〜16〜廃墟発見しました。
『けど、いきなり現れたように見えたのはどうなっているんだ?』
「周りを覆う結界の効果でしょう。
見たところあの結界はワタクシの『条件結界』と類似したものかと思われます。
そうですね……刻まれている文字を読み解くに、資格のある者の前にのみ姿を現すようになっております。
その資格がなにを指すのかは分かりかねますが……」
『…………またか』
「いかがなさいましたか?」
『いや、なんでもない』
なんだかこの状況に凄い既視感がある。
つい先程も同じような事が起きて取り返しのつかない事になったので、今度は何としても避けなくては。
好奇心は猫をも殺すとか言うけど、まさにその通りだったね。
隣であの美しい廃墟に近付きたくて何となく雰囲気がソワソワしているフィエルには悪いけど、私は目の前のあれに関わる気は一切無い。
今は一刻も早くこの場から立ち去って、なんでもいいから精神安定剤が欲しい。
『無視しよう』
「おや、何故でしょうか?」
『めんどくさい』
「めんどくさい……ですか」
『そう。
あそこに行ってフィエルの時みたいに何かを押し付けられるのはお断りだ』
「それは……フッフフ、やはりご主人様は素直でいらっしゃる。
本人を前にして封印を解いたことを悔いているように発言されるなんて。
…………ですが、残念ながら手遅れのようです」
『は?』
そう言いながら、さっきとは違って見るからに警戒しているフィエルの手が示す方を見てみると、美しい廃墟が重たそうな見た目とは裏腹に、物凄い勢いで迫ってきていた。
あまりの勢いに恐怖を感じて体を後ろに下げようとしたが、触手一本動かせなかった。
それはフィエルも同じようで、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ご安心ください、”あれ”はご主人様を害する事は決してございません。
ですので、どうか安全な場所で待っていてください。
すぐに、たとえ何があろうと、ご主人様の唯一の執事たるワタクシがお迎えにあがります」
けど、すぐに不安がる私を安心させるように柔らかい笑みを浮かべた。
その優しい笑みと、何があっても迎えに来てくれるという言葉に、私の中の恐怖が綺麗さっぱり消え去った。
そして、為す術もなく私達は結界内に取り込まれた。
まるで何かに操作されているように勝手に動く体。
結界に触れて取り込まれた瞬間から体の制御を奪われて、どこかに連れて行かれる。
いつかの催眠とは違って、今回は体の制御飲みを奪われている。
私の隣にいたフィエルは別のところに連れていかれたようで姿は見えない。
周りを見る暇もなく巨木に侵食されている、廃墟と化したお城に連れ込まれ、一番奥の部屋に放り込まれた。
ここまで物凄い速さで数多くの角を直角に曲がるのを繰り返したせいか、乗り物酔いに似た気持ち悪さが襲いかかる。
グラグラとした意識の中、私は放り込まれた部屋を確認する。
フィエルが迎えに来るまでの間、何もしていないというのは落ち着かない。
部屋の広さは学校の教室よりも広い。
内装は西洋の歴史映画や西洋をモチーフにした漫画などで見かける宮殿の王様や王妃様が使う部屋のように、とんでもない豪華絢爛さに思わず怖じ気づいてしまう。
クラゲの私が酷く場違いだ。天井からぶら下がっている輝かしくオシャレなシャンデリア、大人三人で寝ても全く狭くないであろう天蓋までついているシワひとつないベッド。
他にも細部の細部までこだわって作られたであろう、やりすぎると思えるくらいの装飾が散りばめられている家具達。
この部屋はまさしく、幼い女の子が夢見るお姫様の部屋を実現している。
『なんなんだこの部屋は……』
外のボロボロさはどこに行ったのだろうか。
本当にここはあのお城の中なのだろうか。
あぁ、頭が痛くなってきた……。
展開が色々と早すぎて脳が追いつかないよ。
はぁ、なんでこうもいきなりな事が続いて、確定者やら、資格があるやら、自分のことなのに理解できない事が多いのか。
これもかれも全部、この世界に来てしまったせいだ。
やっぱり、なんとしてでもこの世界に来たのか、どうやってここに来たのかを。
なんとしてでもそこに繋がるであろう私の死因を思い出さなくては。
よし、このままどこかに行ってしまったフィエルを待つだけではあれだから、私もフィエルを迎えに行こう。
私と反対方向に連れて行かれるのを一瞬だけ見えたから、きっとこのお城の外にいるのだろう。
ならば、今すべきことはお城からの脱出と言いたいところだけど、かなり難しいようだ。
天井や壁には私の体でも簡単に抜け出せそうな窓と思われる穴があるというのに、見えない壁に阻まれて出ることが出来ない。
入ってきた入口は固く閉ざされて、押しても引いてもビクともしない。
壊そうとも試したが、見えない壁のようなものに阻まれて失敗。
……これ、一体どうしたらいいんだ?
部屋の中に脱出に繋がる鍵か何かがないか探したいとは思ってはいるのだが、もし罠があったらどうしようかと頭によぎって、手を出せない。
そもそも、この部屋が誰のものなのかも分からないというのに、勝手に漁るという汚いまねをしたくない。
……けど、これは……あぁーーーーっ。
『仕方ない……か』
申し訳ないという謝罪の気持ちを込めて、私は触手を使ってすぐ側にあった鏡台の引き出しを開けた。
中に入っていたのは雫の形をした青みを帯びた無色の宝石が埋め込まれた、透明感溢れる光り輝いた白銀のティアラだけだった。
やっぱりしまってあるものも女の子の夢見るようなもののようだ。
だとしたら、他のところもそうなのだろうか。
ここは違うようだから、他のところも調べよう。
『ん、ぁ……れ?』
なん……だろ、この…感じ。
頭がぼーってして、意識が、飛んでしまう。
これ、前にも、あった……おぼえ、が……。
《”世界より伝令”》
なん……か、いってるけど、わかん、ない。
* * *
「体の制御は戻ったようですね」
ミツキがお城の奥深くに連れて行かれている間、同じく何かによって体の制御を奪われたフィエルもまた、見知らぬ場所に連れてこられていた。
表面上では冷静を保ってはいるものの、内心ではようやく出逢った、唯一の主君と離れ離れにされて荒れに荒れまくっている。
一刻も早く合流がしたいと思いながらも、己な今どこにいるのかの確認は忘れない。
フィエルが今いる所はお城の正面玄関まで真っ直ぐに続く大通りと思われる、ボロボロになっている道の一番端。
奥には美しいお城の廃墟が見え、彼の背後には固く閉ざされた大きくて頑丈そうな門がある。
まるで、このまま出ていくのかどうかを試されているかのようだ。
「ご主人様はやはり、あの城に囚われてしまったようですね。
ワタクシとご主人様を離れ離れにするだけでは飽き足らず、こうも忠誠心を試すとは、いい度胸です」
そう言って、冷たい笑みを浮かべたフィエルは『有限箱』に保管してある武器を取り出して、いつでも戦闘できるように準備する。
その武器は長身のフィエルの身長よりも長く、3mはゆうに超えているであろう。
斧と槍と鉤爪の性能を併せ持つが故に扱うのが非常に難しいとされる、ハルバード。
フィエル愛用の得物である。
それを片手に真っ直ぐとお城に向かって、水の抵抗なんて一切感じさせずに、スキルを使用せずに走り出した。
本当は一刻も早くお迎えにあがりたくてスキルを使いたいが、使った際の周りへの被害が尋常ではない。
最悪、遠く離れていたミツキでさえもその余波に巻き込まれる可能性があるから、彼はスキル無しで向かった。
「しばしの間お待ちください、ご主人様。
すぐにお迎えにあがります」




