おお勇者よ死んでしまうとは情けない
「――と、そんなこんなで今に至るわけです」
かれこれ二十分は話をしていただろうか。
僕はやっと、目の前に座る魔王さんにこれまでの経緯を話し終わった。
と、話終わって一旦落ち着いたところで僕はある疑問が浮かんだ。
――ここは一体何処なんだろう。
さっきまでは特に気にしてはいなかったが、周りを見回してみればどうやら応接室らしい場所にいる事は分かった。
……だけど、僕は魔王さんの魔法のせいで完膚なきまでに消し飛んだ筈だ。
魂のような存在が死んだ後にやってくるような場所にいるのは確かだろうけど……それにしても、それが応接室というのも少し変だ。
それに僕はふわふわのソファーに座らされているし、それに目の前のテーブルには暖かそうなお茶が置かれている。
――何この高待遇。
人からここまでもてなされたのは生まれて初めてだ。
……いや、死んでいるから生まれて初めてという言葉は果たして有効なのかは置いておいてね。
それにしても、僕は自分でも驚くくらいこの状況に冷静だ。
自分が死んだというのに、こんな魂的な存在と化しているのに……全く焦りや驚きのような感情が湧いてこない。
いや、全く湧かないと言ったら嘘になるけど、それでも殆どそういう感情は感じていない。
……ただ、今感じているのはそんな事よりも魔王さんのことである!
どうやら最後のあの魔法。アレは魔王さんが制御をミスって爆発させた様なのだ!
本来なら爆発させる気なんかなく、実際のところは僕を殺す気はあまり無かったらしいのだが――本人曰く『事故』で、二人仲良くお陀仏してしまったらしい……。
魔王さんも魔法が斬られて消されたなんて事は初めてらしく動揺していたらしいが、そんな事関係ない!
はぁ……勇者として死因が事故ってどうなのよ。
全く名誉でも何でもない、ただ恥ずかしい死に方をしただけじゃないか。
あんなにイキって王宮を飛び出した――飛ばされたともいう――のに、何の成果もあげられずに死んだなんて……本当に自分が嫌になる。
でも、それもこれも悪いのは目の前にいるこの魔王さんだー!
許さん、許さんぞーー!
「おいおい、そう怒るなよ……」
と、僕の怒りを察したのか魔王さんがそう言ってくる。
しかし、その言葉は逆効果。僕の怒りをさらに逆撫でするだけだ。
「そうは言っても、やっぱりあの一戦には僕の将来がかかっていたわけですし……」
「それに関しては本当に悪いと思ってる。……というか、俺も死んだわけだしそれで手打ちにしてはくれないか?」
「魔王さんが死んだからといって、死んでしまった僕には何もいいことはありませんよ!」
「いや、今頃魔王を倒した勇者として讃えられているかもしれないぞ?」
なるほど、たしかに。でも、結局僕は約束をちゃんと果たせていない訳だし……。
「やっぱり許せないです」
「そうか……」
魔王さんはそう言って少し落ち込んだ。
はぁ、でもまさかあの魔王さんが事故を起こすなんて……。
やはり、その道のプロにも誤ることもあるんだな。
でもこのタイミングで誤って欲しくなかったなぁ……。
僕は心の中でため息をついた。
――と、その時
「あのー、二人とも……聞いてる……?」
「へ?えっと……え?」
何処からともなく声が聞こえた。
え?この部屋には魔王さんと僕しかいないのに……って、魔王さんの隣に誰がいる!!?
よく見れば、魔王さんの隣に女の人が座っていた。
全く気づかなかった……。
「あっ……すみません気づかなくて。それにしても、気配を消すの上手いんですね」
「え?……気配を消してなんかないけど?」
――――ん!?
え、もしかして素でこれ?……もしかして失礼なことをしでかしてしまった?
「あっ、と。その、すみませんでした!!」
「え?なんか謝られた……?別にいいけど」
えっと…………これは、許してもらったということでおけ?
――ってそんな訳ないですよねー。
本当に無自覚なんですね……。
いや、これは隣に人がいる事を気にせずに僕と話していた魔王さんが悪い!うん、そういうことにしておこう。
僕はそう心の中で思う事にして、魔王さんに責任を押し付けた。……のだが、そんな魔王さんの口から信じられない言葉が飛び出た。
「うわっ、お前いたんだ」
――お前もかよ!?
魔王さん、隣に人が居るんだったら普通気づくよね?
……って、それは真正面に座っていた僕が言えた事じゃないけどさ。
――というか魔王さん、その人と知り合い?もしかして死後の世界で昔の友と再会的な?
いや、相手が女性の方だし彼女説もあるか?今はおじさんと女子大生みたいな感じだけど、昔死んでそのあと姿がそのまま変わらなかったとしたら…………うんうん、これは……ある、な。
「はぁ……二人とも聞いていなかったみたいだし、もう一度仕切り直して話すわ」
「あ、はい」
どうやら、もう一回話してくれるようだ。……申し訳ない。
――――というか、冷静になって見てみれば、目の前に座る彼女の顔には見覚えがある。
それも最近会った気がする。
そう、魔王さんと戦っている最中に………………あっ!!
記憶を辿って、そして思い出してしまい思わず驚いてしまう。
そ、そうだ。この人……魔王さんの使った魔法で現れた、大きな涙を落としていった女の人。
そう、《天泣の哀情》で出てきた人だ!?
あれ、そうだとしたら僕、今敵に囲まれてない?
やめてよ、死んだ後も痛めつけられ続けるとか嫌すぎる。
……イヤダ、オハナシ、キキタクナイ。ミンナ、コワイ……。
「だ、大丈夫?」
突然不自然に強張った僕を心配してか、女の人は少し心配そうにしていた。
なんとなく悪い気がしたので「大丈夫です」と僕が言うと、まだ心配そうにしてくれているが一応「そうですか」と言って話を始めてくれた。
「えーと、シオンは久しぶり。そ……そういえば翔くんとも久しぶりになるのかな?」
何故そこで疑問系?
……というか、魔王さんシオンって名前なのか。
やっぱり魔王っていうのが名前な訳ないし、あるとは思っていたけど分からなかったから暫定的に魔王さんと言っていたが、魔王さんが馴染みすぎてシオンと魔王さん、どっちで呼べばいいのか……。
……まぁ、今まで通り魔王さんでいいか。
というか、そこで久しぶりと言うって事は――
「やっぱりあの時のって……」
「……私です、ね。
……ご、ごめんなさい!許して!何でもするから許してくださいお願いします!!」
今何でもするって……?
――――とはいえ、あの魔法のせいで痛い目にあったとはいえそこまで責めてないし別にいいかな。
悪いのは全部魔王さんなわけだし。
それに、この人優しそうだし……。
「いいですよ、そんなに謝らなくて。別に恨んでいる訳でもないですし」
「ほんと……?ありがとう!やっぱりそうよね、悪いのは全部シオンだもんね!いやーよかった」
「今聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんだが。……俺も確かにあれはまずかったと思ったけどな。まあ、お前の生命力がどうかしてるのが悪いからそこは割り切ってくれ」
僕は、このまま謝り続けられるのも良くないと思ったので、ちゃんと怒ってない事を伝える。
すると、彼女は物凄い変わりようで魔王さんに責任を押し付けた。
――手のひらクルクルやん……。
というか、魔王さん。割り切ってくれと言われてもそうはいかない!地面を溶かすレベルの攻撃は流石にやりすぎです!
「とは言っても、やっぱり割り切れないよね……。
シオンもちょっとは反省して謝ったらどう?」
「俺だって反省しているさ。
……というか話がずれていないか?元々この話をしたかったのなら良いのだが」
「あ、確かに!話を戻しましょう」
あ、魔王さん逃げた。それに貴女も引っ張られないで……。
見事なまでに話を逸らした魔王さんを見て、ついそう思ってしまった……のだけど
「え?あっ、しまった!ほらシオン、しっかり謝って。逃げようとしたって無駄だからね!」
「え?」「は?」
突然魔王さんに上手い事逃げられた事に気が付いたのかそのように言った。
しかし、それがあまりに突然だったので、僕と魔王さんは同時に思わず声を出してしまった。
「なんだと……いつもなら簡単にそらせるのに」
「??」
魔王さん、それ言っちゃいけないやつ!本音漏れてるって!女の人はなんか分かってなさそうだけど、それ気付かないといけないやつだから!
「!!?私って実はシオンに話をいつもそらされていた!」
――!?
また、ギリギリで気づいた!
でも、さっきといい何かがおかしい。何か違和感がある。
「な……お前今日どうしたんだ?いつもより感が鋭くなっているだと。まさか変なものでも食べたのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど……」
――――そうか、もしかして……
「あのー、もしかして僕の心を読んでます?」
「………………バレた?」
僕の質問に女の人は肯定の意を返した。
やっぱりか……。
「なるほど、だからいつもと違うわけか」
「…………はぁ。それ、僕としてはやめてもらいたいんですけど」
なんかプライバシーを侵害されている気がして嫌なのだ。
というか、こうやって考えていることが相手に筒抜けって、少し変な気分だし。
というか今更だけどそれどうやってるんだ?やはり魔法とかなのか?読心術だとしたら怖すぎる。
何もしていないのに相手に気持ちを読まれてしまうという……。
「えーと、話を戻します!!」
「えぇ……」
今度はそっちが逃げるのかよ!いや、もうバレてるんだし、こっちも嫌がっているんだから良くない?
「良くない!翔くんの心を読めなくなるのはダメ!」
え、物凄く反対されたんだけど。何故そこまでして人の心を読むし!
「話を戻しますよー」
「はいはい、分かりましたよ……」
この人には何を言っても無駄だと悟り、僕は反抗する事を諦めた。
「……じゃあ先ずは自己紹介からしましょう。私のことは何も知らないだろうし」
「あ、はい」
「私の名前は……ゼニアス、18歳。生まれは神界、育ちも神界の最高神だよ」
あれ、生まれが神界?じゃあ魔王さんとの恋人関係説は違かったのか。……というか、今とても大事な事をさらっと言われた気がする。
たしか――――最高神?
……この人、ゼニアスさんって最高神だったのか!?
そんな人が人のプライバシーを侵害してくるとか、ダメじゃないのか?
「……最高神というのがどれくらい凄いのか分かりませんが、文字通りだとするなら、神様のトップであろう神が神の力?を使ってまで僕の心を読むってどうなんですか?」
「うっ、……大丈夫。問題ない」
問題大有りなんですが!?
「……流石にそれは問題あるだろう」
「やっぱり魔王さんもそう思います?」
良かった、常識のある人がいて。
魔王さんの言葉に思わずホッとする。
「うぅっ、二対一って酷くない?」
すると、ゼニアスさんはそのように嘆いたけれど……
「正直に言うと酷いです。僕もされてきましたから。でも、僕のに比べたらまだマシですよ?」
多対一でボコボコにされるなんてよくある事だ。それに、暴力を振るわれていないだけ今の状況はまだましと言える。
あの頃は僕はどうして誰も助けてくれないんだとよく思っていた。そして、最後には神様すら僕を助けてくれないのかと絶望していた。
今思えば変な話だ。誰かが助けてくれるなんて思っていたのだから。
「うっ…………。分かった。分かりました。心を読むのはやめます……!だから許して、お願い」
「??……え、はい」
どうしていきなり心を読むのをやめてくれたのだろう?まぁやめてくれるのならそれに越したことはない。
「じゃ、じゃあ話を戻すね……」
「あ、ああ」
「はい」
なんか、ゼニアスさんの元気がなくなった気がする。何か僕が悪い事をしてしまったのだろうか?そうだとしたら少し悪いな。
「えーと。私が翔くんに話をしなくちゃならないのは、君がこの後どうなるのかについて」
「あ、僕もそれについて少し気になっていたんですよ」
死後の世界で一体僕はどうすればいいのか?全く謎だったから。教えて欲しかったところだったんですよね。
「そう?なら良かった。それじゃあ先ず、話をする上での前提なんだけど、勇者の存在する意味って分かる?」
勇者の存在する意味?たしかあの、あの国王が言っていた気がする。たしか……
「邪悪な魔族達から人族を守る。そして、悪の根源たる魔王を倒す。みたいな事だったと」
ゼニアスさんは僕の言葉を聞いて、少しため息をついた。ゼニアスさんの隣に座っている魔王さんも少し顔を顰めた様な気がする。
その態度を見て、どうやら自分の認識が間違っていそうな事は察したが、一応聞いてみよう。
「もしかして、間違っていましたか?」
「全く、一ミリも合ってない。…………でも、それはしょうがない事ね。
はぁ、やっぱりそっちではそういう考え方なのか……」
一ミリも合ってない?そしてしょうがない?
……地球にいた頃のイメージでも、魔王というのは悪い人というイメージだったけれど。一体どういう事なんだろうか?
「ねぇ、やっぱり翔くんが何を考えているのか分からないから教えて欲しいんだけど……ダメ?」
少し考え込んでいると、またゼニアスさんはそのような事を言い出した。
まだ諦めて無かったのか……!?
はぁ……。どうしてこの人はそこまで僕の心を読みたがるのだろうか?
やはり、一度しっかりと言っといたほうがいいかな……?
「ダメです」
「やっぱりダメか……」
僕の言葉を聞いて、ゼニアスさんは少ししゅんとした様な気がした。
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