41関内の婚約破棄
「今からではもう遅い……ですか?」
「遅いーー!!」
俺は陽葵ちゃんのお父さん、ゲンドウさんに一喝されていた。
「よりにもよって大恩ある関内家の当主の顔に泥を塗ってくれるとは……」
「し、しかし、本人同士の気持ちの方が重要ではないですか? いくら名家って言ったって、時代錯誤ではありませんか? 僭越ながら先生の編集担当として進言します」
「あなたが自分の担当するその少年、相模 樹君か……もちろん陽葵が交際していることは知っておった。陽葵自身からも聞いておった。だが陽葵を蝶よ花よと育ててしまった。ギャルというものになった時には驚いて声もでなかった。でも可愛い陽葵には意見できなかったのだ。陽葵は歳の離れた末っ子でな。姉達も皆心配しておった」
「嘘! お姉様達が私の心配を?」
「陽葵……姉達はお前のことが可愛くて仕方がなかったんだよ。だが、どう接して良いかわからず距離が空いてしまった。私も同じだ。だからお前に不幸な人生は歩いて欲しくないんだ。豊かなことに慣れているお前を普通の男が幸せにできるのだなどと思えん。だからその少年が相模家の子息の上、年に億単位の収入があるのなら婚約……例え大恩ある関内家の願いでもお前の気持ちを優先できたものを……」
え? 俺悪くないよな? 辻堂さんが悪いよな? 大人のクセに婚約式で陽葵ちゃんをさらってしまえとけしかけるなんて大人がしちゃ駄目だよね?
「つ、辻堂さ……ん」
「す、すいません。先生……かくなる上はわたくしが責任をとって先生の嫁に__」
「ちょ、辻堂さん! 先輩はうちんもんや!」
辻堂さん何考えてるの? いくら辻堂さんが綺麗でも突然そんな気持ちになれないよ。
何より俺は陽葵ちゃんのことが好きなんだ。だけど、辻堂さんのせいにした自分にちょっと恥ずかしさを思えた。結局最後の決断をしたのは俺だ。俺の責任だ。
「お義父さん!」
俺は突然大声で言った。
「気持ちはわかるがな。今更わしは何と言って関内家の当主に詫びれば良いのじゃ?」
「おそらくそれはもうじき解決すると思われます。厚木ゲンドウ様」
「むっ!? 貴様は?」
「お久しぶりです。その節はお世話になりました」
「いや、こちらの方こそ良くぞあの東方の独裁者を始末してくれた。欧米各国の首脳から感謝されたぞ」
突然黒服のおじさんが厚木家の応接室に入って来た。どうやって来たの?
え? ちょっと待って、それよりあの独裁者って突然の急病で倒れたって聞いてたけど?
もしかかして?
「はは、日本には本物のゴルゴがいると噂になったな」
「ご冗談を……私はただトリガーを引いただけです」
「ちなみにトリガーを引く時は何と言ったんだ? 君は相手に相応しい言葉を贈ると聞いているぞ」
「はい……。他人の平和を乱すな……とだけ」
いや、それ何のトリガーの話? 聞かなかったことにしよう。後、黒服のおじさんへは今後へり下ろう。
「ところで応接室を守っておった者どもはどうしたのだ?」
「は? もちろん軽く眠ってもらいましたが?」
「ははッ! わかっておったが、やはりか……で? にしてこの事態がどう解決するのじゃ?」
「玄関に関内家の当主と例の子息が来ております」
「何?」
俺達は皆で顔を見合わせた。
☆☆☆
「この愚か者がぁ!」
「す、すいません、おとうさ、ま」
「すいませんで済むかぁ!」
俺達は応接室から隣の使用人の控室に通されていた。俺のやったことからしたら当然だろう。俺と陽葵ちゃん、辻堂さん、黒服のおじさんの4人は応接室の隣で聞き耳を立てていた。
「関内さん。一体どうされたのですか? 今日はわしの方からお詫びにあがろうと思った矢先です。ご子息に私の娘がとんでもないことをしでかしまして、申し訳ない」
服が擦れる音から察して陽葵ちゃんのお父さんは土下座をしていると思う。
「顔を上げて下さい。厚木殿。私の方こそ詫びに上がりました。愚息とはいえ、可愛い我が子、貴殿の末の娘と婚約すればさぞかし喜ぶと馬鹿親が画策してしまいました」
「し、しかし、それのどこに問題が? 私の娘の方こそ婚約予定を蹴って男と現場を逃げるというとんでもない所業をしでかしてしまいました」
うん、そうだな。一番悪いの俺だな。だけどなんで関内家の御当主は陽葵ちゃんに謝っているのだろう?
「いや、厚木殿……陽葵嬢には想い人がいたのではないですか? 何故それを言ってくれなかったのですか? 知っていればこんな頼みなぞ……私は好きあう二人の仲を割いてしまいました」
「それは私の判断です。普通の男に陽葵を幸せになぞできぬと……そう思い込んでしまいました」
「「はぁ……」」
同時に溢れるため息。
「実は愚息が労基違反を犯しまして……こやつは従僕達を無断で解雇したり、ましてや退職金を払わないと言う所業。調べたところ、彼らに何の落ち度もない」
「そ、それはあいつらが無能でぇ!」
「五月蝿い! 黙れこの馬鹿がぁ!」
かいつまんで言うと、彼は使用人の責任者となり、ほんの僅かなミスや、それどころか自分の機嫌が悪いと言うだけで使用人を解雇していたそうだ。
しかも退職金を支払わないとか……もちろん法律違反だそうだ。
「この馬鹿者! 貴様に陽葵嬢の夫となる資格なぞない!」
「そ、そんな! せっかくいい女が手に入ると思ったのに!」
「貴様は女性をモノのように! ええい、貴様には愛想が尽きた! 貴様は勘当だ!」
「そ、そんな! 僕はどうやって生きていけば?」
「そんなことは自分で考えろ? 考えるのが普通だろ? お前はとっくに成人しているのだぞ!」
「そ、そんな馬鹿なぁ!」
「馬鹿はお前だ!」
しばらく関内さんの息子はわき喚いたが、しばらくすると関内家の当主は切り出した。
「そう言う訳で、この度の婚約予定を辞退させて頂く、誠にご迷惑をおかけした」
俺と陽葵ちゃんは気がつくと手に手をとって、抱きしめあっていた。
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