〜21〜書庫物色しました。
一通りステータスの確認は終わったので、目の前にある大量の本を読もうと近くにあった本を手に取って表紙を見つめる。
そこで気がついたのだが、本の題名が全てカタカナで書いてあるのだ。
他の本も確認してみると、どれもこれもカタカナで書いてある。
その中で一冊だけよく分からない文字のようなもので書いてあるものもあった。
もしもこのよく分からないのがこの世界の文字だとすると、このカタカナは一体何なのだろうか。
頭を悩ませていると、扉の前に誰かがやってきたのを水の揺れで感じる。
「ご主人様、こちらにいらっしゃいますか?」
「いる、入っていいよ」
「失礼致します。
滞りなく可能な範囲で隅々まで調べてまいりました」
「ありがとう。
何か罠とかあった?」
「侵入者に対する防犯目的の罠は多数ございましたが、ご主人様に対する罠等は見受けられませんでした」
「そうか……」
私に対するという事は、対侵入者以外にも何かに対する罠はあったということなのかな。
まぁ他にも絶対何かありそうだけど、今はそれよりも聞くことがあるし、私に害がないならそれでいいか。
フィエルはそもそも罠にかかること事態想像がつかないし、かかっても自力で何とか出来るという予感がある。
それに、実際にどんなものかを見ながら説明を受けて方がいいだろうからね。
「分かった。
これからも何か怪しいところがあったら報告してくれ」
「かしこまりました」
「ところでフィエル、この文字のことは分かる?」
手に持っていた本をフィエルに渡すと、何故という顔をしながら質問を聞き返してくる。
「それは、”言霊象形文字”のことですか?」
「ことばあそび?」
「左様にございます。
溟海帝国ラピスリズラが繁栄していた頃まで使われていた文字でして、使われることを禁じられたと記憶しております」
「禁じられた?」
「まだ文字というものが存在しない時代、言霊象形文字はとある名も無き者達が仕草や言葉以外で意思疎通をとるために生み出した、最古の文字です。
ですが、クソ野郎の自称側近が名も知れぬ下賎な者によって生み出された文字を使うなど言語道断と言い放ちまして。
今現在も自称側近の側近が作った文字を、自分が作り出したと自称しながら広めていることでしょう。
あれは自称詐欺師と呼ぶのが相応しいです」
「……そうか」
また出てきたな、クソ野郎。
しかも、自称側近こと自称詐欺師とその側近という新しい登場人物まで連れてきた。
もう、一体どれだけクソ野郎は世界に影響を与えているのだろうか。
ここまで来ると聞いてみたい気持ちもあるが、、わざわざ分かりきっている相手の地雷を踏みに行くなんて無謀なことはしない。
よし、聞き流そう。
「なら、こっちの文字は?」
『水操作』で読めない文字の本をフィエルの前に持っていく。
他とは明らかに違う豪華な装飾に、細い金色の鎖が厳重にグルグル巻かれた青色の本。
フィエルが確認のために触れようと手を伸ばしたら、本が勝手に動いて私の前までやってきた。
「……はっ、動いた?」
「動きましたね」
思わぬ出来事に目の前の青色の本を凝視してしまう。
他とは圧倒的に違うその本はまるで、私に触れてと言わんばかりに私の目の前で静止している。
もしや、この本も王冠と同じように資格がある者じゃないと開けないとかあるのだろうか。
思わず出そうになるため息を押し殺し、そっと本に触れる。
眩しい光を発しながら、頑丈に何重にも巻かれていた鎖がシャラシャラと解ける音が聞こえる。
「お初にお目にかかります。
溟海帝国の新たなる皇帝よ」
深みのある女性の声が聞こえると、やがてゆっくりと光がおさまっていく。
眩しすぎる光のせいで視界が少しチカチカするが、『視覚拡張』によってすぐに戻った。
戻った視界ですぐさま状況を確認すると、私の前には私を護るように立ち塞がるフィエル。
そしてその前で跪いている、先程までいなかった見知らぬ女性。
下を向いていて顔は見えないが、短く切り揃えられた濃紺色のふわふわで柔らかそうな髪は毛先までしっかりと手入れされているのが見てわかる。
「何者ですか」
「……」
「ふむ……ご主人様、彼女に何かご命令を」
「命令?」
「左様でございます。
おそらくですが、彼女はご主人様のお言葉以外耳に入れる気はないとみられます」
うわぁ、また面倒くさそうなのがきた。
私の言葉以外耳にはいらないって、頭のネジが何本か外れてはいないだろうか。
はぁ……なんだろうか。
今まで私がこの世界で出会った者達の中で、一番まともそうなのがリヴァイアランさんしかいない気がする。
「…………あなたは誰ですか?」
「我が名はオルカリンド・A・シュヴァリエ。
溟海帝国ラピスリズラ海皇近衛騎士団副団長を任されていた者です」
近衛騎士団……ということは溟海帝国を守る騎士ということかな。
誰もいないと思ってたんだけど、本になった人がいたとは思わなかった。
「えっと……シュヴァリエさんは、」
「どうぞ、オルカリンドとお呼びくださいませ」
「…………オルカリンドさんはどこから現れたの?」
「私はずっと、この本の中におりました」
本の中、とは一体どういうことなのだろうか。
理解出来ずに疑問に思っていると、左足に装着しているブックホルダーから先程の、光りだした青い本を取り外す。
そして、洗練された動作で本を私に差し出してきた。
だが、触れただけで光りだした怪しい本を受け取る気にはなれない。
どうしようと渋っていると、フィエルが危険がないか確認したいとオルカリンドさんに触る許可をもらった。
今度は避けるように動くことなく、フィエルは本に触れることができた。
フィエルが本の中身を確認している中、目の前で跪いている女性、オルカリンドさんは一切動くことなく静止を保っている。
よく指一本動かさずにいられるね、とじっとしている姿に関心を抱いてしまう。
私は改めて、自分をこの帝国の近衛騎士団の副団長であると名乗った彼女の服装を確認した。
瑠璃色と純白を基調とした軍服に、同じ配色のマントを左肩にかけて反対の方を出している。
本をグルグルに巻いていた細い金色の鎖は首や腕、腰に至るまで装飾として邪魔にならないよう程度に巻かれている。
左腰には装飾が無く、装飾品の類も何一つつけていない物静かな雰囲気の長細い剣と、細部までこだわったであろう鮮やかな装飾が施された気品溢れる短い剣が二本下げられていた。
「ご主人様、終わりました」
「どうだった?」
「彼女の発言に虚偽はございません。
こちらの本が彼女の本体のようです」
「本体?」
「彼女の正体は本人族という種族の者にございます。
身元はこちらの本が証明してくれます」
「ブックヒューマン?」
「本に宿る人族の事でございます。
産まれた時から一冊の本を手にし、その本が魔核の役割を担っているのが特徴的な種族です。
まさか、実在しているとは思いもよりませんでした」
「それはどうゆう事だ?」
「簡単なことでございます、皇帝陛下。
私達本人族は普通の人族とは違い、魔核が本という形で体外に出ております。
ですので本を奪われてしまったら最後、簡単に己の命を握られてしまい、幼い頃に奴隷にされる者がほとんどです。
そして、奴隷にされた私の同胞達はその仕打ちに耐えられず、皆自ら命を落としていきました。
私の故郷にいた同胞達はきっと、もうこの世にはいないでしょう」
……軽く聞いた話が息が詰まるほど、ものすごく重かった場合はどうすればいいのだろうか。
フィエルとはまた違ったベクトルで重いのだが。
それを聞いた私が悪いのだが、そこからどうするのが正解なんだ……。
まさか、フィエルの時みたいに従者にしないといけないとか、一族の復興を手伝わないといけないとかないよね?
「……とりあえず、顔を上げてくれないかな」
「御意に」
いつまでも下を向いて話されるのは見てるこちらになぜか罪悪感がすごいから、とにかく顔だけでも上げてもらおう。




