〜19〜自分確認しました2。
王冠をかぶるとあっという間に人間の姿に変わり、先程と同じ寝巻きを身に着けていた。
その場で手や腕を動かして回してみたり、歩いてみたり、伸びをしてみたりして体の状態を確かめる。
これといった異常は一切感じられず、むしろ前世の私なんかよりずっと動きやすいのだが、着ている服が気になる。
寝る時はこれといって構わなかった、と言うより寝ていたので気にならなかったのだが、寝巻きのまま動き回るというのは慣れない。
「着替えるか」
あ、でも替えの服をどうしようか……。
「お着替えでしたら、こちらに」
「……なんで持ってるの?」
思わず呟いてしまった言葉に、先読みしていたかのようにフィエルがドレスを見せてきた。
手にしているのは沢山のリボンとフリルにレースが満遍なく使われた、ピンクと薄緑色のメルヘンなお姫様ドレス。
私は全力で首を横に振って拒絶を示すと、残念そうにフィエルは一瞬でドレスを手から消した。
そして、別の煌びやかなドレスを見せてくる。
手品か何かだろうか……。
「どこから出したの?」
「隣接しております衣装室からでございます」
「……」
いつ隣の部屋を調べたのかとか、何勝手に人の物を持ってきているんだとか、言いたいことは色々ある。
だけど、ニコニコと笑いながら様々なドレスを見せてくるフィエルに私は無言を貫きながら首を横に振るしか出来ない。
服を着替えたいのは確かだが、誰かのを勝手に着るような事はしたくない。
「フフフ、どうかご安心くださいませ、ご主人様。
これらのお召し物はこの部屋の以前の持ち主。
前皇帝の妻である皇妃自ら趣味で仕立てられたものでして、今まで一度も誰かに着られることなく、しまわれていたものでございます」
「なんでフィエルが知っているの?」
「衣装室に書置きがございました。
一番最初に部屋に入った者に、部屋の全てを譲り渡す。
例え皇帝が許さなくとも、皇妃である私が許します。
異論は認めませんと、こちらに書いてあります」
「…………ほんとだ」
またもやどこから出したのか分からない、やけに手触りの良い紙を渡してきた。
書かれている文字はやはりカタカナで書かれているが、その字は石碑に刻まれてた汚い字とは天と地の差がある。
流麗な達筆で書かれていた内容は、長いので意訳するとフィエルが言っている事と変わらない。
フィエルが勝手に私の服を着ることへの罪悪感を無くすために用意したのではないかと疑ったが、契約を思い出してそれは無いと否定する。
「あちらの部屋に一番最初に入ったのはワタクシです。
そしてワタクシのものは、いえ、ワタクシの全てはご主人様のものでございます!!
ですので必然的にあちらの部屋の全てはご主人様のものとなります」
「…………そうか」
もう、何も私はツッコマないぞ。
とりあえず、服の問題が解決したという事だけを分かっておこう。
「どう見ても動きにくそうな服ばっかりだね」
「どれもお気に召しませんでしたか。
……でしたら、こちらはいかがでしょうか」
「…………ぃ、嫌だ」
何故、こうもフィエルはお姫様を夢見る少女の理想のような可愛らしいドレスばかり持ってくるのだろうか。
まさか、衣装室にある服が全部こういう系統だけなんてことは無いよね。
「……フィエル。
色々持ってきてくれるのは助かるけど、もう少し暗めの色。
寒色系のはないか?
それと、あればでいいのだが、下は動きやすいズボンがいいのだが……」
「ご安心くださいませ、ご主人様。
衣装室にはおよそ百は超える数の多種多様な衣服で溢れかえっておりました。
ご覧いただいたものはほんの一部にございます」
「え、まだあるの?
十着以上持ってきてなかった?」
「はい、ございます。
ですのでどうかご主人様の唯一の執事たるワタクシにお任せ下さい。
必ずワタクシがご主人様が気に入ってくださるお召し物をご用意致します!!」
うわ、すっごい気迫。
これ頷かなかったら後々面倒なことになりそう……。
まぁ、ドレスとかあんまり興味無いし、何がいいのか分からないから詳しそうなフィエルにまかせよう。
「じゃあ、お願い」
「かしこまりました!」
うわっ、眩しい……。
数分後、山のようにある中から比較的動きやすくてフリルやリボンにレースの少ない、膝上丈だけれどちゃんとズボンの服を選んだ。
フィッシュテールという裾の前が短く後ろが足首まで長い、ハイネックで肩出しのドレスに膝上丈のキュロット。
お腹あたりから下がふっくらとして、まるでクラゲを模したようなデザインになっている。
色は差し色に赤紫色の入った濃い青と黒色に、細やかな刺繍は金色や白色が使われている。
後腰にはタレが長くて大きいリボンが着いており、これがある代わりに他の装飾が少ないようだ。
首元にはフィエルから貰った、というより半ば押し付けられたブローチを着けている。
真ん中には見るからに高価そうな赤紫色の宝石が鎮座している。
これはフィエルが元々持っていたものらしいが、別に興味は無いし、何故それを伝えてきたのかも分からない。
初めは断ったのだが、あまりの押しの強さに根負けしてしまった。
私は押しに弱いのだろうか……。
いや、疲れているだけだね。
フィエルは私の着替えまで手伝おうとしてきたので、それは全力、契約を破棄するとまで言って断った。
けど、今まで物語の中でしか見た事がない、特殊な作りの服だった為に、扉越しに着方を教えて貰いながら着ることになった。
そのせいかかなり時間を食ってしまう。
「終わったから、入っていいよ」
「失礼いたします。
!!……あァ。
ご主人様……なんとお美しいことなのでしょうか。
天上におわす美の神ですら、ご主人様の前では己の美しさを自問し、内に潜める醜さを自覚することでしょう」
「……大袈裟じゃないか?」
「いえ!!
そのような事は決してございません!!
ワタクシは今までの人生の中で、ご主人様より美しい存在を知りません」
「そ、そうか……。
その、ぇっと…………ぁ……ありがと」
「!、光栄でございます」
ここまで褒められると、さすがに恥ずかしい。
優しい笑みを浮かべたフィエルの視線から逃げるように、私は下を向いて着ている服の確認を始めた。
水の中だというのに着ている服は全く重さや肌に張り付く、あの濡れた服特有の気持ち悪い感じがしないのは不思議な感じだ。
どうやら『水操作』のスキルがきている服にも付与されたらしい。
その理由は、着ている服やアクセサリーを『自己把握』のスキルがそれらも自分の体の一部だと認識したからのようだ。
おかけで、水の中でも陸にいた時のように、むしろそれ以上に動ける。
「そういえば、擬態した時の姿は初めから決まっているの?」
「左様でございます。
姿を変えることが出来るのは『変身』や『変装』の類のスキルか、『無属性魔法』の”強ノ下階級”の魔法となります。
『擬態』のスキルは別の種族に擬態する際に、その者の魂に一番相応しい姿に変化します。
魂が美しければをその姿も美しく、魂が醜ければその姿は醜く変貌いたします」
また新しい単語が出てきたが、今は後回しにしておこう。
「私は、そんなお綺麗な存在じゃないのだが」
「フフフ、ご謙遜を。
ご主人様の美しさはそのお姿が物語っております。
どうか、御身に自信をお持ちください」
「……そうか」
ここまで褒められると、何も言えなくなってしまう。
出会ってからまだそんなに時間が経っていないのに、この爽やか知的依存系顔面兵器執事の私に対する好感度はどうなっているのだろうか。
きっと無駄に上がることはあっても、下がることは無いのだと予想が着く。
なにせ、この数時間でフィエルがどれだけ私を想っているかを嫌でも分かってしまった。
これも隷従の瞳の能力の一つなのか、フィエルが私に抱く感情が何となく分かってしまうのだ。
そのせいで、今も現在進行形で好感度が上がっているのが分かる。
んん、とにかく着替えは終わったら早速書庫に行こう。
フィエルはどうしようか……。
何も言わなかったら永遠に私の後ろで私を見続けるだろうなという確信がある。
四六時中、後ろにいられるのは嫌だな……。
そうだ!
「私は書庫に行くから、フィエルはこの帝国に怪しいところがないか調べて欲しい。
例えば、入った瞬間に攻撃してくる罠とかないかを」
「かしこまりました」
とりあえず、それとなくフィエルをどこかにやれる理由を用意した。
それに、こんな曖昧な指示でもフィエルならどうにかしてくれるであろうという、確信がある。
……もしかして、頼りすぎだろうか。
いや、全然そんなこと無かった。
目の前の顔面兵器は頼られて凄く、物凄く喜んでるから、むしろどんどん頼ろう。
* * *
書庫に案内してもらい、中に入ると見える範囲の四方八方全てが本当という本で溢れかえっていた。
目の前の奥には本を読むスペースも用意されている。
大量の本は本棚にしまってあるのではなく、綺麗に、おそらくジャンルごとに分けられて水の中に浮いている。
奥のスペースに置いてある、一人がけの椅子に向かって歩き出すと、浮いている本達は自ら道を開けてくれた。
椅子に腰かけて改めて書庫を見渡すが、あまりの本の多さに驚きを通り越して唖然としてしまう。
「さすがにこの多さは……。
後にして、ステータス確認を先にするか」
この大量の本からお目当ての本を見つけ出すのは容易ではないはず。
だから、私は先に自分のステータスを確認することにする。
眠る前に聞いた、世界から伝達ではなく伝令ということに、また進化したのかなと思いながら『自己把握』を使用する。
まずは私の種族から。ネックス・クヴァレという種族からエンペラー・クヴァレという、いかにもな種族に進化していた。
もしかして、エンペラー・クヴァレという種族は本当は存在せず、いまさっき創り出したりしてはいないだろうか……。
でないと、今の皇帝になってしまった私にピッタリすぎて逆に恐ろしい。
相変わらず私の所有している全てのスキルは『自己把握』によって統括されており、進化したからなのか前よりも使いやすくなったような気がする。
HPは50から70に増え、MPは相変わらず今も増え続けて、もうすぐ1万5000を超えそうだ。
増え続けている速度に変化は見られず、50秒から60秒の間で1つ増え続けている。
ただ、たまに2つ増える時があるので、小さな進化をしたようだ。
無効は二つ、耐性は一つづつ強さが上がった。
そして、耐性には新たに精神攻撃(弱)と全属性攻撃(弱)が追加されていた。
この精神攻撃の耐性はもしかしてもなく、私が私に効くかも分からない精神安定剤を欲しいと、ずっと嘆いていたからだろうか……。
スキルも全て強化されており、一番初めから持っていたものが進化した『触手猛毒(中)』と『触手感覚麻痺(中)』、『触手運動麻痺(中)』はそれぞれ(強)に上がっている。
今の私は人間の姿だというのに、常時発動のままになっているのはどういうことなのだろうかと思ったら、手や髪の毛、足が触手扱いになっていた。
手や足はともかく、髪の毛が触手扱いはいいのだろうか。
まぁ、今のところそれで不憫にしていることは無いから構わないのだけど。
これまでずっとお世話になって、これからも頼りにしている『水操作(強・改)』のスキルは(超)へと進化し、技一覧にある技の強さも同じく(超)となった。
そのおかげで前の倍以上の範囲の水を、以前よりもずっと意のままに操れるようになった。
例えるなら、前の水を操れる限界範囲が学校の二十五メートルプール一杯分だとして、今は百杯以上なんて余裕で操れる。
さらに、体に触れている水の、普通なら分からないくらいの小さな揺れや振動、流れを通して範囲内なら水の中のどこに何があるのかを把握出来るようになった。
ただあまりに遠く過ぎると大きなタイムラグや距離や何があるのかを間違えてしまいそうなので、大きな動きがない限りは近くのみにしておこう。
リヴァイアランさんから譲り受けた『視覚拡張』は(強)から(超)へと一気にあがり、見えるものがより鮮明にはっきりと見えるようになった。
前までは薄暗く水族館にいるような見え方から、今は朝方の少しだけ暗い朝焼けに飲まれる間のような暗さをしている。
少し暗いが、その代わりなのか視力は物凄くよく、一番遠くに浮いている本の表紙の小さな文字まではっきりと見える。
……気が付いたのだが、私は今、人間と同じ見え方をしている。
他の目はどこに行ったのだろうか。
ステータス欄を見て確認すると、気になるスキルを取得していた。
『視覚拡散(中)』というMPを使用しないスキルで、己の目を自分を中心に『水操作』の範囲内で自由に動かせるという、正直よく分からないスキル。
百聞は一見にしかず、どうやら攻撃系のスキルでは無いので今ここで試してみよう。
「『視覚拡散』」




