた。

 成長って素晴らしい……!


 でも『まぁ、夜だし警備は少なくなっているでしょ』なんて甘く考えていたけど、実際は来る途中道に沢山の兵士が配置されていて、気配を消して、おどおどしながらも通らせてもらった。

 なんというかその兵士達は気を張り詰めていたような感じがして……視野が少し狭くなっているのか気配を消さなかったとして道を通る私たちに気づいていたのかは怪しいところだけど。


 そうして、少し疑問と不安を感じながらもここまでやって来た。


 それにしても、さっきは門の前に来る前に捕まってしまったからよく分からなかったけど、かなり凝った作りをしている。

 門に何か模様が刻まれているけど、非常時には魔術的な何かが発動したりでもするのかな?


 でも、門に見惚れてばかりもいられないしそれよりも今はこの中へ入ることにしよう。


「さて、ささっと街の中に入ってやりますか」

「そうですね、正々堂々と正面突破でいきましょう」


 そうだね、ちゃんと変身してきたからバレないだろうし――


「――って、私たち《変身(レオン)》を使ってる時点で正々堂々でも正面突破でもないのでは!?」

「それは言わないお約束です」


 ミサさんは唇に人差し指をあててそう言う。


 なんというか、その仕草は反則だと思う。


『だが、お前ら本当に大丈夫なんだろうな?』


 と、そんな私たちの緊張感の無さに呆れたようにシオンがそう言ってきた。

 シオンはそう言うけど、私たちはできるだけの準備はして来たし大丈夫――――だといいんだけど。


 正直自信ないなぁ。


 そうだ、そんなことより一つ気になることがある。


「兵士達の姿がさっぱり見えないけど、居なくなっちゃったのかな?」

「前はあれだけ警戒していたのに少し変ですね。門の警備をしている人すら見えないというのは流石に不気味と言わざるを得ません」


 ミサさんの言う通り、普通いる筈の門番の姿がない。

 前世でよく見たような受付があるけれど、その中にも人がいるようには見えない。

 姿を隠しているだけという説もあるけど……私の感覚に全く引っかからないということはそれだけの実力者という事になる。


 本音を言うと、それはちょっとやめてもらいたいんだよなぁ。


「すみません、中に入りたいんですけど……誰か居ませんかー」


 受付の奥には流石には人がいるだろうと思って私は少し強く言った。

 だけど、しばらく待っても返事は返ってこない。


「え、本当に誰も居ないの?」

「返事がないのでおそらくそうかと。……でも、もしかしたら中で人が倒れていたりして」


 人が倒れているって流石にそんなわけない……よね?


『いや、確かに奥の方からは人の気配を感じる。何をしているかは知らんが……お前のことを無視しているのかもな』

「なっ……私そんなに嫌われるような事した!?」


 もしかしてこんな夜遅くに叫んでしまったのが悪いのか!?

 そうなのか!?


 と、シオンの言葉を間に受けて過去の自分を恨んでいるとユイから『ど、どうしたんですか……お姉ちゃん?』と言われてしまった。


 そうだった、今はユイにはシオンの声は聞こえないんだった。

 いちいち説明しないといけないのは、やっぱりどうにかならないのかとも思うけど……特に困ることは起きてないし今は別にいいかな。


「シオンがミサさんの言った通り奥の方から人の気配がするって。それで返事がないから私を無視しているのかもしれないって」


 私は一応ミサさんにシオンの言ったことを説明する。


「そうだったんですね。では後でシオンさんをミンチにしてさしあげます」

『や、やめろ!? 本当にやりそうで怖いから冗談でもそんなことを言うのはよしてくれ』


 ミサさんは笑顔でとんでもないことを言った。

 その笑顔は世界一怖かったと思う。

 それに、流石のシオンもこれにはビビっていたようだ。

 でも、そんなレアなシオンの姿――というか声を聞けて私は嬉しいです。

 ざまぁみろ!


 さて、正直なところ私のことを本当に無視しているってわけでもないだろうし、考えられるのは、門番さんに何か不測の事態が起こったとか、もしくは単純に奥の部屋で寝てしまったとか。

 寝てるというのは……それはそれでどうなんだという気もするけれど。


「シオン、一応中の様子を確かめたいんだけど……見てこれる?」

『ああ、やれるだけやってみるが……あまり期待はするなよ?』

「大丈夫! 初めからき――――なんでもない」


 初めから期待してない……と思ってもいないことをつい言い出しそうになったけど咄嗟に口を押さえてなんとか抑える。

 なんだったらちょっと期待している自分がいるのだ。


『《探索(サーチ)》』

「どう?」


 私が問いかけるとシオンはゆっくり中の状況を答え始めた。


『受付の窓から入っておくに扉。扉の先にもう一つ部屋がある。そこにドアがあるがおそらく外――壁の中へ繋がっている。

 扉の先の部屋に男の魔族が一人倒れているな。ベッドの上で寝ている』

「……じゃあ呼んでもこないのは単純に寝てるからか」


 本当に寝ていたとは……何ともいえない気分だなぁ。

 こうなったら起きるまで粘ってみる?

 でも、それだとまたすごく待たされることになるし……。


『いや、男の体に若干不穏な魔力の痕跡が残っている。相当上手く隠蔽されているな……俺でなきゃ見逃しちゃうね』

「え!? それって大丈夫なの?」

『安心しろ、どうやら眠らされているだけだ。後数時間すれば問題なく起きるだろう』

「よかった……」


 でも、ここで何か起こったというのは間違いないみたいだね。


 と、そうだ、不思議そうに私を見つめているミサさんにも説明してあげないと。


「ミサさん、どうやら男の人がこの奥で寝てるらしいよ。というか眠らされてるの。

 命に別状はないらしいけど、きっと不審者がこの国に侵入した事は間違いないと思う」

「本当ですか!? そうなると少し危険ですね。奥にいる人は眠らされているだけだとしても、何があるか分かりませんよ」


 ミサさんは私の言葉に驚いたようにそう言う。

 確かに、私たちがここに来る数時間前にこんな事が起こっていたなら街の中に入るのは危険だ。


「そうだね……私たちなら大抵の敵は何とかなるとは思うけど油断大敵だしね。万が一もあり得る」


 うーん、どうしたものかなぁ。


「でも、やっぱり行くしかないんじゃないかな。取り敢えず街の人に聞き込みをしたり、図書館があるならそこに行って情報を集めたらすぐ出ようよ」

「私としてはお姉ちゃんには危険な目にあって欲しくないのですが……しょうがないですね。二人で手を繋いで行きましょう」

「うん。……うん? ――――って何言ってるの!?」


 さらっと変なこと言わないで!? 思わず何も疑わずにOKしてしまうところだった。


「だめ、でしたか?」


 ……っ!!


「だめ……じゃないです」


 そんな顔されたら……断れるわけないよ。別にミサさんと手を繋ぐのは嫌じゃ、ないし。


 というか嬉しいかもしれない。昔はそんな事、願っても叶わなかったし。

 時間の差があれどこうして二人とも死んでしまって……でもまたこうやって同じ時間に生きて、出会って手を繋ぐというのは感慨深いものがある。


「でも、手を繋ぐなら僕の姿が良かったなぁ」

「ふふ……翔さんもお姉ちゃんも、可愛いですね」

「な、なっ!?」

「そういうところですよ」


 どどど、どういうところなの!?

 でも、素で口から飛び出たとはいえ、改めて考えてみると私……かなり恥ずかしいこと言ったかも。


 そう思ってしまい、今更になって顔が熱くなってしまう。


 だめだめ、もう考えないようにしよう。


 でもこれ、私とミサさんがこの変身した状態で手を繋ぐと、ミサさんの方がお姉ちゃんにしか見えないんだよね……。


「むぅ……姉としての威厳がどんどんと失われていっている気がする」

「なら私がお姉ちゃんになります」

「それは色々と違うでしょ!?」


 私はこの姉という立場にずっといたいのだ。

 しかし、何故か妹によってそのポジションが揺らいでいる!?


 これはひじょーにまずい。なにか姉らしいことをしないと。


「よし、じゃあ結局正面突破になっちゃったけど……勝手に入国させてもらいましょう。私は()()()()()だから先陣をきって門を通るね」

「……お姉ちゃんなら不法入国しないよね?」


 あっ……。


「バ、バレなきゃ犯罪じゃないから!!」

「妹を犯罪の道に連れ込んでいいんですか?」


 ミサさんのじとーっとした目線に思わず隠れてしまいそうになる。


 ううっ、それを言われたら私には絶対に反論できない!

 妹を犯罪者にするとか、それは絶対ダメ!

 でも、それならどうすれば?

 結局のところ、朝になるまで待つことにするしかないのかな?


 うーん。


「お姉ちゃん」

「……ん、何?」

「入らないんですか?」

「――え?」


 私がこの重要な議題について頭を悩ませていると、ミサさんからそんなことを言われる。

 私は『入るって、どこに?』と思いつつもミサさんの方を見ると……そこには信じられない光景があった。


 ――ミサさんが門の向こう側から顔を覗かせているではないか!?


 先を、越された……!?


「早くー」

「あ、うん」


 結局私はミサさんに急かされ、なんとも言えない気持ちで魔国へと入ることになったのだった。

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