ドキドキ!ワクワク!異世界転移!
短めです。
このお話の内容は元作品の幕開と同じ所までです。
いやぁ、まさかあそこまで罵倒されるとはね。
あれは思わず自己嫌悪が発動するくらいには効いた。
クリーンヒットだ。
衝撃を和らげるために心の中で少しふざけつつ、一応周りの様子を伺ってみる。
異世界転移だなんて聞いて嬉しがっているのはほんの数人。
後は大体状況が分からずに困惑しているか、場の空気に身を任せている感じだ。
それも無理ない話だ。
あんな話を簡単に噛み砕ける訳がない。
でも、向こうの世界――異世界についての認識は、ラノベとかでよく聞く様なもので合っているそうだ。
それと何故僕たちが選ばれたのかというと、どうやら先生は色々な国を回った結果日本はそういうラノベやアニメなど、所謂オタク文化が浸透していて向こうに慣れやすそうだから選んだらしい。
そして、その中で学校という場所はその文化の影響を大なり小なり受けている子供達が集まっているから丁度良かったとの事だ。
因みに僕たちの学校、クラスが選ばれたのは偶然だそう。
まぁ、なるほどなぁ……って感じだ。
そんな感じに僕は自分なりにさっきの先生の言葉を整理していると
「……全員行ってくれるという事でいいか?」
先生がそう言った。
確認を取ってくれるのは優しいなぁと思う。
「はい!」
まぁ、先生も策士だ。
やはりと言うべきか、この年頃の少年に何を言っても『行かない』とは言わないだろう。
どうせ先生の本音は、何故僕らを狙ったのかといえば僕らは夢見がちな歳であり、簡単に勧誘でき、騙しやすく、クラスの決定権を握っているのが楽で楽しい事が大好物な奴だからだろう。
初めから計画されていた訳だ。
だって、何万もある学校やクラスの中から僕たちが偶然選ばれたんだと声を大にして言うなんて、胡散臭すぎる。
つまり、全て先生の思い通りという訳だ。
クラスの決定権をアイツらが握っている以上、僕にどうこう出来る問題じゃない。
「よし、じゃあ早速転移の準備をするぞ」
「おー! きたーっ!」
僕が色々と考えている間にも話は進んでいく。
さて、僕一人で逃げないのかみたいな事を思われそうだから先に断っておくが、僕自身、異世界に興味が無いわけではない。
なんだったら行ってみたいとまで思うくらいだ。
だけど、正直言って日本という温室でぬくぬくと育った僕たちからすれば異世界なんてきっと危険過ぎる所だろう。
しかも、勇者になって最前線で戦えと。
そういう、命の危険を考えたら異世界なんて行かなくてもいいなと思う。
だから行かないでおこうとしていたのだけど、あんな風に反発されたし、僕だけここに残れば面倒な事になること必至だし。
そんな風にいじめっ子達に反発できない言い訳をしつつ先生の方を眺めると、何やら黒板にチョークで模様を書いていた。
何かの芸術作品みたいに細かくて、幾何学的な模様が描かれていく光景に思わず目が奪われてしまう。
やっぱり、先生には人を惹きつける様な才能があるよなぁと先程から感じさせられてばっかりだ。
しかし、このチョークで描かれていっているものが魔法陣というやつだろうか。
地球にも昔魔法だとか魔女だとか、そう言ったものがあったと言う話を聞くことがあるが、こうして今その一端が描かれていると言うのに何故かあまり実感は湧かない。
やはり、僕も突然の事にあまり頭が回っていないのかもしれない。
頭の中でぼんやりとそんな事が思い浮かんで、消えた。
正直言って、こんな変な状況を理解しようとする方が間違いなのだ。
僕だって理解した様なつもりでいるが、其の実何も分かってはいない。
これからどういう所で、何をして、どう過ごしていくのか漠然としか聞かされておらず、想像もつかない。
でも、流石の僕でも何となく察しのつく事はある。
僕たち子供を勇者に選ぶ理由。
さっきも考えたようにどうせ碌でもない理由なんだろう。
社会的に弱い立場だから扱いやすいだとか、報酬も安くて済むだろうとか、基本的に無知だから何か吹き込めば思い通りに動いてくれるだろうだとか。
――――そういうのは、考えすぎだろうか?
まぁ、いいや。
そんな考え事もそろそろ意味がなくなりそうだし。
これでみんなが苦しめばなんであの時反対しなかったんだと笑ってやればいい。
僕は黒板に描かれた魔法陣(仮)が完成したのをみて、そう思った。
細かく、複雑で、まるで一つのアートなんじゃないかと思うほど綺麗なそれを描いた本人である先生は、少し疲れたのか『はぁ……』と一つ深く息を吐くと
「じゃあ早速で悪いが、全員準備はいいか?」
『はーい!』
先生の呼びかけに、クラスの大半はいつに無く大きな声で返事をした。
いつもの授業でもそんな態度なら先生も困らないだろうに。
心の中で少し嫌味を零しつつも、先生の方に向き直る。
先生はクラスメイト達の反応を見て、どうやら実行に移す事に決定したらしい。
先生は教室の後ろの方の席の僕にも分かるくらい大きく深呼吸をして、何やら声を出し始めた。
声、と言っているのはそれが意味を持った言葉なのか分からないからだ。
でも、全く知らない言語で作られた言葉を紡いでいる感じはした。
ただ、それでも思わず聞き入ってしまう何かがあった。
上手く言い表せないが、単語と単語が綺麗に結びつき纏っていく感覚を感じたのだ。
そして、黒板に目を向けると、先生の声に反応する様にチョークで描かれた魔法陣が白く光を放っていた。
――この時点で、やっぱり夢を見ているのではないかと思って目を擦ってみたりなんかしたが……当然覚める事はなかった。
つまり、紛れもなくこれが現実だという事だ。
先生の言葉を信じきれていなかった人達はこの時何を思ったのだろうか。
それは分からないが、側からみれば正に空いた口が塞がらないといった感じだったことだろう。
そんな事を考えている内に先生の詠唱の様なものも終わりが近づいてきたのか、黒板から発せられる光は直視できないほどにまでなり、思わず下を向くといつの間にか教室の床全体に大きな魔法陣が浮かび上がっているいるのを見つけた。
いよいよ、ってことかな。
僅かに感じ始めた浮遊感を前に、漠然とそう感じた。
今朝、登校する時はまさかこんな事になるだなんて夢にも思わなかった。
本当に不思議な事だ。
人生何が起こるか分からないと言うのは本当にそうだったんだなと肌で感じた。
もっとも、そう言っていた誰かもこんな事が現実に起こるなんて想像していなかったことだろうけど。
その時だった、教室中が全て眩い白に染まって……フッという浮遊感を感じた時にはもう――――僕らはこの世界には居なかった。
タイトルが長いので、幼女に転生から文字を取って略称は『ろりてん』でおねがいします。