表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意識覚醒、クラゲになっていました。  作者: 佐藤莉
〜第1章〜溟海帝国
28/29

〜28〜手紙発光しました。

 歩きながら溟海帝国の各所で、オルカリンドの思い出という名の在りし日の溟海帝国の姿を沢山聞いた。

勝たられる思い出はどれも輝かしく、時には闇をのぞかせて、かつて以上の輝きを取り戻して見せるという決意が籠っていた。

その姿を見ていると、私も輝かしい帝国を見たいという思いが湧いてくる。


 さすがに街全体をその日に説明してもらうには広すぎるので、公共施設等の知っておいた方がいい場所だけ説明してもらった。

先に説明を受けた冒険者ギルドだけでなく、商業ギルドだったり騎士団の本拠地。

溟海帝国四大貴族の御屋敷だったり王族貴族御用達のお店だったり。

とりあえず頭に入れて置いた方がいい場所をピックアップしてもらった。


 城下町探索から戻ると、早速フィエルは必要な本を書庫から持っていくと一時間とかからずに魔法陣を元通りにさせた。

直すところを見ていたのだが、何が起こったのか理解出来なかった。

魔法陣が一瞬、視界を真っ白に染め上げるほどにピカッと光って、別の陣になったのは分かる。

けど、中身が分からない私は何が変わったのか分からなかった。

フィエルと魔法陣が本当に直ったのかを確認するために外から城を見て初めて、魔法陣が元に戻ったと分かったのだ。



 それが今から五日前の事。

この五日間、私は書庫に籠って本を読めるものだけ読み切った。

短期間で全ての本を読み切ることが出来たのは、読んでる途中で得たスキル『書見加速(微弱)』のおかげだ。

その名の通り本を読む速度が早くなるスキルなのだが、このスキルは書庫や書斎などといった本を取り扱う専用の室内でしか使うことは出来ない。

後、本を読む速度だけが早くなるので理解力が上がるという訳でもない。

ので『思考加速』と一緒に使うと一番効率が良い。


 書庫には多種多様な本が沢山ある。この世界で確認された種族について書かれた本に、地理地形が細かく記された地図本。

溟海帝国が世界を統一した際に手に入れたであろう、従属国となった国の歴史本。

錬金術や魔法についての本も沢山ある。

全体の二割ほどが娯楽本で、その中には大人向けの本も混じっており、それら本は読まずに書庫の端にまとめといた。

ちなみに、全ての本はカタカナで書いてあり『書見加速』を手に入れなければ途中で読むのを放棄していたのかもしれない。


 そんな多種多様な本の中でも私が好んで何度も読むようになった本がある。

『オレガタメノテイオウモノガタリ』という存在主張の激しい、一巻完結の本だ。

その我の強いインパクトのある名前とは裏腹に、内容はシリアスで、主人公は非常に厳格で冷酷。

ある日突然帝王になってしまった主人公が完璧な帝王になるために、いかに自分らしい帝王になるかを模索していく物語。

物語の中には王になるために必要な立ち振る舞いなどについて事細やかに書いてあるが、主人公はそれらを必要な時は使うが重要視していない。

いかに”己を曲げず帝王になるか”を大切にしている。

その内容の一つ一つが私の未熟な心に突き刺さった。


 そういえば、この本を初めて読み切った際に、何かの世界の条件を満たして『皇帝の威厳』というスキルを手に入れていた。

一体何の条件を満たしたのかすごく疑問である。



「ねーねーミツキー!」


「ん、どうした?」


「ミツキのきしがミツキをさがしてたよ!」


「オルカリンドが?」


「うん!」


「なら、書庫にいると伝えてくれるか?」


「わかった!」



 コクヨかを舞うように泳いで書庫から出たのを確認し、手元の『オレガタメノテイオウモノガタリ』に視線を戻す。

たしかオルカリンドはこの五日間の間に国に保管されている物資などの確認、そして各地に散らばった騎士団の者が帰ってきた時に問題なく始動できるように片付けをすると言ってたはず。

何かあったのだろうか。手元の本から目を離さずに思考を巡らせると、やや遠慮がちに扉を叩く音がした。

部屋の外にいるのはオルカリンドで、どうやら伝えに行ったコクヨはそのままフィエルの元に行ったようだ。



「皇帝陛下、オルカリンド・A・シュヴァリエです」


「入れ」


「失礼致します。

皇帝陛下。

至急、皇帝陛下に見ていただきたいものがございます」


「見てほしいもの?」


「こちらを」



 何やら困ったように差し出されたのは一通の手紙だった。

受け取って差出人を確認すると、そこには『カイオウコノエキシダンダンチョウ ラヤウェヌ・ピストリークス』と書いてある。



「騎士団長?」


「はい。

そちらの手紙の差出人は皇帝陛下、そしてこの国を守護する海皇近衛騎士団団長のラヤウェヌ・ピストリークス団長です。

つい先程に”流瓶”にて届きました」


「流瓶?」


「この海の中で遠く離れたところにいる相手に手紙を届ける方法の一つです。

用意するのはこのような何の変哲もない瓶と、『探知』と『追撃』のスキルがそれぞれ刻まれた二つの無の魔石を砕いて溶かしたインク。

インクで瓶に届けたい相手の名前を書くことで相手に届きます。

しかし、溟海帝国内で魔石インクを所有している御方は片手で数えられるほどしかおりません」



 そう言いながら見せてくる何の変哲もない瓶にはカタカナでオルカリンドの名前が書いてある。

大きさは銭湯に売ってる牛乳瓶くらいの大きさかな。

懐かしいな、コーヒー牛乳……この世界にもあるのだろうか。



「この手紙、読んでもいいか?」


「是非ともお読みいただきたいです。

なにせそちらは皇帝陛下へのお手紙ですから」


「私に?」


「はい。

ラヤウェヌ団長はおそらく溟海の王冠(シー・クラウン)が新たな溟海帝国を治めるに相応しい皇帝となる資格のあるお方を決めたこと。

そしてそのお方が、皇帝陛下がその座に即位したことを何らかの方法で知ったのだと思います。

ラヤウェヌ団長は先代皇帝陛下が特に信を置いている方でしたから」


「そうか」



 先代皇帝陛下が特に信用していた相手、か。

差し出された手紙の封を空け、中に入っている紙を広げた。

やはりカタカナで書いてあったが『書見加速』のおかげですぐに読み終えた。

何故この手紙が本認定されたのは分からないが……。

待って、本認定された?

このスキルが発動する条件は読むものが本であることが大前提のはず……。



「……オルカリンド」


「はい」


「”これ”は本当に手紙か?」


「……申し訳ありません。

私には手紙に見えます」


「そうか」



 うん、これで確信が持てた。

この手紙はただの手紙では無い。

この状態のままだと手紙のままで、何かをすれば本に変わるのだろう。

オルカリンドの困惑した顔の答えも分かった。

さて、どうするかな。

見たところは何の変哲もない手紙だ。

表も裏も特に気になる点は見当たらないし、もしかして暗号か何かが文章に隠されていたのではと何回か読み直してみたがそういうのも見当たらない。

となると……そうだね。

例えば、読む場所だったりするのだろうか。



「皇帝陛下、どちらへ?」


「王座の間に行く」


「お供いたします」



 王座の間はこの城のど真ん中にある。

城下町を探索した際に使用した城の正面に位置する城門から入って真っ先に見える、この城の中でも一際豪華な扉の向こう。

漆黒の壁に瑠璃色で装飾が施された部屋の床には奥の玉座へと真っ直ぐに伸びる白銀の絨毯。

こちらを見下ろすように何段か高い位置にある黄金と白銀の玉座。


 私は真っ直ぐ迷うことなく王座の元まで歩き、結われた髪が邪魔にならないように深く腰をかけて足を組んで肘掛に肘をつく。足を組むことは行儀が悪いだとかは気にしない。

何となくこうした方が皇帝(おう)として格好がつくと思ったのだ。

それに私には『皇帝の威厳』がある。

このスキルのおかげでどのような行いも皇帝らしく見え、他者に行動の反論を許さないスキルだ。

他にも効果はあるらしいのだが、今は関係無い。



「オルカリンド、この手紙を読んでくれ」


「……よろしいのですか?」


「構わない」


「分かりました。では、」



 先程読んだ手紙を朗読を聴きながら、私は『オレガタメノテイオウモノガタリ』にあったとある一節を思い出していた。

主人公が辿り着いた自分らしい帝王の姿を後世に残す一節。

初めて目にした瞬間の、雷に打たれたような衝撃を今でも覚えている。



 ーーー帝王たる者、博愛を捨てよ、冷徹であれ、全てを慢心せよ

 だが決して、慈悲を捨てるな、己を忘れるな、過信を抱くなーーー



 私にとって今、最も必要な足りない部分を見つけた瞬間でもあった。

深く私の魂に刻み込まれたのも、しっかりと覚えている。

私が思い描く皇帝の姿が文字として現れたようだった。


 しばらくして手紙を読み終わったオルカリンドが顔を上げたと同時に、手紙が薄く発光した。

徐々に光を強くする手紙に、オルカリンドは知っていたかのように、いや、実際に知っていんだろうね。

そっと手紙を絨毯の上に置いて数歩下がった。

やがて眩い光の発光が終わり、視界が開ける。


 いつの間にかオルカリンドの前で浮いている手紙であったであろう一冊の分厚い本。

その本の題名には『テンイノホウホウ』とあり、この光景が生まれた答えがすぐに分かる。



「はぁ……。

私は試されたということか」



 これからもきっと、試され続けるんだろうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ