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予定調和

一時間、間に合わなかった……ってコト!?

「ッ……!!」


 その痛みに思わず声を上げそうになるが、歯をくいしばってその痛みを、叫びを堪えた。


 毒の雨だと思っていたけれど、本当はそんなものじゃなかった。そんな甘優しいものじゃなかった。


 雨粒が落ちた箇所を見てみると、そこにあったのは穴、そしてその周りに広がる黒く変色した手。


 手に力は入らず、ただ痛みが広がっているだけだった。


 手は溶けて穴が空き、周りは炭化して黒くなった。と考えられる。

 上を見てみると、天井代わりにしていた岩の壁は所々穴が空いており、そこからさっきまで真っ暗だった部屋に幾筋もの光が差す。


 ――一体どんなものを使えばこうなるのか。


 それにしても、痛覚弱化があってこの痛みか……。少しでも気を抜いたら気絶しそうなくらいなのに、一滴でこれかよ。


 依然外からは雨の音が聞こえてくる。だが、少し勢いが弱まった気がする。片方の耳しかないからまだ外はかなりの雨なんだろうけど。


 もうすぐ30秒。酸の雨が岩の壁を貫通して来ているのでかなりの威力であることが窺える。つまり、当たりどころが悪ければ一撃で死ぬこともありうるということだ。


 幸い岩の壁を突破するには何粒かが同じ所に当たる必要があると思われるのだが、それでもこうして何粒も当たっているわけだ。なので早く止んでもらいたい。


 僕は魔王さんに勝たなければならないから。


 ……想定以上に早い、早すぎる対決。それでも勝たなければならない理由がある。


 それは王国、そしてクラスメイトに一矢報いる為。……そして、その先にある目標、ミサさんを殺し、僕をも追放した王国を潰すという復讐を果たす為!


 その為に、僕は今ここで戦っている。


 そう、魔王さんを倒す事は僕のゴールではない。目標への一歩目に過ぎないんだ。


「くっ……!!」


 また、雨粒が岩を貫通し僕に落ちる。当たった箇所は右足の足首の辺り。


 ――一定値以上の痛感を確認


 ――痛感弱化Ⅲが痛感弱化Ⅳに変化しました


 このタイミングでの痛感弱化の強化はナイス!これで色々と考えることができるようになった。


 まあ左手と右足を殆ど使えなくなってしまったことはどうしようもないけど。


 治癒魔術とかであればこれくらいの傷すぐ治るのだろうが……。

 無いものねだりをしていたって何も起きない。なら、この状況で出来ることを考えるべきだ。


 努力すること。それがとても大切な事だということを僕は経験し、学んできた筈だ。


 僕はこの状況で出せる、何か新しい手はないかと考える。

 そして、一つの考えが頭に思い浮かんだ。


 そうだ、試してみたいことがある。やってみよう。


「ステータスオープン」


 ――――――――


 ヒノ カケル(13) Lv.4


 種族:人  性別:男

 職業:-


〈称号〉

 異世界からの来訪者

 神の祝福


 HP 559300/562500(750)

 MP 22500/22500(150)

 ATK 3600(60)

 DEF 4900(70)

 AGI 4225(65)

 LUK


〈スキル〉

 常時発動(パッシブスキル):被ダメージ軽減Ⅲ

      痛覚弱化Ⅳ

      精神負荷軽減Ⅲ

      棘耐性Ⅰ

      刺突耐性Ⅰ

      感知Ⅰ

 任意発動(アクティブスキル):《切断(ザイン)

      《滅魔の覇気(デモラルオーラ)》(発動中)


〈所持品〉

 神の願い箱


〈装備品〉

 鉄の籠手

 鉄の肩当て(破損)


 ――――――――


 僕の言葉に反応して目の前にウィンドウが現れる。


 ――別にこのステータスを見てどうにかしようという訳ではない。


 あ、増えている耐性は昨日の部屋で何かできないか試したところ手に入れた耐性たち。結構これを手に入れるのはキツかった。あんなに酷い目にあったのに獲得した耐性がたったこれだけ……。


 心がポッキリ折れるところだった……。


 と、そんな事は置いておいて……僕は、ステータスではなく、このステータスウィンドウそのものを使ってどうにかこの状況を切り抜けようと考えている。


 あまり触れてこなかった事だが、実はこのステータスウィンドウ……触れることができるのだ。

 要するに、モノは透過しない……そこに存在しているという事。


 耐久性に関しては未知数だが、殴っても砕けない所を見るとかなり硬そうだ。


 これで頭を守れるかもしれない。そう思いステータスウィンドウを頭の上に持ってくる。


 ――――と、その時……周りから聞こえていた雨の音が止んだ。


 んー、んーー。なんかしっくりこないけど、よかった。これで一安心だ。


 よし、心を入れ替えていこう。


 取り敢えず、天井代わりの岩をどかす。すると、陽の光が僕の目に差し込んでくる。


 うっ、今まで暗いところに居たからか外が眩しい。


 …………っと、おさまってやっと外を見れるようになった。



 一体外はどうなって――――え……?


 あの雨の影響でさっきまでいた場所が、まるで変わっていた。


 まず、目に飛び込んできたのはコロシアムだった()()

 結界で覆われていた筈のコロシアムが……その原型を留めておらず、悲惨な状態になっていた。

 さっきまでいた観衆は、いない……というか跡形もなく溶けて無くなっているのかもしれない。

 悲鳴が聞こえなかったのは、即死したから……なのか。


 まるで痛みをも感じさせずに殺す事が慈悲であるかのように。あっさりと全てが溶けて消えてしまっていた。


 雨の影響はそれだけに留まらず、地面までもが痛々しい姿になり、とてもその上を歩けるような状態じゃなかった。


 しかし、岩の壁のあるところだけは比較的軽い損傷で済んでいる様子。長年雨に打たれ続けた石のような形になっている。


 それは、多分魔王さんの魔力を込められていたから。

 魔王さんの魔力により補強されていたからこそ、あの程度の損傷で済んでいる。


 ――どうやら僕の取った咄嗟の判断は正しかったらしい。


 やはり、魔王さんはしっかり魔王をしている……ということか。


 ――――ところで、魔王さんは何処だ?周りを見渡してみても見つからない。


 不思議に思い、より一層集中して周りを見回す。そして視線をコロシアムの観客席だった所へ移すと、魔王さんがいた。


 しかし、おかしな事が起こっていた。


 魔王さんはそこで、僕ではない誰かと戦っていたのだ。


「あの人……誰だ?」


 一応距離は取りつつ観察してみる。


 魔王さんは何処からか一振りの大剣を取り出し、戦っている。もう一方の黒のフードをかぶった人物は細身な黒の剣を使い戦っている。

 

 しかし、ただ単純に剣の勝負という感じではなく、魔王さんは多彩な魔法を駆使して自分が相手の間合いに入らないように相手を近づかせないようにし、隙を狙って決め手となるような攻撃を仕掛けている。

 

 が、黒フードの人もそれを鮮やかに受け流し、自分の間合いに魔王さんを入れようとしている。また、それだけでなく、魔王さんに距離を取られそうになると暗器をどこからともなく取り出しそれを阻止している。


 鮮やかな戦いだった。が、二人には決定的な実力差があった。


 黒フードの人よりも魔王さんの方が圧倒的に強かった。ステータス、経験、武器、攻撃の威力……全てにおいて魔王さんの方が黒フードの人を上回っていた。


 それでも互角……いや、魔王さんが押されているのは僕が居るから。


 僕としてはこの戦いに介入する気はない。あの中に入ったら絶対に死ぬと断言できる。しかし、強制的に巻き込まれてしまっているんだ。黒フードの人のせいで。


 そう、僕は黒フードの人に暗器や魔法を飛ばされて、攻撃をくらいそうになっている。が、魔王さんがそれを抑えている感じだ。


 僕には何もできないから。魔王さん頑張れとしかいいようがない。

 しかし、魔王さんも僕を守りながらだと流石にきつい様子。


 魔王さんがなぜ僕を守ろうとしているのか分からないけれど、自分を不利にしてまで守る必要があるということだろうか。


 僕的には魔王さんがやられてくれてもいいんだけれど、黒フードの人が魔王さんを倒した後何をしてくるか分からない以上、僕を助けようとしている魔王さんにどうにかしてもらうしかない。


 敵に守られるとか、勇者という立場的にどうなんだとは思うけれど……この際しょうがない。


 失った片耳に誓って、あいつらを見返す為絶対に魔王は倒す。けれど、それは今じゃない。それだけだ。


 魔王さん、お願いします。程よく傷つきつつその黒フードの人を倒して下さい。


 そんな事を考えていたその時、何かを決心したのか一つ頷いた魔王さんは、黒フードの人の放つ攻撃をかわしながら――


準神階位魔法ウルス・ゴッツ・オブ・タウト神炎滅却(ゴルファイシトス)》」


 ――と、唱えた。


 その魔法によって現れた炎の塊は、黒フードの右肩を惜しくも掠め――――僕に向かって飛んできた。


「は……!?」


 そして、僕が咄嗟に避けようと全力で足を踏み込んだ時、全てを燃やし尽くすような赤い火球が僕を包み込んだ。


 出しっぱなしにしていたステータスウィンドウを見ると、HPがもの凄い勢いで削られているのが分かった。毎秒約30000ダメージか……。こんな企画外なダメージでも、企画外な僕の耐久力ならあと45秒は耐えられる。


 ――でも、あと45秒で何ができるっていうんだ。


 ……やり残したことを終わらせることができる?そんな筈はない。

 それに、最後に気持ちを伝えられる人が僕にいるはずもないし、笑顔にさせることのできる人も周りにはいない。


 何もできないじゃないか。


 なら――――まだ、生きる手を考えてみてもいいかもしれない。


 体は今まで感じたことがない、ありえないくらいの痛みに悲鳴をあげているし……熱によって肉が焼かれ、溶けて……このままだと確実に死ぬ。


 だが――この獄炎の中でも相変わらずステータスウィンドウは触れることもできるし、掴むこともできる。


 ――と、何か糸口を掴みかけたその時。炎に包まれた僕の身体の下に魔法陣が現れる。

 一瞬追撃かと思ったがいきなり白く発光したのをみてそれが間違いだった事を知った。


 これは、転移の光。魔王さんは僕がこの獄炎の中に身を包まれているうちに僕を転移させたい?何処へ?……いや、僕は知っている。魔王さんは僕を今、地球へ転移させようとしている。


 ――――それだけは、絶対にさせない!夢を、希望を、願いを全てここに置いて行く事だけは絶対にできない!


 ごめん、魔王さん。僕の為だろうけど僕はそれを拒むよ。やっぱり、こんな状況でもまだ諦めたくないから。


 目の前に出しっぱなしにしていたステータスウィンドウを右手で掴み、振り上げ、そして思いっきり振り下ろすっ!!


「魔法だろうがなんだろうが!全て切り裂いて見せるっ!!」


 力一杯振り下ろすと、そこに僅かな抵抗感を感じる。それをさらに意識するとどんどんと大きくなり、まるで鉄の塊を切っているかのような感覚を感じた。


 そして、全てを切り裂くイメージと、ありったけの力を注ぎ込んで、その感覚を斬る!


「セェアァァァァァァァッ――――!!」


 そして僕は確かな手応えとザシッッ!という音と共に炎、そして転移陣を真っ二つに叩き斬った。


 二つに割られた魔法はガラスが割れたかのようにバラバラになり散っていった。


 やった……!!


 咄嗟の思いつきが上手くいったようだ。このステータスウィンドウ、まさか武器にもなるとは……僕はステータスウィンドウの新しい可能性を見つけてしまったのかも。

 ……と、その時頭の中に声が響いた。


 ーー《感知Ⅰ》が《感知Ⅲ》になりました

 ーー《魔力感知Ⅴ》を取得しました


 ーー準神階位魔法の魔法破壊を確認

 ーー七世神より称号《常世之断人(トコヨノタチビト)》が贈呈されました

 ーー称号《常世之断人(トコヨノタチビト)》の獲得によりエクストラスキル【常断之一世(トコタチノヒトヨ)】を獲得しました


 何故か色々とスキルが強化された。他にも称号とかをゲットしたし。――それに、七世神って誰なんだ……?


 色々と気になる事があるが、今は魔王さんを倒すことに集中しなければ。

 油断している隙を彼が見逃す筈もない。


 おそらく魔王さんは次目眩し系のスキルを使ってくる筈だ。さっきの攻撃をまともに喰らったせいで僕のHPは残り少ない。しかも僕を転移させたいなら、目の前の黒フードにそれを見られてはならないからね。


 なぜなら、黒フードの人からしたら魔王さんに形勢逆転されることになるから。しかも、この戦いは一応どちらかが死ぬまで、というルールになっているしね。


 そんな感じで、魔王さんは僕を転移させる所を黒フードの人に見られる訳にはいかない。しかも爆発する様な魔法を使って隠すことも僕を殺したんじゃ元も子もないので無し。

 つまり閃光を使った目眩しの最中に転移を発動させるはず。


 そして、いきなり僕が消えるのはあまりにも不自然なので何かしらの攻撃魔法、しかもさっきのと同じかそれ以上のものを飛ばしてくるかも知れない。


 まともに食らえば、今度こそ間違いなく死ぬ。


 ならば、やられる前にやる!そうだよ、やられっぱなしじゃいけないよね。


 僕は気合を入れると、手に握ったステータスウィンドウを持って前へ出る!

 あまり手に馴染むわけでもない、とても持ちにくいのは確かだ。でも、やるしかない!


 気合充分!足に力を入れて、思いっきり前に飛び出す!

 ステータスの上がっている今、魔王さんの位置と僕のいる位置はあまり遠くはない。だが、足場が悪すぎる。


 先程作られたこの壁だけが足場として唯一信頼できる。こんな大事な時に敵の作ったものを頼るなんて……とは思うけれど、この際しょうがない。


 魔王さんのいるところまで足場に気をつけながらも勢いを落とさずに駆ける。飛ぶようなイメージで足場と足場を渡って行く。そして、距離は僕が攻撃するのに充分なほど縮まった。


 いまだ!今まで以上に足に力を入れて前に出る。そして、後ろによけようと飛んだ魔王さんを僕の突き出した得物が捉える。


「くらえぇぇぇぇ!!」


 魔王さんに僕の攻撃が見事命中し、魔王さんは吹き飛びはしないものの、ノックバックといった感じにはなった。


 ――体勢を崩した今なら!


 僕は又と無いチャンスに追撃をくらわせようと、先ほどまで魔王さんのいたところから思いっきり跳躍し、魔王さんに迫った。


 そしてまた、魔王さんに近づき思いっきり攻撃をしようとステータスウィンドウを振り上げる。


 しかし、魔王さんの前には赤色の魔法陣が――


「流石は勇者、この世界に召喚されて間もないというのにこの強さとは……それに、どうやらこの状況でもこの世界に留まっていたいらしい」


 そう魔王さんが言った瞬間、魔法陣がより一層赤く光る。


「ならば、変な情けはもうかけないことにする。……その勇気に免じて全力で闘うことにしよう。

 ――別にお前が予想以上に硬かったからではない。勘違いするなよ」


 そんな事を魔王さんがいうと、魔法陣はさらに赤く染まりだした。


 本気の攻撃がくる!そして、それを僕は耐え切ることができない。

 ――でも、その魔法陣も斬ってしまえば問題ない!


 さっき手に入れたスキル、すこし早いけど使う時が来たみたいだ。

 手に握ったステータスウィンドウをより強く握りしめる。


「今だ!【常断之一世(トコタチノヒトヨ)】!!」


 思いっきり振り下ろしたステータスウィンドウが魔法陣に当たり、一瞬で砕け散った。そして勢いそのままに魔王さんに迫る。


 これなら……!!


 ステータスウィンドウの先が魔王さんの首に届くか届かないかの距離まで迫る。

 だが、まるで時間が何百倍にも引き延ばされるかのような緊張感。


 その極限状態の中での競り合いを制すのは――――


「――すまないな。これだけは使わないようにしようと思っていたのだが……この際、仕方ない。

 ―――― 《星鳳拡爆燄波(スーパーノヴァ)》!!」


 魔王さんの言葉と共に、僕を囲うように数百もの魔法陣が現れる。

 そして、真紅に光ったかと思えば僕は既に真っ白な爆発の中にいた。


 これが、魔王さんの本気か……。まさか、こんなものを出してくるなんて。


 僕はこの魔法で死ぬ。……そう確信した。


 元々勝てるわけの無かった戦いだってことは分かってた。

 でも、ここまで気合いを出して生きてきたのは、やらなきゃいけないことがまだあるから。


 こんなに辛い経験をしてもここまでやってこれたのは果たさなければならない約束、そして僕の夢があったから。


 そうだよ……。


「ここまで生きてきた理由を、簡単に投げ捨てられるかあぁぁぁ!!!」


 まだ、死にたくないっ!!――全力でこの攻撃を斬り裂くっ!


「セヤァァァァァァ!!」


 魔王さんの魔法に思いっきりステータスウィンドウを叩き込んだ。

 そして、確かに膨大な魔力の奔流を断ち切る感覚が手元に伝わる。


 ――――が、やはりとでもいうのか、その最後の抵抗は定められた結末を変えることは出来なかった。


 エクストラスキル【常断之一世(トコタチノヒトヨ)】のおかげか、なんと魔法を斬り、消す事はできた。問題はその後、魔王さんの前に新しい魔法陣が現れているのが見えた。


 そして、直後魔法が発動した。

 ――その魔法はさっきまでの火の玉をとばすものとは違い、大きな爆発を起こした。


 その爆発は一瞬で僕を飲み込み、鼓膜を破り、大きな衝撃を与え、光と熱で目を使い物にならなくされ、意識が飛びそうな位の痛みを与えた。


 命が削り取られる感覚。


 ――――そうか、僕は死ぬのか。


 その時僕は遂に、完全に己の死を悟った。


 もう体は動かない。……これは、今までの僕の無茶のせいで既にボロボロだったので、当然の帰結だといえる。


 であれば、このまま痛みだけ感じながら死ぬだけだ。


 だけれど――――この期に及んでまだ諦めきれないのは何故なのだろう。後悔が溢れて止まらない。

 あの時こうしていれば、そんな考えばかりが頭の中を埋め尽くして……過去の自分を呪っているのは何故なのだろう。


 ――――ああ、そうか。僕は無くしたくなかったんだ。


 産まれてから今まで、僕は大切なものをいくつも無くした。

 時に理不尽に、強制的に、容赦なく……運命というものは僕から全てを奪っていった。


 だから、僕は最後に残った……この復讐という気持ちだけは捨てたくなかったんだ。


 だから、その為には僕はどんな事だってやった。

 魔族だって殺してしまったし……魔王さんも殺そうとしていた。


 ――いや、だからこそ僕は死ぬのか。


 人を殺すことは悪いこと。日本でよく教え込まれた道徳だ。

 それを破って悪いことをしたから……僕は罰を受けるのかもしれない。


 なら、僕はいつから狂ってしまったのだろうか。


 ――――どうしてこんな事になってしまったんだろうか。



 ○ ○ ○



 ーー日野翔の死亡を確認


 ーー規定通り魂を神界へ送り届けます

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