B級映画さながらの決闘
今年中に一章終わらなそう……(´;Д;`)
魔族領の中で経済にしろ流通にしろ中心にあるのは首都である、ここフィーデランテだ。
そして僕は闘技場らしき場所で魔王さんと向かいあっていた。
そう、まさに今ここで魔族の歴史に残るであろう闘いが始まろうとしていたのである――
と、かっこよく言ってみたものの実際のところそこまで大きな事ではなかった。歴史の一ページには流石にならないと思う。
でも闘技場が熱気に包まれている事から一大イベントである事は分かった。やっぱり勇者vs魔王ってのは興味を引くのかな?サメ対ワニみたいに。
魔族の方には申し訳ないけど、そんなB級映画みたいな闘技より僕は討議をしたい。話し合いで解決しましょう?
……無理ですか、そうですか。
僕は魔王さんの真剣な目線と、周りの観戦者の熱狂的に、それはできないのだとすぐに察した。
あー、お手柔らかにお願いします。
――さて、僕と魔王さんは大体十メートルほどの間隔を開けて立っている。そしてその真ん中から僕から見て少し右に審判の魔族が一人。
まだ試合開始の合図はされていないので相手を観察する。情報は多いに越したことはない。
僕が見て分かることはこの前とは違い魔王さんの身体からオーラを感じるということ。というか赤黒い湯気みたいなのが見える。これってやっぱり幻覚じゃないよね?魔法って凄いな……。
他には、魔王さんが武器を持っていないこと、素手という可能性はあるが、こんな世界だし魔法という手もある。
――ということは出来るだけ近くまで近づき、倒しにいくのが正解か?
あとは……分からん。鑑定とかいうスキルがあれば話は早いんだけど、生憎僕はそんなものをほいほい手に入れられるような主人公体質じゃないし。今無いものねだりをしても何も起きない。
と、その時、審判の魔族が腕を上げた。
――どうやら始まってしまうようだ。……よし、頑張ろう。こんな所で死ぬ気はさらさらないからね。
「では試合の説明をします。
武器は何を使っても構いません。また、魔法の使用も認められています。
尚、浮遊魔法、道具、翼などを使う等の飛行は禁止します。また、試合は何方かの生体反応が途絶えるまで続きます。
――――それでは、両方構えてください」
審判が淡々と説明を述べていき、そして、僕達に構えるように促す。
その瞬間、僕の体に緊張が走った。
そうか、やっぱり怖いという感情は抑えられないか。
ただ、もうここまで来てしまったんだ。ここで、魔王さんを倒すことができれば……あいつらを見返してやるには十分すぎる功績を得ることができる。
そうすれば、あいつらの努力は水泡に帰して――――少しは僕の気も晴れるというものだ。
そうと決まれば、やるしかない。
取り敢えずさっき考えた作戦でいこう。
力で勝てないなら、技巧と思考速度で上回るしかない。
僕はすぐに踏み出せるように体のバランスを調整する。
だが、裏で魔王さんにその動きを悟らせないように慎重に、顔にも態度にも出さない。
魔王さんはさっきのまま、全く動いていない様子。
だが、だからと言って僕のように準備をしていないとは限らない。……注意はしておくべきだろう。
さて、どうやら始まるようだ。
僕は一度深呼吸をして気合を入れる。
……よし、大丈夫。いこう!
「では、これより試合を開始します!」
審判が試合開始の合図をすると同時に、僕はすぐさま走り出した。
――そして、その直後……僕のさっきまで立っていた場所が爆発する。
全く、恐ろしい事をするものだ。
だが、その爆風の影響もあって魔王さんの元へ近づく勢いが増した。
このまま一気に近づいて――
――いや、違う。
「――《真珠極槍》」
「……ッ!?」
目の前に赤い魔法陣が現れたと思えば、その中心から青白い光の槍が現れて……ものすごい勢いで僕の方へと襲いかかる。
直前に危険を察知していた僕は、なんとか右へ飛び躱そうとするが――魔王さんの方へと向かっていた勢いを抑えきれず、結果的に試合前にもらった鉄製の肩当てを溶かし、その下の肉を焦がすことになった。
肩はまあまあ悲惨な状態になっていたが、どうやら動かす分には問題はなく痛覚弱化のお陰で痛みも少ない。
くそっ、それにしてもなんて威力だ。
後ろから吹き付ける爆風で分かる。あれは即死級の魔法だ。
魔王さん、使う魔法もやばいけど作戦もしっかりしている。
あえて初めに武器を見せずに、戦いが始まった瞬間にもともと立っていた場所をなんらかの方法で爆破……おそらく、そのまま立っているか、後ろに下がっていたら死んでいたのではないだろうか。
そして、僕が前に突っ込んできた瞬間、とてつもない攻撃を放つ。
爆風で押し出され、動きが鈍くなったところに当たるようになっているところがまた恐ろしい。
そしてそんな策士な魔王さんの攻撃がこれだけの筈もなく、当然のように追撃を放ってくる……はず。
ほら、やっぱり。
僕が地面に着地した瞬間、周囲の地面が盛り上がり……岩の壁が僕を取り囲む。
そして、僕の腕より一回り大きいくらいの棘が岩から生えてきたかと思えば――アイアンメイデンの要領で僕を殺しに、一斉に壁が襲いかかってくる。
真上以外の全方位からの包囲攻撃。
一応今の僕のステータスならば【滅魔の覇気】が無くても壁を飛び越えて回避することが可能。
――だけど、怖いのは空中に飛んでいる無防備な状態に攻撃を叩き込まれること。
ならば、壁を壊すしか無い。
ただ、岩を地下から地上に押し出してきた訳では無いと思う。
きっと何か魔法的な手段を使って壁を作っているか、もしくは押し出した岩を魔法で補強しているのだろう。
であれば流石に力だけじゃ無理がある。
よし、今こそ使う時か。
「―― 【滅魔の覇気】!! そして、《切断》!」
僕は岩の壁の……棘のない所を狙って拳を叩き込む。そして、それと同時に《切断》を発動して岩を割る。
ステータスが上がった状態なら、流石にいけるか!?
だが、そんな考えとは裏腹に拳は若干押し返されている。
とはいえ、僕の使った《切断》は岩を切るという本来とは違う使い方をした結果、穴を開けるとはいかないものの、岩に深い傷を作ることに成功した。
この調子で、と行きたいことだけれど。やばいな、魔王さんは待ってくれないみたいだ。
こうなったら、一か八か魔王さんの狙い通り上に抜けるしかない。
「とうっ!」
岩の上に飛ぶ、そして即座に周囲を確認。そして、どうやらこれで正解だったことを悟る。
さっきと同じような壁が三つ、僕が飛び乗った壁を囲むようにして作られていた。
これなら、岩を破った所で第二、第三の壁が現れて僕を殺そうとしてきた筈だ。
しかし、これで本当に正解だったとは言えない様なものが真上にあった。
観客達が空の方を指差し、動揺したような声を上げているのが耳に入った。それを疑問に思って上を見上げると、なんと文字通り天が裂け――――その隙間から綺麗な女性の顔が覗いていた。
「――《天泣の哀情》!」
そして、魔王さんの声と共に上にいる女性の目から涙が一滴落ちる。
だが一滴と言っても落とした女性があのデカさだ。相当な大きさである。
直撃したら、絶対に死ねるわ。あれ。
でも、結構な高さから降ってきているから、拡散して雨みたいな感じで降ってくるのか?
質量で叩きつけられたら最悪だけど、そうはならないと信じたい。
もし雨のよう降るのだとしたら、あの涙に何か仕掛けがあるのだろうけど。
毒の雨……とか。
本当に雨みたいに降ってくるならかなり悪質だ。
というか、広範囲攻撃なら魔王さんも喰らうのでは?
――と思ったら魔王さんの周りには結界のようなものができていた。
何それずるい。
というかこの攻撃、観客にも当たるんじゃないか?
魔王さん、貴方は人として駄目なことをしようとしてません?
僕の中で魔王さんの株価がどんどん下落していっているのですが。風上にも置けない様な存在になっている気がするのですが。
――あ、観客席が結界で覆われていく。
魔王さんのとは違う様だけど、この攻撃を防ぐことができるのだろうか?
まぁいいや。考えたって僕にはどうすることもできないし。
よし、現実から目を背けるのもここら辺まで。
正直あの攻撃を防ぐ手が僕には無い……と思う。
思い浮かばないからしょうがない。
――そして、あれを喰らっても生きていられるのかは不明。
じゃあ、喰らわないようにするしかない。
走って雨を全部かわすとかいう夢のような事はできないから――もっと強くなれば、この世界でならできるのかもしれないけど――あの攻撃を喰らわないためにできること、それは雨を何かで防ぐことだ。
何で防ぐかというと……魔王さんが作り出したこの岩の壁。
これを上手く活用して雨から身を守る。
幸い、さっきまでは僕を殺そうと襲いかかってきたこの壁も動きを止めている。
であれば、棘を見ないことにすれば雨から身を防ぐ事はできる筈。
そうと決まれば早速やろう、間に合わなくなる。
僕は第二の壁の一部を切り取って、最初に襲いかかってきていた壁の上へ乗せるという――はっきり言って荒技を取ることにした。
「――《切断》、《切断》、《切断》……!」
なんとかスキルを連打して壁を削っていく。
そして、【滅魔の覇気】によって強化されている馬鹿力で削り取った壁を持ち上げ、第一の壁の上へ乗せるように放り投げる。
僕はそれと同時にその中へ隠れる。
そう、こうする事で簡易的に雨を防ぐ家のようなものを作り出したのだ!
初めは僕を殺そうとしていたこの壁が、何故か僕を守ることに役立っているという謎な状況だが、それは気にしないでおこう。
それにしても、魔王さんはあの魔法を撃ってから全く動きを見せていない。
何か意図がある可能性もあるが……もしかすると、結界の発動中や、あの魔法を撃った直後は攻撃をすることができないのかもしれない。
――深く考えても無駄か。動かないというなら、ありがたく隠れさせてもらうだけだ。
と、そうしていると壁の外から弾けるように強烈な雨音が聞こえてくる。
観客の悲鳴は聞こえてこないので遅くは避難したか、無事なのだろう。
それにしても即席だけれど意外と上手くいったな。今のところ何も起きていない。続くとしてもあと30秒位だろう、それまで耐え切ってくれるといいのだけど――
――うん、流石にそんな上手くはいかない。所々で雨漏りしてしまっている。
雨漏りしてる所からは少し離れておくか。
そうして、少し後ろへ下がったその時――
「っ……!!?」
――雨漏りから降ってきた雨粒が僕の手の上に落ちた。
そして…………耐え難い激痛が僕の体を襲う。
審判の人はマイクに翻訳の魔法がかかっている為日野くんでも日本語に聞こえるようになってます。
魔王さんは普通に人族の言葉も喋れるし、なんだったら日本語も話せるよ!