〜8〜世界把握しました。
『はてさて、どんな名前にしようかの〜』
妙にテンションの高い、リヴァイアランと名乗った女性?はその声色だけで、私の不安をいっそう煽る。
こう、なんとも言えない不安だ。
何故か、今すぐに止めなきゃいけないと思わせるが、私には何も出来ない。
ただ待つだけ。
『そうじゃのう、んん〜、よし!!
確定者よ、そなたの名は”ミツキ”。
深海に漂う姿は暗闇を照らす美しい月のような、温もりのある輝きから名付けた。
どうじゃ、良い名じゃろうて』
ゆっくり、ゆっくり。
体の奥底に、深く深く、染み渡るように流れ込んできた、私の新しい名前。
まるで、初めからそうであったかのように思わせ、魂に刻まれる。
偶然にも前世の私の名前と濁点違いの名前なのに、全く違うものに感じ、少し笑ってしまう。
いい名前かは、私には判断しかねるが。
”ミツキ”、これが私の名前。
姿形の分からない、一方的に私のことを知っている女性?に付けてもらった、今世の私が名乗る名前。
『そうじゃ、名付け記念に贈り物をやろう。
妾にはもう必要が無いものじゃが、今のそなたには何物にも勝る贈り物であろうからな』
……贈り物?
《”世界より伝達”》
《個体名”リヴァイアラン”より個体名”ミツキ”へのスキルの譲渡を確認》
《常時発動スキル『視界拡張』の譲渡しました》
……スキルの譲渡なんて出来たんだ。
なんて呑気に思っていたらいきなり目の前が真っ白になって、脳に今までにないくらいの情報が送られる。
今まで微弱な光しか判断出来なかった私は、初めて水面に出た時の比では無いけれど、とにかく明るくなった視界に混乱していた。
私がいるここは真っ暗な水の底なはずで、明かりがないのが当たり前で、なのにこんなに明るくて。
さらに言えば三百六十度見渡せる、二十四個の目が主張しあってどこを見ればいいのか分からない。
『ふむ、少し混乱しているようじゃの。
眩しいのはそのうち自然と慣れるとして、沢山の目は便利であるが、その分難儀じゃのう。
どれミツキよ、主要となる目をひとつ決めて他は補助の目にするのじゃ。
そうすれば落ち着くであろう』
泣き出した子供に優しく言い聞かせるように言われた言葉に従って、ひとつの目を主要として他の目をその目の補助として扱うことを意識する。
そうすれば、不安定だった視界が落ち着いてくる。
眩しかった視界にもゆっくりと慣れてきて、目の前に集中して女性?の姿を見ようとする。
そこに居たのは、見たこともないほど美しい鱗を纏った生物がそこに居た。
ターコイズブルーの輝く宝石のような鱗は辺りを舞う光の粒子に反射して光り輝き、私を見据える瞳は翡翠色に色づいて心を読まれているよう。
その瞳だけでも私の傘の部分と同じくらいの大きさで、体全体の大きさはシロナガスクジラなんて豆粒に見えるくらい大きい。
なんというか、気品に溢れていた。
長くとぐろを巻く巨体は想像を絶するほど大きく、ひとたび振り回したら街一つ簡単に破壊できるほど逞しい。
私がその姿に見とれていたのを悟ったのか、その生物、リヴァイアランさんは笑った。
『ファッファッファ!!
どうじゃ、妾の姿は。
美しいであろう。
この姿はかの御方が褒めて下さってからずっと、妾の自慢なのじゃよ。
妾の姿に見とれたということは、スキルを上手いこと使いこなしているようじゃの。
実に優秀じゃ。
さすがはかの御方が目をつけるだけある』
ぁ……褒められたのなんていつぶりだろう。
この世界に来てからどれだけ経ったのかが分からないし、衝撃が多すぎて最後に褒められた記憶が遠い過去のものになってしまっている。
なんだか、凄くむず痒くて仕方ない。
それでもお礼を言いたかったのだが、私には肝心の発声器官が存在していない。
お辞儀をするように体を曲げて何とかお礼を示した。
『んん?
もしや、念話を知らんのか?
う〜む、念話は知識ある魔物として生まれた者ならば生まれつき出来るものじゃから、出来ない者を見たのは初めてじゃ。
……どれミツキ、妾に語りかけるようになにか思うてみよ。
よいか、強く、語りかけるように思うのじゃよ』
魔物。そうか、やっぱり。
私はやっぱり魔物だったんだ。
人間じゃなくて、魔物……。
リヴァイアランさんが言う生まれつき出来るという念話が出来ないのはきっと、私にその自覚がなかったからだ。
今まではなんとなくの予想だけで済ませていた。
魔物、魔物かぁ。
前世で読んだ転生系ファンタジーによくあった展開だなぁと頭の片隅に残しつつ、名前を付けてもらったお礼を語りかけるように強く思った。
『名前、ありがとうございます』
『うむ』
本当に強く語りかけるように思うだけで伝わるのか。
《”世界より伝達”》
《強い意思の疎通を確認》
《スキル『念話』を取得しました》
それから私は、リヴァイアランさんがいた部屋を出て光の粒子の案内に従って進むと、無事に元いた場所に戻ることが出来た。
そっと振り返るとそこには何も無く、一体どうやってあの洞窟を見つけたのか。
それとなく聞いてみたが、意図も容易くはぐらかされてしまった。
けど、その代わりにこの世界がどういう世界なのかを簡単に教えてもらうことが出来た。
本当はもっと詳しく教えてもらいたかったのだが、今こうして会っている時間が限られているようだ。
そのせいか肝心な”確定者”というのがどうものなのかは教えて貰えなかった。
『この世界について知りたいじゃと?
ミツキはそんなことも知らないほど赤子であったか。
う〜む、時間は……ギリギリじゃな。
まぁ、良い、この妾が簡単に教えてやろう。
この世界はな、聖と魔の争いが耐えず、必ずどこかで絶望の声が響いておる、それはそれは悲しい世界じゃよ。
何も気付かず、何も知らず。
傀儡として生きている者が数多く存在し、そ奴らは何が本当の悪かを理解せぬまま、罪も無い魔族や魔物を悪だと決めつけ攻撃してくる。
挙句の果てには魔族だけでは飽き足らず、同族や味方すらも攻撃する野蛮な奴らよ。
そんな奴らに、妾達が黙っているわけがなかろうて。
今は仕方なく相手をしておる状態なのじゃよ。
まぁ、かの御方が奴らを滅ぼすと仰ったのなら、妾達は当然滅ぼしに行くがな。
……故に、ミツキよ。
決して、聖の者に惑わされてはならぬぞ。
傀儡になりたくなければ、妾達に、かの御方に、殺されたくなければ、何があろうと己を忘れてはならぬ。
……と、まぁこんな感じじゃの。
そなたはこれからどうするのじゃ?
もしこれから世界を旅するというのなら、北西に位置する”ほくせいのせいかい”には近付いてはならんぞ。
あそこはいろいろと面倒じゃからのう』
と、忠告とアドバイスまで貰って、無事に私は元いた場所へと戻ってきた。
手に入れた、と言うよりも贈られた新しいスキルによる視界は見るもの全てが新鮮で、まるで水族館にいるような気分にさせられる。
明るさは常に一定で、水族館の深海エリアのような明るさになっている。
だが、辺りを見渡しても何もいない。
物凄く遠くに小さな緑色の光の玉が見えるが、すぐにどこかへ消えていってしまう。
今まで私が倒してきた生物の姿を見てみたかったけど、この距離じゃ遠すぎて見えない。
なのでまたの機会にということにして、特に目的もなく私は流れに身を任せている。
どうして死んだのかを思い出す旅とは言ったものの、具体的な方法を考えていなかったことに気が付いたのだ。
……まぁ、旅をしていれば思い出すかな。
旅……旅かぁ。
もう既に旅な気がするけど、さすがにずっと水の中という訳にはいかないだろうな。
こんななんにもない所を彷徨っていても、思い出すきっかけなんてあるわけが無い。
それに、せっかく違う世界に生まれ変わったのだから、楽しみたいという気持ちはある。
ようやく手に入れた視界で見たことないものを見てみたい。
魔物や魔族がいるならエルフとか獣人とか。
それこそドラゴンとかもいると思うから、まじかで見てみたいかな。
そうと決まれば、まずは水の外に出るとこを目指そう。
リヴァイアランさんに陸に行く方法について聞いておけばよかったと後悔した。
まぁそれを今思っても後の祭り、仕方ない。
他に会話出来る生物を探しに行くしかないか。
海底洞窟があったならきっと海底都市なんかもあるはずだろうと、勝手に信じてあっちへフラフラこっちへフラフラと移動を始めた。
私が今まで倒してきた敵の姿を見れたのは移動し始めてからほんのすぐのことだった。
後ろに着いている補助の目がこちらに向かってきている光の玉を確認した。
今まで通りに毒で倒し、その姿をお目にかかったのだ。
大きさは全長十メートル程。
姿は前世で言うところのホオジロザメに様々な装飾を施して、歯をさらに鋭くしたような姿。
目の色は赤黒い瞳孔の緑色の瞳で、この瞳が暗闇で輝いていたようだ。
そう思うと倒して光らなくなるのが何故か勿体なく思う。
だって、暗闇の中で光る瞳はイルミネーション見たいで綺麗だったから。
飽きない限りずっと見ていられた。
* ※ * ※ *
《ステータス》
名前:ミツキ
種族:ネックス・クヴァレ
HP:50/50
MP:100392~/100392〜(現在増加中)
無効:猛毒(中)・麻痺(中)
耐性:物理攻撃(強)・魔法攻撃(中)・魔核攻撃(中)・氷結(中)
発動中スキル:
『自己把握』『触手猛毒(弱)』『触手感覚麻痺(弱)』『触手運動麻痺(弱)』『水圧操作(強・改)』『水流操作(強・改)』『水温調節(微弱)』『HP自動回復(弱)』『MP自動回復(弱)』『視覚拡張(強)』
保有スキル:『液体作成(弱)』『氷結作成(弱)』『氷結操作(中)』『念話(中)』




