〜23〜時間把握しました。
瑠璃と漆黒に彩られ、純白に包まれた冷たくもどこか温もりを感じるこの城はかつて、”溟海の宇宙”と親しみを込められて呼ばれていたという。
この城を最初にそのように呼び出したのは先代皇帝のようで、曰く、『この溟海に生きる全ての民が笑顔で満ち溢れたならば、それは満天の星にも勝る景色となる。その象徴として、ここはどのような姿になったとしても永遠を生き続け、笑顔という名の星を生み出すだろう』どのことらしい。
これはオルカリンドに城の中を案内してもらった時に聞いた話だ。
正直、私にはあまり分からなかったけど、笑顔で溢れかえるのは良い事だと思う。
私はこれから私の家となる溟海の宇宙をオルカリンドに案内してもらった。
私が寝ていた部屋は先代皇帝の孫娘が使う予定だった部屋で、結局一度も使われずに、当時のまま何一つ変わっていないのだという。
なぜ使われなかったのかは、滅んだということを考えれば自ずと理解出来たので、何も聞かなかった。
私はこのままあの部屋を使うこととなり、フィエルはすぐ隣にある小さな隠し部屋を使うらしい。
この部屋についてはオルカリンドさんですら知らなかったらしく、部屋の存在を知った時は唖然としていた。
ちなみに、先代皇帝は自分の部屋を持たずに好きなところで自由に寝て、毎度の如く皇妃に怒られていたのだという。
オルカリンドにはどこでもいいので絶対に何があっても部屋で寝てくださいと、引き締まった顔で頼まれた。
溟海の宇宙が朽ち果てていたのは外見だけで、中身は時間が止まったかのように変わらないと、オルカリンドは言う。
その理由は中の状態を維持する魔法がかけられているらしいのだが、彼女は魔法についてはからっきしで、どういうからくりなのかは分からないとの事だ。
フィエルに聞いてみると、確かに地下に壊れかけの古い魔法陣があり、壊れかけでなかったら外見も変わらずに保たれていたはずだという。
書庫を出て右の方に進むと、巨大な円柱の油時計の形に似た時計を囲う螺旋階段が見えてきた。
あまりの大きさに目を見開いていると、オルカリンドがこの時計について教えてくれた。
「こちらは先代皇帝陛下のご友人が溟海帝国建国の記念に贈られた”刻読”です」
「大きい……」
「……皇帝陛下。
大きさにつきましては、言及しないでいただけると幸いです」
「?……分かった」
苦虫を噛み潰したようなすごい顔をしているのだが、何があったというのだろうか。
フィエルは二コリと笑うだけで、何も言わないのも逆に怖い。
お前絶対何か知ってるでしょ。
「ところで、刻読って時計のこと?」
「は……えっと、申し訳ございません、皇帝陛下。私はそのとけい?というものが分かりませんので、どうお応えすればいいのか」
えっ!?
時計を知らない!?
「左様にございます、ご主人様。
刻読は時計の元となった原型の品物にございます。
ですが、これほどまでに豪華で壮観で、圧倒的な物はそうそうお目にかかれません」
「……やっぱり、大きすぎるんだね」
「……………………はい」
三階建て相当の大きな時計、基、刻読。
見た目は油時計にものすごく似ているのだが、中身は決して油では無い。
六つの異なる大きさの線が絡み合って六重の螺旋を描きながら、上から下へと落ちる沢山の連なる白色の雫。
よくよく見ると雫の中に六つの他より大きい水色の雫がそれぞれ一本に一つづつ混ざっていた。
水色の雫の中には桃色の、どこかで見たことある記号のようなものが浮かび上がっている。
それぞれの線が違った一定の速さで上から下へと。
一番下にたどり着いたら今度は下から上へと繰り返す謎の雫。
それぞれの線にある水色の雫が線の中心となり、外側の太い線から順に年、月、日、分、秒を表しているのだという。
上から下へ、そして下から上へと戻ってきたら一年、一月、一日、一時間、一分、一秒を終えたことになる。
上から下の時は薄い水色で、下から上に行く時は濃い水色へと変わっていく。
ただ、月を表す雫だけは他とは違うようで一定の期間を過ぎると水色から赤色、黄緑色、無色、黄色、そして水色に戻る。
その時、中の桃色もそれぞれの反対色になるように変わっている。
この世界の暦をフィエルに聞いたら、この世界は一年が五ヶ月、一ヶ月が七十日、一日が五十時間、一時間が六十分、一分が六十秒だと説明してくれた。
分と秒が前世と同じなのに、その事が逆に恐ろしく感じるのは気のせいだろうか。
この世界の今の時間は目の前の刻読で”水無の月三十七日二十七時三十五分十一秒”。
なぜ正確な時刻が分かるのか聞いたら、あの桃色の記号がこの世界の数字なのだという。
月は一月二月とは言わず、”無無の月”から始まり、”土無の月”、”水無の月”、”火無の月”、”風無の月”と続いて一年が終わる。
それぞれが四季のように特徴があるらしく、土無の月は降水量が他の月より圧倒的に多くてジメジメしており、水無の月は逆に雨があまり降らずに乾燥している。
火無の月は気温が低い上に太陽が出ている時間が短い。風無の月は埃一つ舞い上がらない無風状態。そして無無の月はこれといって何一つ特徴が無いのだという。
それぞれの月の特徴が名前に出ているというのは分かりやすい。
しかし、それぞれの月の特徴は海の外のことで、海の中にいる私たちにはあまり関係の無いことだ。
一通り大まかに案内してもらい、大体の城の間取りを覚えた私は先程の書庫に戻ってきた。
本当はもっと詳しく教えてもらいたかったのだが、そうも言ってられずに戻ってきたのだ。
その理由はただ一つ。
先程から視界をさえぎったり、扉に挟まりかけたり、フィエル達に何度もぶつけてしまう。
この床につくほどの長い髪を何とかできないかと思い、戻ってきた。
あいにくと私は刃物の類を持っていない。
この部屋にもあるとは思えない。
となると……。
「フィエル」
「なんでございましょう」
「なにか切れるものを持っていないか?」
「ございます。
こちらでよろしいでしょうか」
差し出されたナイフを受け取ると、片手で髪をまとめあげて思いっきり切り落とした。
はずなのに、手にしていた髪は塵の如く消え去り、切ったはずの髪は元通りになっている。
「な、なぜだ!?」
切ったはずなのに元通りになった髪を見つめて驚いていると、フィエルが断りを入れて私を椅子に座らせた。
すると、どこからともなく取り出した櫛と髪留めで乱れた髪を整えはじめる。
あっという間に床に着くほどの長い髪が編み込みやらお団子やらを組み合わせた髪型に結びあげた。
確かにこれなら止まった時に床に髪がつくことはないし、まとまっているからあまり邪魔にもならないね。
だが、一言言いたいことがある。
「……何してるんだ、フィエル」
「御髪が気になるようでしたので結ばせて頂きました」
「それはありがとう、助かった」
「ありがたきお言葉にございます」
「……ところで、どうして切った髪が元に戻ったんだ?」
「それはですね、ご主人様。
先にも申し上げましたが、『擬態』のスキルはその者の魂に一番ふさわしい容姿に変化いたします。
ですので例え御髪をお切りになったとしても一瞬で元通りになります」
「なんだその設定いらないね」
「そう仰られても……」
「ただの愚痴だから、気にしないで」
「かしこまりました」
そんな私たちを、オルカリンドは微笑ましそうに見ていたのだが何故だろうか。
何故だか聞きたかったのだが、城や城下町の被害を確認するために巡回したいと言うので、許可をして送り出した。
よって、書庫には私とフィエルだけになる。
ちょうどいいので私は少し前から聞きたかったことをフィエルに聞くことにした。
「フィエル、壊れかけの魔法陣についてなんだが、直すことはできるの?」
「少々時間がかかりますが、可能です」
「本当か!」
「はい。
ご主人様が望まれるでしたら、この唯一の執事たるフィエル。
全身全霊をかけて修復致しましょう」
「なら、どれだけ時間がかかってもいいから頼みたい」
「かしこまりました」
魔法陣が完全に直ったらきっと、またこの城が今みたいに壊れる事はなくなるはずだ。
やる気に満ち溢れて逆に心配したくなるフィエルが部屋から出ていくのを見届け、私は『自己把握』を使用した。
オルカリンドが私の部下……手下……いや、仲間か?
どれになるのだろうか……。
まぁ、とりあえず私に仕えることになったから何かステータスに変化は無いか確認することにしたのだ。
相変わらずMPは増え続けているのを無心で見つめた後、従者欄に目を向ける。
しかし、そのは特に何も変わることがなく、ただただフィエルの名前があるのみだった。
「もしかして、ここもなにか条件があるのか?」




