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意識覚醒、クラゲになっていました。  作者: 佐藤莉
〜第1章〜溟海帝国
18/29

〜18〜擬態人間なりました。

「……さま」



 誰かの声が聞こえる。



「ご……じんさま」



 砂糖を煮詰めたような甘ったるい優しい声は何度も何度も私を呼びかけて、深い深い意識の奥深くにいる私を呼び起こす。



「お目覚めになられましたか、ご主人様」


「…………フィエル?」


「左様でございます、ご主人様」



 今までにないほどの熟睡から目が覚めて、一番最初に視界に入り込んだのはそれはそれは美しい。

その顔一つで簡単に国の一つや二つ傾けてしまいそうな顔面兵器だった。

輝かしくて美しい顔面に見惚れながら起き上がると、サラサラと艶のある白銀と瑠璃のきめ細やかな糸が流れる。

いや、糸ではなく髪の毛だね。

…………ぇ、髪の毛?

誰の?

色的にフィエルのでは無さそうだし、では誰のだろうか。

それに、何だか今までの見え方と違う。

これではまるで、人間の視界ではないか。

……人間の、視界?


 がばりと思いっきり起き上がって辺りを見渡し、とある物を見つけた瞬間にフィエルの横を通り過ぎてそれに飛びついた。

それは大きな姿見であり、映った自分の姿に驚きを隠すことが出来ずに私は固まるしかできない。

姿見に映っていたのは、前世の世界の世界的有名モデルや女優ですら霞んで見える、絶世の美少女がいた。

これでもかと盛られた白銀のバサバサまつ毛が縁取る凛とした涼しい目元に、深海や宇宙を閉じ込めたような宝石みたいな瞳は万華鏡のように煌めいている。

顔の造形はまさしく黄金比といわれるもので、精巧に作られた人形だと言われても信じれそうな程に整いすぎている。

肌は舞い散る雪のように白く、ポキリと簡単に折れてしまいそうな華奢な手足に、前世とさほど変わらない150cmもいかない身長。

決して美女と呼べるほど成長はしていないが、むしろその未成熟さがより色気を引き出している。

………………身長云々はともかく、このペッタンコが色気を引き出すとはどういうことだろうか。



「誰だ、これ…………。

まさか、私か!?」


「左様でございます」


「ど、どういうことだ?」


「可能性として一番高いのは、ご主人様が身につけていらっしゃるクラウンの効果かと思われます」


「クラウン……これのことか?」


「左様でございます」



 どうやら、私の頭に乗っているのはティアラではなくクラウン、つまり王冠のようだ。

私にはどう見てもティアラにしか見えないのだが。

…………待て、私はいつこれを被ったのだろうか。

これを鏡台の引き出しを開けて、中に入っていたのを確認したのは覚えているのだが、そこから先の記憶が無いことに気が付いた。

なぜ私は誰の部屋かも知らない部屋で眠っていたのだろうか。

それもご丁寧にベッドの上で。

おそらく原因であろうこの王冠は、もしかして呪いの装備ではないかという考えがよぎり、外そうと手を伸ばした。

王冠は簡単に頭から外せて、私は一瞬でクラゲの姿に戻った。



『フィエルの言う通りだね』


「ご主人様の許可さえいただければそちらのクラウンをお調べいたしますが、如何されますか?」


『調べれるの?』


「ワタクシには『鑑定』というスキルがございますので」


『なら、頼む』


「かしこまりました」



 フィエルが王冠を調べてくれる間に、私は改めてこの部屋を見渡す。

見た限りでは私が眠る前と何一つ変わっていないように見えるが、実際どうなのかが分からない。

他に怪しいところはないかと、部屋の中を調べてみる。

引き出しを開けたり、ベッドの下を覗いたり、隠し扉を探してみたり。

けど、これといっておかしな所や怪しい所は見つからない。

一通り確認したところでフィエルが調べ終わったようだ。



「ご主人様、終わりました」


『どうだった?』


「こちらは溟海の王冠(シー・クラウン)という、溟海帝国ラピスリズラの皇帝であることを証明するための、この世に一つしか存在しない王冠です。

溟海帝国を治めるに相応しい、皇帝となる資格のある者にのみかぶることが許されます。

また、」


『フィエル』


「!、なんでございましょう」


『話を遮って悪いけど、毎度の如く出てくるその、資格って何?』


「……申し訳ありませんが、ワタクシも詳しい仕組みについては存じません。

しかし、一つ申し上げますと、ワタクシの魂に刻まれる天命と似て非なるもの、とだけ」


『それはつまり、勝手に本人の意思関係なく否応なしに、産まれた瞬間にはいどうぞ、と渡されるのが資格なのか?』


「その認識で間違いございません」


『なんだそれは、はた迷惑な』


「!、フ…フフ」


『どうしたの?』


「いえ、なんでもございません。

ただ、ご主人様の手にしている資格はこの世のありとあらゆる存在が。

あのクソ野郎ですら喉から手が出るほど欲しているものでございます。

ですので、それをはた迷惑と言い切るご主人様は素晴らしいと思いまして」


『……そうか』



 全く嬉しくないのだが……。

はぁ、またもや面倒事が転がり込んできた。

何百年も禁欲生活をしていたせいか私に対する依存が強そうな執事の次が、資格がある者を見つけたら問答無用で連行する”国”とは如何なものか。

この世界に精神安定剤ってあったりするのかな……。

すっっっごい欲しい。

飲んだことないから効果がどれほどなのかは分からないけど、欲しい。



「いかがされましたか、ご主人様?」


『いや、なんでもない。

続きを頼む』


「かしこまりました。

溟海の王冠(シー・クラウン)には装飾として施されている、無の極大魔石の二つと水の極大魔石を統合した無水極大魔石が使用されています。

使用された統合極大魔石に刻まれているスキルは『皇帝の証(極)』、『擬態:人間(極)』、『不変呼吸(極)』の三つにございます。

資格のある者が王冠をかぶっている間のみ、これらのスキルは常時発動スキルとして効果を発揮するようです。

そして、資格のある者を判別するのは『皇帝の証』というスキルの効果の一つにございます」


『統合極大魔石?』


「正確には統合魔石と呼ばれるものにございます。

統合魔石とは同じ大きさの同じ属性、もしくは異なる属性の魔石が合成された、特殊な魔石のことをいいます。

その数は非常に少なく、発見されたら即刻国に献上することが、どの国でも義務付けされておりました」


『そんなに少ないのか?』


「今現在はどうなっているのか分かりかねますが、その昔、たった一つの小さな統合魔石を巡って戦争が起きたと記憶しております」


『戦争……』


「それだけではありません。

統合魔石の元となった三つの極大魔石。

そもそも極大魔石自体が古い書物や文献、壁画に残されているものでしかその存在を確認することが出来ず、実物を見た者は誰もいないとされる伝説上の品物です。

それを三つも使用された統合魔石になりますので、その価値は計り知れません」


『そ、そんなに凄いものが装飾として使われているって……』


「溟海帝国ラピスリズラの繁栄が目に浮かびますね」


『……』


「さて、ご主人様。

どうやらこちらの溟海の王冠(シー・クラウン)の所有者は既にご主人様となっており、破棄及び譲渡は不可能になっております」


『は?

……えっと、それはつまり、』


「自動的にこの帝国もご主人様のものとなります」


『……………………………………………………………………』


「如何されますか?」



 なんだ、それは。なんだそれ……。

なんなんだ一体!?

意味が分からない、意味が分からない!!

こんな一方的に否応なしになんにも知らない、この世界で生まれたばかりの私に色々なものを押し付けてきて何がしたいんだ、この世界は!?

あの強制的に進化された日から、いや、そもそもこの世界に生まれてからというもの、理解しきれない頭が痛いことばかり起こる!!

本当に、なんで私はこの世界に生まれたんだ……。

もう、誰でもいいから、教えて欲しい。

私がこの世界に生まれた理由を。

来た理由を。

私の死因を。

あぁ、一刻も早く思い出さなければ。



『フィエル』


「なんでございましょう」


『ここには本ってあったりするのか?』


「こちらに来る途中に書庫らしき部屋がございましたが、扉は開けられてもワタクシは中に入れないようでした。

おそらくは皇帝、もしくは皇帝の許可がなくては入れない部屋かと思われます」


『そうか』



 いつ滅びたのかは分からないけど、一度でも世界を統一したことのある国なら書庫に保管されている本の数や種類は豊富なはずだ。

もしかしたらその中に、思い出せない記憶を思い出す方法が載っている本があるかもしれない。

なにより、この世界で生きていく上で、私はこの世界のことを知らなすぎるというのは大問題だ。


 しあし、書庫に入るためにはこの帝国の皇帝にならなければいけないのか……。

それも、知らぬうちに返品不可の決済済みで……。

…………もう、仕方ないのかな。

旅は道連れ世は情け……これ以上否定し続けるのも本当に、疲れるから、もう流されてしまおうか。



「ご主人様?」


『……もう、諦めることにした』


「それは……」


『フィエル、それを渡せ』


「かしこまりました」



 内心で大泣きしながら、私は渡された王冠を見つめた。

そして、滅びた幻の帝国、溟海帝国ラピスリズラの皇帝の証である王冠をかぶることを受け入れた。

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