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意識覚醒、クラゲになっていました。  作者: 佐藤莉
〜第1章〜溟海帝国
24/29

〜24〜書庫物色しました2。

 結局、あれから従者欄について考えたのだが、それらしい理由が隷従の瞳くらいしか思い浮かばなかった。

これ以上考えても私にはきっと分からないと思うから、フィエルが戻ってきたら聞いてみようと思う。


 『自己把握』を閉じてふと目線を上げてみると、私はたまたま目線の先にあった本に目を奪われた。

手に取ってみると『オウノハナシ-Ⅰ-』と書いてある。

開いてみると特徴的な絵柄で描かれた、青色が混じっている黒髪の顔の描かれていない男と、見開きいっぱいに描かれた巨木の枝にとまっている顔の描かれていない薄緑色の大きな鳥がいる。

どうやら、これは絵本のようだ。

全部文字がカタカナで書いてあるので結構読みにくい。

単語ごとに点を入れて区切りたい、いや、そもそもひらがなに戻して漢字にしたい気持ちを押さえつける。

そして、頭の中で漢字に変換しながら読み進めていく。

何となく、絵本が懐かしく感じて読みたくなったのだ。



『深い森をさまよっている一人の男がおりました。

 男は死に場所を求めてやってきたのです。

 男は力尽きる寸前に己を呼ぶ声を耳に入れました。

 男は先立った妻と子へ冥土の土産に声の主を探し出すことにしたのです。

 男が見つけ出した声の主は深い森の主でした。

 深い森の主は男に言いました。


 ”死に場所を求めるのはそなたの自由。

 だがこの森で命を絶つのなら未練なくお逝きなさい。”


 男は森の主の言葉に妻と子を殺した仇を思い出したのです。

 男には未練があったのです。

 男は仇を打ち取ることにしました。

 男は歩き出そうとしましたが倒れてしまいました。

 男はもう歩くことすら出来なかったのです。


 森の主は男のことを知っていました。

 森の主は男の妻と子のことも知っていました。

 森の主は”勇者”の覚醒のために犠牲が必要であるということも知っていました。

 森の主は己を人の姿に変え男に一本の剣を与えます。

 森の主は男に言いました。


 ”この剣を使いなさい。

 これならばそなたの仇を切れる。

 我ら目に見えぬ自然はそなたの味方だ。”


 森の主は姿を消してしまった。

 男は与えられた美しい白銀に輝く剣を見つめた。

 男は剣を見ていると体から力が湧き出るのを感じました。

 男は愛する妻と子の仇討ちを胸に誓い旅立ちました。

 男が倒れることは二度とありません。


 ー続くー 』




 …………え、ここで終わり?

こんな、男がこれから仇討ちをしに行くという物語の大部分を迎えるであろう冒頭で終わるの?

ご丁寧に「続く」とまで書いてある。

しかも、倒れることはありませんなんていう怪しめなネタバレまで添えて。

なんなんだこの中途半端な絵本は。

無性に続きが気になって、書庫の中を端から端まで確認したのだが、続きはどれだけ探しても見つからなかった。


 なので、私はこの本を『有限箱』にしまった。

なぜだか分からないが、どうしても続きを読みたいのだ。

だから、続きを見つけた時にこの一巻と一緒に読めるように、肌身離さず持っておくとしよう。



 次も一番初めに目に入った本を手に取ってみた。

表紙にはでかでかと『マホウヲツカウタメニヒツヨウナコト』と書いてある。

怪しさ満点のこの本を興味本位で開いてみた。

一番初めのページにはさっき見た絵本の男に似ている姿の人物が描かれていた。

片手を腰に差した剣に添え、もう片手には青黒い炎を掲げている。

そんな威圧感満載な男の背後から抱きつく、水色の髪をした女性は浮いているように描かれている。

よく見てみると足が頭の後ろに書かれていて、空中に漂いながら抱きついているようだ。

右上には青黒い炎の蝶の羽を羽ばたかせている、ファンタジーものでお馴染みの精霊か妖精に見える生き物もいる。

どれも絵本と同じように顔は一切描かれていなかった。

男の足元には名前が書かれていたのだろうか、何か墨のようなもので黒塗りにされていて読めなくなっている。



「この人達、誰なんだろう……」



 気になって本の隅々まで読んでみるが、正体が分かるようなものは見つからなかった。

だが、この右上にいる生物の正体は分かった。

私の予想通り精霊であっていたようだ。

この精霊がドアップで載っているページには”炎の最上位精霊”と書いてある。

他にもページをめくっていくと五大属性の最上位精霊が載っており、それぞれの特徴たる属性を天変地異の如く操る。

契約を交わすことで魔力を持つ生物が魔法を使えるようになる、と簡単な説明が載っていた。


 この世界に存在する魔法というものは、普段は目に見えぬ精霊と契約することで初めて使うことが出来るという。

精霊は決まった手順で召喚することが出来、所有している魔力の量と質、己の宿している属性、魔法の適性によって呼べる精霊の強さが変わってくる。

しかも、この本曰くほとんどの者は呼び出すことすら難しく、呼び出しに応じてくれても契約してくれるかどうかはさらに難易度が上がるとの事らしい。


 これが本当だとしたら、フィエルがさらにとんでもない存在になるのだが。

四属性の魔法を使えるということは各属性の精霊を呼び出せて契約出来たということだよね。

……よくこんな恐ろしい顔面兵器を執事に出来たな、私。



 それにしても……うん、魔法、魔法か。

正直使ってみたい気持ちがかなり強い。

今も増え続けるMPを使ってみたいし、『MP自動回復』がどれくらいのものかも知りたい。

スキルの中にはMP消費で使えるものもあるけど、ここはやっぱり魔法という小さい時に一時期本気で憧れていたものがいい。

そういえば、私は幼い頃は日曜日の朝に放送される、キラキラで可愛くてかっこいい女の子達が変身して戦うアニメをよく見ていたな。

思い出すと、もっと魔法が使いたいという気持ちが強くなる。


 よし、魔法を使ってみよう。

そう決意した私はこの本の隣にあった『セイレイノショウカンホウホウ』という本を持って中庭にやって来た。

長い間放置されてきたというのに綺麗さを保った中庭の真ん中には、水の中だというのに水が噴出している噴水がある。

噴水の縁には小さくてたくさんの黒い石が飾りとして施されている。

噴水の水にそっと触れてみても濡れたような感じはなかった。



「えっとまずは……精霊を召喚するためには捧げ物を用意します、か。

捧げ物ってどうすればいいんだ?」



 とりあえず、この中庭に生えている花でいいかな。

この牡丹に似ている白色から薄い紫色のグラデーションの花にしよう。

私はそれをそっと潰れないようにとると、噴水の縁に置いた。



「次は、呼び出す精霊の属性の象徴となるものを用意する。

属性……象徴……これについては用意する必要ないね」



 そもそも水の中にいるのだから、他のものを用意したところで意味をなさないだろう。



「最後にMPを込めて精霊召喚の呪文を唱えるのか。

ん?

間違えたら一年は召喚が出来ない……。

これは、気を付けないといけないね」



 呪文をしっかりと何回も頭の中で読んで復習する。

完全に覚えたことを確認して、ゆっくりと体の中を血液のように流れる魔力に意識を向ける。

これも『自己把握』のおかげで悩むことなく魔力を感じることが出来た。

これから発する言葉に魔力を乗せるように集中させると、体の中を流れる魔力の流れが早くなったのを感じる。



「我らが世界を育みし精霊よ。

どうかお越しくださいませ。

我が名はミツキ・ラピスリズラ。

汝らと契約を望む者」



 こういう召喚系のものはどうして古風な感じを出したがるのだろうか。

そんなことを思っていると、目の前に小さな黒く光る人魂のようなものが現れた。

同時に噴水の水の色が濃く深みのある黒色に変わって、人魂のようなものを渦を巻きながら包み込んだ。

バシャンッと黒い水が弾け飛ぶと、キラキラと小さな黒い星を纏った手のひらサイズの本に載っていた精霊が現れた。

その精霊はまさしく、”炎の最上位精霊”が載っているページの何ページも後に載っていた”闇の最下位精霊”だった。



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