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王国と勇者達

 瞼の裏まで焦がすような光も次第に収まっていって、問題なく目を開けられると確認すると目を開いた。

 それからしばらくは目を開けても中々像が結ばれずに視界がぼやけていたが、段々とピントも合わさっていって――


「っ……!?」


 そこにあったのは一面綺麗な装飾で飾られた部屋だった。


 思わず僕は辺りを見回す。

 すると僕と同じ様にクラスメイト達が周りで驚いているのが見えたが、正直それどころではない。

 壁一面に広がる絵画、天井の装飾、ピカピカで綺麗な床、細部までこだわった作りの扉、豪華そうで雰囲気のある照明。

 そして、僕たちよりも何段か高い位置にある椅子、玉座というやつに深々と腰掛けこちらを見ている貫禄のある老人。

 見るからに高そうな装飾品をいくつも付けて、じっとこちらを見据える姿は――まさしく、王様というやつだった。


「よくぞおいで下さった勇者様方。歓迎する」


 広い部屋にその老人の声が通った。

 老人の声からは威厳を感じるが、外国人が日本語を話しているような、そんな少し(いびつ)な話し方だと感じた。


 そんな、突然の突然の挨拶にクラスメイトは少し驚きつつも、声のした方向に向き直った。

 老人はそれを確認すると、更に話を続けた。


「皆様、突然の事で驚いているだろうが、ここは我がリュピュトーネ王国の王宮、外敵から守られており安全であるから安心するといい」


 リュピュトーネ王国…………聞いたことの無い名前だし、本当に異世界に来てしまったようだ。

 それに老人が『我が』といかにも偉そうな言い方をしていた事から、やはりこの人が国王で間違い無いだろう。


 それにしても、王宮か……。

 だからここまで綺麗なのか。


 老人――国王は、一呼吸おいてまた話を始めた。


「勇者様方にはここで経験を積み、技術を磨くことで強くなってから魔王を倒していただく。尤も、それは承知の上でしょうが」


 その言葉を聞いたクラスメイト達は少しざわついた。

 国王から『魔王』という単語を聞いたからだろうか。

 嫌でも異世界に来たという実覚が湧いてくるからだろうか。


「嘘でしょ……? 冗談だと思ってたのに本当に異世界に来ちゃったの?」

「嫌っ……私は別に来たくなかったのに……!」


 なんて声が所々から聞こえた気がした。


 それは気のせいだと願いたいが……。

 だって、僕が行かないと言った時に何も言わなかったくせに今更そんな事、虫が良すぎるから。

 まぁでも何を考えるにしても『今更』だ。

 過ぎた事だし今悩んでもしょうがない。


 それにしても、僕たちが呼ばれた理由は何なのだろう。

 僕たちよりも長年鍛えた兵士たちの方が技術も体格も経験も、全て優っている筈だけど。

 という事は、やっぱり『勇者だけが持っている力』みたいなものがあるのだろうか。


 でも、その力が強すぎる場合、国が勇者の力を纏めきれず滅びるかもしれない。

 特に、あのクラスメイト達の事だし纏めるのは苦労しそうだ。

 他にも別の国との軍事力に差ができるだろうし。

 この世界に世界政府があるなら話は別かもだけど。


 まぁ僕が気にする様なことでも無いか。


 取り敢えず、そう結論づけて国王の話に集中する事にした。


「今日のところは疲れているだろうから、明日からの事に備えて今日は近くにある寮棟で休むといい。そこまではグラスが案内しよう」


 寮棟なんてものがあるのか。

 やっぱり『勇者』なだけあって待遇はいいのかな。


「それでは早速案内しよう。それと……そうだな、部屋割りは好きに決めても良いぞ」


 国王がそう言うと、先生――いや、正確には先生では無かった訳だけど――が『よし、じゃあついて来い』と言って僕たちを先導した。

 クラスメイト達はこれまでの急展開にまだ戸惑っていたが、遅れまいと先生の後について行き出した。


 個室が貰えるのは素直に嬉しいな。

 まさかプライベートな空間をもらえるとは思わなかった。



 ◇ ◇ ◇



 いや、全く…………まさかこんな事になるとはなぁ。


 勝手に部屋割りを決められた挙句、客室というよりも最早物置と化している部屋――いや、(まご)うことなき物置に押し込まれるとは誰が予想できただろうか。

 やっぱり異世界にやってきても、彼らのすることと言ったら変わりないんだね。


 埃の舞う部屋で、僕はそんな事をしみじみと思う。


 机やベッドはあるけど、物が散乱していたりで使える様な状態では無い。

 困ったな。


「しょうがない、掃除でもするか」


 幸い、今日はこれから予定が無いようだ。

 こんな部屋で快適に過ごせる筈もないしさっさと片付けるに限る。

 僕はそう決めると、取り敢えず新鮮な空気を取り入れるべく窓を開けた。


 じゃあまずは、寝れるようにベッドの辺りを片付けようかな。


 いや、まぁ……客人に対してこの態度はどうなんだって思うところはあるけど、そんな事言ったら何されるか分かったものじゃないし。

 それに、こうやって身寄りのない僕たちが部屋を貰っている時点で感謝しなきゃなんだよね。

 どうやらご飯も一日三食あるらしいし。

 文句は言えないよなぁ。


 そういえば移動中に先生が言っていたが、どうやらこっちに来ても授業はあるようだ。

 内容はこの世界の歴史を学んだり言語を学んだり……。

 歴史に関してはまだいいのだけど、言語――王国共通語だっけ?――を覚えるのが一番大変だと思う。

 なんせ、某漫画みたいに食べたら勝手に翻訳されて聞こえるようになる様なアイテムも無いし。

 馴染みがない分英語とかを覚えるよりも遥かに難しい。

 そこは転移特典的な何かで、都合よくどうにかならないものなのだろうか。

 ――ならないですか、そうですか。


 しかし、結局授業があるって事はまた彼奴らにいじめられる事になるのだろうか?

 そんな考えると、こんなファンタジーな世界もつまらなくなりそうだからやめておこう。


 だけど、座学で一番面白そうなのは魔法の授業だ。

 なんだか、そう言うファンタジーチックな物を見たり聞いたりすると異世界に来たという実感が湧くと言うのもそうだし、興味もあるし……とにかく、学んでみたいって言う気持ちが一番かな。

 でも、僕たちがここに来た一番の目的というか、目標というのは魔王を倒すっていう危険な理由で……当然それに向けて訓練もしないといけないわけで――昼からは訓練があるらしい。


 まあ、要するに三時間目か四時間目辺りから怒涛の体育ラッシュがあるようなものだ。

 実際は体育よりももっときついだろうが、想像しただけで筋肉痛になってしまいそうだ。


 運動が嫌いというわけでは無い。

 どちらかと言うと好きな方だが、ここまで続くと流石にキツいし、飽きるだろうと言う事は容易に想像がつく。


「はぁ……」


 思わずため息が出てしまう。

 いや、掃除をして疲れたからと言う事にしておこう。


 そういえば掃除といったら、さっきから大体五分くらい片付けをしていたが中々綺麗にならない。

 布団やシーツに関しては、もう洗濯してもらうか新しくしてもらうかしないと思う。

 どう頑張っても中から埃が出てくるのだからどうしようも無いんだよね。


 取り敢えず、先に他の所を掃除しようか。

 このままだとどうしようも無いし。

 最低限机とか、棚を使える様にはしたい所だ。

 後は床に散乱している本だか、書類だか、何かの道具だかを片付けて綺麗にしたい。


 これは、掃除にかなり時間がかかりそうだな……。


 先の見えない掃除地獄に僕はため息を一つ()くと、仕方なく掃除を始めた。



 ◇ ◇ ◇



「終わったーーーーっ!」


 初めの頃と比べると随分と綺麗になった部屋を見て、思わずそう口に出してしまった。

 でも我ながら頑張ったと思う。

 そしてこれは褒められてもいいとも思う。

 まぁ、褒めてくれる相手は居ないんですけどねっ!


 そういえば掃除している間に面白そうな物をいくつか見つけた。それはこの部屋に落ちていた道具?だ。

 目覚まし時計みたいな物だったり、カメラみたいな物だったり、種類は様々だが地球の物を思わせるような形の道具がいくつか見つかった。

 何でこんな物置に貴重そうな物が置いてあったのかは謎だが、部屋がここになった以上これは使ってもいいという事だよね!

 そうだよね!?

 でも、急に爆発とかされたら困るしやめておこうかな。

 異世界、何が起こるかわからないし。


 さて、掃除もひと段落ついた事だし少し外に出ようか迷うな。

 どうやら敷地内なら外に出てもいいようだし、折角なら外を見てみたい。

 でも今日のところは暇潰しに部屋を片付けている時に見つけた本でも漁ってみようかな。

 何かこの世界について分かれば良いんだけど……あまり期待せずに読んでみよう。


 そう決意すると、僕は部屋の一角に固められている本の中から一冊を取り出した。

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