『僕』の行く先
――僕の前世がゼニアスさんの妹。
それを聞いてまず思った事、それは――
「えっと、冗談ですか……?」
――ゼニアスさんがただ冗談を言っているだけと言う事である。
だって、自分が目の前にいる最高神の妹だったと聞いて、それをすぐに信じられる訳がない。
「いや、本当よ」
しかし、目の前の彼女はただそれは事実であると言った。
本当にそれが真実だとして、そうすると僕はゼニアスさんの妹――――神様だったと言う事になる。それも、男では無く女。
はっきり言って僕とはかけ離れた存在。
それに、僕の前世がゼニアスさんの妹だとするなら……ゼニアスさんの妹は既に亡くなっていることになる。
それに神様が死ぬ事はあるのかという疑問はあるが、僕とゼニアスさんは何とも複雑な関係にあると言う事になってしまう。
それが事実だったとして、僕には何も言えない。
何故なら僕にゼニアスさんの妹の記憶があるわけでもなければ、彼女の言った事に対して半信半疑なのだから。
「あれ、そこまで驚かないの?」
そんな状態を察したのかゼニアスさんはそう言った。
――いや、彼女の場合、ただ僕が思っていたよりも驚かなかった事を疑問に思っただけかもしれないが。
とはいえ、僕も驚いていないわけではない。ただその話に対して何と思って、何と言えば良いのか分からなかったから固まっていただけだ。
だから、僕はその旨をゼニアスさんに伝えた。
「あぁ、ええっと……別にそこまで気にしなくて良いよ、私の事は。
それに、さっき妹とは話をしてきたから」
「話をしてきた……?」
『話をしてきた』と言うのは恐らく比喩ではないだろう。
ただ、その『話をしてきた』という言葉のままの意味が理解できない。
「それって、どういう事ですか?」
「そうだね、さっきのは少し言葉足らずだったよね。
簡単に説明すると、翔くんの中に実は妹の記憶というか……翔くんにも分かりやすく有り体に言うなら、魂が入り込んでいるの。
だから、今翔くんと話す前に一度妹だけを起こして話をしたんだよ」
――僕の中に、ゼニアスさんの妹が!?
思わず口に出して叫びそうだった。
しかし、そうなるとゼニアスさんの妹は完全に消えた訳じゃないと言うことか。
そこは、話を聞いている僕としては一安心だ。
それに、変に気をつかう必要もないと分かって良かった……。
「そうだったんですか。……少しホッとしました。
それで、やっぱり僕の前世がゼニアスさんの妹っていうのは重要な事なんですか?」
ここにきてゼニアスさんがこれを話したのも、何かあっての事だろう。だから、少しそこについて質問してみる事にした。
すると、やはりと言うべきか……ゼニアスさんから帰ってきたのは肯定の言葉だった。
「そう、実はあの世界があそこまで酷い状態になってしまったのは妹が関係していてね。
……実はあの子、管理神っていう世界を管理する――――要するに、世界に乱れが起こらない様に良い状態を保ち続ける仕事をしてたんだよ。だから――」
「――ゼニアスさんの妹さんがいなくなった事で魔族と人族の間で争いが起こる様になり、それを止める事ができなかったと」
なるほど、あの世界の状況にはそんな事が関係していたのか。
「ええ、だから翔くんにはあの世界を救うか助けるかをしてもらいたいの」
――え、今なんて?
『救う』か『助けるか』……ってどう言う事だ?どっちも同じ様な意味じゃ?
というかそれより――
「まるで、僕がどうにかする様な言い方じゃないですか?」
僕の命はもう終わったはずだ。
ゼニアスさんの話を聞く限り、僕はこのまま消されて後に残るのは彼女の妹の魂だけ――っていうのがセオリーじゃないのか?
「あれ、言ってなかったっけ?翔くんは消さない。生き返ってもらうことにしたの。
……あの壊れた世界をどうにかする為に、ね」
「なっ……」
ゼニアスさんの言葉は簡単に僕の考えを壊した。
彼女は確かに言った。――『生き返ってもらう』と。
それを聞いた瞬間、僕の頭の中にある想いが浮かんだ。
――まだ、もう一度やり直せる。
「やらせてください。……僕にはあの世界でやり残した事がある」
それは、もう一度燃え上がった後悔と決意だった。
「もちろん。それで、世界を救うのか助けるのか、どうする?」
さっきも思ったけど、それってどっちもほぼ同じ意味では?
違うものと言ったら――――文字、とか?
「すみません、救うと助けるの違いって何ですか?」
「文字が違うわ」
「えぇ……」
まぁ、こういう展開も予想できていたけど――――ゼニアスさんの性格的に。
「待って、そんな顔しないでっ!ちゃんと違いあるから!」
「は、はぁ」
あまりにも必死に弁解するものだから思わず驚いてしまった。
いや、驚き呆れたというべきか。
なんていうか、ゼニアスさんって最高神の様には見えないんだよなぁ。
だから、彼女の言葉も嘘っぽさが抜けない。
そう思って魔王さんの方を見ると――こちらも何とも言えない表情をしていた。
魔王さん、分かるぞその気持ち……。
僕が頷くと、魔王さんも頷き返してくれた。
と、僕と魔王さんが謎の共鳴をしていたところで、ゼニアスさんは頭の上に疑問符を浮かべながら話し始めた。
「絶対信じてないでしょ……。
まぁいいわ、それで救うというのは魔族と人族との仲を取り持って世界を元の状態に戻す事。
助けるというのは世界の意思を助ける――即ち世界の代わりに人族を滅ぼす事。……分かった?」
「は、はい」
――まさか本当に違いがあるとは、失礼だけど思っていなかった。
それにしても、世界の意思――要するに世界から人族は要らないと思われているという事でしょ?
流石にもう人族はダメなんじゃないか?
――勇者としては世界を救ったほうが良いんだろうけど、僕はもう勇者じゃない。
それに、異世界から来た勇者である事を証明する称号を持っていても、本当の勇者ではない。
それに、人類は越えてはいけないラインを越えた。
――なら、最早迷う必要などない。
「……僕は世界を助けたいです。今まで起こったことの話を聞いてきて、人族に何の罰も無いなんておかしいと感じたんです」
僕はゼニアスさんにはっきりとそう伝えた。
人族の敵になろうと構わない。元よりそのつもりだったし、そうする覚悟があった。
「そう……。うん、分かった。覚悟があるなら大丈夫、安心して翔くんに任せられるよ」
「ありがとうございます」
――ミサさん……どうやら約束を果たす事ができそうです。
「さて、そうと決まれば早速行きますか!」
「……行くって、どこにですか?」
「もちろん、あの世界にだよ」
「なっ……!?」
まさか、そんなすぐに行く事になるとは思ってもいなかったので露骨に驚いてしまう。
というか、どうやって行くのかも分からないのだが。
「……もう行くというのは分かりました。でもどうやって?」
「そこら辺は後で準備できたら教えてあげる。――逃げられたら困るし」
――――今ゼニアスさんは最後に何と言った?
声が小さくてよく聞こえなかったが、何か物凄く心配になる様なことを口にしなかったか?
――ゴクリ
ここまできて『やっぱり無理です』なんて言えるわけもなく、僕は最後の覚悟を決めた。
――この日、かくして人族の運命は一つに決まったのだった。
そろそろ転生しそう!




