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39この演出いらないと思う

「ねぇ、この演出いらないんじゃないかな?」


俺が抗議の声をあげるのも無理はない事を理解して欲しい。陽葵ちゃんと婚約予定者関内は、今晩婚約を発表する予定だ。その前に話あいしようよ……今日、このパーティ会場で二人の婚約が発表される。皆の前で関内が宣誓を行い、陽葵ちゃんがそれに返事する。普通、政略結婚なんだから、嫌だとは言えない。そこで、俺が正に陽葵ちゃんが『はい』と婚約者に返事をする直前にドアを蹴破り、俺と陽葵ちゃんとの仲を暴露して、陽葵ちゃんは俺の元に走り寄り、二人で晩餐会を出奔する。


「このストーリーって、去年の夏の映画のパクリじゃないの?」


「先生、女心を理解していませんね。折角なら、ドラマティックにさらわれたいものです」


辻堂さんに言われて渋々と承諾する。そして、タイミングを伺う。外では黒服のおじさんが車をスタンバイしている。


そして晩餐会は滞りなく進み、遂に陽葵ちゃんと婚約者関内の婚約披露の頃合いになった。


「……今日という日を迎えられることを、とても嬉しく思います、陽葵さん」


「う、うちは……」


婚約のしきたりはまずは男性から婚約の意思の口上からだが、最後に女性の『はい』という返事が無いと成立しない。だから、陽葵ちゃんが正に『はい』という返事をしそうなタイミングで乱入しろと言われた。ややこしい上、タイミングを逃すと辛辣に怒られそうだ。


でも、どう考えてもちゃんと話しあいをした方がいいと思える。


陰からこっそり陽葵ちゃんを伺うと……やはり、彼女の顔色は儚げだった。


「色々と不安でしょうが、私に何もかも任せて下さい。安心して私の婚約者になって下さい」


「……ええっと、その」


返事を渋る陽葵ちゃんに関内は焦れたのか、歩み寄り彼女に迫る。


「それでは、陽葵さん、お返事を」


関内に促されて、『はい』という返事をするしかない状態で、陽葵ちゃんの顔に焦りが見える。これ、そろそろ行った方がいいよな?


そして、関内が陽葵ちゃんからの『はい』という返事を受け取る為に跪くと陽葵ちゃんの右手を手に取り、先ず、手の甲にキスをした、その時。


「その婚約、待ってもらってもいいかな?」


「―――――!!!!」


大きな会場の扉がバン! と音を立てて開かれ、それと同時に俺は強い決意を秘めた演技で突入した。


会場は静寂に包まれた。婚約発表の場、祝いの場……それも、今まさに婚約の返事が厚木家の令嬢から返されるという最高の瞬間を迎えようとしていたその時に、水を差すような音と共にドアは開け放たれた。その上、乱入者の言葉に参列者たちは驚きを隠しきれない。


「せ……先輩……」


頬を赤く染め、陽葵ちゃんが呟く。


その顔は、ハッとしているのだが、明らかに喜びに満ちた顔色だ……でも演技だよね?


晩餐会の出席者達は俺と陽葵ちゃんを交互に視線を向ける。みな好奇の目だ。


出席者の数は軽く100名は越えており、それもみなかなりの有力者……。


しかし、俺はそんな事を気にせず、強い決意を秘めた表情で……そう台本に書いてあったの……。


「陽葵ちゃんは俺のものだ!」


俺はそう高らかに宣言した。この下り要るのかな? 単刀直入に話しあった方が絶対いいんじゃ?


正直、たくさんの人の視線が痛くてビビっている。流石に今更後には引けない、けど、そりゃそうだよね。有力者の晩餐会に乱入してまさに婚約発表のその時、婚約者を強奪しようとしているんだよな? 去年流行した映画とストーリーが同じだし。


まあ、実際にこんな事するヤツいるわけないよな? ヤッたらかなり馬鹿だよね……あれ? 俺だ!


あれ? 俺大丈夫? こんなことして、タダで済まないんじゃない? ちょっとした有力者ならまだしも、大富豪の婚約を潰しに来たのだよな? 俺、とんでも無い事してない?


「き、君!? いったい何を言っているのかな?」


ひぇえええ! 婚約者の関内がものすごい勢いで俺を睨む。


「すみませんが、厚木陽葵さんは既に俺のものです。何度も何度も愛し合った仲なんです。あなたの顔に泥を塗ってしまった事はお詫びします。だけど、俺には陽葵さんが必要なのです!」


「馬鹿者が……。貴様が泥を塗ったのは、私だけではないぞ!!」


びっくりする程冷たい声が会場に響いた。関内の声だ。


……やっぱり、怒るよな?


「この婚約を認めたのは誰だと思っている? 陽葵さんの父上、厚木家の当主ゲンドウ様だぞ。貴様はゲンドウ様の顔にも泥を塗ったのだぞ!!」


ビリビリと響く冷たく重い声、太い杭が打ち込まれたかのように、場の空気を揺すぶった。


うん、関内さんの言う通りだな。俺の方が悪いような気がしてきた……。


とんでもない事をしでかしたと気がついた時には遅かったが、今更後には引けない。


『ほんとこんな演出しないで直談判した方がいいと思うんだけどな』


陽葵ちゃんと辻堂さんにそそのかされてやってしまったものの、絶対悪手だと思う。


「それでも、俺はここに来ざるをえなかった。そして、この婚約を認めるわけにはいかない」


「一体どういうことだ? 貴様が陽葵嬢と姦通していたとしていても、ただ、陽葵嬢が好きだから……などという理由だけではないのだろう? 裁判覚悟の事だぞ?」


うん。この人の言う事が正論だ。俺、何をやってるの? 陽葵ちゃんと辻堂さんに無理やり助けに来させられたけど、俺は有力者の事なんて知らなかった。でも、この人の言う事を冷静に考えると、俺の狼藉って酷いものだ。それに……え? 裁判? そんなの聞いてないけど?


しかし、なんだか雰囲気的に、俺がここで『好き……愛してりゅ…..φ(〃∇〃 ))) 』ていう理由だけだと、俺が凄く馬鹿みたいに見えないか? 俺は凄く体裁を繕う男なんだ。


あれ? 関内さんだけではなくて、みなが俺を見ている。


ひぇえええええ、みな俺の答えを待っているんだ。好き……以外の回答……無いです。


゜∀゜!!閃いた!?


「ねえ、陽葵ちゃん、正直に話して謝ってもいいかな?」


ボカッ!!


結構大きな音が聞こえた。誰かが背後から俺を鈍器で殴った音だ。


「ちょっ、何で殴るの!? 辻堂さん!!」 


「台無しです!!」


その様子に会場の参加者はみな不思議そうに俺達を眺める。


そうだよね。怒ったよね。晴れの舞台の有力者の令嬢との婚約発表の場で婚約予定者が姦通していた上、どこの馬の骨ともわからない男に婚約者をさらわれそうになったら、誰でも怒るよね。分かる分かる。


……と思って、関内に同情していたのだけど、良く考えたら他人事じゃない。


というか、犯人は俺だよな?


とは言うものの、陽葵ちゃんがキラキラと輝く笑顔で俺の元へ走って来てしまったので、その場を三人で立ち去る。


ちなみに晩餐会の生演奏は何故か『卒業』という古い映画のメインテーマになっていた。この人達結構ノリノリじゃない? だって、あの映画にはそういうシーンがあるもんな。

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