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絶対におかしい

 旅を始めてから結局五日経ってようやく私たちのいた村から一番近い魔国の街が見えるところまでやってきた。

 私たちは逸る気持ちを抑えながらも、少し早歩きで向かっていった。


「やっと着いたね!」

「うん、私はもう足が疲れたよ……。お姉ちゃんは平気なの?」

「ん、大丈夫だよ」


 ユイに指摘されて改めて思うけど、やっぱりこれくらいじゃ全然疲れないな。

 初めの頃は体力があるからだと思っていたけど流石にここまでは異常だし、やっぱり自分の内に感じる神様の力のおかげかな?


 とはいっても、魂とかは人間だし……完全に神様というわけでもないみたいだけどね。

 言うなれば、半神半人というところかな?


 というか、この神様の体――ゼニアスさんの妹は元々綺麗な金髪だったみたいだし、私が桜色の淡く赤い髪色をしているのは両親の影響が強いんだろうね。


 と、今はそんな事を考えている場合じゃないか。


「よし、それじゃあ早速行きますか!」


 それにしてもこの街、首都からは大分離れているはずなんだけど――あそこと比べても引けを取らないくらいの大きな壁と門が築かれている。

 やっぱりここが人族の国と魔国との国境線に一番近いからだろうか。


 そんな事を考えながら私たちは門の方へと向かっていくと……。


「何者だ!止まれっ!!」


 と、いう一際大きな声が聞こえてきた。


 どこから聞こえてきたのか分からなかったのでしばらくキョロキョロと見回していると、いつの間にか鎧を着た兵士のような人に囲まれていた。

 ――額には角が生えているので、魔族である事は間違いないだろう。


「ちょっと待ってください!私たちは怪しいものではありません!」


 私は争う気は無いので両手を上げて抵抗しない事をアピールする。

 勿論目立つ武器は持っていないし、(はた)から見れば迷い込んできた村娘に見える事だろう。


「何だ、お前ら……子供か?」


 すると兵士の一人が私たちの姿に気がついたようで、

訝しむようにそう言った。


 中身は幼くなくても体は幼女、これなら戦わずに街の中に入る事ができるだろう!


「……かまわねぇ、相手がなんだろうと人族なら殺すだけだ!」

「ちょっ、えっ!?」


 と、そう甘く考えていたのが悪かったのか、兵士の一人はなんとそう叫んだ。……流石の私もこれにはびっくり。


「怖いよ、お姉ちゃん……」


 ユイも怖がっているし、そうはさせない。


 ――というか、私たちはよくそこら辺にいるか弱い幼女ですよ!?

 こんな状況になるなんて……シオンの言ってた話と違うじゃんかー!


「シオン!この状況、どうにかならないの?」


 私は数時間前まで『何とかなるだろ』と余裕な表情を浮かべていた張本人であるシオンに何とかならないか聞いた。


「……分体を元の姿に力を一時的に多く使って変えることは可能だ」

「本当!?お願い!」

「おう」


 良かった!これでこの兵士たちも襲ってくることはなくなるだろう。なにせ、自分たちの目の前にいるのは魔王だと分かるわけだもん。――流石にこれで襲いかかってくることはないよね?


 と、そんな事を考えていると、いつの間にかシオンの姿があの時の魔王のものに変わっていた。

 ……ふぅ、これで助かったぁ。


「なんだ!?いきなりあの可愛かった奴が大きくなったぞ!?」

「何かの魔法か!?」


 うんうん、そりゃ驚くよね。目の前にいた可愛かった奴がまさか魔王だったなんて。驚かない人なんていないよね。

 ……実際、私の後ろに隠れていたユイも驚いているし。


「……子供だからって油断するなよ!こいつらはあの人間なんだからな!」

「ああ、分かってるよ!」


 ――あ、あれ?なにか空気が怪しくなってきたぞ!?


「――いくぞ!」

「「おう!」」

「ええっ!?ちょっと待ってくださいよ!?」


 魔王だよ?あの魔王だよ!?……流石に知ってるはずだよね?


「この人魔王ですよ!?あの、偉大な魔王様!」


 魔王、という部分を強調して目の前の兵士たちへ叫ぶ。

 すると、彼らは足を止めて笑い始めた。


「……おいおい、流石にその嘘はバレバレだぜ?」

「そもそも、魔王は男じゃなくて女なんだよなぁ!」


 ……お、女?


 そ、そうか、魔王さんが死んだ後新たな魔王が立てられたという可能性も。


「ほら、この人は十年前くらいに亡くなったけど復活したんだよ!」


 その可能性は高そうだったのでそう言ってみる。が、果たして彼らの笑い声がさらに大きくなるだけだった。


「騙そうとしてるんだったらもっと魔族の事を学んでから来てくれよ、お嬢ちゃん?」

「面白い奴だな!もうこの嬢ちゃん達は帰してやってもいいんじゃねぇか?俺たちが笑っている間にも襲ってなんかこなかったしよぉ」

「それもそうだな。人間に恨みを持ってる俺たちでも、流石にこんな子供は殺せねぇよ」


 ……っ。


 なんだかものすごく馬鹿にされている気がする。でも、今日のところは引き下がるしかないのかなぁ。

 取り敢えず魔王のくせに知名度無しのシオンも連れて変えるか。


 私たちは一旦引き下がるべく後ろを向いてここを離れようとした。――だけど、その時見てしまった。


「許さない……」


 そう言って殺気を放つユイの姿を。


 とはいえ、かなり抑え込まれているので兵士たちには気づかれていないようだ。

 なんでそこまで怒っているのかは分からないけど……このままだとマズイと思い、二人を連れて戻る事を優先した。


「戻るよ」


 私はそっとユイの方に手を置くと、耳元でそう囁いた。

 するとユイはハッとした顔をして私の手を握る。


 ――暴走しなくてよかった……。


 張り詰めていてもいけないし、しばらくは手を繋いでおこう。


「シオン、行こ?」

「ああ」


 私たち三人はこうして元来た道を少し引き返すことにした。



 ◇ ◇ ◇



「作戦会議をします!」


 しばらく歩いて兵士たちが見えなくなったところで私たちは立ち止まり作戦会議をすることにした。


 シオンは「おう」と快く返事をしてくれたけど、未だにユイは暗い表情をして座り込んでしまった。


「どうしたの、大丈夫?」


 流石に心配になって私はユイにそっと問いかける。だけど、どうも大丈夫じゃなさそうだった。


「……お姉ちゃんのことをあいつらは侮辱した!私それが許せなくて……!」


 しばらくしてユイは口を開き、そしてそう泣き叫んだ。

 ――そうか、ユイは私の為に……。


「ユイ、大丈夫だよ。私の事を思って怒ってくれるのはすごく嬉しいけど、私はユイにそこまで怒ってほしくは無いなぁ」

「え、どうして……?」

「だって、ユイの可愛さが台無しでしょ?膨れた顔も可愛いけど、殺気なんて出しちゃったら勿体ないよ」


 可愛いは正義なんだよ!


 それに、あの兵士たちも悪い人ではなさそうだったし。

 だって、心から憎んでいるはずの人族である私たちを見逃した。それがどれだけ勇気のいる事で、すごい事なのか私は分かる。


 ――僕はまだあの時ミサさんを殺した奴らの事を憎んでいる。それを、その気持ちを全て捨ててそいつらのために何かをすることなんて僕には絶対にできやしないだろう。

 むしろ、そいつの顔を見た瞬間に殺そうとしてしまうかもしれない。


 だから、その凄さが分かるのだ。そして、それができるのは僕なんかとは違って彼らが本当に優しいからだろう。


「また明日挑戦しよう?」

「……うん!」


 ユイはまだ少し納得してなさそうだったけど、なんとか割り切れたようだ。

 ――きっと明日は何とかなるさ!


「じゃあどうする?もう夜だし寝る?」

「いや、待った」

「ん、どうしたのシオン?」


 もしかして魔王なのに知名度なかったから傷ついてる?……やっぱりシオンは可愛い所あるなぁ。


「いや、流石におかしくないか?俺の存在を知らないのは?」

「まぁ、しょうがないよ!これが現実なんだし受け入れていこう!」


 強く生きろよ、シオン。


「しかも、魔王が死んだということですら無かったことにされている」

「あ……確かに」


 それは確かにおかしいかも。


 国内に混乱を与えないため魔王の死を伝えなかった?

 いや、魔王は女だって言っていたからそれは無いよね。


「ん〜〜、分かんない」

「そうだな、俺は何者かによって事実を書き換えられていると踏んでる。

 そしてそれは大規模なもので、国民全員に洗脳的な事を施したのかもしれない――なんて、考えすぎだろうか?」


 大規模な事実改変。……洗脳かぁ。


「可能性としてはありそうかな」

「それに、今思い出してみればお前が英雄として人族に伝わっていないのはおかしくないか?」

「確かに!絶対おかしい!!絶対に!」


 だって、相討ちとはいえ魔王を倒したんだよ?流石に歴史の教科書の一ページにのるくらいの事はしたでしょ!


「これは、何かきな臭いね……」

「ああ」


 これは何者かに事実改変されたとしか考えられない!


「あの、お姉ちゃん?」

「ん……何?」

「その、私にも説明してほしいなぁ……なんて」


 私たちがそういう話で意気投合していると、ユイが不思議そうにそう聞いてきた。

 うん、そういえばユイにはざっくりとしか話をしてなかったから細かいところは分からないのか。


「よし分かった!可愛い妹のためにここは一肌脱ごうではないか!」

「本当?わーい、やった!」

「えへへ」


 可愛い妹のためなら私は何だってできる気がするよ!

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