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八面体の記憶

元小説でいうと、この話は15話あたりの内容です。

 何分後だろうか、口から漏れる嗚咽もようやく落ち着いてきた頃。

 僕はミサさんの近くに水晶のようなもので出来た八面体が意味深に転がっているのを見つけた。


 僕はこれを知っている。最近読んだ本に出できたものだ。――それも、彼に勧められた本に。


 この八面体は記憶の結晶体(クレアライトメモリア)といって、魔水晶とかいうもので作られている音声の録音と記録ができる道具だ。

 これは魔力を流し込むことで起動する。


 こんなものが意味深にここに転がっているという事は……もしかしたらこの中にミサさんの遺したものがあるかもしれない。そう思い、取り敢えずその八面体を手に取り魔力を流し込んでみる。魔力の流し方は最近教わったので上手くいく筈だ。

 そうして何か起こる事を期待して魔力を流し込んでいくと、透明な水色だった水晶が段々と赤みを帯びていった。


「成功……だ」


 この状態になったら、後は


「――《起動》」


 そう唱えるだけだ。


『起動を確認しました。録音データが一件あります。――再生しますか?』


 すると、日本語で水晶からそのような機械音声が流れ、色も元の淡い水色に戻る。どうやら、この記憶の結晶体(クレアライトメモリア)は、わざわざ日本語に設定がされていたようだ。

 だけどそんなことはどうでもよくて、今は


「もちろん、再生する」

『確認しました。音声を再生します』


 水晶の緑色に淡く光っている面に軽く触れるとそのように機械音声が流れた。


 これでミサさんの遺した音声が聞ける。誰に向けてなのかは分からないけど聞ける。

 息を吸って心を落ち着かせる。そして、一言一句全て聞き取れるように流れる音声に耳を傾けた。


『……何から話した方がいいのでしょうか? でも、まずは私に謝らせて下さい。これが私の一番届けたい人に届いている事を願って言います。本当にすみません、と。

 私にはまだ実感が湧かないけれど、貴方がこれを聞いてくれている時には既に私は死んでいることでしょう』


 一体いつこれを準備していたのかは分からないが、少なくとも前からこういう事になるのを予期していたという事か…………。


『私の死に涙してくれたなら、死んだ後の私としても嬉しい事です。大切に思ってくれてありがとう。そして、だからこそ……ごめんなさい。

 私は、実は殺されてしまう事は分かっていたのです。私は、異世界の者に対してとても弱い。勇者に、弱い。

 だからこそ、この機に私を殺そうとする事は分かっていました』


 そうか、この世界の住民では無く、違う世界の住民、つまり勇者なら……。

 気づけなかった。……いや、そんな事あいつらはしないと思っていたのか。


 心の底ではあいつらを信用していた? いや、そんな訳が無い。

 なら、きっと僕は……あいつらには人を殺す勇気が無いと思いこんでいた。


 しかし、実際は――――あった、のか。


『今更責めても遅いですよ? なんて酷なことは言いません。私は、別に貴方に気づいてもらいたかった訳じゃない。……貴方を傷つけたく無かった。なんて言うのは可笑しな話でしょうが、ただ、守りたかった。そこに矛盾なんて無い。私はそう信じています』


 …………。


『だって、貴方は強いから。私が一人居なくなった程度で躓いている様じゃ私のお願いは達成出来ないですよ? ……まぁ、命の危機にあっていることを伝え無かったのは、こんな私みたいな駄目人間の言うことなんかに縛られていないで自由に生きてほしい、というのが本音なんですけどね……』


『取り敢えず、この世界は貴方の思っている以上に恐ろしい場所。でも、その分楽しい事も沢山ある筈。

 少なくとも私の人生はそうだった。だから、落ち込まないで胸を張って生きなさい。そして、間違って死んでしまった時には、向こうで沢山励ましてあげます。

 ――話すことも話したし、じゃあ、そろそろお別れの時間。……また逢いましょう、気長に待ってるから。くれぐれも、間違えて死なない様に』


 彼の言葉は重くて、僕の心に響くものだった。


 分かっていたけれど、最後まで優しい人だった。……自分の言葉が、存在が、僕にとっての足枷になるんじゃないかと心配までして、こんなメッセージを遺してくれるほど優しかった。

 彼に対しては少し揶揄われたりなんかもしたけど本当に恩しかなくて、ああ、僕は彼に恩を返すことができたのだろうか。

 もう遅いというのは分かっているけど、何かを返したい。自己満足かもしれないけど、それでも――


「動くな!」


 その時、僕は背後から大声で突然そう言われる。

 あんな事があった後なので上手く頭が回らなかったが、なんとか振り向くとそこには……数人の兵士が立っていた。


 現場を見に駆けつけたのかとも思ったが、それにしては不自然だ。

 鎧を着ているのは良いとして、剣を抜いている。……周囲を警戒しているのか?


 ――――いや、そうか。


「お前を連行する。拒否権はない。少しでも変な動きを見せたら……どうなるか分かっているな?」


 僕の部屋の中に死体と、その近くには僕がいた。それだけで充分だ。

 でも、流石に納得がいかない。


「僕じゃないです。僕がここへやってきた時には既に……」

「そんな言い訳は無駄だ、こちらには証拠があるからな」

「証拠……?」


 証拠があるってどういう事だ? 凶器を僕が持っているわけでもなく、返り血も浴びてないし――訳が分からない!


 僕は戸惑いが隠せなかった。

 僕はやっていない。そう言っても信じてもらえそうもないし、無駄のようだ。でも、第一僕がやっていないのに証拠なんて出るわけもないし、そんなものでっち上げでもされない限りは無理だ!


 ――いや、まさか


 一度冷静になって考えてみる。さっき僕は何を考えた?

 やっていないのだから証拠なんて捏造でもされない限りは出ない。――まさか、嵌められた…………のか?

 そう考えると、どうして僕の部屋でミサさんが殺されたのかも自然と分かる。


「うそ……だ」


 ミサさんを殺したのは、彼の言うように、この世界の人が彼に傷をつける事ができないのだとすればクラスメイトの誰かと言う事になる。要するに王国の誰かがクラスメイトにミサさんを殺すように指示をして、その罪を僕に被らせるようにしたのか……?


 国ぐるみでこんな事……そんなの一個人にどうにかできる問題じゃない。どうすることも、できない……。


「自分の置かれた状況を理解したか? なら黙ってついてこい」


 兵士は僕にそんな事を言って、だけどもう僕には成す術なんかないことは分かっていて……そうして僕は手足を縛られ、強制的に何処かへと連れて行かれた。

 兵士のうちの誰かが『なんて酷いことを』だとか何とか言っていて、どうせお前らが仕掛けた癖にだとか考えたが、よく考えたら本当に知らないのかもしれない。

 ミサさんの事を考えれば、この事は一兵士が知っていい事じゃない。


 因みに彼の骸は兵士たちによって何処かへと運ばれていった。


 ”向こう”ではどうか幸せに……。


 そんな事を願いながら僕は兵士達に連れて行かれるのであった。

一応ですが、兵士さんは日本語はほとんど喋れないのでここ話しているのは一応この世界の言語という事になります。

翔くんはこの世界の言語をある程度勉強したから少しくらいなら分かるよ!


展開に関しては後々修正入れるかもです。無理やり感が否めないので。

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