43もしも俺と花蓮が別れていなかったら?
俺は陽葵ちゃんとのデートの場所へ向かっていた。その時、花蓮の家の近くを通りかかった。
『……やっぱり引っ越しするのか』
わかってはいたが、多少心に棘が刺さるのを覚える。
花蓮のしたことは許せなかった。元通りの恋人になんて、例え陽葵ちゃんと出会えていなくてもなかったことだろう。
……でも、ここまで花蓮が追い詰められる必要はないと思った。
俺を襲ったクラスメイト達のヘイトは今度は花蓮に向いた。
『ほんと、一番質が悪いのはいい加減な正義感だ』
実際俺を蔑んでいたヤツラは正義を気取っていた。俺が日吉を乱暴したと信じ切って俺を迫害した。陽葵ちゃんにあれほど懲らしめられても、結局改心はしなかったようだ。
俺の時ほどじゃない。でも、花蓮はクラスで孤立するようになって行った。
俺の時のようにはっきりした悪意じゃない。だけど、『無視』や『絶交』……ボッチの俺なら耐えられたろうが、陽キャの花蓮には辛いだろう。
だけど、転校すればきっと元の花蓮に戻れるだろう。先日花蓮のお父さんがお礼に来てくれて、引っ越しと花蓮の転校のことを聞いた。
花蓮に未練がある訳ではないが、虐じめられている花蓮を見ると腹がたった。俺も虐められていたから、その惨めさがわかる。
花蓮のしたことは酷いことだった。俺が花蓮に振られて泣いているところを動画で撮られて校内に拡散された。……でも、それを笑っていたのはヤツらだ。花蓮と同罪だ。なのに今度は正義の側に回るのか?
正直腹に据えかねた。かといって、花蓮の行いをSNSにあげたのが誰かはわからないし、虐めも誰が主犯とも言えない。何となく花蓮は虐めの対象になっていた。
俺にできるのはお見舞い金を花蓮のお父さんに差し上げることだけだった。編集の辻堂さんもお見舞金を支払うことに賛成してくれた。辻堂さんは小説家の俺に拘わった為に被害に遭った花蓮を放置すべきじゃないと言ってくれた。
まあ、金額が大きすぎると後で驚いていたけど、俺なりに思うところはあった。振られて、酷い目にあったけど、それは花蓮らしいとも思ったし、そんな花蓮でも好きだったのも事実だ。
それに、いつか俺の部屋を訪ねて来てくれた花蓮は以前より少し変わったと思う。
花蓮は俺がただ可愛いから付き合っていたと思っていたらしい。でも、それは違うことに気が付いてくれた。俺は花蓮が可愛いから付き合っていた訳じゃない。そりゃ、可愛い花蓮は俺に無不相応だと思ったりすることもあったけど、小狡いし、性格は悪いし、成績も悪い花蓮は俺がいないとダメな子になると思っていた。
俺は花蓮に言った。
「違うだろ! 子供の頃からどんなに俺がお前のことを守って来たか! お前は俺のこと……フツメンで哀れなヤツだと思ってたんだろ? 顔に書いてあったよ」
……花蓮は。
「やっぱり樹はそういうヤツなんだね。ようやくわかったよ。そ、そんな。そんなヤツがいる訳が―――な―い―そう思ってた」
花蓮は小さい頃は無垢で天使のような性格だった。でも、大きくなって、可愛くなって行くにつれて歪んで行った。小狡くて、性格は悪くなって行った。
……だけど。
花蓮は孤立している中、一人で勉強に励んでいた。虐められているところを大和に助けられて大和に一生懸命にお礼を言っていた。
以前なら、そんなこと当たり前とさえ思って何も言わなかったろうし、勉強だって、一人で頑張るような子じゃなかった。
花蓮は罰を受けたけど、代わりに昔の子供の頃の花蓮に戻ってくれたのだと思う。そう思いたい。
『……もう、二度と花蓮に会えなくなるのか』
ちょっと複雑な気持ちだ。誤解が解けて、俺への虐めも無くなり、陽葵ちゃんという最高の彼女が出来た俺は真っ黒な気持ちは全て無くなった。
花蓮への恨みも晴れた。そうして残ったのが、幼馴染としての花蓮への気持ちだ。
10年以上拘ったんだ。いくら酷い目にあったとは言え、花蓮が酷い目に遭っているのをざまぁ見ろとは思えなかった。そして、二度と会えないかと思うと、どこか寂しいものがあった。
『でも、結局、俺には陽葵ちゃんがいるし、花蓮にもいずれいい人ができるんだ。彼氏彼女で無くなった時点で、俺達の関係は終わることになるんだよな』
そう思った。どちらにしても、彼氏彼女でいられなくなった時点で、俺達の関係に終わりがやって来るのは当然のことだ。
花蓮とあんなことがなかったとしても、陽葵ちゃんと彼氏彼女になった時点で、花蓮に会ったり親しくするのはおかしいと思う。陽葵ちゃんがやきもちやくと思う。やいてくれると思う。
逆もそうだ。花蓮に俺とは違う彼氏ができたら、やはり俺は花蓮に距離をとったろう。そして、いつか二度と会わないという選択をしただろう。
『俺にとっても花蓮にとってもこの失恋は必要なことだったのかもしれない』
俺は何となくそう思った。俺は花蓮から子供の頃素敵な思い出をたくさんもらった。でも、大きくなって、花蓮は変わってしまった。俺だって、どこか花蓮の保護者づらして花蓮を支えて来た。でも、それは俺の自己満足でしかなかった。花蓮にとって何も良いことなんてなかった。俺も花蓮が俺のことを愛してなんていなかったのと同じように花蓮のことを愛してなんていなかったのかもしれない。子供の頃の思い出はとても大切なものだったけど、愛するということはLIKEじゃないLOVEだ。本当に花蓮のことを愛していたら、花蓮を一方的に甘やかしたりしなかったと思う。結局自己満足の道具として使っていたんだ。
花蓮は改めて俺のことを愛していると言ってくれた。……でも……俺は花蓮を愛したことは一度もなかったのかもしれない。
俺の庇護欲を満たしてくれる存在として、花蓮が都合が良かっただけ……。
花蓮に陽葵ちゃんに感じるようなドキドキなんて感じたことはなかった。
子供の頃からずっと一緒……どちらかと言うと花蓮はできの悪い妹のような存在だった。
大切だけど、愛する存在ではなかった……お互いに……。
でも、俺は変わった。陰キャから今では大和や何人か友人も出来た。
花蓮は子供の頃の花蓮に変わって行った。人にお礼を言ったり、感謝したり……そんな当たり前のことが出来る子になって行った。素直な子供の頃の花蓮に変わって行った。俺もいないし、媚びを売る男を利用することもない、そして一人でなんでもできる女の子に変わって行った。
きっと花蓮は素敵な女の子になるさ。
『さよなら花蓮。幸せにな』
俺はそう呟くと花蓮の家の前を立ち去った。
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