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意識覚醒、クラゲになっていました。  作者: 佐藤莉
〜第1章〜溟海帝国
27/29

〜27〜城下探索しました。

「ですので、皇帝陛下に在りし日の溟海帝国の姿をご覧になっていただきたいのです」


「在りし日の溟海帝国?」


「はい。

あのように見るに堪えない朽ち果てた姿では無く、輝かしい建国当時を思い描くことが出来る姿をご覧いただきたいのです。

他の誰でもない、最も尊き皇帝陛下に」



 輝かしい建国当時の姿。

あのボロボロだった城下町の元の姿。

それなかなり興味がある。

ただ、最も尊きとか、そういう返しに困る言葉はやめて欲しい。



「分かった、今から見に行こう。

コクヨ!」


「はーい!」



 呼んだらすぐにやって来たコクヨの頭を撫でる。

そうすると照れたように笑うので、思わずもっと撫で回してしまった。

手を離すと、撫でられたのが嬉しかったのか私の周りをクルクルと泳ぎ出す。



「精霊……。

皇帝陛下の契約精霊でしょうか」


「あぁ、コクヨという。

コクヨ、彼女はオルカリンドといって私の……えっと、」


「騎士でございます」


「そう、騎士だ」



 ごめんなさい、オルカリンド。

なんと言えばいいのか咄嗟に出てこなかった。

次からはちゃんと騎士と言うから許して欲しい、



「ミツキのきし!

ぼくはコクヨ、よろしくね!」


「よろしくお願いいたします」


「オルカリンド、案内してくれ」


「かしこまりました」



 オルカリンドの先導で廊下を歩いていると、窓から街が見渡せた。

遠くからだと細かい所までは分からないが、確かに廃墟がほとんど無くなっている。

あんなにボロボロだったに……これは近くで見た時が楽しみだね。


 途中、書庫に向かうフィエルを見かけた。

魔法陣を修復するために必要な本があり、書庫にないかと向かっている途中だったらしい。

しかし私達が街に向かうと知ったら、着いていくとの一点張り。

魔法陣と必要な本はいいのかと聞いたら、その本さえあれば後からすぐにでも修復出来るので心配はいらないと言われた。

優秀すぎるのも考えものとは、まさにこの事だろう。


 玄関ホールに行き、私はお城と街を繋ぐ閉ざされた門を自ら開け放った。

幅の広い階段を降りていきながら、目の前に広がる街並みを眺めた。

誰もいない、静かな帝国を。



 溟海帝国はフィエルがあの時飛ばされたという頑丈な門から見ると、溟海の宇宙(うみのそら)に向かって緩やかな上り坂になっている。

故に、こちらから見ると街が一望出来る。

城前の階段を下りにきると、お城をぐるりと囲う壁と柵の門があり、その先は三つの道に分かられている。

真ん中は頑丈に続く大通りで、道の中間地点には大きい広場が見える。

左右に分かれている道の先には、お城には及ばないが大きな御屋敷が建っている。

いや、御屋敷というよりかは宮殿でもいい気がする。


溟海の宇宙(うみのそら)がございますこの街は溟海帝国の首都”マルゼロ”といいます。

マルゼロは大きく分けて五つの地区に分けられており、手前に見える地区が鮫地区(ピストリークス)

その右奥が鯨地区(バーラエナ)、左奥が海亀地区(テストゥードー)

その更に右奥が海栗地区(エキーヌス)、左奥が鰯地区(サルダ)となります」



 真っ直ぐ大通りの道を進むと国章と共に、地区と地区との境目にそれぞれの地区を表しているのであろう、旗のついた街灯が並んでる。

建物は元の形が分からないほどのボロボロが一変、統一感溢れる大小様々な建物がずらりと並んでいる。

どこかヨーロッパ辺りを思わせる建物は二階建てに屋根裏部屋がついていであろう三角屋根が多い。

そして、神々しい巨木の根が至る所に地面から伸びて、その姿をさらけ出している。

そういえば……。



「前々から気になっていたんだが、あの巨大な木はなんだ?」


「国樹”ただの木(アルボル)”です」


「”ただの木(アルボル)”?」


「はい。

ただの木と書いてアルボルです」


「あんなに神々しいのに、ただの木なのか?」


「……左様でございます。

その、ですね。

先代皇帝陛下がただの木(アルボル)を名前をお決めになる際、酔った勢いで植えたばかりの木に”タダノキ”と大きく深く掘ってしまいまして。

後から事情をお知りになった先代皇后陛下が『国樹と定めた木の名前が”ただの木”とは何たることか』とお怒りになられました。

そして、『掘ってしまったものはいたし方ありませんが、国樹を”ただの木”と呼ぶことは断じて許しません』と仰り、”ただの木”と書いてアルボルと読むようになりました。



 ……いったい、何をやっているんだ。

国樹ってたしか国の象徴となる木の事だよね。

それをただの木って、怒られて当然なのでは。

改名……は掘っちゃったからもう出来ないのか。

にしても、私の前の皇帝って皇后の尻に敷かれてたのだろうか。

話の節々からそれを感じられるのだが……。


 真っ直ぐに歩いていくと目と鼻の先に見えてくる、お城の中庭にもあった水の中なのに水が噴出するふんすい。

噴水を中心に円形の広場は、地面から地上に出ているただの木(アルボル)の根にどういう原理か葉が生い茂っている。

私は噴水に近づいて、中を満たす水をそっとすくう。



「この水は真水か?」


「いえ、スライムです」


「え?」



 質問に答えたのはフィエルだった。

すくった水が……ツルンッと噴水の中に落ちた。



「スライムです」



 二度も言わなくていい。

……つまりこの吹き出す水……いや、スライムだという液体……個体……あれ、なんだっけ。

たしか粘弾性物質だった気がするけど、まぁいいか。

オルカリンドは落ちたスライムをすくって私に見せる。

まるで水だけど水じゃない、弾力のあるプルプルトロトロしてるスライムだが、近くで見ても水に見える。



「これは食せるスライム、”パクイム科”の一種ですね。

地上では既に絶滅したスライムの一種です」


「え、絶滅?」


「左様にございます。

パクイム科のスライムは水無の月(みずなしのつき)に非常食として、また飢餓や災害時にも重宝されておりました。

しかし、そこに金になると目をつけた冒険者や商人、果てにはとある国の貴族や王族までがこぞって乱獲をはじめまして。

気がついた時には後の祭り、パクイム科のスライムはこの世から姿を消しておりました」


「そんな事が……」


「こちらの噴水を満たすのはパクイム科の”ゴックン”というスライムでして、乱獲数が一番に多かった故、最初に姿を消しました」


「…………待って、つまり……このゴックンというスライムがあるということは……」


「元々住んでいたのか、後から住み着いたのか、のどちらかになりますね」



 フィエルがオルカリンドに答えを求めるように目線を向けた。

私もオルカリンドを見てみると、彼女は目を大きく見開いて驚いていた。

何に対してそんなに驚いているのだろうか。



「私はそのようなスライムを初めて知りました」



 え、初めて?



「でしたら後から住み着いたという事になりますね。

おそらく乱獲により絶滅をおそれたパクイム科のスライム達は、海に逃げ、安全な帝国に隠れた。

しかし、だとするとどうやってあの結界を通り抜けたのかが疑問になりますね」


「まさか、このゴックンにも資格が」


「ございません」「ありません」


「………………そうか」



 すっ凄い気迫。

なんかごめんなさい。



「とっところで、このゴックンが絶滅したのはいつ頃なんだ?」


「およそ4000年程前になります」


「よっ!?」



 オルカリンドが驚きのあまりに固まった姿に、心から同意する。

絶滅した時期にこの帝国に逃げて来たかどうかは分からないけど、もしそうだとしたら。

それは最長で、4000年前にはもう帝国が滅んでいた可能性があるということになる。

後、オルカリンドも4000歳以上だということにもなるのだが、なんとも言えない気持ちになる。

見た目は20代後半だが、実は4000歳越え……。

一応、この世界に存在する種族やその寿命について調べといた方がいいね。



「外は、そんなにも時間が経ったのですね……」



 噛み締めるように呟くオルカリンドに、私は何も言えなかった。

フィエルに調べるかと耳元で聞かれたが、二人の時に結果を教えてくれと頼んだ。



 下っていく途中、大通りに面する鰯地区(サルダ)に気になる建物を見つけた。

他よりもひときはただの木(アルボル)の根が巻き付き、建物を旗やら布やらで装飾してより目立たせている。

正面にはデカデカとカタカナで「ボウケンシャクミアイ」と掲げている。

その看板を見た私は思わず足を止めた。

そういえば、フィエルが冒険者と言っていたな。



「どうかいたしましたか、皇帝陛下」


「冒険者組合ってあの冒険者組合か?」


「皇帝陛下の仰る冒険者組合がどのようなものなのかは分かりかねますが、あちらは冒険者と呼ばれる者達が集い多種多様な依頼を受ける場所です」


「ぼーけんしゃ!

ぼくしってるよ!

いせきをあらすわるいやつらのことだ!」


「遺跡を荒らす?」


「うん!」



 よく冒険もののゲームとかアニメには、遺跡とかに入って秘宝を探したりするクエストとかもあった覚えがある。

そうか、あれらはプレイする側からしたら楽しいが、攻略される側からしたら荒らしも同然なのか。

だから、魔物とかを放って防衛している。

考えたことも無かったな。



「冒険者とは、そんなに酷いものなのか?」


「ご主人様の契約精霊様が仰る冒険者とはおそらく、冒険者と名乗るに値しない者や、冒険者に扮した盗賊や墓荒らしのことでしょう。

冒険者は条件さえ満たしてしまえば、誰でも冒険者組合に登録し、冒険者と名乗ることが可能です。

ですので、年齢性別種族を問わずに様々な者が冒険者におります。

しかし、誰でも条件を満たせば簡単に入れるという点が些か問題にもなっておりまして」


「なる人が多すぎるのか」


「ご明察です。

国の首都や潤っている街でしたら優秀な人材や場所を確保し、隅々まで管理できます。

しかし、地方などにある小さな町や過疎化や高齢化が進んでいる村にある支部の冒険者組合では、人手が足りずに把握しきれておりません。

そこをついての冒険者に扮する盗賊が後を絶たない状況です」


「そうか……。

フィエル、冒険者組合には国が介入できるものなのか?

それとも独立した組織か?」


「表向きには独立した組織ですが、国によっては裏で手を引いている支部もございます」


「ならここも国の支配下におけるか?」


「ご命令とあらばこのワタクシが管理いたしましょうか」


「そうだな、頼む。

盗賊なんかにこの国を荒らされるわけにはいかないからね」


「……フフ」



 オルカリンドが驚いたような顔をして、すぐに笑みを浮かべた。

なんで笑ったのか想像がつくが、これくらい当たり前のことだ。

少しづつだけど、この国を知っていくごとに私の覚悟は強固になっていっているのだから。

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