23幼馴染の女の子……花蓮の後悔
俺のイジメは無くなった。俺の正体がバレたことより自分達のやっていたことが唯の虐めだと知って、みな謝って来た。俺は許した。既に莉子ちゃんがSNSや拡散した情報が実はフェイクだと知って、みな安心したようだが、それでも自責の念はあったようだ。
結局あいつらは軽率ではあったけど、それなりに正義感を持ってやったことだし、反省もしているんだからこれ以上あいつらを恨むのもどうかと思った。
だからと言って今更仲良くはできないことも事実だが……。
そんなことを思って自宅の一間のアパートのベッドで一人感慨に耽っていると。
「……い、樹?」
聞き覚えがある声が聞こえた。ドアをノックして声をかけて来たのは幼馴染の花蓮だった。
俺は花蓮の言葉を無視した。今更何も聞きたくない。だけど、花蓮はいつまでも部屋の前で俺の返事を待っていた。待っていれば優しい言葉があるかもと思っていたのかもしれない。そんなことを思っているのだろうか? 俺はそんな聖人君子じゃない、正直、今は顔も見たくない。でも、長い沈黙に俺は負けてしまった。
「花蓮……一体何の用だ? 今更話すことなんてないだろ?」
「……返事……してくれたんだ。ありがとう。私、どうしても話したい事があって」
「……」
一体何を話したいんだ? 今更ヨリを戻すなんてできないぞ?
正直、花蓮に対して悔しいし、憎い、罵ってやりたい。
「何度も言うけど、今更話すことなんてないだろ?」
「それはわかっているけど、わ、私……私、あなたに謝りたくて……」
「……」
花蓮が俺に謝る? 今更何を言って……俺は無言で返した、今は陽葵ちゃんに癒されて花蓮をそれ程恨んではいない。だからといって、花蓮の裏切りを許せる訳がない。一体何を謝りたいんだ?
だが、一向に帰る気配がない花蓮に俺はつい言ってしまった。
「一体どういう事なんだ? 謝るって何を?」
「樹にしてしまった事、別れてしまった事、あんな酷いことしたこと」
「そんな事を謝ってもらっても嬉しくないよ、今更……」
「……わ、私、気がついたの」
「何を?」
「私、樹の事、愛しているって……」
「そんなの信じられる訳ないだろう? 花蓮の方から別れたんだぞ!」
「違う、以前の私は誰も愛してなんてなかったの! 樹とは打算で付き合ってたけど、あの頃の、わ、私、本当に好きな人なんていなかったのよ!」
「それで、綱島に恋したんだろ? 今更そんな事言われても、俺、信じられないよ……」
「……ごめんなさい」
花蓮はひたすらに謝った。そんな花蓮の言葉に俺は驚いてしまった。花蓮が俺に謝るなんて、でも。
「花蓮、俺も人間だよ。フラれて、そんな簡単に花蓮を信じる事なんてできないよ。もうお別れだよ。自分のしたこと考えたら合わせる顔ないって? 思わなかったの?」
「わかってるの。もう樹の彼女には戻れないってね。ホント馬鹿ね、私って、樹があの私の大好きな作者のしいくがかり先生だったなんてね。ホントざまぁないわね。でもね、今の私はヨリを戻して欲しいじゃなくて、ただ許して欲しいの。本当なの! わ、私、馬鹿だった。一番大切なものは何か、わかっていなかった!」
「……」
「樹と別れてから良くわかったの。樹がどんなに優しくていいヤツだったかってね」
「今更遅いよ。他の奴は許せる、でも、花蓮だけは許せない」
「ごめん、なさい……」
「長い間考えて俺と別れたんだろ? それにあんなことまでされなければ許せたかもしれない」
「ごめ、なさ……っい」
「学校中に花蓮に振られて泣いている無様な俺を晒して愉悦に入ってたんじゃないか?」
「ごめん、なさい……ごめ、なさい……っ」
「俺の事なんてどうでもよかったんだろ。今更何なんだよ!」
「ゆ、許して。なんでもするからぁ」
花蓮は必死な様だった。だけど今更、謝って済む問題じゃない。
「何でもすると言うなら、俺の目の前から早く消えてくれ!」
「お願い、許して! 彼女に戻れなくてもいい、幼馴染の花蓮は見捨てないで。他のことなら何でもするから!」
「……花蓮」
「気が付いたの……樹は私が可愛いから付き合ってた訳じゃないって!」
「何を言ってるんだ?」
「樹と付き合ってた頃……よくコクられた。でも、みんな私の顔にしか興味ない。この人達私の外見だけ見て好きになっちゃたんだなって、そして樹もそうだって思ってた」
そうだ。花蓮は子供の頃は純粋で無垢な子だった。でも大きくなるにつれて、可愛いくなるにつれて変わって行った。
最近の花蓮は全部自分のことしか考えない。他人が自分に役に立つかどうか、周りが自分をどう思うかどうか……そんなことばかり考える子になっていた。
「樹は私のこと外見だけで好きになった?」
「違うだろ! 子供の頃からどんなに俺がお前のことを守って来たか! お前は俺のこと……フツメンで哀れなヤツだと思ってたんだろ? 顔に書いてあったよ」
「やっぱり樹はそういうヤツなんだね。ようやくわかったよ。そ、そんな。そんなヤツがいる訳が―――な―い―そう思ってた」
「……花蓮」
何処かに許してやりたい俺がいる。駄目なことはわかっている。花蓮のしたことが許せる訳がない。ましてや彼女に戻すことなんてできない。陽葵ちゃんがいるから……でも幼馴染の花蓮だけなら?
俺の心が揺らいだ時、意外な言葉が花蓮から出て来た。
「樹は……ず、ずるい……! ずるいよ……!」
「……」
「なんで全部わかってて、私のこと嫌いにならなかったの? 私は嫌いだよ! こんな中身がクズな女!! どうして! どうして樹がこんな! なんで私の知らない男の子がここにいるのよ!! なんで他の男の子みたいに私の外面だけで好きにならないの! 私、こんな男の子知らなかったよ……!」
花蓮は泣き崩れた。
「綱島に騙されてどう思った? 男を蔑んできたけど、相手の気持ちもわかっただろ?」
「う、うん。私がバカだった。ご、ごめんなさい。い、樹……わ、私」
「……」
俺の幼馴染の女の子は少し、いやとてもまともで素敵な女の子に生まれ変われると思う、でも。
「樹、わかってるの。今の樹はあの陽葵ちゃんていう後輩が好きなんだよね?」
「……ああ、陽葵ちゃんは最初から俺を信じてくれた。今の俺は陽葵ちゃんが好きだ」
「私のこと許してなんて虫が良すぎたね。今までありがとう。私、変われると思う。そして迷惑だと思うけど、これだけは言わせて……『好きでした』」
「……」
俺は花蓮に何も言えなかった。でも花蓮は俺の家の前から姿を消したようだ。
『誰か俺の代わりに花蓮をお願いします』
俺は誰にともなく祈った。
「……さよなら花蓮」
そう呟いて、気が付くと俺の頬に涙が伝っていた。
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