異世界二日目の翔くん
しばらく胃腸炎でダウンしてたので、投稿が遅いのは許してください、何でもしますから。。。
「はぁ…………疲れた」
僕は溜め込んでいた疲れを吐き出すように、重いため息をついた。
ため息をつくと幸せが逃げるというけれど、気持ちが楽になるので誰もいない自室では別に構わないだろう。
それにしても今日はとても疲れた。
異世界に来て二日目、まだ慣れないままこの世界での生活が始まったわけだけど、午後の数時間に渡る訓練のせいで全身が悲鳴をあげている。
できればこのままベッドにダイブしたいところだけど、残念ながら体が汗や土で汚れているのでそういうわけにもいかない。
さて、そうとなれば一刻も早く体を洗い流しておきたいところだけど、残念ながらこれもそういうわけにはいかない。
理由は単純明快、今大浴場へ向かえばクラスメイト達と鉢合わせる確率が高いからだ。
――というか、訓練終わりにクラスメイト達が『この後風呂入りに行かね?』みたいなことを言っていた。もちろん僕はそのお誘いを受けていないわけですが。
これが格差ってやつか! 震えるねぇ!
さて、こんな感じの理由から僕はしばらく時間を空けてから大浴場へ向かう事にしたのだった。
しかしそうなると必然的にその時間まで暇になるわけで、絶賛暇つぶしに苦労しているところだ。
ここにある本は読めないし、道具も下手に触って壊したくないしやる事がない!
いや、この部屋には紙とペンがある。これで何かできないかな。
……そうだ、どうせなら日記でもつけてみるか。三日坊主で終わるとしても、今のこの時間を潰せるならそれでいいし。
と、こんな感じに、ちょっとした思いつきで僕は日記を書いてみることにしたのだった。
☆ ☆ ☆
異世界二日目
さて、ちょっとした思いつきで日記をつけることにしたのでその日に起きた出来事などを簡単に書いていくことにする。
……いい思い出がここに書かれる事を切に願うばかりだ。
では今日の出来事について、まず今日異世界に来て初めての授業、そして訓練があった。
寮棟の一階に元の世界で見たような教室があり驚いた。
どうやら他にも体育館や美術室など、学校にあるような設備が大体整っているようだ。
ここまでくるとここは寮棟ではなく宿舎兼教室棟という方がしっくりくる気がする。
それはさておき、もう一つ驚いた事があった。
今日、教科書など授業に必要なもの一式を配られたが、元の世界で見たものと比べると少し劣るものの綺麗な教科書が渡された。
これでも充分驚いたがそれだけではない、教科書には元の世界では見られないこの世界独特の地理や歴史などについて書かれていたが、そのどれもが日本語で綺麗に印刷されていた。
やはり、この世界は元の世界と何らかの繋がりがあるのかもしれない。
それに、見たところ思っていたよりも文明レベルが高いが、どことなく元の世界と同じような作りのものが散見される。その理由は何なのだろうか?
今日はこのようなことに疑問を持った。
昨日の出来事から王国の者に聞いても何も情報が出ないことが分かったので、これに関しては自分で考察するしかないだろう。
一週間ほど経ったら得た情報で少し考察してみようと思う。
さて、そんなこんなで色々と興味深い事を知った授業が終わり、次にやってきたのは訓練の時間だった。
思い出しただけでも気が滅入りそうになるが、果たしてこれを読み返している頃の自分はもうこの地獄に慣れただろうか?
これに慣れているとするなら、ぜひ自分を労ってやってほしい。君は頑張った!
突如始まる過酷な筋トレ、走り込み、そして木刀を使って剣の振り方を習う……。
訓練中、腕が震えっぱなしだった。あの訓練に食らいついているいじめっ子達を見て、僕は初めて彼らのことを尊敬したかもしれない。
と、まあ今日は色々と疲れることが多い一日だった。
☆ ☆ ☆
「日記をつけていらっしゃったのですか?」
「!!?」
日記を閉じて机にしまっていると、後ろから突然そんな声――声からしてどうやらいつものメイドさんのもののようだ――が聞こえた。
僕はそれに驚いて声をあげてしまいそうだったが、何とか抑えた。
――扉が壊れた弊害がここにも。
「あまり驚かさないでください。心臓が飛び出るかと思いましたよ」
「そ、それはすみません。驚かせるつもりはなかったのですが……」
まぁ、悪気がなかったのはなんとなく分かったし――メイドさんなら許せてしまうような気がするのはなぜだろうか……。
「それにしても、日野様は真面目なんですね」
「……真面目? 僕がですか?」
僕は自分の事をどちらかと言えば真面目ではない方だと思っているのでその言葉は少し意外だった。
「そう見えるだけですよ。実際、さっきの日記もいつまで続くか分かりませんし」
夏休みの宿題も最後の方まで手をつけないような人間だ。真面目という言葉が似合うのは僕なんかではなく、和田さんのようなしっかり者の方だろう。
「そうなんですか? それでも日記をつけている人なんて他には見なかったので、日野様は真面目で凄いと思いますよ」
「あ、ありがとうございます。褒められるのは素直に嬉しいです」
少し勘違いされていそうなのが不安だけど……まぁいいか。
「そういえば、今更かもしれないですけど『様』をつけられて呼ばれるのがあまり慣れないので、できればやめてもらいたいのですが」
無理にお願いする気はないが、様をつけられるのは慣れなくて変な感じがするので一応話してみた。
「客人に様を付けないのはどうかと思うので様はつけさせていただきます。
あ、でもあなt……日野様が私のことを名前で呼んでくだされば考えてもいいですが」
いま完全にあなたって言おうとしましたよね!? ――というかわざとじゃないですか?
そういえばメイドさんの名前を知らないな。というか、僕の名前をメイドさんに教えた事はないのに気がついたら知られているのも怖すぎる。
「あの、では名前を教えてもらってもいいですか?」
「……ああ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私の名前はミサーナ・エンパルドです。ミサとでもお呼び下さい」
ミサーナさんというのか。
流石にミサと呼ぶのは気が引けるし……。
「それでは、ミサーナさん。これからもよろしくお願いします」
――これなら文句はないだろう!
「はい、ミサです。こちらこそよろしくお願いします、翔さん」
あれ、何故か名前呼びされてる!?
――ってそうか、ミサーナって苗字じゃなくて名前だから! 少し考えたら分かることなのに……。
それにさらっと愛称呼びを要求してきてるし。出会ってまだ二日ですよね?
「それで、今日はまたどうしてここに?」
流石にまた『なんとなく』ではないだろうから、何か連絡でもあったのだろうか?
「それはもちろん、なんとなくですよ?」
「……そんな気はしてました」
目の前の彼女の口から思っていた通りの五文字が飛び出したのを聞いて、思わずガックリしてしまう。
しかし、まさか本当にそうだとは。驚くからできればやめてもらいたい。
「では、一つお役立ち情報を伝えるために来た……ということにしましょう」
「お役立ち情報ですか?」
「はい、まだお風呂に入れていなくて可哀想な翔さんのために耳寄りな情報があります」
――なぜそれを知っているのかは謎である。……怖すぎ。
「この寮棟には一階の一番端の所に、少し小さいかもですが一応シャワー室があるのですよ」
「本当ですか?」
「ええ、ちゃんと清潔に保ってありますので汗を流したい時などにおすすめです。……人も殆ど来ませんし」
「……情報感謝します」
それはとてもありがたい情報だ。
まだ時間が早いので、クラスメイトと鉢合わせないようにしばらく待とうと思っていたけど、その必要がなくなる。
今日のところはシャワーだけでも別にいいと思っていたし、丁度いいかもしれない。
「はい、なにか助けになれた様なら良かったです。――でも、勇者様方の間でも色々大変なんですね」
「あはは……やっぱり分かりますか」
聡い、というのだろうか。この人に隠し事はできない気がするなぁ。
「それでは、僕はそのシャワー室へ行ってくるので失礼しますね」
「そうですか。男性の方は右側の青い扉ですので間違えないようにしてください。……あぁ、でもこれは勇者様方には関係ない忠告でしたか」
「?? 右側ですね、分かりました。ありがとうございます」
何か最後の言葉が引っかかるけど……まぁいいか。何かあったとしてもそのうち分かるだろう。
「では失礼します!」
「はい」
僕はそうして、シャワー室はどんな感じなんだろうと若干期待に胸を膨らませつつ、逃げるように部屋を後にした。